【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり

世界遺産と景観を生かしたまちづくりのアンケートから
―― 市職員のアンケートから読むまちづくりの展望と課題 ――

大分県本部/国東市職員労働組合・自治研部

1. はじめに

 今日、世界遺産に関する情報がメディアにあふれている。世界遺産ブームと言ってよいかもしれない。国内に目を転じると主要な文化遺産や自然遺産が世界遺産に登録され、該当する資産を有する地域では、まちづくりの核として資産を有効に活用した地域活性化の取り組みが官民一体となって展開している自治体もある。一方、地元の大分県では、宇佐・国東半島の文化遺産を世界遺産にする取り組みが進められている。しかし、資産を有する市の管理団体や行政関係職員、また市民への説明や周知は十分に行われているだろうか。住民にその目的や必要性が説明され、理解され、広められているのだろうか。また、一方で全国的には景観を生かしたまちづくりの取り組みが成果を収め、文化遺産や自然遺産、また伝統的な生業や生活と一体となった景観のまちづくりが注目を集めている。そこで国東市における「景観を生かしたまちづくり」について「世界遺産」をキーワードに現場の地域行政に携わる市職員を対象に意識調査(アンケート)を行いまちづくりの課題をさぐってみた。アンケートは国東市の職員459人(一部外部職場等を除く)を対象に行い、328人から回答を得ることができた。

2. 世界遺産(文化・自然遺産)と景観を生かしたまちづくりに関するアンケート

① 設問1:エジプトのピラミッドなど、ユネスコが登録する「世界遺産」をご存じですか。




 「知っている」が全体で88%(272人)と圧倒的に多い。世界遺産ブームの反映であろう。では、具体的にどのような世界遺産の認知度が高いのか、以下、国東市職員が選ぶ世界遺産ランキング・ベスト5を列挙してみよう。まず外国の世界遺産ランキング・ベスト5は、1位から順に「万里の長城」(中国)、「アンコール(ワット)」(カンボジア)、「マチュピチュ」(ペルー)、「ピラミッド」(エジプト)、「モン・サン・ミシェル」(フランス)である。次に国内の世界遺産ランキング・ベスト5は、1位から順に「屋久島」、「厳島神社」、「知床」、「姫路城」、「白川郷」である。ランキング上位の遺産はどれも、比較的早い時期に世界遺産リストに登録された、万人が「これぞ世界遺産」といった古典的なものが圧倒的に多い。
 ところで、「まちづくり」の第一歩は一人ひとりの関心からはじまり、その次にまちを知り、まちの魅力と課題を発見することだと言われる。「まちづくり」の機運を高め醸成していくには、一人ひとりが「まち」の魅力を発見し、「まち」の課題を共有していくこと。一人ひとりが人任せでなく、「まちづくり」の主役となって進めていく心構えが不可欠だと言われる(大分県企画振興部景観自然室 まちづくり推進班『みんなが主役のまちづくり』パンフレットより引用)。次に、まちの自然や文化遺産を他の地域と比較してどのように思っているのか質問をした。

② 設問2:国東市の自然景観や歴史的な文化遺産について、他の地域に比べてどう思いますか。




 「他の地域にくらべ豊富で多くの景観や遺産が残っていると思う。」が、全体の60%(191人)と最も多い回答となっている。しかし、意外にも「他の地域と特に変わりはない。特質すべきものはないと思う。」が35%(113人)と多いことも見逃せない事実であり、「……残っている景観や遺産が少ないと思う。」と合わせると40%(128人)となっている。男女別の集計では、女性は「……豊富で多くの景観や遺産が残っていると思う。」が71%(90人)と他を圧倒しているのに対し、男性は52%(98人)と約半数に留まっている。国東市は宇佐市についで県下で最も多い文化財を有する地域であり、その背景に六郷満山など神仏習合の仏教文化が開花した歴史がある。しかし、多くの人が地域の自然や文化遺産を十分に認識していないと言えるだろう。また、国内や国外のメジャーな世界遺産と比較して、国東市の文化遺産を過小に評価した結果とも言えよう。

