【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ統合分科会 市民とつくる社会保障システム

市立函館病院の現状と課題


北海道本部/市立函館病院労働組合・書記次長 田島  修

1. はじめに

 自治体病院では大学からの医師の引上げや中堅医師の開業等で、全国的な医師不足に陥っている。また、自治体病院の7割は赤字経営といわれている。赤字の要因としては、医師不足や利用者の減少、更には、診療報酬のマイナス改定等が挙げられる。まさに自治体病院を取り巻く環境は非常に厳しいといえる。これらの状況を踏まえて、自治労北海道本部は「公立病院改革ガイドライン対策本部」を設置した。この対策本部では総務省の公立病院改革ガイドラインの指針に対し、自治体財政と共に地域医療を守り、職場を守る立場から自分らの病院をどうすべきか、具体的な対策プランを講じるものである。2008年3月15~16日の日程で「第1回 公立病院改革ガイドラインに係わる対策会議」が札幌で開催された。その分科会(病院規模別による分析と会議 病床200床以上)で発表した「市立函館病院の現状と課題」について、ここに報告する。

2. 市立函館病院では何が起きているか

 当院では2007年度途中に、専門医 (糖尿病専門医・リウマチ専門医・腎臓内科専門医)が撤退し、耳鼻科・血液内科の診療も縮小された。更には、産婦人科、皮膚科の2科で常勤医の不在のため大学等に診療応援の依頼を余儀なくされる。そのために各科診療に多大の影響を受け、結果として収益が激減した。また、看護師不足も深刻化している。医師不足の原因については全国的な要因と同じように卒後臨床研修制度の影響や、開業医志向の強まりのほか、コンビニ感覚で夜間診療を求めるなど患者の意識変化や医療安全対策の強化があげられる。また、多くの文書作成などから医師の負担が大きくなり、医師一人当たり平均で月70時間程度の時間外勤務をこなしている。このような劣悪な労働環境が一つの要因ともいえる。

(1) 市立函館病院の経営実態
 市立函館病院(函館病院・恵山病院・南茅部病院をいう)の2007年度単年度決算では10億円を越える赤字となり、累積赤字額も20億円にのぼる大変厳しい経営状況にある。また、不良債務比率は前年度の8%台から17%台に上昇し、待ったなしの経営改革が迫られている。経営悪化の一つの要因として、7億5,600万円の未収金がある。また、オーダリングシステム構築に7億5千万円と多額の費用が掛かっていることがあげられる。更に、医療収益の減収が大きな要因となっている。

(2) 市立函館病院財政状況
 市立函館病院収益的収支(表1参照)では2005年度の病院事業収益は173億2,386万円、2006年度の病院事業収益は150億2,023万円と、収益の激減が目立つ。また、2005年度の病院事業費用は187億2,479万円、2006年度は174億7,981万円と、各年度の病院事業収益より事業費用が上回っている。2005年度の純損益は14億93万円、2006年度は24億5,957万円と純損益は増加している。

(3) 同規模公立黒字病院との比較
 2006年度の市立函館病院の決算書(表2参照)を用いて、経常収支比率と職員給与比率、病床利用率について公立黒字病院と比較した。はじめに、収益的収入を収益的支出で除して算出される「経常収支比率」については、2006年度決算の数値でいえば、函館病院は86.0%、恵山病院66.8%、南茅部病院76.4%と、いずれも目標となる100%を下回っている。次に、職員給与費を医業収益で除して算出される「職員給与比率」については、目標となる500床以上の公立黒字病院の平均値48.7%に対し、函館病院は48.5%となっている。また、50床以上100床未満の公立黒字病院の平均値62.9%に対し、恵山病院は102.8%、南茅部病院は58.1%となっている。次に、「病床利用率」だが、函館病院は、一般病床のほか精神、結核、感染症の各病床も備えていることから、一般病床だけで比較すると、目標となる500床以上の公立黒字病院の平均値89.2%に対し、函館病院は84.1%となっている。また、50床以上100床未満の公立黒字病院の平均値73.5%に対し、恵山病院は84.0%、南茅部病院は77.9%となっている。純損益が増加した理由は「経常収支比率」、「職員給与比率」、「病床利用率」の3指標からも理解できる。

3. 国・道の政策

(1) 公立病院改革ガイドラインとは
 総務省は2007年12月に「公立病院改革ガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)を示し、自治体に対して病院の経営健全化を図る改革プランの提出を求めてきた。それは、「①当該病院の果たすべき役割及び一般会計負担の考え方を明記すること、②経営の効率化を図って経営黒字を目指すこと、③二次医療圏単位で医療機関の再編・ネットワーク化を進めて統合を推進すること、更に、④必要ならば、診療所化や独立行政法人化などの経営形態を見直す」という内容である。②については3年を目途に、③と④については5年を目途に策定しなければならない。また、総務省は再編に伴う経費を交付税で支援するなど、不良債務軽減のために病院特例債の発行を認めた。これは、2007年度決算で不良債務比率が10%以上で、ガイドラインに基づく改革プランを策定し、収支均衡への道筋を示したと認められる場合、2008年度に限り病院特例債を認める。

