【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり

山羊は市街化遊休地を救えるか
── シバ山羊にこだわって、その活用を考える ──

群馬県本部/群馬県職員労働組合・メェーメェーくらぶ 小茂田匡央・宮崎 美伯・松村 一男・
高橋 朋子・渡辺  浩・梅村  保・福島 敏子

1. 山羊について

 日本では幻の動物に近い山羊ではあるが、動物の中では次のように分類されている。

偶蹄目(ひづめが2つに分かれている)
 反芻亜目(胃袋が3~4つあり反芻する)
  ウシ科……ヤギ属 7種のうち1種が山羊
     ……ウシ属 5種(ウシ、ヤクなど)

 性質は温順であり、ウシ科の動物では最も好奇心・自立心が強いことを特徴とする。
 主な用途は、乳用(飲用・チーズ原料など)、肉用、皮革・毛皮用、実験用などである。
 山羊の品種は、世界中では216種類もあると言われているが、日本では日本ザーネン種、トカラ山羊、シバ山羊が主流となっている。(1)写真1



写真1 日本ザーネン種


写真2 トカラ山羊


写真3 シバ山羊


2. シバ山羊について

 シバ山羊は、沖縄や九州各地で飼育されている小型の日本在来山羊であるが、その起源は中国や朝鮮から渡来したようである。シバ山羊は体が比較的小型であること、周年繁殖であること、山羊がかかりやすい病気である『腰麻痺』に対して抵抗力があることなどから主に実験動物としての価値が認められてきた。また、最近では愛玩用として飼われていることもある。

3. 山羊の飼育状況について

 国内における山羊の飼育状況は、3,889戸、21,327頭(2)というデータがあるが、その頭数は年々減少傾向である。飼養頭数は沖縄県が最も多く、本県は第5位である。近県では長野県や茨城県で山羊が多く飼養されているが、その規模は比較的小さい。
 また、県内の飼養状況は、99戸、405頭(雄141頭、雌264頭)であり、そのほとんどが日本ザーネン種となっており、シバ山羊、トカラ山羊はごく少数であった(3)

4. 本県における耕作放棄地の状況について

 本県では、高齢化や兼業化の進展による農業労働力の不足等により土地条件・耕作条件が悪い中山間地域を中心に耕作放棄地が大幅に増加している(表1)。率では全国3位、面積では全国7位であり、非常に高い状況にある。


表1 本県の耕作放棄地の推移

耕地面積(ha)

うち耕作放棄地(ha)

耕作放棄地率(%)

1990

90,178

11,408

12.7

1995

88,890

15,066

16.9

2000

79,089

12,789

16.2

2005

66,064

13,779

20.9

2005農業センサスより


 今後もこのような地域が広がれば、病害虫の発生や有害鳥獣の進入を招き、一層の農産物生産量の減少を起こす可能性がある。また、県土や景観の保全等の公益的・多面的機能の点からも大きな問題となっている。近年このような耕作放棄地に妊娠した和牛を放牧し、効果を上げている地域が増えている。しかし、和牛は体が大きく採食量も多いため、放牧をするのには広い面積の農地等が必要である。また牛の管理も経験が必要であるため、簡単に普及できていないのが現状である。
 都市部においても耕作放棄地等が存在している(渋川市31.7%、旧新町32.7%、桐生市39.4%、富岡市42.2% 等)。その面積は比較的狭く、点在化していることが多い。こういった狭い遊休地等には採食量が少ない山羊が用いられている例もある。山羊の特性は、①食草の選択性が低いため選び食いをしない、②小型で人に慣れやすいため管理が容易、③身軽で急傾斜の土地でも飼養可能であるなどである(4)
 今回は、山羊の中でも特に小型のシバ山羊を用いて、小面積の遊休地を管理することを目的とし、調査を行った。

5. 市街化遊休地の放牧に関する調査

(1) 使用した山羊

 

品種

性別

生年月

体重(kg)

No1

シバ山羊

平成17年10月

15

シバ山羊

去勢

平成18年3月

15

トカラ山羊雑

平成17年2月

14



No1


No2

No3

(2) 調査場所
① 住所:高崎市寺尾町
② 面積:320m2

(3) 調査期間
  2007年8月~2008年3月

繋牧

(4) 放牧方法(5)
① 繋牧(けいぼく)
  右の写真のように、草のある場所に杭を打ち、そこから山羊の首輪にひもを結びつけ、円形に草を食べさせ、食べられる草が無くなったら他の場所に移す方法。ひもが絡まないような工夫が必要である。
② 電気牧柵(でんきぼくさく)
  下の写真のように、草のある場所を電牧線で囲い、電気を定期的に通電させ、外に逃げないように管理し、草を採食させる方法。山羊は自由に動け、嗜好性のよい草から採食するため、遊休地をきれいに管理するには、ある程度長い期間の放牧が必要である。



