第4章 事例を踏まえたコミュニティ活性化に関する考察
第1節 「コミュニティの活性化」の定義について(省略)
第2節 コミュニティ活性化の必要性について(詳細は省略)
事例研究を踏まえてコミュニティ活性化の必要性について考察すると、以下の観点から意義があると考えられる。
1 「地域に暮らす住民の心豊かでやすらぎのある生活の実現」の観点からの必要性
人間関係の希薄化が進み、地域で住民が生き生きとした生活を送ることが困難になっていく中、住民の主体的で活発なコミュニティ活動の展開により、地域住民が、暮らしにおいて安心・安全を実感したり、心豊かでやすらぎのある生活を実現することが期待できる。
2 「公共サービスの水準や質の向上」の観点からの必要性
公共サービスの提供について、住民が行政を補完、あるいは、自ら担うことによって、サービスの水準や質の向上が期待できる。
3 「住民負担の軽減」の観点からの必要性
今後、自治体の厳しい財政状況や社会状況の変化に伴う住民ニーズの増大から、新たな住民負担が必要となる可能性も考えられるが、公共サービスの提供や地域の課題解決が住民の自主的活動によって担われ、行政コストが削減されることによって、その分の住民負担が軽減されたり、あるいはコスト削減分を新たな課題に対する施策に充当することで、住民に新たな負担を求めず公共サービスの提供が可能になるなど、低負担・高サービスの実現が期待できる。
第3節 コミュニティの活性化に向けた課題の整理
前章の先進事例で共通して見られた活動や組織における特徴や課題、第2章のアンケート調査から推測される道内コミュニティの課題を総合的に考慮し、次の5つの視点から今後のコミュニティの活性化に関する分析や今後の方策の検討を行う。
1 「住民各層の活動への自主的参加の促進」
2 「組織を担う人材の確保・育成」
3 「主体的な活動推進体制の構築」
4 「他の組織との連携」
5 「住民の自主的取り組みに対する行政の関与」
第4節 住民各層の活動への自主的参加の促進
調査事例では、現在のような安定的な住民参加に至ったプロセスにおいて、次の5つの要素が存在していたのではないかと考えられる。
1 「参加の背景となる潜在的要素(住民間関係・地域的特性等)の存在」
・住民間の「つながり」や「共同意識」の存在。あるいは、過去からの高い町内会加入率の存在など。
2 「参加のきっかけとなる出来事の存在」
・住民間における危機・問題意識の発生・共有のきっかけとなる何らかの事件等。あるいは、行政の政策や首長のリーダーシップによる働きかけによる住民意識の高まり。
3 「リーダー及びこれを支える中心的メンバーの存在」
・住民の危機意識等の高まりを受け、これを実際の行動に移し、個々の住民をまとめて活動を主導したり、住民を活動に参加する気にさせる人物と、これを支え活動の中心となる複数の中心的メンバーの存在。
4 「住民間における活動の成功体験の共有」
・活動の結果、問題解決や一定の成果が得られ成功体験・充実感等を参加者間で共有することで、モチベーションや連帯意識が高まると共に、周辺部の人々もこれに共感し参加意欲が高まり参加者が増加。
5 「住民参加を維持・促進する取り組みの存在」
・活動に参加しやすい雰囲気づくり(組織・活動での対人関係に関するルール)
・気軽に活動に参加できる仕組み(協力員の募集、登録制のボランティア組織)
・効果的な情報の周知(活動実施ごとのお知らせの全戸配布、ITの活用等)
上記のうち、特に1については、住民間のつながりや共同意識の存在、つまり住民同士が親しかったり活発なコミュケーションがあることは、①人を活動に参加しやすくさせたり、参加に前向きな気持ちにさせる、②勧誘等人づてにより住民の参加の「きっかけ」がつくられる、③対話の中から地域課題への関心が高まる、などの点から住民を活動への参加に導く前提として、さらに言えばコミュニティ活性化の根本的要素として非常に重要であると考えられる。
第5節 組織を担う人材の確保・育成
1 リーダーの誕生要因
調査事例の各リーダー(会長)の現職に至るまでの過程から、個人的な能力・資質以外にこうした人物を生み出す要因として次の3点が考えられ、これらに留意したリーダー育成の取り組みが重要であると思われる。