(2) 自治体病院等広域化・連携構想(案)とガイドラインの密接な関係
 自治体病院は救急医療等の不採算医療を担うなど、地域医療の確保に取り組んできたが、近年、医師をはじめとする医療従事者の不足、利用者の減少、更に、診療報酬改定の影響などにより極めて厳しい経営環境となっている。自治体病院に今求められるのは身近な、かかりつけ医機能から高度な急性期医療までの全てを担うことではない。つまり、地域の他の医療機関と役割を分担して相互に連携することであり、医療を中心とした保健や福祉、介護サービスと一体となった包括的なケア体制の構築が求められる。このため、自治体病院は広域的に連携し、地域に必要な医療を効率的に提供して、地域医療の確保と病院経営の健全化を両立させることが重要となる。そこで、道は①北海道を30区域に区分し、②資源の効率的な運用をする。③規模が200床程度の病院を中核病院とし、それ以外の病院は規模縮小や再編を促している。(図1参照)これは、先に述べたガイドラインと密接な関係があり、①30区域に区分することはガイドラインでいう再編・ネットワーク化のこと、②資源の効率的な運用はガイドラインでいう経営の効率化のこと、③規模が200床程度の病院を中核病院とし、それ以外の病院は規模縮小や再編することはガイドラインでいう再編・ネットワーク化と経営形態の見直しのことである。
 「市立函館病院は、地方センター病院であり引き続き第3次医療圏の中核を担うことが期待される。函館市内の他の2病院(協会病院・赤十字病院)は比較的小規模であり、今後担うべき役割を踏まえて、あり方を検討する必要がある。」(自治体病院等広域化・連携構想案より引用)このことからも、市立函館病院は地域の中核病院としての役割を担うことを期待されている。

(3) 2008年度の診療報酬の改定では
 国は年間2,200億円の社会保障費の抑制を進めている。2008年度の診療報酬改定で本体部分を0.38%引上げたものの、薬剤・材料部分は1.2%の引き下げ、診療報酬全体では0.82%の引き下げとなった。前回の改定3.16%よりは引き下げ幅は少なくなったものの、厳しい状況には変わりない。

4. 市立函館病院の取り組み

(1) 2008年度市立函館病院事業計画
 2008年度の市立函館病院の事業計画案(表3参照)は以下のようになった。
① 7:1看護基準導入により2億8千万円。
② 医師の確保・クラークの配置により4億1千万円。
③ リハビリテーションの強化等による各種加算取得により1億6千万円。
④ ジェネリック医薬品の採用により1億円。
⑤ 材料費・光熱水費等の削減により1億円。
⑥ DPCとオーダリングの導入により5億1千万円。
⑦ 24時間保育の運用により看護師・女医の確保。
⑧ 医療連携の推進により早期退院による収益の確保と病床利用率を上げる。
⑨ 恵山病院・南茅部病院の規模縮小により1億5千万円。
 合計17億1千万円の増収が見込まれる。また、未収金(7億5,600万円)対策として、休日退院予定者への請求書事前発行を2007年9月3日より、退院時の精算確認後の退院許可制度の導入を同年12月3日より開始した。また、支払催促を行う旨の文書送付を随時行っている。更に、過去の未納者に対しての法的手段として裁判所に申し出る、と病院局は言う。

(2) 市立函館病院の再編
 市立函館病院は病院事業の収支改善を図るため、函館病院834床から734床へ規模縮小および病棟再編、恵山病院と南茅部病院の1病棟化(図2参照)を打出した。恵山病院は現在、一般病床26床、療養病床40床の計66床。南茅部病院は現在、一般病床37床、療養病床22床の計59床。計画では恵山病院は一般病床を廃止し、療養病床のみの60床として、南茅部病院は療養病床を休止し、一般病床のみの37床とする。1病棟化に着手する背景には、医師不足や過疎化などで収益構造が悪化し、経営が厳しいという問題がある。1病棟化によって職員の削減などを図り、両病院で合計1億5千万円の効果額を生み出せると見込んでいる。しかし、地域住民から「地域の医療を維持してほしい」「自治体病院は収益より住民の福祉を重視し運営すべき」との意見が出るなど、現状維持を求める要望が多数を占めた。2008年2月に2度の住民説明会を経たものの、1病棟化への転換は目途が立たない状況である。

(3) 地域医療連携システム
 市立函館病院は2006年度から函館市内の病院・医院との間で病診連携(図3参照)を進めてきた。これは、それぞれの機能分担と相互連携を進めるため、これまでのデータや画像の共有、解析などに取り組んでいる。具体的には、高齢者に症例の多い大腿部骨折患者について当院で手術を行う。その後、回復期リハビリ病院で自宅へ戻るための治療を行うため、双方の医師が病院を訪問し合い、お互いの共通認識の上で一定の治療方針を決定する「地域連携パス」を導入した。更には、各医療機関とインターネット回線を利用して、患者の各種情報を相互に共有(オーダ情報・画像・手術記録、サマリーや看護連絡表等)し、効率よく良質の医療を提供できる医療連携システムを運用している。
 病診連携病院・医院(2008年4月現在)は高橋病院、亀田病院、稜北病院、おしま病院、西部大山医院、山敷内科、北美原クリニック、後藤内科で、今後更なる拡大に向け後方支援病院・医院の確保が必要である。

