【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり

福井鉄道福武線を残そう
―― 市民との協働による存続に向けた取り組み ――

福井県本部/NPO法人 丹南市民自治研究センター・理事
連合福井南越地域協議会・事務局長
越前市市民自治推進課 畠山 和士

1. 岐路に立たされた福井鉄道福武線

 NPO法人丹南市民自治研究センターと連合福井南越地域協議会の活動の拠点である越前市には重要な公共交通機関として福井鉄道福武線があります。
 福井鉄道福武線は、越前市の武生新駅から福井市の田原町駅の約21キロを結んでおり、通勤、通学者だけでなく、地域住民の重要な足として、年間約162万人の市民が利用しています。
 また、福井鉄道労働組合が連合福井南越地域協議会に加盟しており、主要単組として私たちとともに連合運動の推進に取り組んでいます。
 その福井鉄道福武線が2007年9月、「福井鉄道単独での福武線存続は困難である」として、福井県や沿線三市である福井市・鯖江市・越前市、その他、筆頭株主、融資金融機関等らで構成する官民協議の場を設け、存続問題を協議するよう福井県に対し求めていることが、新聞等で報道されました。

2. 労働組合の枠を超えて

 福井鉄道福武線は、私たち働く者にとって通勤における重要な足であります。また、地球温暖化が進み、日本を含め全世界的にCO2の削減が求められる中、鉄道の利用はCO2削減及び環境保全に対する有効な手段であります。まちづくりにおいても、鉄道はこれまでに大きな役割を果たしてきたし、今後もその役割は変わることはありません。もし、福武線が廃止されると地域社会に与える影響は計りしれません。
 この報道を受け南越地域協議会では、福武線は地域の重要な財産であるとの認識のもと、福武線存続に向け何をすべきか、南越地協に集う仲間たちとともに協議をしました。
 この議論のなかで、沿線三市の地域協議会と連携すること、また、地域協議会だけでなく福井鉄道を利用している様々な市民と連携して、この問題に取り組んでいく必要性があることを確認しました。

3. 市民団体との連携の始まり

 前段の協議を経て、福井、鯖江それぞれの地域協議会に話を持ちかけ、一度沿線三市の地域協議会が集まり、現在の福井鉄道の状況と官民協議設置を要請された福井県の考え方を聞き、福武線存続問題に今後どのように対応していくかを検討することになりました。このほかに南越地域協議会では、労組関係以外の組織、例えば福武線沿線の自治会や自治振興会(小学校区単位でまちづくりを行う組織)にも話を持ちかけ、これらの団体の代表者にも、参加していただくよう働きかけました。また、我々では、地方鉄道の存続運動についてのノウハウを持っていないことから、路面電車とそれを活かす社会システムの構築を調査・研究し、全国的に鉄道の存続問題にも関わっているNPO法人 ふくい路面電車とまちづくりの会(通称、ROBAの会)にも協力を求め、参加していただくことになりました。
 以上の、三地協、越前市の自治会等、ROBAの会のメンバーが集まり、福武線を取り巻く現状を聞いた上で、今後の対応を議論しました。まさしく、労働組合と市民団体が連携し福武線存続に向けて歩み出した第一歩でありました。
 議論の結果は、以下の通りでした。
① 福武線を存続していくためには、私たちが積極的に電車に乗らなくてはいけない。
② その乗る運動を展開する運動母体を、三市それぞれで立ち上げる。
③ 立ち上げ準備に入るにあたり、福武線や他の地方鉄道の現状、また福武線の果たしている社会的便益について学習しよう。
④ 学習会には、もっと多くの市民団体の代表などに参加を呼びかけていこう。
ということになりました。
 そして、会合を開いてから1週間後に三市の関係者が集まり、学習会を開催しました。
 この学習会には、各単組からの参加者の他に、前述会合に参加いただいた自治会や自治振興会の関係者はもちろん、その他の自治会や老人会連合会、壮年グループの人たちなど、当初見込んでいた人数よりも多くの人たちが集まり、福武線存続に対する関心の高さが伺えました。