① 何らかの「きっかけ」で組織とのつながりができたことによる「参加」の開始
② 組織への参加や実体験を通し、地域の実態や活動の内容・必要性をよく「知る」ことによる、活動への意識の目覚め
③ 組織への参加あるいは役員就任当初における周囲の適切なサポートの存在
なお、各リーダーはいずれも、後継者については、前節の2「参加のきっかけとなる出来事」が起きた時から自分と共に活動し、現在も組織の中心的メンバーとなっている人物の中から選ぶ、あるいは選ばれることを望んでいる。こうした傾向になるのは自然ではないかと考えられ、リーダー周辺の人材を後継者としてしっかり育成していくことが必要であると思われるが、道内の連合会組織の「役員研修会」実施率は56.0%と必ずしも高い状況ではない(注2)。
2 中心的メンバーの確保
事例では、活動への「参加」の中から組織を担う熱心な人材が現れることを期待し活動への参加促進に取り組んでいる例が多い。上記1のリーダーも含め、地縁組織では、組織の中核を担う人材は、前節でふれた住民間の「つながり」や「共同意識」の存在及びこれを基にした活動への「参加」を通して輩出されているのではないかと考えられる。
3 リーダーの在職年数
各会長の在職年数は最も短い大山自治会長でも9年と長く、会長周辺の中心的役員にも同様の傾向が見られ、今回の事例ではリーダー層がある程度長く務めることで、ビジョンを持った計画的な地域課題に対する活動や組織運営の推進を実現している。毎年役員が替わる組織では、慣れてきたところで任期終了となり組織を担う人材が育たず、事業活動の計画性や継続性もなくなり前例踏襲が生じるほか、新人役員へのサポートもできないと考えられる。
第6節 主体的な活動推進体制の構築
1 事務処理体制の状況
白老町町内会連合会や大山自治会では専任職員を配置し、主体的な組織運営や役員の事務負担軽減等がなされている。なお、道内の連合会組織の事務局職員体制は、専任職員体制をとる組織は15.3%、行政職員兼務体制をとる組織は68.7%となっており、事務局機能の行政への依存傾向が見られる。
2 拠点施設の確保状況
いずれも自治体、公社など公的機関による整備あるいは貸与によって活動拠点となる施設が確保されている。
3 財源の確保状況
澄川地区連合会では、活動を維持するための財源確保や、連合会が包含する各種団体に対する市からの補助・助成金がひも付きで使い勝手がよくないという点が課題となっている。また、あかしや団地町内会の支出においては街路灯や会館の維持管理費が4割近く占めており、新たな自主的活動に予算を充てづらい状況と考えられるため、住民の主体的活動を支援・促進するような行政の取り組みの検討も必要ではないかと考えられる。
4 情報の確保状況
各組織とも、基本的には行政からの情報収集が中心となっているが、コミュニティ活動に関する行政の所管課が複数に分かれており、何か聞きたいことがある場合、どこに連絡すればよいのかわかりづらいという意見があった。
5 活動の事後評価の実施状況
調査事例においては、白老町町内会連合会では「町内会活動実践交流会」を開催し、各町内会の取り組み発表・意見交換や有識者講演等の内容を含めた事後評価を行っている。道内の連合会組織のこうした「町内会活動研修・大会」の実施率は46.7%と高い状況ではない。
第7節 他の組織との連携
あかしや団地町内会の市道補修活動や大山自治会の高齢者支援活動では、取り組みに際し、積極的に関係行政機関や民間事業者等に対し、会長が相談・交渉・依頼など地道な対話を継続し理解・協力を得ることによって、他の組織との連携や、円滑で効果的な活動を実現している。
第8節 住民の自主的取り組みに対する行政の関与
1 住民各層の活動への自主的参加の促進に対する関与
調査事例では、活動に対する住民意識を高めようとする取り組みが見られたほか、白老町では、町の実態を町民によく知ってもらい、まちづくりを「我が事」と意識してもらうため、町職員と町民が町内の課題解決に関して率直な議論や先進地視察等を行う「元気まち研修会」や町職員の「出前トーク」の実施を通して徹底した情報公開・共有を行い、まちづくりに対する住民の意識喚起を実現。住民に活動を「我が事」と感じてもらうために、その内容や成功体験等の情報発信などを行政が行い、住民の意識喚起を図ることは、住民の活動への参加促進に有効と考えられる。
