【自主論文】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-①分科会 都市生活とまちづくり

今後のコミュニティに関する一考察【概要版】
―― コミュニティの活性化に求められるコミュニティ組織
   及び基礎自治体の取り組みに関する研究 ――

北海道本部/全北海道庁労働組合・環境生活部生活局・道民活動文化振興課 中里 安紘

序 章

1 研究の背景、問題意識
 北海道においては、少子・高齢化、家族形態の多様化・個人化の進行などにより、地域の活力の低下や住民間の結びつきの希薄化が見られ(注1)、活力ある地域社会の実現、地域住民の連帯の強化や心豊かな暮らしの実現などが求められていると考えられる。
 また、道内市町村においては、社会経済及び人口構造などの変化により「歳入減少」、「歳出増加」という厳しい財政状況に直面しており、こうした状況のもとでは、これ以上の財政規模の拡大は困難であり、今後、さらに多様化・複雑化し増加が見込まれる地域住民のニーズへの対応等が困難となることも懸念される。このため、今後、地域の課題解決などにおいて、行政では担いきれない公共サービスの提供が、地域住民の主体的で活発なコミュニティ活動によって担われていくことへの期待も大きくなってきていると考えられる。
 こうした状況から、今後のコミュニティの活性化及びそのための基礎自治体である市町村のコミュニティ政策のあり方について検討が必要ではないかと考えられる。

2 研究の目的
 本研究は、今後の道内各地域におけるコミュニティの活性化に必要とされる、コミュニティ組織及び市町村行政の双方における取り組みのあり方について提言することを目的とする。


第1章 コミュニティに関する基本事項等の確認

第1節 コミュニティに関する用語の定義や組織の類型化
1 用語の定義
 ・コミュニティ:「市町村よりも狭域の一定範囲で、地域における様々な課題の解決や、地域住民の連携等を図るための活動が行われている地域社会」と定義する。
 ・コミュニティ組織:「コミュニティにおいて地域の様々な課題の解決や、地域住民の連携等を図るための活動(清掃・防犯・子育て・高齢者支援・親睦活動など)を行っている組織」と定義する。
2 コミュニティ組織の種別
((財)北海道市町村振興協会「これからのコミュニティ」(2006)を基に筆者作成)

第2節 コミュニティ及びコミュニティ政策に関するこれまでの動向(省略)
第3節 コミュニティの活性化に関する先行研究(省略)


第2章 道内のコミュニティの現況

 本章は、(財)北海道市町村振興協会が2004年12月に道内の「住民」、「市町村」、「地縁組織」、「市民活動組織」に対し実施したアンケート調査結果を基に論ずる。

第1節 アンケート調査結果の概要(省略)

第2節 道内のコミュニティの現況
1 コミュニティの現況
 ① 「住民調査」~住民が日頃参加している活動組織は「地縁組織」が7割で最も多く、そのきっかけは「慣習・ルール」(68.3%)、「組織メンバーに誘われた」(12.7%)が上位2つ。また、活動に参加していない人は活動自体に否定的ではなく「忙しい」、「参加したいと思う活動がない」等の様々な理由(障害)で参加しておらず、道民全般の参加意識は決して低くないと推測される。
 ② 「市町村調査」~回答市町村の9割でコミュニティの主な担い手は町内会等の地縁組織となっている。その地縁組織の課題では、活動への住民意識の低下や組織の人材不足があげられている。現在実施しているコミュニティ政策は、財的支援、コミュニティ施設の設置・管理等、広報誌による広報活動が多い。コミュニティの拠点となる施設について、小・中学校施設の活用は0%となっている。
 ③ 「地縁組織調査」~加入率低下・代表者の高齢化・代表者の就任年数の二極化・参加者の固定化等の傾向が見られ、課題については市町村調査と同様、住民意識の低下や組織の人材不足が主となっている。財源に占める行政からの補助金等の割合は多くが3割未満で、自主的活動を中心とする組織の割合は7割で自主性も見られるが、組織によっては行政が事務局となっており依存が見られる場合もある。行政との連携は密で、その他の組織との連携は少ない状況だが今後の連携への意識・関心は高い。
 ④ 「市民活動組織調査」~代表者の高齢化・参加者の固定化等の傾向があり、加入割合も減少傾向で、課題は「活動資金の不足」が最も多くなっている。行政との連携は地縁組織程ではないが密で、その他の組織とは必要に応じテーマごとに連携することもあるが多くはない。今後の連携については、地縁組織と同様、意識・関心は高い。
2 道内のコミュニティにおける課題について
  アンケート調査からは「活動への住民参加の促進」、「人材の確保・育成」、「コミュニティの課題に対する行政の政策のあり方」、「自立した事務局機能の構築」、「活動拠点の確保のための既存公共施設等の活用」、「他の組織との連携」の6点が道内コミュニティにおける主な検討課題ではないかと推測される。


