4. 社会保障部会「就労対策」グループの取り組み
このグループでは、障害福祉に携わっている方が7人中2人ということもあり、具体的イメージがなかなか持てなかったため、宇佐市にある就労に関係している事業所視察を予め行い、それぞれの市町村にある事業所への聞き取り調査を行いレポートとしてまとめることとしました。
(1) 各市町村の障害者就労の実践
① 宇佐市
宇佐市では、障害を持った方々の就労を支援していくために2007年度から「就労支援」ネットを立ち上げ、事業者の先駆的事例を通して学び合い、当事者が望む職場環境(工賃アップ・一般就労と職場定着・就業生活指導等相談の充実)づくりを行っています。
<成果>
ア 一般就労へ
養護学校 3人
知的障害 (在宅26人、福祉的就労から6人)
精神障害 (在宅不明、福祉的就労から6人)
※特筆すべきは、精神障害者の一般就労が支援することによって増加したことです。
イ 工賃アップと雇用契約事業所の増加
工賃アップに向けた事業所の努力が始まったある事業所では、自給100円程度だった工賃から企業内就労を取り入れたことによって、自給500円(近い時期最賃)となり、利用者の働く意欲が増したことが出勤率(60%から90%へ、定期通院のため月1~2回休)やアンケートでも明らかになっています。さらに、最賃を保障したA型事業所が3ヶ所できたことも当事者の選択幅を広げています。
<課題>
ア 福祉的就労事業者の多くは、企業との結びつきや企業経営のノウハウを持っていないため、利用者のニーズである所得保障ができる賃金や、能力の向上は限度がある。
イ 小規模な事業者は、報酬が下げられたため、安定した経営と職員定着が困難となっている。
ウ 一般就労が増えても、職場定着のためのジョブコーチ等の支援が質・量とも不足している。
エ 利用者は職場と家庭の暮らしが中心となり、楽しむ・相談する居場所がなくなってしまう。
<改善策>
ア 就労事業所職員経営講座を開催し、企業経営と福祉を兼ねあわせた職員の養成をはかっている(年6回講座)
イ 一事業所を超えた協働づくりを行い、共同受注や事業所の連携を通じて小規模事業所の安定経営と利用者のニーズを充足させる取り組みを行うことになっている。
ウ 市独自で就労支援ワーカーの養成と配置に取り組んでいる。
エ 余暇支援活動と居場所づくり(現在1ヶ所)に取り組んでいる。
② 杵築市
訪問先:知的障害者通所授産施設
施設は"自立を目指す取り組みの方針"のひとつとして、送迎サービスを実施していないことから、利用者は公共交通機関などで通っている。
活動内容は、公園清掃の受託(市営公園)、草刈りサービス、ボカシ・ウエス・和紙ハガキの生産販売、下請作業等により収入を得ており、個人の月額平均賃金は12,000円程度である。また、一日の授産活動は、4.5hである。
工賃アップの対策としては、公園清掃・草刈りサービスの宣伝による受注、ボカシの包装紙の工夫、和紙ハガキの販売店の拡大などが考えられる。
今後の課題としては、一般企業からの下請作業が少ないことから、施設単独での活動により収入を得なければならないので、工賃アップにつなげることが難しい。
また、一般就労に対する取り組みとしては、現在、利用者の中には、"働きたい"と意欲のある方もいるが、今後個人の能力に応じて指導していくことが必要であろう。
③ 別府市
精神障害者・小規模通所授産施設 利用者の声(希望)
【1位】工賃が安いことに一番の不安を持っている。
工賃とあわせ自立した生活が出来る程度の所得保障(年金等の社会保障)の充実が必要。
【2位】働きやすい職場環境の整備を望んでいる。
周囲からの偏見や、病気から来るコミュニケーション能力の低下により、職場に通えない、職場に溶け込めないとの意識がある。
就業、生活支援、相談支援等の支援拠点の充実が必要。
④ 国東市
就労支援施設に行って