電気牧柵による放牧


(5) 採食量の調査
 山羊の採食量は体重60kg程度の日本ザーネン種のデータ(6)はあるが、シバ山羊のデータはほとんどない。そこで野草を中心とした遊休地で、どのくらいの面積に何頭のシバ山羊を飼うことが可能であるかを推定するため1日の採食量を調査した。
 まずシバ山羊の空腹時の体重を測定し、満腹になるまで草を食べさせ、採食を止めた時(約2時間後)に再度体重を測定し、その増加量を1回の採食量とした。1日2回(朝・夕)同様の測定を行い、その合計を1日の採食量とした。ただし放牧方法は繋牧。
 また放牧した場所と同様な草丈の場所の草を草刈鎌で刈り取り、草の重量を測定し1日の採食量がどの程度の面積に相当するかを推定した。

6. 調査結果

 夏期に山羊を放牧した場合、採食の時間は朝夕の気温が低い時に集中しており、昼間の暑いときは日陰で休んでいることが多いため、上記の方法でほぼ1日の採食量が測定できた。

2007年8~9月の6日間測定値の平均(平均草丈は15cm)

 

空腹時(kg)

満腹時(kg)

1日採食量(kg)

面積(m2

No.1

14.7

20.3

5.6

19.6

15.5

20.5

5.0

17.5

12.1

16.5

4.4

15.4

合計

 
 

5.0

17.5


 以上のことから、今回用いた3頭の山羊の平均採食量は、1日1頭当り5.0kgで、17.5m2の遊休地の可食草に相当することが推定できた。この数値から換算すると、繋牧は2.3mのひもがあれば1日の採食量をまかなうことができると推定できた。(季節、土壌、草種等の環境要因により大きく左右される)
 電気牧柵では、山羊の学習能力は高く、2~3回電牧線に触り電気刺激を受けると、その後は電牧線には近づかないことがわかった。しかし、今回の山羊は小型であり、区域外への脱走が一番心配されるため、電牧線を15cm間隔・4段張りに張ることにより、その防止が可能になった。牛の場合は電牧線は通常60cm間隔・2段張りで充分であり、山羊の場合は牛に比べ困難であった。また、可食草を踏みつけると草があっても食べないことがあるので、放牧面積を算出する際には、踏みつけによる草のロスを考慮する必要があると思われた。

7. 野草以外の給与方法の検討

 野草が生えている5~11月の間は、野草給与だけで充分である。しかし分娩前後の雌山羊には「ふすま」や「くず米」などの高カロリーの餌を少量給与しなければならない。
 野草の量が少ない12~4月までの冬期間は、通常は乾草や稲わらを給与することが多いが、今回は食品残さ等を利用した。具体的には、近くの八百屋で廃棄される野菜と保育園の調理くずを収集し、山羊3頭に給与した。平均給与量は1週間に約17kg程度であり、この期間の飼料購入価格の低減とCOの削減を図ることができた。

エコフィードを利用した期間(12~4月)の経済性
○飼料購入価格低減 約19,000円   ○CO 削減量 約299kg


八百屋から搬出される野菜


エサ箱に入れた野菜くず

8. ふれあい動物としての活用

 調査期間中ではないが、2頭の雌山羊から3頭の子山羊が産れた。その生時体重は500gと小さく、生後2週間は保温や人工乳の給与を行う等の管理が大変であった。しかしながら山羊は病気に強く早熟なため、この期間に充分な注意を必要とした以外は順調に育っている。
 幼稚園のふれあい教室や地域の農業まつりにも山羊の出演要請があり、子供のえさやり体験等は大変人気がある。


人気者です


 また、高齢者の多くは子どもの頃「山羊乳」を飲んで育った方が多く、山羊と散歩をしていると必ずと言っていいほど呼び止められ、終戦前後に山羊を飼った思い出話を披露してくださる方が意外に多かったのが印象に残っている。

9. まとめ

 今回の調査で、シバ山羊を用いてある程度遊休地を管理できることが判明した。また、冬期間を中心に食品残さ等を利用することにより、飼料購入価格の低減やCO削減も図れることがわかった。しかし、シバ山羊は動物であるため、飼養管理や健康状態の確認等の時間が毎日必要であり、それを確保できる場合には有効な方法であると思われる。
 山羊の飼養は周辺住民との交流や、子供が家畜とふれあうきっかけ作りにも有効な手段のひとつである。産業として成立するためには課題が多いが、今後は地域住民等に山羊の魅力を説明しながら、ゆとりを持った生活環境作りを進めていきたいと考えている。




参考文献
(1) (社)畜産技術協会ホームページ 畜産技術紹介(山羊)
(2) 家畜改良関係資料(社)中央畜産会 2005年3月
(3) (社)群馬県畜産協会 改良増殖技術実態調査
(4) 未利用地における山羊放牧現地研修会資料 家畜改良センター長野牧場2006年6月20日
(5) 山羊の飼養管理マニュアル 独立行政法人家畜改良センター 2002年10月
(6) 遊休農地の管理・利用と山羊飼養マニュアル 独立行政法人農業後術研究機構 近畿 中国四国農業研究センター 2002年3月