4. 動き出した運動母体の立ち上げ

 学習会では、ROBAの会を講師に、福武線を取り巻く現状や鉄道がこれまで果たしてきた役割と今後の役割、鉄道は道路と同じ社会資本でありながら税金を投入される金額がはるかに少ないこと、福武線は赤字路線ではあるが社会的便益つまり社会的な価値が他の地方鉄道と比較しても高いことなどが説明された。
 また、えちぜん鉄道の前身である京福電鉄が事故により国からの運行停止処分を受け、電車が止まってしまったときに起こった事例(負の社会実験と言われている)についても詳しく聞くことができました。
 学習会を終え、ますます福武線の重要さを認識した私たちは、翌年2月初旬から学習会に集まった区長会連合会や自治振興会連絡協議会、老人クラブ連合会、そして、南越地域協議会を中心として、越前市でいよいよ乗る運動を展開する支援団体の設立に向け動き始めることとなりました。まさしく、同じ目的を共有する労働組合と市民とが連携した本格的な運動の始まりでした。

5. 並行する利用運動の展開

 支援団体の設立と並行し、福武線を地域の重要な財産と考えているNPO法人丹南市民自治研究センターでも、いくつかの取り組みを行いました。
 その狙いとしてはふたつ。ひとつ目は、福武線の価値を多くの市民に知ってもらうこと、ふたつ目は、実際電車を利用した企画を行い、市民に福武線をPRすることでした。

(1) 市民フォーラム「残そう福武線 電車は地域の財産だ」
 先にも記述しましたが、福武線を残していくためにはやはり、そこに住む住民が積極的に利用していくことが必要です。そのためには、市民が福武線の価値や地域社会に果たしている役割を理解し、その重要性を認識することが重要です。これらのことを市民に知ってもらうために、「残そう福武線 電車は地域の財産だ」と題して市民フォーラムを開催しました。
 フォーラム開催の発案は丹南市民自治研究センターではありますが、開催にあたっては支援団体設立の中心となっている区長会と自治振興会、そして南越地域協議会と連携し、4者共催での開催となりました。
 フォーラムの周知については、南越地域協議会で春闘の街頭行動を行った際、フォーラム開催の案内を含めた福武線の利用を訴えるビラを市民に配布したほか、それぞれの団体が様々な団体や市民に呼びかけを行いました。
 その甲斐あってか、フォーラムには、当初の予想を大幅に上回る約350人の市民が訪れ、福武線に対する思いを共有化できたのではないかと思います。

(2) メーデー劇場と福武線PRビデオの上映
 連合南越地域協議会の組合員に、福武線を含めた公共交通機関の利用を促すために、メーデーのアトラクションとして、メーデー劇場の上演と福武線PRビデオの上映を行いました。
 メーデー劇場では、「メーデー家の人々~我が家の温暖化対策」と題し、現在の温暖化の現状と電車が温暖化防止に有効な公共交通機関であることを、演劇を通してPRしました。
 また、福武線PRビデオでは、福武線を利用している人や福武線を残すため活動している人たちのインタビュー、そこで働いている人の姿や想い、電車が走っている風景などを紹介しました。
 劇もビデオも、組合員が作成、演出、出演するなど、すべて手作りであったため、参加した組合員には、概ね好評であり、想いが伝わったのではないかと思います。

(3) 「ラブ電 ~恋は、電車に乗ってやって来る~」の開催
 ふたつ目の、実際電車を利用した企画を行い、市民に福武線をPRする点については、丹南市民自治研究センターが中心となり、福井鉄道や連合福井南越地域協議会、中部地区労働福祉平和センターなどの団体と連携し、実行委員会形式で「ラブ電 ~恋は、電車に乗ってやって来る~」を開催しました。
 電車は、人と人の出会いの場でもあり、そのコミュニケーション促進の場として、有益な交通機関であります。
 こういった点に着目し、福井鉄道福武線の電車を使用し、出会いの機会が少ない独身男女に交流の機会を提供したのであります。また、新しい公共交通機関の利用法についての一つの提案でもあり、これを機会に若者に電車のよさ、大切さを感じてもらい、イベント後も電車を利用すればと思い、企画しました。
 6回の実行委員会を開くなかで、詳細な企画や運営方法等を協議し、3月15日にラブ電を開催することができました。当日は25歳以上の独身男女計58人(男性29人、女性29人)が参加し、武生新から福井市内を往復する電車の中でミニライブやフリータイムなどを楽しみました。
 席は、ランダムに男女が交互に並ぶように配置し、電車が走り出すと、テーブルごとに互いに自己紹介をする姿や、隣の参加者と話す姿がそこここに見られました。また、名刺を1人10枚ずつ配布し、自由に名刺交換をしてもらうことにしましたが、名刺交換をする姿や携帯電話の番号を交換する姿が見られました。電車内でのイベントということで、電車が作り出す程よい距離感のせいか、以前レストランでの出会いパーティーに参加した経験のある参加者からは、「かしこまった雰囲気のレストランでは緊張し話しにくい雰囲気があったが、電車だと自然に話すことができた」という意見がありました。
 ラブ電の開催は、男女の出会いの場を創出するという目的と、電車の利用促進をPRするという2つの目的をうまく融合させた事業として、他の団体に対しても電車の一つの活用法としてアピールできたのではないかと自負しているところです。