第3章 コミュニティ活動に関する事例研究(2007年10~11月に現地ヒアリング調査を実施。(省略))

第1節 北海道札幌市「澄川地区連合会」
第2節 北海道白老町「白老町町内会連合会」
第3節 北海道北見市「美山町あかしや団地町内会」
第4節 東京都立川市「大山自治会」


第4章 事例を踏まえたコミュニティ活性化に関する考察

第1節 「コミュニティの活性化」の定義について(省略)

第2節 コミュニティ活性化の必要性について(詳細は省略)
 事例研究を踏まえてコミュニティ活性化の必要性について考察すると、以下の観点から意義があると考えられる。
1 「地域に暮らす住民の心豊かでやすらぎのある生活の実現」の観点からの必要性
  人間関係の希薄化が進み、地域で住民が生き生きとした生活を送ることが困難になっていく中、住民の主体的で活発なコミュニティ活動の展開により、地域住民が、暮らしにおいて安心・安全を実感したり、心豊かでやすらぎのある生活を実現することが期待できる。
2 「公共サービスの水準や質の向上」の観点からの必要性
  公共サービスの提供について、住民が行政を補完、あるいは、自ら担うことによって、サービスの水準や質の向上が期待できる。
3 「住民負担の軽減」の観点からの必要性
  今後、自治体の厳しい財政状況や社会状況の変化に伴う住民ニーズの増大から、新たな住民負担が必要となる可能性も考えられるが、公共サービスの提供や地域の課題解決が住民の自主的活動によって担われ、行政コストが削減されることによって、その分の住民負担が軽減されたり、あるいはコスト削減分を新たな課題に対する施策に充当することで、住民に新たな負担を求めず公共サービスの提供が可能になるなど、低負担・高サービスの実現が期待できる。

第3節 コミュニティの活性化に向けた課題の整理
 前章の先進事例で共通して見られた活動や組織における特徴や課題、第2章のアンケート調査から推測される道内コミュニティの課題を総合的に考慮し、次の5つの視点から今後のコミュニティの活性化に関する分析や今後の方策の検討を行う。
1 「住民各層の活動への自主的参加の促進」
2 「組織を担う人材の確保・育成」
3 「主体的な活動推進体制の構築」
4 「他の組織との連携」
5 「住民の自主的取り組みに対する行政の関与」

