【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-③分科会 地域からつくる保健福祉のしくみ

障害者自立支援法を考える
~事業所アンケートを通じて

大分県本部/地方自治研究センター・社会保障専門部会・障害者自立支援法グループ

1. はじめに

 私たち自治研センター社会保障専門部会は、昨年のスタート時に2年間を1サイクルとして研究するテーマについて検討した結果『障害者』とすることを決めるとともに、「障害者の就労支援」、「障害者と家族」、そして「障害者自立支援法」をそれぞれ3つのグループにて研究することとなった。
 そして今回、障害者自立支援法グループでは部会員の地元市町村に存在するそれぞれの事業所に対し、事業所やそこに働くスタッフとして抱える課題について明らかにするために2008年4月末にアンケートを依頼した。アンケート調査は、大分県内6市1町(大分市、中津市、佐伯市、杵築市、豊後高田市、竹田市、九重町)で無記名のアンケートにより実施し、発送数172枚に対して回答があったものは74枚、回答率は43.0%であった。以下は、回答いただいたアンケートの結果と具体的に記入いただいた意見であるが、これらをもとに分析を進めていきたい。

2. 回答者について


図1 回答者の性別

 アンケートの冒頭に、回答者の性別、年齢と各事業所での立場について回答いただいた。
 まず、回答者の性別については男性が36人、女性が38人とほぼ同数となった。(図1参照)
 これは、後述するが各事業所の代表者もしくは管理的な立場の方が回答されたため、男女比が大差ない結果となったためだと推測される。職場での男女比は女性の割合が高い傾向である。
 次に回答者の年齢について問うが、20代が3人、30代が22人、40代が20人、50代が25人、60代以上が4人となった。(図2参照)
 回答者の立場への問いについては、管理者クラスが26人、主任クラスが27人、中堅クラスが10人、新人クラスが2人、その他が8人であった。(図3参照)



図2 回答者の年齢

図3 回答者の立場


3. 事業所の種別と従業員規模について

 アンケートでは事業所の種別についても回答いただいたが、アンケートを作成する側が項目を理解いただけるように作成しなかったため、移行前と移行後のサービス種別を併記する事業所がほとんどで、現在のサービス種別を判別できない結果となってしまった。(※旧法指定施設については2006年10月1日~2012年3月31日までの間に移行することとなっている。)事業所の規模については、10人以下が34事業所、11~20人以下が26事業所、21人~30人以下が5事業所、31人~40人以下が5事業所 、41人~50人以下が3事業所 、51人以上が1事業所であった。

4. 現行の障害者自立支援法についてどう評価されているか

 ここからアンケートの本題となってくる。まず、現行の障害者自支援法についてどう評価されているかについて回答いただいた。結果は下記のとおりである。


 

はい

いいえ

どちらともいえない

①適切な制度だと思う

11

34

29

②現場の声が反映されている

6

49

19

③利用者の負担が大きい

40

10

24

④利用者の家族負担が大きい

43

9

22

⑤制度が難解になった

52

4

18

⑥地方の現状が反映されていない

45

4

25

⑦仕事がやりにくい

38

9

27

⑧早く制度を改正してほしい

45

2

27


 現行の制度については不満のある制度で、現場として困っていることがうかがえる。ただ、「どちらともいえない」という意見も多かったのは、予想外であった。
 この選択肢の質問以外に、意見を記入いただく欄を設けたところ、様々な意見があった。その一部を下記のように整理してみた。

(1) 制度全体について
・介護保険に比べて利用料金が低い。対応するヘルパーの精神的負担は大きいと思う。
・理想、理念は良いが、内容が現実とかけ離れている。制度が複雑で利用しづらい。
・介護保険との統合を視野に無理に作った制度のため、現場での歪みが多い。(判定ソフトの間違い(介護保険を真似て作ったため))
・世界で初めて障害者福祉分野に応益負担を導入する等、とても先進国とは言えない恥ずかしい制度である。障害が重いほどサービスを必要とするのにその都度負担を取られていては生きていけない。
・区分判定が各障害の特性に合っていない。(知的、精神の特性が全く考慮されていない)

(2) 利用料金について
・利用者や家族の負担が大きい。障がいの重い人ほど負担が大きいことに矛盾を感じる。
・授産施設に行けば行くほど負担が大きくなる、などの問題点がある。仕事をする場所などの受け皿も少なく、自立にはほど遠いと思う。

