【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり

商店街の花とアートによる活性化の取り組みに参画して


北海道本部/鹿追町役場職員組合・神田日勝記念美術館 釜沢 恵子

1. 発 端

 今から7年前の2001年。鹿追のアートロード商店街の活性化事業として、商店主と鹿追町役場の職員からなる実行委員会が組織され、町の道路整備を契機に、花とアートで町を元気づけよう、と始まったのがウィンドゥ・アート展。
 広々としたアスファルト道。周囲の舗道も洒落た淡いレンガ色。各商店には青銅のようなサイン看板と旗がたなびき、張り出し窓はヨーロッパの街並みのような佇まい。
 しかし、いくつか問題があった。花の世話は各商店や商店街ですることになったが、張り出し窓に何を飾ればいいのか。各家庭にある置物や掛け軸、人形やポスター、絵画額などを飾ったり、季節に応じておひな様や五月人形、正月飾りやクリスマス・ツリーなどを飾ったりすることはできる。けれど、商店街で展覧会をするのは全く未知の世界。
 そんなわけで、町の観光課と美術館の職員が加わって協力することになったのである。

2. 動き出した準備と視察

 まず、始めにどんな展覧会を開催したいのか意見交換し、いくつか名前が挙がった著名なアーティストの展覧会が実施可能かどうか検討した。画廊を通さないと無理な作家、タレント作家の場合は事務所を通さないと無理。それで結構経費がかさむ。著名作家はあきらめて、今度は北海道に在住する現役作家に当たり、窓の大きさに合う作品を選んでもらう方式で急遽スタートした。
 そんな暗中模索の中、札幌窓辺展があることを知り、実行委員会の面々で視察に赴いた。札幌市の中心部、駅前から大通りに向かうメインストリート。そのビルの通路側の窓を絵画や彫刻で飾るわけだ。主催は札幌商工会議所。この事務所にも伺い、実施に至る経緯や実施してみての市民の反響などをうかがった。
 帰るバスの中で、皆で話したことは「鹿追は鹿追らしい方法で取り組もう」ということだった。札幌をまねても規模が違うし、いかにもそっくりと言われるのも問題だ。
 作家の人選や交渉などは私が主に行い、商店街の実行委員の方々とは、実施に向けての準備として各商店の窓の寸法を測ったり、太陽光の直射が当たるため遮光フィルムを貼ったり、展示用具を購入したり、宣伝のためのポスターを製作したり。商店街の人々にとっては大変な準備作業だったと思うが、夜、仕事が終わってから集まり、作業を進める中で、気持ちが一つになっていったように思われる。

3. 作家との交渉を通しての問題点と発見

 作家との交渉の中で一番難航したのは、窓に絵などを飾るということは、直射日光に晒されるということ、つまり、日焼けしてしまうということだった。そのため、展示条件などを提示すると即座に断ったり、難色を示したりする作家がいる一方で、興味を示し、窓に飾る作品ならば、その条件を想定して作品制作を進めてくださる作家もいて、その反応の違いが面白かった。
 例えば、窓の中ではなく、窓辺の軒下に展示する作品として植木鉢20個余りを並べ、雑草の種を植えるというもの(現代美術)、あるいは、日光による変色が絵画ほど顕著ではない陶器やブロンズや石の彫刻など。思わぬユニークな作品も登場して商店街の人々は「これもアートなの? すごいなぁ」と関心していた。

4. 第1回ウィンドゥ・アート展

 7月20日、海の日。第1回目のウィンドゥ・アート展は開催された。8月末までの約40日。商店街には、色とりどりの花々が溢れ、窓には油絵、陶器、彫刻、インスタレーション、版画、人形などなど、さまざまなアート作品が並び、商店街を行き交う人々は物珍しそうに魅入っていた。
 第1回目は、太陽光の直射で作品の一部に亀裂が入ったり、熱で変形するトラブルにも見舞われたが、作家に予め展示場所で想定されるトラブルを知らせてあったため、何とか無事終了することができた。
 このときに参加した作家の一人が、趣旨に賛同してくださり、自作を商店街に寄贈してくれるというおまけもついた。