2 組織を担う人材の確保・育成に対する関与
行政が関与した人材育成の取り組みの成功例として、静岡県掛川市の生涯学習講座「とはなにか学舎」や愛知県春日井市の市民大学「春日井市民アカデミー」の卒業生の中から地域リーダーが輩出されている事例があり、これらの取り組みでは、①活動の実践を重視した講座の存在、②地域をよく「知る」ことを重視した講座の存在、③一定期間(1~2年)をかけた課程、などの特徴が見られる。
3 主体的な活動推進体制の構築に対する関与
① 事務処理体制に対する支援
仙台市や豊中市等では、上記事項や町内会の組織・活動に関する基本事項、各種問い合わせ・連絡先等をまとめた「活動の手引き」を作成し、町内会の事務処理をサポートしている例も見られる。
② 拠点施設の確保への支援
千葉県習志野市では、コミュニティ組織に活動場所として小学校の空き教室を提供し、住民が鍵の管理などを行うなど、既存公共施設を有効活用し、住民・行政双方にとって低負担な活動拠点確保の例も見られる。
③ 財源の確保への支援
北見市以外では、単位町内会への主な支援として、「世帯割」等の組織運営費補助(札幌市、白老町)と「活動割」補助(立川市)の2つが見られた。今後の支援のあり方として、活動実態・実績面での公平性や自主的活動の活性化促進という観点から、活動に応じて交付される「活動割」補助や、長野県岡谷市で行われている住民の企画・実施する事業に対し補助する「公募型補助金」のような住民の意欲や主体的活動を支援・促進するような支援策を検討すべきではないかと考えられる。また、澄川地区連合会のような地区レベルの包括的組織に対しては、福岡市の例のように、地区内各種団体への縦割りの助成金等を統合し「一括交付金」とし、使途の自由度を高め、効率的な資金活用を可能とすることも有効と考えられる。
④ 情報確保に対する支援
各自治体とも町内会等に対し随時情報提供や相談の受付は行っているが各部署縦割りで、住民にはわかりづらい。北海道稚内市や千葉県習志野市では、庁内横断的な複数の職員が地区ごとの地域担当職員となり、担当する各地区の住民自治組織(まちづくり協議会等)の会合に出席し、市の総合窓口として情報提供や質問への回答等の対応を行う「地域担当制」を採用しており、こうした住民にわかりやすい活動情報収集に対する支援の検討も今後必要であると考えられる。
4 組織間連携への関与
札幌市では、地区内の様々な組織(町内会、NPO、学校、商店街、企業等)がゆるやかなネットワークを結び、連携して地域課題の解決に取り組む「まちづくり協議会」の設立・運営支援を、市のまちづくりセンター所長が中心となって行っている。こうした地区内の各種団体を結びつけるきっかけとなる「場」や「機会」を行政で設置し、連携をコーディネートしていくことは組織間の連携促進に有効ではないかと考えられる。また、札幌市や立川市では「市民活動センター」などを設置し、住民に市内の活動団体に関する情報提供等を行っており、こうした住民への広い情報提供も、組織間連携への間接的な支援として有効であると考えられる。
5 その他の取り組み・支援
今回の調査組織の関係者の方たちからは、行政職員の活動への参加や住民との「協働」に対する意識向上等を求める意見が多く聞かれ、行政職員の活動への参加の少なさや住民との協働に対する意識の低さの一端が伺えた。行政は、住民の苦労や本当に求められている支援等を考えるきっかけをつくるため、職員の活動への参加促進などを通し、住民自治や「協働」に対する職員の意識改革を図っていく必要があるのではないかと考えられる。例えば、東京都杉並区では、防災や防犯に、区を含めた地域社会全体で取り組むため、既存の「ボランティア休暇」の対象活動を自治会等の身近な地域活動にまで広げ、職員の活動参加を促すといった取り組みが見られる。
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