6. 16の団体で支援団体設立

 区長会連合会、自治振興会連絡協議会、老人クラブ連合会、南越地域協議会が中心となり進めてきた支援団体の設立ですが、設立に至るまで計5回の準備会を開催してきました。
 その中で、支援団体の運営のあり方や運動方針等について検討してきました。そして何よりも、支援の輪を越前市全体に広げていくためには、多くの仲間が支援団体に加わり、連携しながら乗る運動を進めていくことが必要です。そういった観点から、4者が設立呼び掛け人となり、協力しながら、福武線を利用する機会の多い様々な団体やまちづくりに取り組んでいる団体などに対し、支援団体設立の趣旨を説明し組織への加盟をお願いして回りました。なかには、加盟に理解を得られなかった団体もありましたが、概ね設立趣旨に賛同していただき、支援団体の設立に向け、局面は最終段階を迎えました。
 そうして、ようやく5月24日に設立総会を開催し、「越前市・福武線を応援する連絡協議会」を設立することができました。連絡協議会の会長、副会長には呼び掛け人となった南越地域協議会を含む4団体の代表者が就任し、事務局長には丹南市民自治研究センターの理事長が就任しました。

① 「越前市・福武線を応援する連絡協議会」加盟団体
  越前市区長会連合会・越前市自治振興会連合会・越前市老人クラブ連合会・連合福井南越地域協議会・吉野地区自治振興会・NPO法人丹南市民自治研究センター・武生商工会議所・越前市社会福祉協議会・越前市身体障害者福祉連合会・越前市連合女性会・越前市食生活改善推進委員会・越前市壮年グループ連絡協議会・(社)武生商店街連盟・武生府中ロータリークラブ・NPOえちぜん・中部地区労働福祉平和センター

② 「越前市・福武線を応援する連絡協議会」の活動内容
 ・福武線の支援や利用促進を図るため、独自の取り組みを行う。
 ・各加盟団体の情報交換や意見交換と、事業の連携。連携した取り組みを行う環境の整備
 ・研修会やフォーラム、イベント等の開催など。
 ・市民に対して連絡協議会の活動状況や福武線の状況などについて情報提供を行う。
 ・福井鉄道に対しサービス改善に関する提言や新たなサービス導入の要望。
 ・未加盟団体へ連絡協議会への加盟を働きかけ。

7. スタートラインに立った存続運動

 いま、労働組合の活動は岐路にたっています。単に自分たちの労働条件改善だけに視線を向けるのではなく、地域の課題解決に対し積極的に取り組み、労働運動として社会的価値を持たせていくことが必要です。それも、労働組合の内に閉じこもるのではなく、同じ課題や目的を持つ市民と協働し取り組んでいくことで、より効果的な活動を展開することができ、かつ社会的に労働組合の存在価値も持たせることができるのではないでしょうか。
 福武線については、官民協議で鉄道用地を沿線三市が買い上げ無償で貸与し、福井鉄道が電車の運行をする、いわゆる上下分離方式で存続していくことが決定しました。しかし、筆頭株主が福井鉄道の経営から撤退するため、それに変わる新しい経営陣が決まっていないことや、金融機関からの融資が不透明なことから、まだまだ予断を許さない状況であります。
 今回、「福武線を後世へ残していく」という目的を共有する市民の皆さんと労働組合が連携しながら、「越前市・福武線を応援する連絡協議会」を設立することができました。また、越前市も「越前市・福武線を応援する連絡協議会」の活動を全面的にバックアップすることも決定し、官民協働で存続運動に取り組んでいます。
 ただ、これでようやく福武線存続に向けたスタートラインに立つことができたにすぎません。
 今後は、福武線を将来に向けて残していくために、「越前市・福武線を応援する連絡協議会」が、そしてそれに加盟する団体が連携を深めながら、乗る運動を通して存続させていくことが必要です。また、福武線の利用者だけでなく、多くの市民が、福武線を地域の重要な財産であるということを認識してもらうことも今後の活動の課題です。
 連合南越地域協議会と丹南市民自治研究センターでは今後も、様々な機会を通して福武線を利用する企画を考案し、時には他の団体と連携しながら、福武線の存続に取り組んでいきたいと思います。