③ 設問3:国東市の自然環境(海・山・川・里・動植物など)と文化遺産(神社・仏閣・旧家・街並み・石造物ほか)について、10~20年前と現在の景観を比べてどう思いますか。




 「今とあまり変わりはないと思う。」が全体で52%(165人)と最も多い。男女別の集計では、女性が「……変化(悪化)したと思う。」と回答した人が51%(64人)で「今とあまり変わりはないと思う。」を上回っているのに対し、男性では「今とあまり変わりはないと思う。」が58%(109人)で、「……変化(悪化)したと思う。」<39%(73人)>を大きく上回っている。国東市の景観は、都市部でも農村部でも10~20前に比べ大きく変貌を遂げたと言える。景観は常に変わりつづけており、意識していないとあまり変化したようには見えないのである。
 どんなまちに住みたいのか、みんなで考えた課題を解決する将来のビジョン(夢)を、さまざまな人たちの意見から「足し算思考」で描いて行く。そこから共有できるビジョンづくりが始まると言われる。たとえば安心・安全な「まち」、美しい環境・景観の「まち」等さまざまなキーワードが考えられる。(大分県企画振興部景観自然室 まちづくり推進班『みんなが主役のまちづくり』パンフレットより引用)。そこで、「まちづくり」のビジョンやキーワードに関連して、地域の顔、ふるさとの象徴、町の誇りとして、まずイメージするものを訪ねてみた。

④ 設問4:「地域の顔」「ふるさとの象徴」「町の誇り」としてまずイメージするものはなんですか。下記より第1番目にイメージするものから順番に3つ選んで番号を記入してください。



 この設問は、順位を付け3つ選択する方法で回答を得たが、データ化するにあたっては、便宜上、順位に関係なく各項目ごとに集計している。集計結果は「海や山など豊かな自然環境やその景観」が全体で30%(279票)と最も多く、僅差で「神社仏閣や石造物など歴史的な建造物」が29%(274票)と続く、次いで「伝統的な祭りや民俗行事」が24%(227票)、さらに「農産物や魚介類など地元で収穫される食材や産物または七島藺(しちとうい)などの伝統的な特産品」が12%(109票)となる。男女別では、女性が「……自然環境やその景観」と「……歴史的な建造物」と「伝統的な祭りや民俗行事」を合わせた回答が87%(325票)であるのに対し、男性は同様の回答合計が81%(443票)と女性に比べ低い値を示している。年齢別では、「……自然環境やその景観」と「……歴史的な建造物」と「伝統的な祭りや民俗行事」を合わせた回答が、35歳以下で78%(194票)、36~45歳で83%(226票)、46歳以上で86%(356票)と年齢の高い層ほど数値が高くなっている。その逆に全体からみれば少数であるが若年層ほど「……交通網やその拠点となる公共施設」や「教育関係の諸施設」、また「……商工業施設」の割合が高くなっている。世代間の意識の違いを読み取ることができる。
 みんなが共有できるビジョンが固まれば、それを実行するために、具体的な「まちづくり」計画が立てられる。計画はみんなに共有され、行政と住民が協働して「まちづくり」の実現を目指すことが大切である(大分県企画振興部景観自然室 まちづくり推進班『みんなが主役のまちづくり』パンフレットより引用)。「まちづくり」を計画し、実現を目指していくことに関連して、設問5、設問6を行った。

⑤ 設問5:国東市の街並みや集落のデザインはどうあった方がよいと思いますか。



 「古い伝統的な建造物や自然を残して、近代的な建物も調和させた街並みや集落であった方がよいと思う。」が全体で93%(292人)を占め高い数値を示している。設問5と設問6は選択肢が少なく両極端であるとの意見が寄せられており、「どちらとも言えない」「どちらも大切」とする回答もあったが、多くの人が景観を保全していくことに賛同する意志を持っていることには変わりないと言える。