5. 第2回ウィンドゥ・アート展とデメーテル


商店街の窓辺に飾られた絵画作品
 第2回目は、2002年。この年は、帯広で「デメーテル」という現代美術展が開催され、十勝管内で広域に連動する形で、鹿追町でも関連づけた催しが行われた。デメーテルのディレクターによる美術講座が開かれたり、鹿追でのウィンドゥ・アート展開催中に訪れるアーティストがデメーテルを視察したり、鹿追での夏祭りにワークショップを行い、夜は商店街の店主たちとアーティスト達が一緒に宴会に参加したり。一気に交流が高まったような一年だった。しかし、ウィンドゥ・アート展がデメーテルに協賛したことで、展示作品が現代美術にやや偏った結果、町の人々からは「作品が難しい」「何を表しているのかわからない」といった批判も聞こえてきた。
 デメーテルは、十勝で開催された大規模な現代美術展ということで、内外の著名なアーティストを招き、さまざまなイベントが開催され、帯広を中心としたボランティアも組織され、大きな反響を呼んだようだった。しかし、現代美術による地域の活性化というのは一朝一夕にはゆかず、問題や課題も数多く残ったようだった。

6. 第3回ウィンドゥ・アート展と構成内容の変容

 そのため、第3回目の2003年は、作品構成をよりわかりやすい絵画や彫刻を中心にして、花との調和を図るよう工夫した。また、現代美術の作品でも親しみやすい、面白い作品を制作している作家を選ぶようにした。この年の夏のワークショップでは、古着を集めて、子ども達がその古着を黒いビニール袋にくっつけたり、ペイントしたりしてファッションショーまがいのパフォーマンスを行ったりして、参加した子ども達は昂奮していたが、この年の反省としては、だんだん展覧会がおまかせになってしまい、商店街の人々が主体的に実施するというよりは、むしろ会場を貸しているだけのような状態になってしまった。
 商店街の人々は、自身の商店の経営、地域町内会の活動、観光イベントへの協力などさまざまな活動を重複して行っており、忙しい、忙しくて手が回らないというのが現状のようだった。


 
出品作品から、彫刻と絵画作品


第5回展パンフレット

7. 第5回ウィンドゥ・アート展の開催と企画の行き詰まり

 第5回の2005年までは、作家を10人程度推薦して、作品を2~3点制作してもらう方式をとっていたが、この年、展覧会の説明を町民向けに行う準備をしていたが、お葬式が急にぶつかったりして、結局実施できなかった。5年間の取り組みの反省としては、展覧会の内容はそれなりに水準の高いものだったが、町民に浸透せず、また協力体制もあまりできなかったということ。ウィンドゥ・アート展のPRのため、ホームページなどに掲載したりしたが、どの程度の動員があったのか、また来町した人々はどう思ったのか、などのリサーチはほとんどしなかったため、成果があったのかどうかわからないまま、終了してしまったことは残念なことだった。しかし、町の職員と商店街の人々とが協力して一つの取り組みをしたことは意義があり、今後はこうした町民の協力と理解なしには、町で行うさまざまな事業が実施困難な状況に陥る危険性も予想された。

