【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり

これで地域農業を維持できるのか


北海道本部/全北海道庁労働組合・ 全道庁農業改良普及センター連絡会議

1. はじめに

 普及事業は1948年に農業改良助長法が公布されそのスタートを切った。その役割は、時代とともに大きく変化してきているが、基本理念の直接農業者と接して指導にあたることに変化はない。
 その主な活動として、戦後の食糧難時代においては、食糧増産にむけた普及活動や農村生活改善について、食料が潤沢になり稲作転換が始まった1970年代からは、転作作物の奨励と有効活用、輸入自由化や農畜産物価格の低下などによって悪化した農家経営の改善や、農産物の高付加価値化について、農業の多様性が求められてきた2000年代からは、食育活動や環境保全対策などについて取り組みを行い成果を上げてきた。
 構造改革が叫ばれる今日においては、農村社会の形成や集落営農の取り組みなど生産技術のみならず、農村社会のコーディネーターとして活動を重点化してきている。
 2004年に農業改良助長法の一部が改正され、普及センター設置の必置規制の廃止、資格の一元化、普及員手当の上限撤廃等が行われた。また、2006年からは地方分権の流れを受け、普及事業の基礎となっている交付金のほとんどが一般財源化となり、普及事業は大きな変革の時期を迎えている。

2. 2006年体制へ

 2006年4月から、北海道の農業改良普及センターは新たな機構体制でスタートを切った。各支庁1ヶ所の本所、他は、支所及び分室として再編されている(図-1参照)。それに伴って全道856人の定数が777人(-79人)に減員されてしまった。この定数削減は、事業量の見直しによるものではなく、単に道当局の定数削減攻撃にのったものであった。実際は、これまで本庁及び農業試験場技術普及部に配置されていた専門技術員が、助長法改正によって農業改良普及員と同様に普及指導員へと統合されたため、普及センターに配置された旧専門技術員もいることから、関係する職員(本庁試験場技術普及部、農業大学校、普及センター)総体で考えると、937人の定数が847人(-90人)へと大きな削減となっているのである。さらに、定数削減が行われたにもかかわらず、スタート時点から5人の欠員(自治体・JAからの交流職員含む)を抱え、新たな普及指導員の採用方法についてさえ決まらず、2006年以降も年々欠員が増加する状況となった。


表1 2006年体制による全道の普及センター設置数と定数の状況

配置定数

2001年体制

設置数

定数(人)

中心的センター

14

282

基幹的センター

17

289

地域センター

24

285

55

856

配置定数

2006年体制

設置数

定数(人)

暫定(人)

本  所

14

321

4*

支  所

34

415

0

分室(暫定)

5

41

5

53

777

9

*本所調整係員の暫定定数(4人)は2008年の機構改正で廃止された。

図-1 2001年体制と2006年新体制(A支庁の事例)




 この機構改革では指導業務の効率化を図るためとの理由から、本所支所体制へと移行した。これまでは、全道55センターから14支庁の農務課を通して本庁へとつながっていたものが、各支所(分室を含め39ヶ所)から14本所へ、そして支庁農務課、本庁へと流れることから一段階ステップが多くなっている。

