【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり

三好市における限界集落の検証


徳島県本部/三好市職員労働組合連合会 柳内  守

 現在、多くの地方自治体では、過疎化と高齢化で地域自治の維持をどうしていくのかが大きな行政テーマの一つになっている。地方に自治権と財政確立をするという三位一体改革が行われてきたが、多くの自治体が乏しい自主財源で、地方交付税に頼った財政運営であったため、現実には地方交付税削減により行政運営が行き詰まり、自治体維持目的の市町村合併が進められた。三好市も同様で、2006年3月、6町村が合併して誕生した。
 前述のとおりこの合併は行政のスリム化を目的としたもので、政府の言う小さな政府づくりと同様の内容で、合併時650人いた職員を500人にすることが大前提と謳われている。
 こういう背景のなか、三好市地方自治研究所をスタートさせたこともあり、研究テーマとして「限界集落」を取り上げることとなった。参考文献には2005年に発刊された「山村環境社会学序説」(著者:大野 晃)に取り上げられている「現代山村の高齢者と限界集落」や、「にいがた自治体研修所」(岡田知弘編集)の「山村集落再生の可能性」を利用し、三好市も抱える共通課題、「山村の高齢と限界集落、広範な山村を抱える三好市がどう取り組んでいくのか、未来はあるのか、未来を造りだしえるのか」を、実態調査を踏まえながら取り組むこととした。                         

1. 山村現状の基礎確立


(参考文献)
 この文献を参考にしたのは、特に「現代山村の実証研究」であることや、三好市の山村地域の現状と一致するところが多い高知県下の町村を調査研究していることもあったからである。
 高知県は林野面積83.5%、針葉樹率65.9%、耕地率は3.9%(耕作放棄地率33%)、三好市は森林面積が87.2%、人工林率64.3%・耕地面積が2.2%(内耕作放棄地率44.5%)。
 三好市の集落間は山と谷に分断され、集落は山間の急傾斜地に点在し、交通手段も公共機関がとぼしくほとんどが自家用車等に頼った現状で、高齢化率も40%近くで限界集落も31%を超えた状況にある。
 林業は戦後の政府の林業政策に沿ってスギ・ヒノキの植林が進められたが、燃料革命と輸入材の圧迫で不振に。農業は自給自足のサイクル崩壊で低生産性の棚田水田放棄、繭やコウゾウ三椏は外国からの安い輸入品に、現金収入の葉たばこは専売の撤退から衰退、阿波葉はついに2008年を最後に栽培中止に。急傾斜地の畑ではお茶・ゼンマイ・シイタケ栽培を行ってきたが、規模が零細で農業では生計が立てられず、多くは山林労務や土木作業、出稼ぎ等で生計を維持している。
 人口の自然増減も1975年前後から減少に転じ、2007年度では出生153人に対し死亡が543人とうい状況になっている。人口推移も国勢調査で1990年(平成2年)42,219人から2000年(平成12年)37,305人に10年間で12%減、2005年(平成17年)34,103人で19%減に、高齢化率も1990年(平成2年)の21%から2000年(平成12年)32%、2005年(平成17年)36%と確実に増加している。このことに、前述の林業不振、ここ数年の公共事業見直しから土木工事の減少もあいまって就労職場の減少が追い討ちをかけて生産年齢人口は2年62%・12年55%・17年53%に減少し、平成19年では49%までになっている。
 また、大野教授が参考文献「2章 現代山村の高齢化と限界集落」の中で指摘されている「都市と地方、地方の町部と山間部、自治体内部においても役場、小中学校、農協、森林組合、金融機関、医院、商店街のある中心部とその周辺集落との間で二重三重の地域間格差を内包している」という点は、三好市においても同様の状況がみられる、その上に町部でも郊外型の中規模店舗に買い物客が移行したことや、生産基盤の海外移行による工場撤退などからドーナツ化現象も起きている。(三好市の限界集落分布図参照)
 今回の研究テーマの視点は、前述のことを参考にしながら三好市の具体的地域格差の洗い出しや、大野教授の研究を基にしながら現状分析を行う計画である。