第4節 住民各層の活動への自主的参加の促進
 調査事例では、現在のような安定的な住民参加に至ったプロセスにおいて、次の5つの要素が存在していたのではないかと考えられる。
1 「参加の背景となる潜在的要素(住民間関係・地域的特性等)の存在」
 ・住民間の「つながり」や「共同意識」の存在。あるいは、過去からの高い町内会加入率の存在など。
2 「参加のきっかけとなる出来事の存在」
 ・住民間における危機・問題意識の発生・共有のきっかけとなる何らかの事件等。あるいは、行政の政策や首長のリーダーシップによる働きかけによる住民意識の高まり。
3 「リーダー及びこれを支える中心的メンバーの存在」
 ・住民の危機意識等の高まりを受け、これを実際の行動に移し、個々の住民をまとめて活動を主導したり、住民を活動に参加する気にさせる人物と、これを支え活動の中心となる複数の中心的メンバーの存在。
4 「住民間における活動の成功体験の共有」
 ・活動の結果、問題解決や一定の成果が得られ成功体験・充実感等を参加者間で共有することで、モチベーションや連帯意識が高まると共に、周辺部の人々もこれに共感し参加意欲が高まり参加者が増加。
5 「住民参加を維持・促進する取り組みの存在」
 ・活動に参加しやすい雰囲気づくり(組織・活動での対人関係に関するルール)
 ・気軽に活動に参加できる仕組み(協力員の募集、登録制のボランティア組織)
 ・効果的な情報の周知(活動実施ごとのお知らせの全戸配布、ITの活用等)
 上記のうち、特に1については、住民間のつながりや共同意識の存在、つまり住民同士が親しかったり活発なコミュケーションがあることは、①人を活動に参加しやすくさせたり、参加に前向きな気持ちにさせる、②勧誘等人づてにより住民の参加の「きっかけ」がつくられる、③対話の中から地域課題への関心が高まる、などの点から住民を活動への参加に導く前提として、さらに言えばコミュニティ活性化の根本的要素として非常に重要であると考えられる。

第5節 組織を担う人材の確保・育成
1 リーダーの誕生要因
  調査事例の各リーダー(会長)の現職に至るまでの過程から、個人的な能力・資質以外にこうした人物を生み出す要因として次の3点が考えられ、これらに留意したリーダー育成の取り組みが重要であると思われる。
 ① 何らかの「きっかけ」で組織とのつながりができたことによる「参加」の開始
 ② 組織への参加や実体験を通し、地域の実態や活動の内容・必要性をよく「知る」ことによる、活動への意識の目覚め
 ③ 組織への参加あるいは役員就任当初における周囲の適切なサポートの存在
 なお、各リーダーはいずれも、後継者については、前節の2「参加のきっかけとなる出来事」が起きた時から自分と共に活動し、現在も組織の中心的メンバーとなっている人物の中から選ぶ、あるいは選ばれることを望んでいる。こうした傾向になるのは自然ではないかと考えられ、リーダー周辺の人材を後継者としてしっかり育成していくことが必要であると思われるが、道内の連合会組織の「役員研修会」実施率は56.0%と必ずしも高い状況ではない(注2)
2 中心的メンバーの確保
  事例では、活動への「参加」の中から組織を担う熱心な人材が現れることを期待し活動への参加促進に取り組んでいる例が多い。上記1のリーダーも含め、地縁組織では、組織の中核を担う人材は、前節でふれた住民間の「つながり」や「共同意識」の存在及びこれを基にした活動への「参加」を通して輩出されているのではないかと考えられる。
3 リーダーの在職年数
  各会長の在職年数は最も短い大山自治会長でも9年と長く、会長周辺の中心的役員にも同様の傾向が見られ、今回の事例ではリーダー層がある程度長く務めることで、ビジョンを持った計画的な地域課題に対する活動や組織運営の推進を実現している。毎年役員が替わる組織では、慣れてきたところで任期終了となり組織を担う人材が育たず、事業活動の計画性や継続性もなくなり前例踏襲が生じるほか、新人役員へのサポートもできないと考えられる。