3. 普及活動の課題

 2005年12月に北海道農政部から示された、「北海道における普及事業見直しの基本方向」では、本道普及事業の基本姿勢として次の項目が掲げられている。
① 地域の関係機関や団体との機能分担都連携強化を図るためには、普及組織が持つ様々な技術や経営管理手法に関する蓄積を活かすことを前提とした普及活動が担うべき業務の明確化と重点化が必要になる。
② 今後とも、普及事業が、地域の中で技術と経営を踏まえた農業・農村を支援する機能を維持・発展するためには、次の基本姿勢が重要と考えられる。
 ァ 地域の目となり耳となる普及(技術に裏打ちされた地域の分析と課題解決方法の提供)
 ィ 農業者の側(そば)に立つ普及(経営と生活の視点に立った農業者の支援)
 ゥ 地域の知恵袋となる普及(地域の主体的な取り組みを支援する総合的な提案活動)
 これらに示されているように、普及活動は直接農業者と接することで指導・支援し、農村地域社会のアドバイザー機能として位置付けられている。しかし、指導業務の効率化の視点から地域集団を捉えた重点活動にシフトし、最も大切な担い手育成や、地域の戦略的作物指導などは広域体制の中でその活動が地域に対して見えにくいものとなっているのである。所内における位置付けや業務分担についても、十分理解されていないセンターが見られる。
 普及センターには、毎日次々と農業者や関係する団体から指導要請や相談の電話が入ってくる現状であり、地域への密接度を増すに従って、その要請の数も多くなってくるのである。活動の効率化から重点化を進め、そうすることで普及員の定数を削減しているが、普及事業のように対象者を説得し納得させ指導に当たる現場活動では、農家や現場から離れてしまうことが、即、普及事業の信頼度や必要性の低下に結び付くと考えられるのである。
 確かに指導対象を重点化することで、活動は集約され成果が見られるとの評価も得られている事例も見られるが、そうでない事例も数多くあるのである。地域要望と普及の目標が合致したとき、最も成果が上がると思われる。
 普及センター内部での課題では、重点集団と配置される専門担当の相異が問題となる場面も見られる。たとえば、ある重点集団を対象に一つから2つの具体的推進項目を設定して活動を展開しているが、その対象が作物専門の地域であった場合、畜産担当者を生かせるような推進項目を設定しなければ、その畜産担当者は重点活動から浮いた存在となってしまう場合もあり、組織活動上、かなり無理な計画にならざるを得ない場面も見られるのである。

4. 業務量の増大と複雑化

 2001年機構改革により新たな普及体制による業務がスタートした。その段階で、私たちは検討又は見直しが必要な事務事業として10項目の業務内容を提示し、当局はその検討を約束していたが、いまだにその検討内容は不十分なものである。助長法の改正により専門技術員と農業改良普及員の資格が一本化されたことにより、これまで農業試験場の技術普及部で行ってきた業務についても、一部を普及センターで担うことになった。現状の課題については、棚上げしてさらに新たな業務を付け加える、まさにキープ・アンド・ビルド的な内容になっている。調査研究活動としての地域課題解決研修については、一般的な活動に位置付けされ活動成果が求められるなど、業務量は明らかに増大しており、その分現場活動の時間が減少しているとも言えるのである。

