【自主論文】 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり |
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1. はじめに 基幹産業の衰退と人口の流出。国家財政の窮迫を背景とした自治体財政の悪化。地方自治推進のために求めるべき権限委譲の前に立ちはだかる欠員不補充という現実。厳しい現状の中で、地域住民と行政職員(以下「職員」という。)はどのような地域政策を進めるべきか。 2. 研究対象自治体の現状と職員組合による財政分析・将来予測 (1) 自治体の概要 (2) 2008年度の財政分析と将来予測 |
2008年度はつかの間の雪どけ <2008年度地財計画の増額> |
(2) 近未来予想 2008年度は、過去最高水準の総額を記録した地財計画を背景として、久しぶりに一息つける財政状況となると予測した。また、2010年度までは前回行われた国勢調査(以下「国調」という。)人口が交付税算定に使用されるため、政治状況が急激に変化しない限り本自治体が財政破綻する可能性も非常に低い(資料2)。 しかし、2009年度中には新地方分権一括法が国会に提出され、2010年度には新しい地方制度がスタートする予定である。官僚等の抵抗があったにせよ、基礎自治体が担う役割の変更は一定程度なされるであろうし、一部の権限縮小もあり得る。 さらに、国調結果による大幅な歳入減の問題がある。本自治体の基準財政需要額の測定単位に用いられている国調人口は1,819人であるが、現在の住民基本台帳ベースの人口は1,291人まで減少している(2008年5月末日現在)。次回調査が行われる2010年度には工事も概ね終了し、工事関係者も地域を離れていると思われることから、次回調査時点での人口が1,000人を下回る可能性もある。段階補正があるとはいえ、多くの測定単位として使われる国調人口が一気に45%も減るという事態は想像するだけでも恐ろしい。 人口減少と高齢化による歳入の減少と福祉予算の増加、そして地方制度改革等の問題が多くの自治体で働く職員や首長の頭を悩ませ続け、時に絶望の前に立ちすくませてしまうのである。 |
(資料2) |
(3) 近未来予想2~小春日和はすぐ終わる~ 交付税算定基礎人口の水準維持、不交付団体の増加、選挙戦をふまえた地方への配慮等を背景として、2010年度までのごく短期間であれば決定的に財政破綻する自治体は少ないだろう。地方財政健全化法が施行されても、当面は財政健全化計画をたてる程度でしのぐことができる自治体が多いはずである。 しかし、それ以降が非常に厳しい。日本を取り巻く環境がさらに厳しさを増すからである。 その一例として少子高齢化問題を取りあげてみよう。 国立社会保障・人口問題研究所の推計(死亡・出生いずれも中位)によると、2005年度から5年間の生産人口の減少数は313万7千人、それに対して65歳以上の高齢者(以下「高齢者」という。)の増加数は365万1千人である(資料3)。行政側が担う高齢者年間1人あたりの社会保障費の総額を100万円と仮定しても、3兆6,510億円の負担増になる。ちなみに2005年度以降10年間での高齢者の予想増加数は約800万人。1人あたり100万円として約7~8兆円の負担増で、地財計画総額の約10分の1に相当する額となる。骨太方針2006による社会保障費の伸びの抑制が継続されたとしても、その頃になれば現在の不交付団体の余力は福祉予算にほぼ吹き飛ばされ、多くの不交付団体が交付団体に転落することになろう。財政力に乏しい地方への交付税の流れも減少することが予測される。 「都会は生産人口が増加し、高齢化率もそれほど上がらないから大丈夫」とお考えの方は、同研究所のHPをご覧頂きたい。東京都であれ愛知県であれ、共に生産人口の割合は一定して減少し、老年人口の割合は一定して増加すると予測されていることに気づかれるはずである。 |
(資料3) 将来推計人口 2006~2055年 表1-7 総人口,年齢3区分(0~14歳,15~64歳,65歳以上)別人口の増加数・増加率(5年):出生中位(死亡中位)推計 |
期 間 |
人口増加数(1,000人) |
年平均増加率(%) |
|||||||
総 数 |
0~14歳 |
15~64歳 |
65歳以上 |
総 数 |
0~14歳 |
15~64歳 |
65歳以上 |
||
平成17~22 |
(2005~2010) |
-592 |
-1,106 |
-3,137 |
3,651 |
-0.09 |
-1.29 |
-0.75 |
2.69 |
22~27 |
(2010~2015) |
-1,746 |
-1,638 |
-4,478 |
4,369 |
-0.28 |
-2.07 |
-1.13 |
2.81 |
27~32 |
(2015~2020) |
-2,695 |
-1,640 |
-3,172 |
2,118 |
-0.43 |
-2.32 |
-0.84 |
1.22 |
32~37 |
(2020~2025) |
-3,465 |
-1,246 |
-2,675 |
455 |
-0.57 |
-1.96 |
-0.74 |
0.25 |
37~42 |
(2025~2030) |
-4,046 |
-806 |
-3,556 |