⑥ 設問6:前の質問に関連して建造物の設計はどうあった方がよいと思いますか。




 「周辺の自然環境や伝統的な建造物の景観にも配慮した機能・色調・外観を考慮した設計。」が全体で91%(283人)を占め高い数値を示している。
 まちづくりの計画を着実に実現していくためには、わがまちの「まちづくり」に最適な事業や手法を選択し、公共施設などを整備するとともに、建築や土地利用のルールを具体化していくことがより効果的である。まちにはルールがある。都市計画法や建築基準法などのほか地域の条例や協定などのルール、しきたりなど独自のルールもある。まちづくりのルールを守り、育てていくことが住みよいまちづくりの実現につながる。(大分県企画振興部景観自然室 まちづくり推進班『みんなが主役のまちづくり』パンフレットより引用)。そこで、まちづくりのルールを守り、育てていくことに関連して設問7・設問8・設問9を行った。

⑦ 設問7:国東市の自然景観や歴史的な文化遺産の保全と開発についてどうあった方がよいと思いますか。



 「郷土の自然環境や歴史的な文化遺産を後世に残し伝える努力をした方がよい。著しく景観を改変させることにつながる乱開発などを防止するなんらかの規制や対策を取ることも必要だと思う。」が全体で83%(250人)を占め高い数値を示している。年齢別に見ると、36歳以上では92%(80人)~84%(109人)と景観を保全する必要性を感じているのに対し、35歳以下では72%(59人)に留まっている。世代間の意識の違いを読み取れる。

⑧ 設問8:「国宝」(国内法の最重要文化財)と「世界遺産」(国連のユネスコが登録)は、どちらが価値の高い文化財だと思いますか。




 「どちらも同じ」が全体で50%(155人)と最も多く、次いで「世界遺産」が30%(94人)、「国宝」が20%(62人)である。「どちらも同じ」と見る回答は、基本的に自然・文化遺産に優劣はないとする考えの表れであろう。

⑨ 設問9:宇佐・国東の文化遺産が世界遺産にならなかった場合、その後の国東市の景観保全についてどうあった方がよいと思いますか。



 「世界遺産への取り組みで蓄積されたデータや意見をまちづくりに活かし、国内の法制度で自然景観や文化遺産と調和したまちづくりにつながるよう景観の保全に努めた方がよいと思う。」が全体として77%(211人)と大多数を占める結果となった。「どちらとも言えない」が20%(55人)で一定量を占めるが、「……自然・文化遺産の景観保全に努める必要はないと思う。」は3%(9人)で極端に少ない。
 宇佐・国東文化を世界遺産にする取り組みについて、設問10・設問11・設問12を行った。

⑩ 設問10:宇佐八幡宮と国東半島の六郷満山に関連する文化財を世界遺産にしようとする運動があることを知っていますか。




 「知っている」が全体で80%(258人)を占め、内容の把握はともかくとして運動があることが認知されているようだ。男女別の集計では「知っている」が女性66%(84人)に対し男性89%(169人)と高い数値を示している。年齢別では「知っているが」35歳以下では73%(60人)に留まっているのに対し、36歳以上では84%(80人)~81%(117人)とやや認知度が高くなっている。

 設問11:世界遺産になるためには、まず国が推薦する候補リスト(一覧表)に登録されなければなりませんが、昨年の末、大分県、中津市、豊後高田市、杵築市、宇佐市、国東市が合同で宇佐八幡宮と国東半島の六郷満山に関連する文化財や棚田等の水田景観を取りまとめて、そのリストに追加してもらうよう提案書を作成し、文化庁へ提出したことを知っていますか。
(注:2006年に提出した提案書が継続審議となり、テーマを変えて2007年12月に再提出したものがここで言う今回の提案書である)




