【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-③分科会 地域からつくる保健福祉のしくみ

地域包括支援センターの現状と介護保険制度の
改正を考える

大分県本部/佐伯市職員労働組合

1. はじめに

 介護保険制度は1997年に法成立し、2000年からスタートされた。法律で3年に1度中間見直しを行い、5年ごとに抜本的見直しをすることとなっていて、2009年度は中間年度にあたり一部改正が予定されている。
 これまで、様々な関係会議において議論がされているが、この点についての整理と私自身が所属している地域包括支援センターの現状と今後の展望について考えていきたい。

2. 地域包括支援センターの現状と課題


県内における地域包括支援センターの現状(2008年5月1日現在)
市町村
センター数
直   営
委   託
委 託 先
大 分 市
15
 
社協2、法人13
別 府 市
7
 
法人7
中 津 市
1
 
社協
日 田 市
4
 
法人4
佐 伯 市
3
 
 
臼 杵 市
1
 
法人
津久見市
1
 
 
竹 田 市
1
 
社協
豊後高田市
1
 
社協
杵 築 市
1
 
 
宇 佐 市
7
 
社協1、法人6
豊後大野市
1
 
 
由 布 市
1
 
社協
国 東 市
1
 
 
姫 島 村
1
 
 
日 出 町
1
 
 
九 重 町
1
 
 
玖 珠 町
1
 
 
49
9市町村
9市
 

 大分県が調査した結果、県内の地域包括支援センターの状況については上記のとおりであった。昨年4月現在の調査との比較ではセンター数は昨年の46に対して3センター増加した。これは、日田市が1か所直営で4か所サブセンターとして委託で設置していたものを行っていたものを、4か所に地域包括そのものを委託し直営センターを廃止したためである。他に今年度直営から委託に変更となったのは臼杵市である。この結果、昨年度に比べ行政直営のセンターが減少することとなった。
 地域包括支援センターは本来、要支援者や特定高齢者に対する介護予防支援マネジメントや介護予防事業によって要介護者増加を防止する役目や権利擁護、他職種連携の構築といった役割を担って2006年4月にスタートした。
 しかし、現実には要介護認定システムの変更(1次判定で要介護1となった者をその状態によって2次判定で要介護1と要支援2へ振り分ける等)によってどんどん増加する要支援1・2の認定者に対する介護予防マネジメントの対応にどこの地域包括支援センターも追われている。こういった状況下で権利擁護や他職種連携といった分野まで充実させようと考えるならば、行政直営のセンターの方がよりマッチしているともいえるが、自治体職員がその責務を負おうとするには資格を持つ職員の数に限りがあるため、一部の自治体を除き運営に四苦八苦しているのもまた現実である。
 国が地域包括支援センターに対して行政直営を推進する等の施策を実施しない限り、来年度はさらに直営から委託へ転換する自治体が増加するものと思われる。私の所属する佐伯市においても、今年度に入り協議の中で業務の全部もしくは一部の委託を模索しているという話を聞く。相当数の専門職スタッフを必要とする地域包括支援センターなので、行財政改革との絡みの中で先行きに不透明なものを感じている。
 しかし、例え直営から委託へシフトが進むことになっても、行政責任がなくなった訳ではない。むしろ、チェック機能を充分に果たさないことで重大な事故を招く恐れさえある。丸投げにしてしまって自らの行政責任を転嫁してしまわないようにしないと自治体福祉サービスのレベル低下は免れない。

3. 介護保険制度一部改正に影響を及ぼす大きな潮流について

(1) 財政制度等審議会
 財務相の諮問機関である財政制度等審議会は、2008年6月3日に「平成21年度予算編成の基本的考え方について」を示した。
 この中で、社会保障関係費が国の一般歳出の半分に近づきつつあること、現在の社会保障給付に係る公費負担のために必要な財源を現世代が負担する税財源で賄いきれておらず財政赤字が多額に上がっていること、よって財政全体の持続可能性の観点から社会保障関係費の不断の見直しや抑制努力が不可避であると社会保障の総論において記している。
 そして介護の項目で、給付の伸びの抑制努力に取り組むことや、給付の合理化・効率化、ドイツを例に出しての重度要介護者対象へのシフトを匂わせる記述もなされている。
 今後の改革の方向性として、介護のコスト問題を踏まえ年末に向けて利用者負担や公的保険給付範囲の見直し等検討及び要介護認定の適正化・厳格化、ケアプラン点検や不正請求チェックなどが挙げられている。併せて介護予防サービスについては費用対効果を検証した上で必要な対応を検討すべきと記されている。

