【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり

北海道における消防広域化の推進


全国消防職員協議会 石山  巌

 北海道においても、国のスケジュールに従い、2007年11月「北海道消防広域化推進計画(素案)」が、本年2月に素案の内容に一部修正を加えた「北海道消防広域化推進計画(案)」が示されました。さらに、本年3月末には、「北海道消防広域化推進計画」が策定されています。
 推進計画では、予防・警防・救助・救急の各分野において、より高度で専門化できる体制整備が必要であるとし、それを遂行する上での課題として、業務運営面・人事管理面・財政運営面で、いずれにおいても本道特有の小規模であるがゆえの、人員不足と組織規模の問題が背景にあると分析しています。
 さらに、本道の組合消防で行われている「自賄い方式」が、同一組合内での消防力格差を生む原因にもつながっていると指摘しています。
 上記推進計画では北海道消防の課題と解決策の要点をまとめ、これらの課題解消のための方策もあわせて示しています。
 しかし、北海道の組合消防で、何故、自賄い方式の運営を採用しなければならなかったのか。小規模消防本部が、全国に比較して多数存在している大きな要因は何か。人口30万人ベースを基準としてはじき出されたスケールメリットが、北海道にあてはまるのか。
 根本的な問題を解決することなく、本州の県に匹敵する管轄面積を有する消防本部へと広域再編を進めることは、問題を先送りするばかりか、大きな混乱を招くことが危惧されます。
 以下、北海道広域化推進計画の要点

1. 業務運営面の課題

(1) 消防職員数
 2007年現在、本道の消防職員数は9,067人。消防本部の状況は、職員数100人未満の消防本部が過半を占め、職員数50人未満の消防本部は11本部である。一本部当たりの職員数は、全国平均の199人に対し、本道は133人にとどまる。人口千人当たりの消防職員数は、全国平均の1.22人に対し、本道は1.62人。(組合消防本部のみでは2.46人)
 規模が小さな本部ほど人口当たりの職員数が多く、また、職員の絶対数が少ないため二次出動に人員余裕がないばかりでなく、専任化体制への移行の支障となっている。
 消防職員の充足率も、規模の小さな消防本部ほど低く、課題となっている。

(2) 消防署所の配置
 2007年現在、本道の人口一万人当たりの消防署所数は0.77箇所。人口30万人以上の本部では、一万人当たりの消防署所数は0.30箇所であるのに対し、3万人未満の本部では1.83箇所となっている。一署所当たりの人口は、30万人以上の消防本部では約33,000人であるのに対し、3万人未満の本部では約5,000人で、1/6程度と非効率な体制となっている。
 特に、組合消防本部は、管轄面積が広く集落が分散しているうえ、構成市町村の要請等により市町村毎に署所の配置を余儀なくされており、非効率性の一要因となっている。

(3) 消防車両の整備
 2006年現在の消防車両整備状況は、消防ポンプ車及び救急車の整備が進んでいるものの、はしご車、化学車、救助工作車については、規模の小さな本部で整備が遅れている。
 これらの特殊車両は、今後さらに整備が必要となることが予想されるが、財政規模の脆弱な本部では、使用頻度が低く、大きな負担を伴うことから、整備が困難な状況にある。

(4) 業務の専任体制
 2006年現在、消防業務、救急業務、救助業務、通信業務、予防業務の全てに専任体制となっている消防本部は7本部、約10%のみ。
 専任体制となっていない本部は、今後の専任化についても82%の50本部が専任化の予定はないとしている。予定のない本部の大半は、その理由に人員不足や組織規模が小さいことをあげている。

2. 人事管理面の課題

(1) 職員の高齢化
 2006年現在、道内の消防吏員平均年齢は41.5歳、10年前に比べ2.7歳、20年前に比べ5.5歳上昇している。
 特に、組合消防本部では50歳代の職員の占める割合が高く、年齢構成に不均衡の是正は困難な状況となっている。今後、再任用制度導入など、職員の高齢化が人事管理面に重大な影響を与えることが懸念される。

(2) 人事異動・人材育成
 規模の小さな本部では、職員の絶対数が少なく一定の人事ローテーションができず、職員の兼務が多くなり人材育成が困難となりがちになる、という問題をかかえている。
 また、組合消防本部では、構成市町村ごとに職員を採用し、市町村間の人事異動を困難なものとしている。

3. 財政運営面の課題

 2005年度の市町村決算は、人口10万人以上30万人未満の消防本部(7本部)の一本部当たりの消防費が平均2,820百万円に対し、人口3万人未満の消防本部(29本部)の消防費平均は598百万円。このうち消防ポンプ車、防火水槽等の整備費や普通建設事業費は、前者の平均は183百万円に対し、人口3万人未満本部の平均は54百万円となっている。
 小規模本部は、財政規模が小さく、特殊車両など高価な資機材の導入が困難。

4. 組合消防本部のかかえる課題

 一部事務組合方式の消防本部は、事務の共同処理によって体制ができるなどの利点を有している。
 しかし、本道の組合消防は、一つの組織体として一体的な消防事務を遂行してきているとは言い難い。構成市町村が組合全体の運営より自らの市町村を優先しがちになり、実質的に構成市町村の意向が反映され、消防本部としての主体性が確保されているとは言い難い状況である。
 特に財政運営面では、本部経費の一部を除き、消防施設等の整備や管理運営に要する経費について、実質的にそれぞれの市町村で負担するいわゆる「自賄い方式」となっている。
 自賄い方式は、広い本道で消防の組合化を進め、常備体制を確立する上で、やむを得ない手法として用いられてきたものと考えられる。
 自賄い方式では、組合主導の計画的な消防体制の推進が図りにくく、同じ消防組合内の各市町村の財政力の違いにより消防力に大きな格差が生じるほか、組合全体としての計画的な消防施設等の整備が困難となるなど、一部事務組合方式本来の利点が十分生かされていない現状にある。
 この自賄い方式の改善が、本道の組合消防のかかえる諸課題を解決するための大きなポイントとなっている。