第6節 主体的な活動推進体制の構築
1 事務処理体制の状況
  白老町町内会連合会や大山自治会では専任職員を配置し、主体的な組織運営や役員の事務負担軽減等がなされている。なお、道内の連合会組織の事務局職員体制は、専任職員体制をとる組織は15.3%、行政職員兼務体制をとる組織は68.7%となっており、事務局機能の行政への依存傾向が見られる。
2 拠点施設の確保状況
  いずれも自治体、公社など公的機関による整備あるいは貸与によって活動拠点となる施設が確保されている。
3 財源の確保状況
  澄川地区連合会では、活動を維持するための財源確保や、連合会が包含する各種団体に対する市からの補助・助成金がひも付きで使い勝手がよくないという点が課題となっている。また、あかしや団地町内会の支出においては街路灯や会館の維持管理費が4割近く占めており、新たな自主的活動に予算を充てづらい状況と考えられるため、住民の主体的活動を支援・促進するような行政の取り組みの検討も必要ではないかと考えられる。
4 情報の確保状況
  各組織とも、基本的には行政からの情報収集が中心となっているが、コミュニティ活動に関する行政の所管課が複数に分かれており、何か聞きたいことがある場合、どこに連絡すればよいのかわかりづらいという意見があった。
5 活動の事後評価の実施状況
  調査事例においては、白老町町内会連合会では「町内会活動実践交流会」を開催し、各町内会の取り組み発表・意見交換や有識者講演等の内容を含めた事後評価を行っている。道内の連合会組織のこうした「町内会活動研修・大会」の実施率は46.7%と高い状況ではない。

第7節 他の組織との連携
 あかしや団地町内会の市道補修活動や大山自治会の高齢者支援活動では、取り組みに際し、積極的に関係行政機関や民間事業者等に対し、会長が相談・交渉・依頼など地道な対話を継続し理解・協力を得ることによって、他の組織との連携や、円滑で効果的な活動を実現している。

第8節 住民の自主的取り組みに対する行政の関与
1 住民各層の活動への自主的参加の促進に対する関与
  調査事例では、活動に対する住民意識を高めようとする取り組みが見られたほか、白老町では、町の実態を町民によく知ってもらい、まちづくりを「我が事」と意識してもらうため、町職員と町民が町内の課題解決に関して率直な議論や先進地視察等を行う「元気まち研修会」や町職員の「出前トーク」の実施を通して徹底した情報公開・共有を行い、まちづくりに対する住民の意識喚起を実現。住民に活動を「我が事」と感じてもらうために、その内容や成功体験等の情報発信などを行政が行い、住民の意識喚起を図ることは、住民の活動への参加促進に有効と考えられる。
2 組織を担う人材の確保・育成に対する関与
  行政が関与した人材育成の取り組みの成功例として、静岡県掛川市の生涯学習講座「とはなにか学舎」や愛知県春日井市の市民大学「春日井市民アカデミー」の卒業生の中から地域リーダーが輩出されている事例があり、これらの取り組みでは、①活動の実践を重視した講座の存在、②地域をよく「知る」ことを重視した講座の存在、③一定期間(1~2年)をかけた課程、などの特徴が見られる。
3 主体的な活動推進体制の構築に対する関与
 ① 事務処理体制に対する支援
   仙台市や豊中市等では、上記事項や町内会の組織・活動に関する基本事項、各種問い合わせ・連絡先等をまとめた「活動の手引き」を作成し、町内会の事務処理をサポートしている例も見られる。
 ② 拠点施設の確保への支援
   千葉県習志野市では、コミュニティ組織に活動場所として小学校の空き教室を提供し、住民が鍵の管理などを行うなど、既存公共施設を有効活用し、住民・行政双方にとって低負担な活動拠点確保の例も見られる。
 ③ 財源の確保への支援
   北見市以外では、単位町内会への主な支援として、「世帯割」等の組織運営費補助(札幌市、白老町)と「活動割」補助(立川市)の2つが見られた。今後の支援のあり方として、活動実態・実績面での公平性や自主的活動の活性化促進という観点から、活動に応じて交付される「活動割」補助や、長野県岡谷市で行われている住民の企画・実施する事業に対し補助する「公募型補助金」のような住民の意欲や主体的活動を支援・促進するような支援策を検討すべきではないかと考えられる。また、澄川地区連合会のような地区レベルの包括的組織に対しては、福岡市の例のように、地区内各種団体への縦割りの助成金等を統合し「一括交付金」とし、使途の自由度を高め、効率的な資金活用を可能とすることも有効と考えられる。
 ④ 情報確保に対する支援
   各自治体とも町内会等に対し随時情報提供や相談の受付は行っているが各部署縦割りで、住民にはわかりづらい。北海道稚内市や千葉県習志野市では、庁内横断的な複数の職員が地区ごとの地域担当職員となり、担当する各地区の住民自治組織(まちづくり協議会等)の会合に出席し、市の総合窓口として情報提供や質問への回答等の対応を行う「地域担当制」を採用しており、こうした住民にわかりやすい活動情報収集に対する支援の検討も今後必要であると考えられる。
4 組織間連携への関与
  札幌市では、地区内の様々な組織(町内会、NPO、学校、商店街、企業等)がゆるやかなネットワークを結び、連携して地域課題の解決に取り組む「まちづくり協議会」の設立・運営支援を、市のまちづくりセンター所長が中心となって行っている。こうした地区内の各種団体を結びつけるきっかけとなる「場」や「機会」を行政で設置し、連携をコーディネートしていくことは組織間の連携促進に有効ではないかと考えられる。また、札幌市や立川市では「市民活動センター」などを設置し、住民に市内の活動団体に関する情報提供等を行っており、こうした住民への広い情報提供も、組織間連携への間接的な支援として有効であると考えられる。
5 その他の取り組み・支援
  今回の調査組織の関係者の方たちからは、行政職員の活動への参加や住民との「協働」に対する意識向上等を求める意見が多く聞かれ、行政職員の活動への参加の少なさや住民との協働に対する意識の低さの一端が伺えた。行政は、住民の苦労や本当に求められている支援等を考えるきっかけをつくるため、職員の活動への参加促進などを通し、住民自治や「協働」に対する職員の意識改革を図っていく必要があるのではないかと考えられる。例えば、東京都杉並区では、防災や防犯に、区を含めた地域社会全体で取り組むため、既存の「ボランティア休暇」の対象活動を自治会等の身近な地域活動にまで広げ、職員の活動参加を促すといった取り組みが見られる。