(2) 基本方針2008(素案)
 2008年6月17日に、政府は基本方針2008(素案)を閣議において了承した。いわゆる骨太の方針であるが、これにおいて介護の問題はどう取り上げられているだろうか。社会保障や財政分野は、現在から収支を改善に取り組めばその分だけ未来世代の負担が軽減されるが、その努力を回避すれば我々は未来世代に過度に依存することになり、少子高齢化が進むわが国では特に未来世代に責任を果たせる政策の選択が重要であるとしている。社会保障制度全体にわたって制度点検し必要な改革を行うとする一方、介護・福祉サービスを支える人材確保のためキャリアアップを通じた処遇改善に取り組むとしている。

(3) 社会保障国民会議 中間報告
 社会保障国民会議は2008年1月に首相官邸に設置された会議であるが、この中間報告が2008年6月19日に示された。この中で、社会保障は国民の安全と安心を支えるもの、時代の要請・社会の変化に応えるもの、全ての国民が参加し支える国民の信頼に足るもの、国と地方が協働して支えるもの、と冒頭にて記している。
 介護は医療・福祉サービスと一体となって記述されていて、「選択と集中」の考え方に基づいて効率化すべきものは思い切って効率化し、他方で資源を集中投入すべきものは思い切った投入を行うこと、人的・物的資源の計画的整備が必要、としている。
 そして、医療・介護・福祉の一体的提供(地域包括ケア)の実現や専門職種間の機能・役割分担の見直しと協働体制の構築といったサービス提供体制の構造改革や人的資源の確保、さらにはそのために必要な診療報酬・介護報酬体系の見直し、財源配分のあり方についての検討が必要であるとし、そのために増税の必要性をにじませる記述をしている。

4. 介護保険制度一部改正に関連する具体的な動きについて

(1) 軽度認定者の2割負担について
 財政制度等審議会では、要介護認定において軽度に認定された者の介護サービス自己負担を現行の1割から2割とする意見を検討していてマスコミなどに報道された。その後、具体的に発表されていないので、世論の動向を見て取り上げなかったのか年末にかけてまた負担引き上げ論議に踏み込むのか、今後の動きに注意が必要である。
 2割負担となることで直接的な財政負担の減少とサービス利用を控えることによる介護給付費抑制には効果があることも予想されるが、介護サービス事業所の経営難をもたらすことで介護労働者の処遇改善が進まないことや、高負担で介護サービスを利用できなくなる利用者、利用を控える利用者が増加する恐れもある。

(2) 要介護認定の調査項目削減について
 厚生労働省が設置した有識者検討会「要介護認定調査検討会」では、要介護度を判定する調査項目のうち約3割にあたる23項目を対象から外す方向で検討している。
 「感情が不安定」など客観的な判定を調査項目から外すことで、認定時のばらつきを抑える目的であるとしているが、調査項目が減少することによって対象者の状態を詳細に反映することが難しくなり、画一的で軽度に認定されてしまう対象者が増加することを懸念する声も上がっている。

(3) 介護予防サービスの効果分析について
 2008年6月18日に開催された社会保障審議会介護給付費分科会において、介護予防継続的評価分析等検討会が示した「介護予防サービスの定量的な効果分析について(第2次分析結果)」が報告された。これによると、新予防給付(要支援1・2)導入には、統計学的に有意な介護予防効果が認められ、特定高齢者については比較データの違いや対象者不足により統計学的な有意差は見られなかったとしている。
 新予防給付は効果があったとしているが、果たしてそうであろうか。新予防給付スタートに合わせて要介護認定を厳しくしているのも事実であり、単に要介護への悪化者が減少した原因を新予防給付の効果だと推定するには少々疑問が残る。