2. 限界集落の具体的実態

 大野教授や橋爪法一氏が行った「上越市の集落機能実態調査」からも、三好市においても限界集落の研究には、実態調査が必要不可欠だといえる。
 このことから研究に先立ち今年1月に、「2008過疎地域実態調査アンケート」を旧町村単位で9箇所実施し、その分析を現在行っており、今後の研究テーマに沿った実態調査を、どんな方法・内容で行っていくか検討をしている。
 この予備実態調査実施個所は、高齢化率60%を超えている集落が78%以上で、高齢者のみの世帯が70%以上を占める超高齢者集落といえる。しかし、地域自治活動の機能は、地域の常会、地域の祭り、道の維持管理を少し縮小させながらほぼ続けられている。日常生活では、移動手段として公共交通機関が利用できない地域がほとんどで、自身運転の自家用車と言うよりは、近所の親戚、家族の車へ依存している。買い物は、定期的にくる移動スーパーに依存した部分も多いが、26%近くの人が何らか病気で通院しており、そのついでに買い出しを行うという人が多い。通院先は、市の中心にある県立病院が多いが複数の病院に通っている人も多く、近所の病院にも通院している。現在困っているものの質問には、質問事項全般に広がっているが、後継者、生活水・買い物・通医院、農地や山林の管理、また道路維持(多くの地域で住民自らの出夫という形で地域の道路の草刈、側溝清掃を行っている)などの地域活動に一定多くの不安を持っていることがうかがわれる。行政への要望でも、一番に交通手段確保が上げられたほか、後継者の確保、就職職場、そして、医療確保・健康管理・防災災害、年金・飲料水・環境対策にと全般的に一般的な住民ニーズと同様にも思えるが、より詳細な調査を行う必要があると思われる。