第5章 政策提言

第1節 住民各層の活動への自主的参加の促進について

【コミュニティ組織に求められる取り組み】
1 親睦活動の継続的実施による住民間のつながりや共同意識の形成
2 住民ニーズの的確な把握、気軽に参加できる仕組み・雰囲気づくり、ITを併用した効果的な情報周知などによる活動への幅広い住民参加の促進
【市町村行政に求められる取り組み】
3 自治体内活動事例・住民の感想・参加者体験談等を中心に掲載した住民向け「実例集」の作成など、住民が活動を「我が事」と感じられる意識喚起の取り組み
4 上記コミュニティ組織の取り組みに対する支援

1 住民同士のつながりや共同意識の存在は、人を活動に参加しやすくさせたり、参加に前向きな気持ちにさせたり、人づてによる勧誘など参加の「きっかけ」をつくりだすなど、住民の自主的な活動への「参加」の前提として、さらに言うと、コミュニティ活性化の根本的要素として非常に重要である。これは、行政がいくらコミュニティに関する制度を整備し取り組みを推進しても、住民の自主的な活動への「参加」がなければ、その制度も十分に機能しないためである。そのため、例えば単位町内会あるいは地区連合組織による親睦活動(祭り等のイベント、慶弔活動等)の継続的な取り組みにより住民間の親睦やコミュニケーションの形成を図るなど、親睦活動の重要性を再認識し、その取り組みを進めていくことが必要である。
2 上記1により参加には前向きになったが、「忙しい」、「参加したいと思う活動がない」等の様々な理由で参加していない住民を参加に導くための仕組み・環境づくりなど具体的な取り組みが必要である。このため、例えば、住民の関心のある活動テーマを設定するため、地区連合組織でのアンケート実施による住民ニーズの把握、単位町内会でのイベント協力員募集や地区連合組織での登録制ボランティア組織の設置等の気軽に参加できる仕組みづくり、参加者が無理せず楽しく参加を継続できるよう組織内でのルール設定による参加しやすい雰囲気づくりや、ホームページ等ITの併用などによる効果的な活動情報の周知などの取り組みが必要である。
3 人は「我が事」と感じると意識が高まり、そのためにはまず「知る」ことが必要なため、行政は自治体内の活動事例・活動の結果住民が助かったこと等の感想・参加の楽しさや充実感がわかる体験談等を中心に掲載した活動「実例集」を作成や、地区ごとの住民との合同勉強会の開催・出前講座の実施などにより、まちづくりやコミュニティ活動に対する住民意識の喚起を図る必要がある。
4 上記のコミュニティ組織の取り組みに対する支援として、例えば、町内会向けの「活動の手引き」等で上記1、2の取り組みの実践を推奨・周知したり、コミュニティにおけるIT活用支援として、既存のパソコン講座等にコミュニティ組織関係者向けの実践的なコースを開設するなどしていくことが必要である。