自賄い方式
(参 考)
自賄方式とは……本部事務経費(本部職員の人件費を含む)のみを構成市町村で負担(負担割合の按分は構成市町村で定める)
署所経費……本部事務経費以外の消防事務(施設整備や管理運営等)は実質的に市町村が、それぞれ負担するとしている。

 

5. 北海道消防広域推進計画の問題点

 国は、複雑多様化する災害対応、専門要員の配置、特殊車両・資機材の整備等が成されていないとして消防広域化を推進してきました。しかし、全国的に消防力の基準(国が地域、人口規模等により署所、職員数および車両等の配置の最低基準を定めたもの)を満たしている消防が非常に少なく、さらに、消防力の基準を消防力の整備指針(地域の努力目標)と変更したことにも消防力格差を生む要因にもなっています。努力目標とされた消防力の整備指針では、財政難と過疎に悩む本道では、職員減や署所の統廃合という消防力のマイナス方向に作用します。
 消防力強化を大前提とする広域化ならば、まず消防力の基準を満たしてから広域化すべきであり、広域化は結果的に地域から消防署所とマンパワーを奪うことになりかねません。
 北海道と他県を比較した図が【別紙1】のとおりであり、1支庁の大きさが県の大きさとその広大さは歴然。今まで、広大な地域をいかに少ない人員で消防サービスできるかが課題だったはずで、さらに広域化されれば、管轄する地域が本州の県単位まで広がり、消防力の維持どころか、行政サービス低下は免れない。
 点在する本道の市街地構成。消防署所の管轄面積が重複する箇所は非常に少なく、本道の消防で「時間と距離の壁」は、他地域よりさらに高いといえます。
 一部地域の都市化と財政力の乏しい自治体。この構造が変わらない限り、根本的な問題は解決せず、消防力の格差が広がるばかりです。これを解決することなく、広域化によって平均化しようとすれば、大きな歪みが生じてきます。広域化によっての消防力向上とは、全体の底上げがあってはじめて成り立つもので、広域化以前に、現自治体の消防力を一定水準に向上させることが求められます。
 また、住民に密接に結び付く消防サービスの転換期であるはずの広域化論が、住民や消防職員への十分な説明の機会と期間が設けられておらず、住民・消防職員の意見を聴取したとは言えない状況です。
 消防署所が人口減少により統廃合されるのではないか、消防職員が削減されるのではないか、さらに、職員の広域的人事異動により署所に配置された職員が地元の地理に疎く、消防活動に支障をきたすのではないかということが懸念されます。
 また、消防本部の自賄い方式が解消されたとしても、財政基盤の弱い小規模市町村の消防に必要な消防力が整備されるとは限りません。
 本道の市町村の財政はどこも厳しく、さらに、その財政力にも大きな格差があります。その格差を埋める抑制策として、小規模の市町村から消防が無くなることさえ考えられます。そもそも災害に即応体制を目的としている消防に費用対効果の考えを持ち込むのが大きな誤りです。

6. 北海道消防職員協議会の取り組み

(1) 民主党道民連合消防議連へ北海道防災消防課から推進計画概要説明
 北海道議会における「消防の広域化問題」の一般質問傍聴

(2) 自治労北海道本部への協力要請
 「消防広域化対策本部」の設置。
 要請項目
  ・基本組合への情報提供、意見集約
  ・未組織職場への学習会等への参加の呼びかけ
  ・情報開示及び議会対策

(3) 道本部と連携した道政への「要求と提言」(2007年11月及び2008年2月)
   ~「推進計画(素案)」を抜本的な見直し~
具体的要請項目
① 広域の枠組みを第二次保健医療福祉圏の21圏域【別紙2別図】とし、将来はさらに広大な5~6圏域としている。地域の実情を無視した一方的な消防の広域化の押し付けにならないよう、市町村消防の原則の維持、関係市町村等の意見聴取、さらに地域の実情を十分に踏まえた市町村の自主性を損なわない内容に抜本的に改めること。
② 消防の広域化は消防力向上が大前提であり、消防署の統廃合や消防職員の削減につながることのないよう、本計画に積極的に組み入れること。
③ 道内消防本部は、国で想定する広域化の面積を超えている消防本部が多数存在しており、北海道独自の消防の広域化のあり方を組み入れること。
④ 消防の広域化の効果を、具体的な実例を取り上げ、その効果を立証すること。
⑤ 「自賄い方式」の解消による、小規模消防署所の職員の処遇改善等具体的な改善計画を組み入れること。
⑥ 消防の広域化を行った場合の、職員の身分保障。
⑦ 全道一律の賃金体系及び変則勤務職場である消防職場の労働条件の均一化。
⑧ 消防団との連携の強化を図る具体的な方策を示すこと
 以上8項目の他、広域異動時における処遇改善。

7. 今後の課題

(1) 広域消防運営計画策定等の取り組み
   道本部、各地本、基本組合と連携した取り組み
(2) 消防救急無線のデジタル化の整備計画(2016年度)についての研究
   消防救急無線のデジタル化と合わせ、対象市町村におけるメリットの検証。
(3) 職員の身分保障および勤務条件などの処遇について意見反映。

【別紙1】北海道と他県の比較図

【別紙2】消防本部と地域分けの状況

【別図】全道を21の消防本部とする組み合わせ