 「知っている」が全体で50%(163人)に留まっており、半数の人が「知らない」と答えている。世界遺産の運動があることを何らかの形で知っている人が80%(258人)と多いにもかかわらず(設問10)、具体的な取り組みの進展が十分認知されていない。情報の提供や共有が希薄であるためであろう。

⑫ 設問12:前の質問にある提案書が、大分県(文化スポーツ振興課)のホームページで本年1月より公開されていることを知っていますか。




 「知っている」が全体の僅か8%(27人)に留まっており、92%に上るほとんどの人が「知らない」(298人)と答えている。提案書は、より具体的な世界遺産へ登録する資産やその範囲、またテーマなどがまとめられたものであり、実施計画の基礎となるまちづくりのビジョンと言っても良い。そのビジョンが広く提供されておらず、共有もされていないということだろう。

⑬ 設問13:宇佐・国東の文化遺産を世界遺産にする取り組みへの市民の参画・協働は、どの段階から行うべきだと思いますか。



 「世界遺産にする資産を選んだり、範囲やテーマなどの計画を作る段階から。」が全体で60%(158人)と最も多く、市民が主役のまちづくりへの志向の表われであろう。「世界遺産の候補(国の候補リストに入る)になることが決まった段階から。」は全体で31%(82人)、「世界遺産になって、具体的な活用事業を実施する段階から。」は全体で9%(25人)に留まっている。

3. 世界遺産と景観のまちづくりについて

 『……「世界遺産」に登録されるまでには多くのハードルを超えなければなりませんが、その登録への取組みには、たいていの場合、祖国や郷土の「文化遺産」や「自然遺産」を保護・活用することによって「地域の振興」を図ろうという強い願いがこめられています。現在、国の暫定登録リストにあがっているところでも、そういう願いをこめた地道な研究と活動が積み上げられています。「世界遺産」への道のりは「地域づくり」の道にはじまるのです。……』(後藤宗俊『Heritage Vol.1』別府大学文学部文化財学科、後藤宗俊ほか編著『ヒトと環境と文化遺産』山川出版:2000)。「規制のせいで建築や開発が不自由になり、息子がUターンしない(帰ってこない)のではなく、親が地域の文化に誇り・自信をもっていないから。」「規制をしない場合の30年後を想像しようという市民の提案で地域がまとまったこともある。」「そこに住む人が生活しやすい、良いまちになるためのルールづくり。」「何かメリットを求めるものではなく、良いまちをつくるための市民ボランティアに近い。」「景観は脆弱なもの。後回しにすればするほど日々悪くなるだけ。」「まちづくりは人づくりと言われる。元気なまちには必ずキーマンが居る。民間のキーマンと行政のキーマンのどちらも大切である」(穴井輔嘉「住民と協働のまちづくり」自治研センター研修資料:2008.4.28)。
 我々は現場に徹する行政マンとして「まちづくり」とどう向き合っていくのか。その答えは、目の前にある現場に中にしかないのかもしれない。アンケートには実に多くの意見が付されていた。そのどれもが、市民が主役のまちづくりの展望や課題として、正面から受け取らねばならないものばかりであった。今回の作業から「まちづくり」について言えることがあるとすれば、「まちづくり」が住民の発意に基づき主体的に行われているのかどうか? 行政の一方的な押しつけや制度の導入により推進されるのではなく、協力・協働によって行われているのかどうか? この最も基本的な問いの重要性であろう。
 本レポートは、国東市職労自治研部に参集した次のメンバーで作成した。松原和彦、藤本啓二、野木淳一、郷司康夫、酒匂慎太郎、有長信一郎、溝部栄作。必ずしも十分な論議を尽くした訳ではないが、試行錯誤を繰り返しながらなんとか形にすることができた。今度、どこかの「まち」をぶらっと散策でもして、酒を酌み交わしながら、つきることのない「まちづくり」よもやま談義に花を咲かせたいものだ。終わりにあたり、貴重な御意見をお寄せいただいた国東市職員のみなさんに感謝申しあげたい。どうもありがとうございました。