第2節 組織を担う人材の確保・育成について

【コミュニティ組織に求められる取り組み】
1 第1節の参加促進の取り組みの着実な推進などによる人材の確保
2 会長以外の役員も対象とした研修会の実施などによるリーダー層の育成
【市町村行政に求められる取り組み】
3 活動の実践や地域をよく知ることを重視した市民講座の設置などによるコミュニティ組織の人材確保に対する間接的支援
4 上記コミュニティ組織の取り組みに対する支援

1 地縁組織では、活動への「参加」を通して意識が目覚めた住民の中からリーダー層となる人材が輩出されると考えられるため、前節の参加促進の取り組みの推進が重要である。また、円滑な活動の実施に必要となる専門的知識や技能を有する人材を確保するため、例えば地区連合組織で、必要とされる知識や技術を列記した協力依頼広告を配布・回覧し、人材確保に努めることなども必要である。
2 比較的長期間務めた会長は、信頼できる周辺人物を後継者に選ぶ傾向があるため、例えば、連合会組織が会長以外の役員も対象に研修会を開催し、次期リーダーの育成や役員全般のスキルアップを図っていくことなどが必要である。また、毎年役員が替わるような単位町内会では、役員任期を最低2年・毎年半数改選とするなどし、人材育成と新人役員のサポートを図るほか、地区連合組織では学校やPTA等と連携し、地域の子ども達を活動に取り込み、活動に対する意識の植え付けにより、地域の将来を担う人材育成をしていくことも必要である。
3 行政は、組織の中核を担う能力や資質を有する地域に潜在する人材を発掘するため、例えば、地域学・グループワーク・有識者講演・事務処理やIT活用等活動の実践を重視した講義を学ぶ市民講座の開設や、団塊世代向けに、シンポジウムや、コミュニティ組織代表者の講演・組織との交流会・活動体験等を内容とする「まちづくり入門教室」の開催などにより、コミュニティ組織の人材確保を間接的に支援する必要がある。
4 上記コミュニティ組織の取り組みに対し、例えば、講師紹介等の研修会開催支援、「活動の手引き」で役員任期を例示する、学校で子ども達の活動参加を奨励したりPTAやスポーツ少年団等に参加協力依頼をする、などの支援をしていく必要がある。

第3節 主体的な活動推進体制の構築について

【コミュニティ組織に求められる取り組み】
1 独立した事務局の設置又は機能強化の検討や、第三者の視点を入れた活動の事後評価の実施等による主体的な活動推進体制の確立
【市町村行政に求められる取り組み】
2 コミュニティ組織の活動拠点としての既存公共施設等の積極的活用
3 活動割補助、公募型補助金制度、一括交付金制度など住民の主体的な活動を支援・促進する財政的支援策の導入の検討
4 「地域担当制」の導入等による活動情報確保への支援