 *アンケート集計表文末に掲載

 この調査は聞き取り調査で行っており、調査に当たった調査員から非常に興味深いコメントが寄せられたので掲載しておく。

(1) 調査員コメント
① 実態調査で自治会長さん宅を訪問するのは初めての経験でした。仕事で一度お会いしたことがある方とは言え、不安もありましたが、平日晩ご飯時なのに快くご協力をいただきました。感謝感謝です。
 私が調査した2つの自治会は現在28軒。数十年前には60軒ほどあり、祭の日には子ども相撲をするほど活気があったそうです。現在でも道の草刈りを共同でやったり、野菜を作って出荷するなど、元気に生活されています。半面、公共交通機関がなく、買い物を週一回の移動スーパーに頼ったり、往復1万円でタクシーで通院するなど、不便な面も見えました。
 10年後、20年後、この自治会がどうなっているか…。そんなことも考えました。
 実際に現地の方の声を聞き、「限界集落」を身をもって感じました。このテーマについて、もっと研究・行動ができたらと思います。
② 生活しやすい場所、少しの便利さを求めて、生まれ育った場所を離れていく息子に寂しさを感じつつも、しかたなく見送る父。聞きとり調査に応じてくれた自治会長さんの息子さんも、最近三好市内の平坦地に新築したという。「わしは(息子の所へは行かずに)ここで暮らすんじゃ。」と言っておられた。年老いた両親もいるし、山や畑も放ってはおけない。
 この集落に住む人たちはひと昔前までは皆若く、そこには活気があっただろう。自治機能も盛んであったろうと思われる。今ほど、過疎化や高齢化が進むとは想像がつかなかったのではないだろうか。周りのみんなが同じように年老いていきながらも今、自分たちを守り、地域を守っている姿がある。
 今から10年、20年後を想像した時、この集落はどうなっているだろう?限界集落に住む人たちの実状を聞くことで、自治体で働く私たちにできることは何なのかを考えさせられた。高齢化に歯止めをかけることはできないが、限界集落に住む人たちを含め、三好市内の隅々までいき渡った地方自治をしていきたいものである。
 今回の過疎山村実態アンケートに取り組めたことは、非常に有意義であったし、今後もこの問題に関わっていきたいと思う。
③ 今回のアンケート調査においては、高齢者に対してのアンケート(聞き取り)なので、設問においては、誘導質問にならないように心がけた。また、その他意見欄で地域の生の声を聞き、これを率直にみなさんに伝えていかなければならないと思った。
 現在困っているもの具体的意見
・ 家管理……………跡継ぎがいないため、家は傷んでいるが修繕はしない。
・ 後継者……………都会で働いており、将来帰ってくる見込みがない。
・ 生活水……………水源の谷から4kmパイプで引き、水槽4基に貯水し、各家庭に分岐している。水源の管理もできない。夏場の渇水も不安である。消毒もしていない。
・ 生活費……………ほとんど年金生活。野菜の出荷を少々している。
・ 働き場……………地域で7人が働きにでている。
・ 医療費……………通院にタクシー等を使う場合があり、医療費と交通費がかかる。
・ 郵便物……………毎日1回は届いている。
・ 畑管理……………中山間直接支払い制度により4年前はモデル地区にもなったが、現在は荒れている畑が多い。イノシシも来ており、電柵を設置している畑もある。
・ 山林管理…………森林組合に管理は依頼しているが、荒れた山林も多い。
・ 道路維持管理……市道は整備されつつあるが、里道(赤線)は荒れている。
 行政への要望 (全て該当するが、特に要望するもの)
・ 飲料水対策………水の管理に不安があり、夏場の渇水にも心配している。(ライフライン)
・ 道路維持管理……合併して以来、小修繕に時間がかかるようになった。対応にも時間がかかり合併によりサービスが良くなったという者はいない。
・ 情報伝達…………三野町は、旧町より行政無線において個別受信機を各戸に貸与してくれているため、情報の伝達はできている。しかし、来年度設置されるケーブルテレビについてあまり状況がわからない。 
④ 西祖谷に住んでいることもあり、有る程度のことは知っているつもりだった。しかし、改めて、今の状況を聞くことによりいろいろなことがみえてきた。
 「出て行く人もおおくなったけど、それもしかたないよ。ここにおっても………」すごく重い一言だった。ここにいたいが仕方なく出て行っている。そんな状況が垣間見える一言だった。自治体で働く私たちに、何ができるのか、何をしなければならないのか。本当に考えなければならないと痛感した。
 今後もこの問題に関わっていきたいと思う。
⑤ 今回、町内の限界集落すべてを聞き取り調査を行いましたが、どの集落も既に空き家が目立ちました。戦中戦後黙々と国、町村の政策に従って農業、林業に汗を流し国土を守ってきた結果が、生まれ育った我が家で生活の維持ができなくなりつつある現状を聞くにつれ、言いようのない怒りがこみ上げてきました。
 限界集落から消滅集落へと進む「へりべり」集落をどうするのか、政治の責任は重たいものがあると改めて痛感した調査でした。今後の分析と政策提言に活用しなければと思いました。(※この調査員の方のアンケートは三好市のバランスを取るため集計表に一部しか反映させていません。)

3. 今後の研究活動に向けて

 この研究テーマはやっと取り掛かったばかりだが、今後の行政活動の方向性を探るには必要不可欠の物ではないかと考えられる。
 2006年(平成18年)4月時点で行われた国土交通省国土計画局が行った「過疎地域等における集落の状況に関するアンケート調査」からも、四国は高齢化率が高く、前回調査からの伸び率はほぼ倍になっている。今後の消滅可能性集落数では10年以内消滅、いずれ消滅とも上位に挙げられている。三好市でも例外でなく現状のまま無策で進めば、間違いなく消滅する集落は起こりえると推測できる。
 一方、多様化する住民ニーズと多岐にわたる行政課題、費用対効果や人員、経費の削減が前面に掲げられた行革基本方針、これらは、集落をどう維持していくのかとは相反する面を多く持っている。何が住民の一番求めるものか、本来行政が行うべきことは、この研究テーマは木の幹になるもので、この研究を基幹として山村集落の崩壊速度を減速させ、牽いては集落再生に結びつければ最高の結果といえる。

「2008過疎地域実態調査アンケート」

「集落人口に対する高齢割合比較(集落率)」と「今後の消滅の可能性別集落数」

「2008過疎地域山村実態アンケート集計表」

「三好市の限界集落分布図」