5. 組合の視点

(1) 経営・運営の見通しについて
 先に述べた、2008年度の市立函館病院事業計画案(表3参照)より、組合が試算した結果、合計収益は5億4千万円プラスαとなり、病院局の算出した合計17億1千万円とはかけ離れた金額となった。組合の見解を以下に述べる。
① 7:1看護基準導入や③リハビリテーション強化による加算取得。また、④ジェネリック薬品の採用による効果額は認められる。
② 医師の確保・クラークの配置により4億1千万円と、⑥DPCとオーダリングの導入により5億1千万円の増収について、今年度中では無理な額であり、どれ位の効果額になるかは算定できないため、プラスαとした。
⑦ 24時間保育は、働きやすい環境が整い看護師の定着や女医の確保につながる。また、
⑧ 医療連携の推進により早期退院と病床利用率を上げることによって効果額は算定できないものの、収益の確保につながる。結果、①、②、③、④、⑥、⑦、⑧、は効果あるといえる。一方で
⑤ 材料費・光熱水費等の削減で1億円の削減になるに対し、具体的な対策が見えない。
⑨ 恵山病院・南茅部病院の規模縮小に対し、地域住民の反発が出ており1億5千万円の効果額が生み出せるのか疑問である。結果、⑤、⑨は効果ないと判断した。病院局にどのような分析で金額を算出したのか、あらためて確認する必要がある。

(2) 収益確保にむけて
 病院の現状等を踏まえて、今からやれることを思案したので以下に述べる。
① 外来新患や入院患者を増やし、また、手術件数を増やすことは収益に直結するため、地域医療連携を積極的に活用し紹介・逆紹介件数を増やしていく。
② 医者の働きにより収益は十分確保できるので、収益が上がらないのはどこに問題があるのか、他の類似病院の分析をして、黒字病院との違いを検証する必要がある。
③ 未収金は自治体病院の経営を圧迫していることは明白であり、徴収率を上げなくてはならない。対策として、時間外の外来救急患者の即時徴収や休日退院予定者への請求書事前発行、更に、退院時の精算確認後の退院許可制度の導入も行っている。今後は過去の未納者に対し法的手段を用いて徴収する。と病院局は言うが、はたしてその効果については実際の件数や結果を検証する必要がある。結論としては、平日・休日に係わらず「精算後の退院制度」を確立する必要がある。
④ 何故、時間外労働が蔓延しているのか、どこに問題があるのか精査する。特に接遇問題においては改善等を含めた職員の意識改革が必要である。
⑤ 適材適所の人員配置をしているか検証する必要がある。
⑥ 物品購入は3病院(函館病院・恵山病院・南茅部病)一括購入し、安価で仕入れる手法を用いているかを検証する必要がある。
⑦ 経費削減を徹底し、コスト洩れが何故生じるのか検証し、コスト漏れ対策を早急に講じる必要がある。

6. まとめ

 総務省は悪化している地方自治体の財政状況の分析に地方公営企業の実績を含めた連結決算を用いて評価することにした。また、全国的にみて病院事業が自治体の財政状況に大きな負担をかけていることから、総務省は「ガイドライン」を示し、自治体に対して病院の経営健全化を図る改革プランの提出を求めてきた。まさに自治体病院に冬の時代がやってきたといえよう。函館市においても、近年、医師の不足に加えて看護師の不足、診療報酬のマイナス改定等により、組織、経営の両面において厳しい運営を強いられている。地域医療の確保と経営の健全化を図るため「函館市病院事業改革プラン」を策定するにあたり『函館市病院事業改革プラン策定懇話会』を設け、病院局が中心となり有識者からなる策定検討委員会の意見を取入れながら、2008年度中に3病院ごとに改革プランを策定しなければならない。病院局によると同年11月までには改革プラン(案)の策定を行い、議会等への公表を経て、2009年3月までに改革プランを成案化すると言う。
 改革プラン策定にあたり、われわれ労働組合はより良い病院作りという観点から、当局に指摘していかなければならない。良い医療を提供することで患者数を増やし、無駄を排して、診療報酬を正確に洩れなく請求することを意識して日常の診療に勤める必要がある。また、4労連(市役所・水道局・交通局・病院局)や各級議員と市立函館病院のあり方論を協議すると共に、あわせて地域の住民と共同して残していくものは残し、効率的な運営を労働組合としてどう考え、当局に発信していくかが、今後われわれに残された課題といえる。








表1

市立函館病院財政状況



表2

2006年度決算より



表3

2008年度市立函館病院事業計画案