1 コミュニティ組織が主体的で活発な活動を展開していくため、連合会組織事務局の行政からの独立の検討や、地区連合組織等でも常設事務局の設置又は事務専任の役員の設置・増加等により役員の負担軽減や組織・活動の連続性の維持を図ることが必要と考えられる。また、連合会組織が、活動内容発表、意見交換、有識者講演・アドバイス等を内容とする「活動研究会」を実施するなど、コミュニティとしての主体的な活動推進体制を確立することが必要である。
2 行政は、例えば小・中学校の空き教室など既存施設を有効活用し、コミュニティ組織と行政双方にメリットのある低コストな拠点施設確保を支援することが必要である。
3 今後は住民全般が納得できるような活動実態・実績面からの公平性や自主的活動の活性化促進の点から、単位町内会に対する活動割補助の導入(「世帯割+活動割」のような一部導入も含む)のほか、公募型補助金制度の創設や、地区レベルでまとまりのある組織に地区内各種団体への補助金を統合した「一括交付金」を交付し、使途の自由度を高め効率的な資金活用を図るなど、コミュニティ組織の主体的な活動を支援・促進するような財政的支援を検討していくことが必要である。
4 行政の縦割りによる活動情報収集の際の住民のわかりづらさを少しでも解消するため、例えば、庁内のコミュニティ活動関連部署が連携し、活動に関する相談・問い合わせ先が一目でわかるような連絡先一覧を作成したり、地区レベルの住民自治組織が存在する場合は、本庁内あるいは出先機関内の各部署から横断的に任命された複数の地域担当職員が、各担当地区住民自治組織の会合に参加し、活動に関する情報提供・質問受付等の総合窓口となる「地域担当制」などの導入などによって住民の活動情報収集を支援することが必要である。

第4節 他の組織との連携について

【コミュニティ組織に求められる取り組み】
1 他の組織との地域の課題解決に関する対話や役割分担に関する合意形成
【市町村行政に求められる取り組み】
2 地区内の多様な組織が参加する「場」の設置等による連携のきっかけづくり
3 自治体内の住民活動団体に関する情報の集約及び住民への提供による組織間連携への間接的な支援

1 他の組織と連携をしていくためには、少なくとも地域課題の解決に関する対話や役割分担等の合意形成が必要である。
2 行政は、例えば、「地区懇談会」など、地区内各組織が地域の課題解決に必要な連携パートナーと知りあえる「場」や「機会」を設置し、まずは地域内におけるゆるやかなネットワークを形成し組織間連携をコーディネートしていくことが必要である。
3 自治体内の住民活動団体(NPO、ボランティア団体、サークル等)に関し、住民がいつでも情報を得られるよう、行政で情報を集約し、ホームページ等も通して広く住民に情報提供するなどして住民間の自主的連携を間接的に支援することも必要である。

第5節 行政職員の意識改革について

【市町村行政に求められる取り組み】
1 各段階の職員研修におけるコミュニティ活動への参加や活動の実践者等による講演などの実施による職員の意識喚起
2 「ボランティア休暇」の活動対象範囲の拡大及び課ごとの「(仮称)ボランティア休暇取得年間計画表」の作成などによる職員の休暇取得の促進

1 職員の意識改革には、まず活動の実体験を通し住民の苦労を知ることや、本当に求められている支援等を考えるきっかけづくりが必要であるため、例えば、各段階での職員研修に、町内会連合会等の協力を得て活動体験を盛り込んだり、実践者や有識者による講演を実施することなどが必要であると考えられる。
2 職員の活動参加を促すため、従来の「ボランティア休暇」の活動対象を町内会やPTA等の地域内の各団体の実施する活動にまで広げるほか、各課単位で所属職員の繁忙期等を勘案し調整した休暇取得計画表の作成・提出・実績報告を実施することなどにより、休暇取得を促していくことも必要である。

※本論文は、筆者が2007年度に在学していた大学院における研究成果(修士論文)の概要版である。字数制限等の関係から、論文内容の一部を省略している。




注1 2007年度「道民意識調査」では、犯罪のない安全で安心な地域づくりに関する設問で、近所付き合いや連帯感に関する意識について、「連帯感が強い」「ご近所付き合いも多く、ある程度連帯感がある」と回答した人が33.1%であるのに対し、「ご近所との付き合いが希薄であり、連帯感がほとんどない」「あまり連帯感がない」と回答した人は59.7%となっている。
注2 北海道町内会連合会『平成16年度 市区町村町内会・自治会連合会組織基本調査報告書』P.52