【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-①分科会 都市生活とまちづくり

公営交通の存続に向けた取り組み


都市交/佐賀交通労働組合・執行委員長 田中  修

1. はじめに

 佐賀市は、九州の北西部の佐賀平野の中央部に位置し河川、クリーク等が縦横に発達している田園都市である。2005年10月と2007年10月の二度の市町村合併により、北部は背振山麓で福岡市と隣接し、南部は筑後川下流域で福岡県大川市と接するようになり、旧佐賀市の約4倍の面積を有する広域化した県庁所在地となった。
 佐賀市の自動車運送事業は、恒久財源の捻出と秩序ある市民交通体系の確立を目的に、1936年10月に佐賀市営バスとして事業を開始した。
 当初は民間事業者の路線を買収することで、順次路線網を拡大し、1952年10月には地方公営企業法の公布と同時に適用を受け、公営企業体として本格的に事業展開を行い、1965年代にはほぼ現在の路線網を確立した。

2. 公営交通の現状

 佐賀市営バスの運行形態は、JR佐賀駅バスセンターを中心に放射線状になっており、周辺の住宅地や農村部から佐賀市街への通勤・通学・通院・買い物等の片道輸送が主体を占め、市内中心部では都市間輸送の民営三社と一部競合している。
 路線内の道路状況は、ほとんどが片側一車線で、特に朝夕の市内中心部は交通渋滞となりバスの定時性が損なわれる。また、マイカー普及率が高く、平坦地でもあるため自転車の利用が多く、他県に比べバス離れが進んでいる。
 マイカーへの移行や少子化等の進展により、1968年度をピークに利用人員が減少の一途をたどり、その結果経営状況が悪化し、過去二度の国及び県の指導による財政健全化計画を実施した経緯がある。
 2004年3月に旧佐賀市の第2次佐賀市行政改革推進会議において、交通事業に対する提言がなされ、市営バスの将来方向について「民営並みの経営効率化に取り組み、公営企業として存続する。ただし、繰出し基準以外の補助金はカットし、30%の給与削減を行うこととし、累積欠損金が解消する見通しが3年以内に立たなければただちに民営化を図るべきである。」という30%の給与カットを求める前代未聞の厳しい内容であり、ある意味民営化を前提とした当時の市長の方針でもあり、同時に公営交通存続の危機でもあった。
 2005年10月の市長選挙で、民営化を推進していた市長が敗れ、市町村合併により拡大した市域の交通政策の必要性を重視する新市長に代わり、交通政策担当部署も新たに誕生し、公営交通の新たな役割を期待されている段階である。
 労組としても、単なる移動交通手段ではない、市民のための市営バスであるために、「環境・福祉・子ども」に着眼し、局と一体となって公営交通の存在意義を確立させる取り組みを行っている。

3. 具体的な取り組み

(1) ノーマイカーデー推進運動
 佐賀市営バスでは、毎週水曜日を「ノーマイカーデー」として、運転免許証を提示していただくと、運賃が半額になるサービスを行っている。
 通常はマイカー通勤の方が、水曜日はバス通勤にシフトすることで、市民が気軽に環境にやさしい行動が実感でき、またバス利用者も増加することから、佐賀市の環境政策とタイアップした公営バスならではのサービスである。
 サービス開始当初は、職員がバスセンターなどの主要バス停留所に立って、案内チラシとポケットティッシュを配りながら、ノーマイカーデーの普及促進に努めた結果、今では「毎週水曜日は運賃半額」が定着し、多くの市民が利用し好評である。



ノーマイカーデー割引実施中


バス車内の割引表示

(2) 視覚しょうがい者向けの音声時刻表の製作
 路線バスを利用される視覚しょうがい者の方々の要望を受けて、労組が独自で視覚しょうがい者団体や点字図書館と相談して、ボランティアスタッフの協力を得て、カセットテープに録音した音声案内による時刻表を完成させた。
 全国的にも珍しい取り組みであったため、試行錯誤しながら約2年の歳月がかかり、完成した音声時刻表は、点字図書館や盲学校など視覚しょうがい者が利用する市内5施設において利用していただいている。



音声時刻表全14巻


音声時刻表のテープ

(3) 110番移動サポーターの実践
 近年青少年が犯罪に巻き込まれる事件等が多発している中で、365日早朝から深夜まで運行しているバスの特性を活かして、子ども達を犯罪から守ることができないか検討した結果、職員が提案して実現できたものがこの「110番移動サポーター」である。
 旧佐賀市内の全小学校区(19校区)を網羅している市営バスの特性を活かし、防犯パトロールとしての役割と緊急時の連絡や救助の補助手段となれるように、110番サポーターのステッカーを全車に貼付することで、職員の防犯に対する意識を高めることができた。



車外向けの表示


車内向けの表示

(4) 普通救急救命講習会の実施
 バスの利用者は高齢者、しょうがい者、子どもなどのほかに移動手段を持たない、いわゆる交通弱者と呼ばれる方が多く、バス車内で不測の事態が起こることも考えられることから、労組の発案で全職員が「普通救急救命講習」を受講し、人工呼吸の方法やAEDの使用方法などの応急措置の研修を受け、修了証の交付を受けている。
 この活動も、市民に安心、安全を与えるサービスの一環として、公営バスが担う役割のひとつだと考えている。



普通救急救命講習修了証


4. おわりに

 近年の規制緩和や行財政改革で公営交通の存在意義が問われている中で、民営化や事業廃止により、バス路線がなくなる地域が増えている。
 地方バスは圧倒的に高齢者の利用が多く、バス路線がなくなれば外出そのものができなくなり、生活に支障をきたしている方々も多いと聞く。
 マイカーが第一の移動手段である地方都市にとっては、バス事業を経営することは容易なことではなく、財政支援がなければ事業経営が成り立たないのも現実である。
 ただ、バスが走るだけであれば、どこのバスでもいいだろうが、市民が必要とするバスであるためには、都市部以上にきめ細やかなサービスが求められていると感じる。
 公営交通は、単なる移動交通手段ではない市民サービスの一部であることを理解していただくことが、公営交通で働く我々の使命であり、公営交通の存在意義を確立するために、今後も現場の声を反映した地道な取り組みを行っていきたいと考えている。

市営バス耳より情報

佐賀市営バス全路線図