5. 新規採用制度の確立と欠員増加に伴う業務の見直し

 北海道は2006年「新たな行政改革大綱方針」を示した。道のめざす姿として北海道の将来像について
① 「食」や「観光」など、それぞれの地域が有する豊かな資源を最大限に生かす活動や、次代を担う人づくりを進め、世界に貢献する北海道
② 地域全体の産業力を一層高めながら民間主導の自立型経済への展開を図り、自立性の高い活力あふれる北海道
③ 安全・安心な暮らしを支える仕組みを整え、人と人、人と自然とがともに支え合って生きていく「地域の共生力」に満ちた北海道
 これらの将来像は、普及事業がこれまで多くの基礎を築き、そして今後も推進し支えて行く内容である。しかし、道当局は、職員数の適正化計画を理由に助長法の改正により普及指導員に資格が変更されたのにも関わらず新規採用の要項制定を拒んだ。連絡会議として代表者会議並びに主務課(技術普及課)との事務折衝の中で農政部に早期新規採用制度の策定を要望してきたが具体的な要項が示されず、新規採用が見送られたことから欠員数が増加し(2008年度71人の欠員)、個々の業務量が大幅に増え、普及課題に十分に対応できなくなった。農政部及び人事当局との交渉で新規採用制度の確立を最重点課題としてたたかった。粘り強い取り組みの結果、新規採用が認められ2008年度3年ぶりに2人の新規採用者が確保できた。
 しかし、北海道では選考職採用であり、普及指導員の資格を得るに当たって必要とされる実務経験を積むには、組織内で普及指導員を養成する仕組みにはなっていない。受験資格の門戸を広げ大学卒業者でも採用が可能な制度改正が必要とされる。
 連絡会議では、2008年2月に職員確保のあり方と欠員増加に伴う業務見直しについて、職場の実態と各組合員の意向について調査を実施し取りまとめた。回答数は611人中、531人、回答率は87%であった。調査項目については、以下の通りである。
① 業務について(2006年度体制以降)
② 本所・支所・分室体制になっての業務について
③ 地域課題解決研修について
④ 専門別担当者会議(旧専門部会研修)について
⑤ 各機関との関係について
⑥ 農家との関係について
⑦ 事務事業・各種調査について
⑧ 欠員について
⑨ 新規採用試験制度について
⑩ 関係機関(市町村、JA)との人事交流について
⑪ 業務の見直しについて
⑫ その他全般
アンケート結果の全般的な傾向としては、
① 人員が減少する中、業務の負担が増加
② 採用制度が確立されないことによる欠員の増加
③ 臨時職員賃金の削減による庶務作業の負担増加
④ 重点課題の対応(1係複数課題担う係)
 などに対する意見が目立った。
 出された意見は、アンケート結果に基づいた要求と提言として「普及組織・業務の更なる発展・改善に向けて」と題してまとめ、主務課と事務折衝を行い内容について協議を行った。協議内容について、普及推進会議(全道所長及び支庁担当者を招集し普及活動の年度計画を協議する会議)の中で、主務課を通じて各所長に提示した。

6. これから普及事業は(まとめ)

 北海道では、これまで数度にわたり普及指導員(改良普及員)の大幅な定数削減を行ってきている。その度に、繰り返されるのは、農業情勢の変化にともなう効率的組織への移行という大義名分である。そして、農業現場から徐々に引き離され、地域から見えにくい希薄な組織へと誘導されているように感じられる。
 北海道の将来像として、①地域資源の有効活用、②次代を担う人づくり、③地域全体の産業力向上、④自立型経済への発展、⑤安全・安心な暮らし、⑥地域の共生力がキーワードである。
 普及指導員は、専門技術を駆使して地域のコーデネート役として活動している。普及職員を削減することは、道のめざす姿の将来像を振興する上で大きな矛盾がある。中央主体の組織体制を推し進め、現場で働く職員を削減すれば地域は発展しない。計画されている支庁再編では、また更に普及職場の大幅な機構改革が予想されるし、将来に大きな不安を抱かざるを得ない。
 北海道は農業・農村ビジョン21の中で農業を「食」・「環境」・「人」・「地域」という視点で推し進めようとしている。特に、昨今の牛肉偽装事件や中国産加工食品の毒物混入事件により食の安全に対する国民の関心が高まってる。世界的な食料生産の現状は、バイオエタノール生産への転化、地球温暖化による異常気象の多発、中国やインド等の目覚ましい経済発展により食料の確保が不安定となっている。食料を世界に委ねている日本は危機的な状況になった。食料品価格が急激に高騰しているが、庶民の給料は削減され国民生活はより激しい状況になってる。
 世界的な食料不足が現実化し、農産物の自給率向上が期待され、北海道農業の果たす役割が強まる中で、食料の供給者である農業者への支援は普及事業の大きな業務の柱である。北海道農業・農村ビジョン21等の農政を推進するためにも、普及組織体制の充実が益々重要になってくると考える。具体的には、普及センターを現場に近い所に配置し、地域農業者のニーズを吸い上げ、人づくりができる人員配置が重要になってくるものと考える。
 我々は、この普及事業に大きな期待を持って取り組んでいる。普及の最大の武器は、技術である。広い視野から生産技術を捉え情報を整理していけるのは、普及組織だけである。今、普及がやらなければならないこと、普及でなければ出来ないことを整理し、北海道農業が向かうべき道筋を明確にした中で、普及の役割を位置付け、それに集中することが出来れば、大きな効果が期待できるものと確信する。