1. 目 的
現在、群馬県内でも有機JAS、特別栽培(減農薬・減化学肥料)、エコファーマーやIPM(総合的病害虫・雑草管理)技術の導入など、環境に配慮した安全・安心の農産物生産が各地で取り組まれている。これらの取り組みは安全・安心、環境保全の面で評価できる反面、多くの生産者にとって労力的・経済的に大きな負担となっているのが現状である。しかし、生産者が日々努力しているこのような取り組みは、消費者側にはうまく伝達されていないため、必ずしも理解されていない。
そこで、こうした取り組みを消費者へ伝達して深く理解をしてもらうとともに、取り組みの推進を図るために、各種方策を検討した。まず、行政(国、地方自治体等)、生産者、消費者、流通業者ら関係者の交流を目的としたフォーラムが開催されたので参加した。また、実際に現場へ訪問して、現状の把握と関係者の生の声を聴取するため、特別栽培生産物の販売店および築地市場での視察、意見交換を行ったので報告する。
2. 安全・安心な農産物における生産
(1) 有機栽培・特別栽培とは?
有機栽培とは、化学合成農薬、化学肥料、化学合成土壌改良材を使わないで生産する栽培方法。この栽培法を基本として、最初の収穫前3年以上の間、堆肥など(有機質肥料)による土づくりを行ったほ場において収穫された農産物を「有機農産物」という。
有機農作物として販売する場合は、認定機関による認証が必要で、認定には日本農林規格(有機JAS法)が適用される。
特別栽培とは、県が定めた、その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬および化学肥料の使用状況のこと)に比べて、次の①と②の両方の条件を満たした栽培法のことで、栽培された農産物を「特別栽培農産物」という。また、認証機関による認証を取得することもできる。
① 節減対象農薬の使用回数が50%以下
② 化学肥料の窒素成分量が50%以下
(2) IPM技術とは?
「IPM(総合的病害虫・雑草管理)とは、Integrated Pest Management(インテグレイテッド・ペスト・マネジメント)のイニシャルをとった言葉で、収穫を目的とした農作物(トマト、ナス、キュウリ等)を栽培するにあたって、病害虫・雑草が発生しにくい環境を整えて、病害虫の発生の動向を予測し、防除の要否およびその実施時期を直接判断して、天敵やフェロモン剤、粘着板などの多様な防除方法を組み合わせて行う、環境に配慮した防除方法のこと。さらに、IPMは、病害虫をすべて排除するのではなく、農作物の品質・収穫量等への経済的な影響を許容できる(経済的被害が生じるレベル以下)ように抑制・維持するものである。」 つまり、農薬の散布だけに頼らない栽培方法で、生産者や消費者への安全・安心だけでなく、環境への影響にも配慮して、かつ農産物の安定的生産も図るという、かなり高度な技術である。
3. 総合的病害虫・雑草管理(IPM)に関するフォーラム
(1) 行政(農林水産省)のIPMに対する取り組みと課題について
① IPMを定着させるための取り組み
IPMの考え方は、予防-判断-防除の基本を守り、不必要な農薬の散布を減らし、環境への負荷を減らして、安全な農作物の安定生産を図ることである。IPMを現場へ導入するためには、都道府県が作目毎のIPM実践指標を策定し、農家がその指標を活用することが重要である。
② IPMを定着させるための課題
農林水産省の消費者モニターに対するIPMについてのアンケート調査では、IPMを知らない人は9割以上であった。農林水産省では、IPMはGAP、ISO22000、有機JAS等の技術を支える基盤としての位置づけであるとして、現在関係施策への活用を検討している。IPMに取り組んでいる現場では、慣行防除と比較して費用が大きくなる例があるが、費用に着目するだけでなく環境負荷軽減に配慮しているという意識にも着目させるのが重要。