(4) 介護事業の経営について
 厚労省が発表した平成19年介護事業経営事業概況調査結果では、介護施設は軒並み3年前の調査に比べて利益率が低下している。訪問介護は事業収支差が前回調査に比べて増加したが、収支差そのものについては3.3%と低い。そしてヘルパー1人当たりの給与は3.6%減少しているという結果が出ている。通所介護は収支差が低下、介護職員の給与水準も低下していて、利用者減少に伴う効率性の低下が原因として挙げられている。
 また、民間信用調査会社の東京商工リサーチの調査では、今年度の介護事業者の倒産が2000年度の介護保険制度スタート以来最悪のペースで増えていることがわかっている。1~5月の5ヶ月で負債総額は100億9,300万円と過去最悪だった2006年1年間の114億7,900万円の9割に達しているという。給付費抑制のため、事業者に支払われる介護報酬が2006年改正で引き下げられたことに加えて人手不足が深刻化し人材を確保できない事業者が増えたことなどを要因としているほか、競争激化や行政による規制強化などが背景にあるとしている。

5. まとめとして~介護保険制度のこれから

 介護保険制度一部改正にまつわる様々な動きの中で、先に記述した動きをピックアップしてみたが、その中で見えてくるものは一体何であろうか。
 一番重要な検討課題となるものは、介護保険財政の課題である。介護保険という大きな財布があるとしよう。その財布にいくらでもお金が入っていたり、また入る見込みがあったりするのならいろいろなものに使うことができる。だが、そのお金が少なければ節約して使うことを考えなければならない。財源は保険料の負担と公費負担に2分される。高い保険負担を現役世代から続けて後で手厚い介護を受けるのが良いか、元々低い保険負担で手厚くない介護を受けるか、また公費を捻出するために他の公共サービスへの支出を抑えて社会保障費用に回すのかそれとも消費税などの増税を社会保障費用に回すのか、といった論議は十分行われる必要がある。この介護保険財政をどうするかという肝心な点が担保されない限り、次に書く介護に携わる職種の処遇の向上にはつながらないのである。
 介護職種の中でもヘルパーの賃金は一段と低い。東京都で開催された全都ヘルパー集会では直行・直帰の登録型ヘルパーの7割が月収10万円未満という実態が報告されたとネット記事には書かれている。対して厚生労働省は平成19年介護事業経営事業概況調査結果において常勤換算1人当たりの給与を約211千円として公表している。ヘルパーの主任クラスでさえ、約211千円の給与を受けている者が果たして何人いるだろうか。そもそもそういった集計の仕方をしていること自体おかしいというか、改正前に恣意的に公表したとさえ考えてしまう。介護職の処遇が改善されなければ、質の低下はもとより人材不足により介護難民が発生する恐れさえある。
 格差社会と叫ばれている現在であるが、介護においてもどんどん格差が生じている。しかも改正するごとに格差が広がっているように思える。富める者はその自己の蓄えにより十分な保障を受け、そうでない者は我慢して生活する、そういった構図があちらこちらで見られる。こんな社会保障制度で良いのだろうか。
 社会保障基礎構造改革とは、『格差』を社会保障に取り入れる改革だったのだろうか。
 いろいろな荒波を次々と受ける介護保険制度であるが、厳しい状況下でもより良い制度となることを願っている。現段階では具体的な改正点はまだ見えてこない。以前と同様に、年明け来年1月頃には介護報酬の具体的数値や改正内容が明確になるであろうと予想している。それを前に利用者や家族、介護事業者・スタッフは不安やいらいらを持ちながら日々地域で生活している。制度が改正されるごとに最前線にいる者は大きく振り回されているのである。幹が少し揺れても枝の先は葉を散らしながら揺れる。本来は、もっと長期的で具体的なビジョンを示していかないと制度は維持できないし、もうその時期に来ていると思う。
 介護保険に関わらず、社会保障制度を維持するためには多大な財源が必要となる。保険料だろうが公費だろうが、元を辿れば国民の負担したものであることに変わりない。誰かが・いつ・どれぐらい負担するか将来を見すえて考えていかなければならない。それはまた、負担する国民も共に考えていかなければならないことでもある。誰かが考えるだろう払うだろうでは済まされない問題である。
 いっそのこと、国民投票で社会保障をどうするか国民に問いかけてみたらどうだろうか。国民投票というわけにはいかないだろうが、大借金国家のわが国で社会保障をどうするか、私たち国民1人1人が真剣に考えてその答えを政策に反映すべきではないだろうか。