(3) 施設経営や職員の処遇について
・利用者の目的別に事業体系が区分されることは評価できるが、報酬が低すぎて満足な職員処遇ができず、非常勤化が進むなどの影響で結果的に利用者処遇の低下を招くなどの負の連鎖が起こる。報酬単価を見直してほしい。
・利用料が利用者の負担となっている。軽減し福祉サービスを利用しやすくしてほしい。
・職員の生活設計が成り立たない。(男性が寿退職している現状である)
・若者が希望を持って就職してくれる制度に改正してほしい。

(4) サービスについて
・適切な支援なのか内容を把握し、本当に必要なところに支援をお願いしたい。障害者というだけで無駄な支援のところが多いように感じる。利用者の支援内容を市職員(担当者)の方がしっかり把握され、必要な派遣時間数を出してほしい。
・介護保険と自立支援費を利用されている方で、時間いっぱい利用しなければ損だと思っているところがあり、負担額が変わらないので必要以上に派遣依頼があるので、支給量の見直しを定期的に施行してほしい。
・障害福祉のありがたさを当然のことのように、悪く言えばあつかましく利用している方もいる。不正ではないか、と思う方もいる。行政は個人個人を正確に把握して本当に援助が必要な方に援助すべきだと思う。

5. 現在の仕事についてどのように感じているか

 

はい

いいえ

どちらともいえない

①やりがいのある仕事

55

0

12

②人間的な成長が得られる

58

0

9

③自分は仕事への適正がある

32

2

33

④仕事仲間との関係は良好

55

1

11

⑤自分の能力が活かせる

35

1

31

⑥知識と技術が必要な仕事

63

0

4

⑦体力が必要な仕事

53

5

9

⑧精神的なストレスが大きい

51

2

14

⑨仕事を辞めたいと思う

7

31

29

⑩他の職種に異動したい

6

41

20

⑪支援が得られない孤独な仕事

12

35

20

⑫時間に追われるような仕事

40

7

20

⑬責任が重い仕事

60

0

7

⑭社会的評価が高い仕事

13

18

36

⑮誇りの持てる仕事

48

0

19


 この質問では、現在の仕事について感じていることを尋ねてみた。その結果、やりがいや人間的成長、能力が活かせる仕事であり知識・技術・体力などを必要とする仕事、精神的ストレスが大きいと認識する一方、社会的評価は高くないと感じていることがわかる。他方、仕事を辞めたい、他の職種に変わりたいという問いに対し「はい」という回答が少なかった。このことは、福祉職に誇りを持ち厳しい職場環境の中でもできることなら今の仕事を続けたいという気持ちが強いことがうかがえる。

6. 仕事上で困っていることや不満について(複数回答可)




 仕事上で困っていることや不満について質問した結果、グラフのとおりとなった。上位は仕事量が多いこと、とっさの判断を求められる、賃金が低い、といった回答が多かった。また、少数ながらセクハラ・パワハラを記入する方がいたが、これも働く環境として問題視すべきである。

7. 健康のことについて(複数回答可)




 健康で気になることについて質問したところ、グラフのとおりとなった。選択肢以外に気になることの記入をお願いしたところ、「よく頭痛におそわれることが多くなった。薬を服用することになった」、「人材不足のうえに事務量が大きく増えて、時間外労働や休日出勤につながり慢性的な疲労蓄積となっている」、「ストレスで過食してしまい太った。健康に不安を感じる」、「忙しい時期に不眠や憂鬱となった」、「ストレスを発散させる時間も余裕もない」、「腰に疲れが出る」、「仕事が終わったあとでも電話がかかることがあり、気持ちの上で休まることがない」、「精神的ダメージが大きいのでフォローしてほしい」「不整脈が頻繁に出るようになり、現在は軽い精神安定剤を服用している」などストレスなどから起きる体調の異常を訴えるようなことが書かれていた。