8. 第6回ウィンドゥ・アート展の開催と企画内容の転換

 2006年からは、公募展を行い、もっと商店街の人々が自分たちの商店街の活性化に主体的に取り組めるような展覧会を実施したらという意見も出て、花の絵の公募展を翌年から実施することになった。そのため、公募展の方法の原案をこちらで作成したが、それ以降の準備は商店街の実行委員の人達が中心になって取り組み、町内の小学校を順番に訪問して、学校展の実施を依頼したり、町内の陶芸サークルや写真を趣味にしている人達に呼びかけて展覧会を実施するように勧誘したりと、自主的に動き回るようになっていった。
 町の人々が主体的に動き始めることによって、学校や地域の人達の協力や理解も進み、商店街の人々の家族や親戚、知り合いなどが訪れたり、花の絵コンテストに出品したりと、より身近な存在になっていった。また、十勝一円への募集であったため、十勝管内の出品者と家族が会期中に鹿追を訪れ、商店街の窓辺の作品を見て回ったり、道の駅や近隣のレストランやソバ屋に入るなどの動きも見られたようだ。
 第1回から第5回まで開催してきたある程度のレベルの作家たちの作品の展覧会も一部では評価されたが、一般の人々に浸透したかといえば、なかなか難しいというのが反省点で残った。
 しかし、花とアートによる町おこしという当初の目的はある程度は達成されたのではないかと思う。課題は数多くあるが、実施したことによる反響と実績は残ったのではないかと思われる。


花の絵コンテストのチラシ

9. 第1回花の絵コンテストの実施と今年の動き

 2007年の夏には第1回花の絵コンテストが開催され、十勝管内の小中学生の花の絵が出品され、審査を行い、大賞ほか商店賞などが決定され授賞式も商店街の実行委員が中心になって実施された。この展覧会の大賞を町内の小学生がとったことで町民の関心を呼び、出品した児童や家族が商店街を訪れた。
 今年、2008年は第2回花の絵コンテストが開催される。一度経験したことが自信となり、商店街の実行委員の面々は見通しや余裕を持って準備作業を進めているようだ。今年は、更に企画内容を検討し、町のお宝展も実施してはどうかという意見も出ている。
 そのための準備作業を早めに開始し、来年度実施へ向けて動き出した。

10. 今後の展望と課題

 花とアートによる町おこし。言うのはたやすいが、実際にそれを行うのはいろいろな困難が伴う。大事なことは、自分たちの町を自分たちが活性化していく実働部隊になるのだという意識が共有されることだと思う。そうすれば、自ずと意欲が出てきて、準備する際にも張り合いや前向きな行動が推進される。また、義務ではなく、楽しみを持って取り組むことも大事だと思う。
 まずは、実施してみて、その結果を真摯に受け止め、問題点を洗い出し、改める点は改め、より実施可能なものへと転換していく前向きな姿勢が大事だと感じた。
 来年は、どんな展覧会を実施するのだろう。商店街の人々からどんなアイデアが出てくるのだろう。それを想像するのがとても楽しみだ。
 今のところ上がっている案は、お宝展というもの。それぞれの商店、あるいは家に眠っている家宝、またはコレクションを展示してはどうかというものだ。特に美術品でなくともよい。自分たちの祖父や曾祖父たちが使っていた道具なども現代では貴重な財産になる。また、季節ごとに行う正月飾りやお雛様、五月人形、クリスマスツリーなど、ほんのささいなものでも、それぞれの思い出があり、記憶がある。そうしたものを飾るのも面白いのではないか、と。
 まだまだ、構想段階だが、興味・関心を持つ人が行動を起こしてゆけば、実現も可能かもしれない。そうした、アイディアや思いつきが出てくれば、協力して調べたり、聴き取りを行ったり、展覧会のプランも浮かぶかもしれない。
 今までの取り組みを通して感じたことは、まず商店街だけでもできないことであるし、私たち役場職員だけでもできない、ということ。両者が協力して知恵を出し合い、協力して初めて、いろいろなことができるということである。そして、大事なことは、お互いの立場や思いを理解し、尊重すること。そんな中から、よりよい関係が生まれ、さまざまなアイデアが実行に移されていくのだと思った。失敗やトラブルはつきものである。そのような経験を通して、方向性や手法が見えてくるのかもしれない。
 自分が住む町の商店街の花とアートによる町おこし。どこの町でもない、わが町らしい顔になることを期待し、微力ながら、これからも協力してゆきたいと考えている。