(2) 生産者がIPMに取り組んでいる事例について
① 神奈川県海老名市(施設野菜):約40年農業をしている。IPM防除のポイントは、土の健康を考えること、防除計画(天敵放飼を基本)をたてる、観察眼を鍛える、病害虫発生箇所に目印をつける、農薬はスポット散布する、である。大事なことは、圃場内に発生した病害虫をすべて排除することではなく、被害が発生しない程度に維持すること、バランスのとれた共生のなかで栽培していくことである。
② 静岡県袋井市(茶):お茶の栽培をしている。IPM防除のポイントは、圃場をよく観察すること、選択性の殺虫剤を使用する、地域ぐるみで取り組んでいくこと、である。課題として、農薬=悪のイメージではなく、農薬も作物の病気・ケガを治す薬であると認識するべき。
(3) 消費者のIPM等(有機JAS、特別栽培も含む)に対する意見
① 農業についてのワードは「環境保全型農業」、「エコファーマー」、「有機農業」、「GAP」と多くあり、それぞれの意味はよく分からない。消費者は混乱している。よく整理してもらいたい。消費者は、国産のもの、安全なものを購入したい。
② 生産者と消費者との交流は大切だと思う。IPM栽培等による農産物の値段は、良質なもので、その情報が正しく伝われば多少高くても購入する。
③ 農薬=悪というイメージはない。私は、こだわり栽培(IPM、有機JAS等)された農産物に特にこだわらずに購入している。
④ IPM栽培等による消費者への理解には、消費者への正しい情報伝達が必要ではないかと思う。どこの誰が(顔写真有り)、どこで作ったかを知ったところで、安心して買えるわけではない。
(4) 流通業者のIPM等(有機JAS、特別栽培も含む)に対する意見
① IPMの栽培方式・取り組み労力等の情報が消費者に正しく伝われば、商品価値は高まると思う。
② IPMの価値が認められることで、生産者の苦労が報われれば、市場にも積極的な取り扱いが可能になってくる。ここ10年は、こだわりのある農産物の取り扱いが増えている。
フォーラムでは、取り組みを推進する「行政」、実践する「生産者」、選択する「消費者」、評価して販売する「流通業者」らそれぞれの役割をもつ関係者が集まってそれぞれの立場・考え方から積極的な意見交換を行った。
しかし、フォーラムへの参加のみでは、生産、消費、流通の現場でどのようにして農産物が栽培され、規格化され、循環して、消費されるのか明確に把握することは難しい。方策を検討するためには、現状を正確に把握することが重要であり、実際に現場へ訪問して生産者、消費者、流通業者らと意見交換をして情報収集を行う必要があると思われる。
今後は、IPM栽培圃場、集出荷市場、販売店などを訪問して現場を見学し、関係者の意見を拝聞したいと考えている。
4. 特別栽培生産物販売店および市場調査
(1) 店舗:グルッペ荻窪本店(東京都杉並区荻窪)
(2) 稲津専務との意見交換
① 販売している農産物には有機認証等のあるなしにこだわっていない。だが、集まるものは特別栽培以上となっているのが現状。
② こだわり栽培が生産者の負担にならないように、生産者提示価格で買っている。このようなこだわり農産物の販売では生産者との信頼関係を築くことが大切であり、ビジネスだけでは語れないものがある。理念を活かしていくことが必要。
③ 農家から直接に宅配便でもらうと物流コストがかかるが仕方ない。全部で450件程の伝票処理を行っており、事務処理に手間がかかる。市場を通したいのだが、少量ロットでは十分な対応が出来ないのが現状。現在は少量のみ市場経由している。
④ 客は無農薬の農産物を求めている人が多い。
⑤ ここに来るお客の客層は30~40代。子どもが出来て始めてくる人や、昔からのつきあいのある年配のお客が来る。
⑥ 中国冷凍餃子の問題が起きた1月下旬からお客が増えた様な気がする。
⑦ 2階にレストランがある。店舗で売っているものを中心に使用している。医食同源の考え方。 |