8. 障害者自立支援法や仕事について

 アンケートの最後に障害者自立支援法や仕事について意見を書いていただく欄を設けた。書かれていたことの一部を下記に記す。
・事業所として登録していても、利用者が増えない。毎日に1~2時間あるかないかの仕事量ではヘルパー配置にも困っている。
・介護保険法におけるケアマネの立場の役割をなす人がほしい。利用者さんとの直接の契約のみでは十分なマネジメントが難しいときがある。他事業所や多職種との連携のためにも。
・障害者自立支援法での訪問に対しての研修が少ない。
・新しく変わった自立支援法での利用者とヘルパーとの一緒に仕事を行うという部分の理解度が少ない。
・介護職全般の賃金に言えるが、精神面のストレスや肉体的な面でも非常に安価だと思う。マスコミや政治でも話題として取り上げられても具体的・現実的な解決はない様である。士気の下がる賃金の見直しを早急にしないと現場から介護職は離れていくと危惧する。
・利用者に関する情報の入手が困難な気がする。また、土、日に何か問題が起きたとき相談窓口がなく月曜日に担当の方に報告するが、その間対応に不安がある。
・なし崩し的に改正を行うよりも抜本的な見直しを行い、障害者の生活の現状をしっかり反映させられるようにしてもらいたい。
・小さい頃から障害者がいて当たり前の教育を行う必要があると思う。また、地域との交流で理解を深めていく必要があると思う。
・利用者負担は食事代のみとしてほしい。程度区分が3障害それぞれのものを作成する。障害者を介護保険制度と統合しないでほしい。
・理念とは裏腹に根底にあるものは公費抑制政策でしかない。漁船も避けることができない高性能(?)イージス艦には1隻1,400億もの税金を投入しているが、税金の使い道が間違っていないか。
・経営面で福祉を行わざるを得ないため福祉は後退している。何のための福祉か。なりたくて障害者になった人は1人もいない。国は福祉にもっとお金をまわすべきだ。
・精神保健福祉士の配置基準がなくなったことに理解ができない。
・地域間で福祉に格差のあるのは憲法上も問題ではないか。
・事務量が増えているのは配置基準に事務職はなく、報酬に人件費は含まれていない。
・利用者の心のケアができるように、サービス時間に余裕のある制度にしてほしい。
・ヘルパーが不足していて、求人を出しても全く来ない。
・元気な障害者の方たちはとてもわがままで困っている事業所、ヘルパーがたくさんいる。この方たちの対応を市のコーディネーターさんたちがきちんとしてほしい。
・命に関わる作業ばかりで責任は重いが仕事は認められてない様な気がする。
・福祉の職場に正規職員を多く雇用できるように、そのために人件費として支払う財源を確保できるような制度設計をしてほしい。
・利用される方のための制度にもかかわらず、負担金額を理由に本人が望んでいるサービスが受けられない現状を改善してもらいたい。
・介護保険認定者の場合ケアマネがマネジメントすることがあるが、自立支援法のことを何も知らないで言ってくる。こちらから指摘してもゴリ押ししてきて困ることがある。
・現行法では本人や家族の意思を重んじることなく、地域生活への移行計画や定員削減の数値目標を設定されている。地域で生活することと施設で生活することを単純に比較するものではないと思うが、区分や年齢などの条件を外して、本人やその家族の環境によってどのサービスを利用するのが一番良いのかの「選択権」を残していただきたい。我々は現状だけを見つめるのではなく、これからも生まれてくるであろう障害者やご家族のことも考え、この法律が障害者に本当に優しい法律になることを願ってやまない。

9. おわりに

 アンケートの集計を進めていく過程で、猫の目のように変わる障害者施策と障害者やその家族との狭間で何とか福祉に携わっていく現場の方々の厳しい環境を見せつけられた感じがした。書き込まれた意見には厳しいものもあったが、この国の福祉を憂い、また当事者やその家族を案じての書き込みのようであった。また、認定の仕組みやケアマネジャーの必要性など自立支援法そのものの否定ではない意見もあったことは注目される。レポートの字数制限の都合、残念ながらお寄せいただいた意見全てを書くことはできなかったが、少しでもアンケートをいただいた方の気持ちを伝えるべく意見を要約し掲載した。
 障害者自立支援法は施行から3年で見直しすることとなっている。今年は3年目、見直しを行う年度である。障害者福祉に限らず医療、介護、年金といったわが国の社会保障費全体が抑制の方向で展開されつつある現状下で、障害者自立支援法の見直しも厳しいものが予想される。しかし、誰のための施策か、何のための制度か、その原点を置き去りにしての法制度であってはならない。この制度がより良い制度になること心から願う。