訪問した施設では、精神・知的の障害を持っている方が利用しており、主に車の配線などの部品を作る作業やパンづくりなどを行っていました。今回、働いている障害者(2人)の方からお話を聞くことができました。2人は一般就労を目標にしているものの、まだ自分に自信が無い様子でした。賃金が安いなど感じてはいるが、施設をリハビリ的な役割としてとらえているせいか、多少の不満はあっても頑張って作業していました。施設長も将来的には新規事業をしたいとは考えているが営業活動等が難しいと言っていました。また、障害者の方がどこまでできるか施設の方もまだ手探りの様子でした。施設を企業と考え生産性や付加価値の高い商品ができるようになれば、障害者の一般就労が実現する(できる)様になると思いました。それには、行政や企業、施設が連携をとることが望ましいと思いました。
この自治研究を通して感じたことは、まず実際の施設を見ることで自分の意識が変わり、私に・私たちに「何かできることがあるのだろうか?」そう感じ、これからできることや協力できることを探していきたいと思いました。
⑤ 佐伯市
障害を持った方々が「働く」ことを通してどう感じているのか、行政や施設からの視点ではなく、障害者の立場から私の身近な方を対象に調査してみました。
Aさん46歳は、小さいころから知的障害を持ちながらも、普通に中学1年生の途中までは学生生活を送れた方でした。
ある時、いじめをきっかけに家に「閉じこもり」状態となり、両親も早くに亡くなって、現在は独居となっています。
3年ほど前から、徐々に回復状態にあり、現在は週に2日は身体障害者通所助産施設に通っています。書面の関係上詳しくは述べられませんが、以前と比べると誰もが驚く程の回復ぶりです。
関係者の話を聞いていくうちに、キーパーソンが見えてきました。その彼女は、「Aさんをどうにかしてあげたい。」と言う一心で、最初の1年間はわずかな時間を作っては、こまめに訪問したそうです。訪問当初は、言葉も閉ざしており意思疎通も出来ずにいましたが、訪問を繰りかえすことで、徐々に心を開いてくれ言葉を交わすまでになったと聞いています。そして彼女の熱意が、Aさんを取り巻く多くの関係者の協力を引き出していったのだと思います。
20年間もの「閉じこもり」状態のうちには、入浴もままならず身体中にカビがはえた状態となっており、訪問を繰り返す中で、部分清拭から、シャワー浴、浴槽への入浴へと出来るまでになったそうです。始めは、身体のカビを診てもらうのにも、先生からの往診から始まり、今では介助はいるものの病院に通えるまでになっています。
現在の彼女の楽しみは、施設に行くことだそうです。就労と言うにはあまりに稚拙な労働しかできないAさんですが、彼女なりに何か生き甲斐を見つけたのではないでしょうか。
言うまでもなく、障害を持つ方々にも当然個々の人格があり、心があります。また、生い立ちや育った環境も違う訳です。私たち健常者はややもすると何か形に押し込めようとしたり、マニュアル通りに事を運ぼうとしたりするのではないでしょうか。
この事例から私が学んだ事は、障害者の自立支援は生活全体をサポートしてあげることであって、支援者それぞれの縦割りであってはならないことです。
⑥ 日出町
町内3箇所の就労関係事業所を訪問。
A事業所
障害者自立支援法が本格施行された2006年10月より、知的障害者福祉工場から就労継続支援A型に移行。賃金が下がっても自分のペースで働きたいという利用者のニーズもあり、1年後、新たに就労継続支援B型を加えて複合型となった。
A型は一般就労と同様、雇用契約があり最低賃金を保障しているが、B型は雇用契約がなく平均工賃も月額3,000円程度の水準を上回ればよいことになっている。
当初A型のみでスタートした県内の事業所の多くは、その後B型等を加え複合型になっているが、これに伴いA型利用者がB型への変更を希望するケースがある。B型への勧奨がA型の生産性を追求する安易な手段とならないよう注意する必要がある。
B事業所
2004年設立の知的障害者通所授産施設。バリアフリー化など設備が整っており、障害者自立支援法施行後は身体障害者も利用している。野菜や花苗の生産販売を主に行っているが、最近は地産地消の浸透もあり、手作り味噌が好評。町内の学校給食や同一法人の施設へ定期的に卸しているほか、イベントや農産物直売所での売れ行きが良く、増産を検討している。来年度より就労継続支援B型に移行予定。
重度の障害者の割合が高く、2007年度の平均工賃は、前年度より約500円上昇したものの依然低レベルのまま。しかし、施設利用の希望者は多く、利用者は工賃よりも送迎などのサービスの充実度を重視している。
C事業所
2007年1月より、精神障害者小規模通所授産施設から就労継続支援B型に移行。
企業の下請け作業を主としているが、収益アップのため、名刺作成、銀杏の皮むきの請負なども行っている。最近は高齢化の進んだ地区の草刈りを代行するなど、地域住民と接することを意識した作業も実施している。
地域社会には、精神障害者への偏見が残っていることも事実であり、これまでの作業所内で行う仕事だけでなく、今後は草刈りなどの作業を通じて積極的に地域に出て行き、地域住民の精神障害に対するマイナスイメージを解いていきたいとのこと。
C事業所利用者の方に、必要とする支援などについて簡単な意識調査をさせていただいたところ、「一般就労するにあたって、自分の障害をみんなに知ってもらいたい」という意見が多かった。「リーダー格、上の人に、自分がどんなときにこうなるのか知ってもらいたい。」「倒れたときに、まわりは冷静でいてほしい。あわてないでほしい。」「体調が悪い時を理解してほしい。5~10分やすめる体制をつくって欲しい。」などの意見があり、ジョブコーチ支援がいかに重要であるかを痛感した。
<考察>
一般就労につながっていく人は、作業能力が高く事業所の収益に貢献している。また彼らは出勤日数も多い分、事業所が受け取る報酬(障害福祉サービス費等)に占める割合も高い。そのため、彼らを一般就労につなげる支援をしていくことは、事業所の経営にとっては悩ましい行為でもある。
もちろん、就労につなげることで事業所の評価も上がり、利用希望者の増加が期待できる。しかし、就労に対する各種助成金制度のある受け入れ側の企業と比べると、事業所が積極的に就労支援を行おうと思うだけの見返りが少ないように感じる。
このような矛盾に対し、2008年度より都道府県が実施主体となり、①「施設外就労推進事業」と②「施設外就労・施設外支援による一般就労促進事業」が「障害者自立支援法の抜本的な見直しに向けた緊急措置」として追加実施されることとなった。
①は、利用者と職員がユニットを組み、企業から請け負った作業を当該企業内で行う「施設外就労(企業内就労)」を実施した場合、1ユニット(※注1)につき1日あたり4,500円(22日稼動した場合、約10万円/月)を助成するもの。
②は、上記の「施設外就労」や、職場実習、求職活動、在宅就労など事業所以外の場所で行う「施設外支援」によって一般就労に結びついた場合、利用者1人あたり10万円(1回限り)を助成するもの。
(※注1)施設外就労1ユニットあたりの最低定員は3人以上。施設外就労の総数は利用定員の半数以下。施設外就労におけるユニットの考え方は「平成19年4月2日付障障発第0402001号(一部改正平成20年3月28日付障障発第0328002号)厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長通知 就労移行支援、就労継続支援(A型、B型)における留意事項について」を参照のこと。
このほかにも、今年4月から5年間の時限措置ではあるが、障害者の「働く場」に対する発注促進税制が創設されたことも、事業所にとっては収益向上につながる明るいニュースだといえる。
この制度は、障害者の「働く場」に対する発注額を前年度より増加させた企業について、企業が有する減価償却資産の割増償却を認めるというもの。企業の法人税等の軽減につながることから、この制度を企業にアピールすることで受注額の底上げが期待できる。
利用者にとって、事業所は工賃を稼ぐところ以上に大切な居場所でもある。言うまでもないが、事業者は収益にとらわれ過ぎて、利用者への適切な支援を忘れてはならない。
ただ、一部の事業者や利用者の中には、福祉制度への依存傾向が強く、販路拡大や付加価値の高い事業の模索など、積極的な経営努力が必要だと感じる部分も見受けられた。
今年度から施設外就労等に対する助成事業が新たに追加されるなど、障害者の就労支援が少しずつではあるが充実強化されつつある。制度の効果的な運用や情報提供を行い、企業や各種団体との連携を図るなど、コーディネーター役として今後自治体が果たすべき役割の重要性を、今回の調査で強く感じた。 |