316 |
-0.69 |
-1.39 |
-1.02 |
0.17 |
42~47 |
(2030~2035) |
-4,544 |
-638 |
-4,485 |
579 |
-0.80 |
-1.17 |
-1.37 |
0.31 |
47~52 |
(2035~2040) |
-4,985 |
-679 |
-5,584 |
1,278 |
-0.92 |
-1.33 |
-1.84 |
0.68 |
52~57 |
(2040~2045) |
-5,252 |
-797 |
-4,335 |
-119 |
-1.01 |
-1.68 |
-1.56 |
-0.06 |
57~62 |
(2045~2050) |
-5,291 |
-821 |
-3,703 |
-767 |
-1.08 |
-1.89 |
-1.44 |
-0.40 |
62~67 |
(2050~2055) |
-5,221 |
-698 |
-3,346 |
-1,177 |
-1.12 |
-1.76 |
-1.40 |
-0.63 |
国立社会保障・人口問題研究所HP(H18.12月推計)出生中位・死亡中位 |
3. 今、何をなすべきか
(1) 転換期の日本 (2) 住民自治の推進~住民なければ自治もなし~ |
(資料4) 地方自治の本旨(日本国憲法第92条) 1)住民自治……その地域の住民の意志に基づいて地方行政の運営が行われること。 2)団体自治……地方の運営は地方の住民の意思を反映した、国とは別個の統治機構によって行われること。 |
(3) 発想の転換と地域戦略 困難な状況の中で、地域が生き抜いていくためにまず求められるのが「発想の転換」である。 その一つは「国が悪い」、「役所が悪い」と言う非難をやめ、今自分たちにできることは何か、やらなければならないことは何かを真摯に追求する視点を持つことである。もちろん、選挙を通じて政治的政策転換を求めることは重要だが、地域社会は住民すべての生活の蓄積により形作られるものであるがゆえに、「自分自身が変わらなければ地域は変わらない」ということに気づくべきである。国や官僚を非難するだけでは何も変わらない。自らが考え、動くという発想がまず必要である。 さらにもう一つは、今までの中央集権的なシステムのもとで維持されてきた「市町村」という既成概念からいったん距離をおいて、自分たちが住む「地域」もしくは「生活圏」を基準にモノを考えるという視点を持つことである。そうすれば、地域政策を考える上での思考の幅は劇的に拡がることだろう。 さらに、日本が低コスト・低価格競争から脱却すべきであるのと同様に、地方淘汰の時代に生き抜くためには量より質の追求、すなわち他と大きく差別化を図れるような地域政策若しくは産業を育むという視点を持つことである。中央ではなく、自分の足下を見るのである。 これらの視点に立って「今、なすべきこと」を考えてみよう。 まず人が変わらなければ地域は変わらない。ゆえに①人材の育成が急務であろう。住民が賢くてもそれを反映できるシステムがなければ役に立たない。ゆえに②住民自治システムの確立も不可欠である。さらに、特に小規模自治体では将来における権限縮小も予想されることから、適切な住民参加システムから生み出される、③地域に必ず残さなければならない行政サービス・事務権限の優先順位を決定しておく必要もあろう。さらに、将来もその地域がその地域らしく存続するために、④その地域にしかできないような施策の追求が必要である。 4. 今、しておかなければならないこと ここでは、上記に挙げた4つの中で最も大切な人材育成について述べると共に、地域特有の施策の追求について若干触れてみたい。 (1) 人材育成 |
(資料5) 占冠村職員等の研修制度運用指針 (目的) 第1条 この指針は、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第39条の規定に基づき、行政はあくまで地域の主権者たる住民から行政事務を信託されているにすぎないという当然の原則にたって、単に知識を有することが素晴らしいことなのではなく、住民と共に考え、悩み、語り合いながら知識・情報を共有し、地方自治の本旨を全うすることのできる政策を立案し、的確、効率的かつ謙虚な態度で事務を遂行することのできる人材を育成するための研修に関し、必要なことを定めることを目的とする。 (対象者) 第2条 この指針に定める研修の対象者は、占冠村職員定数条例(昭和25年12月5日条例第12号)に定める職員のうち、教育委員会の所管に属する学校に勤務する一般職の職員を除く全ての職員、並びに占冠村定数外職員取扱規則(平成15年9月24日規則第10号)第2条第1項第1号に定める準職員(以下「職員」という。)とする。 ただし、村長が特に必要と認めた場合はこの限りではない。 (第3条~第5条略) (研修職員の責務) 第6条 研修職員は、研修の成果を職場で生かし得るよう努めることはもちろん、職員から要望があった時はすみやかにその内容を発表・説明し、職員等の知識、職務遂行能力の向上に寄与しなければならない。 2 研修制度を利用した職員は、住民等から要望があった場合は、速やかにその研修の内容を説明しなければならない。 3 前2項の発表、説明の義務を負う期間は、研修を受けた日から概ね1年間とする。 (以下略) |
地方公共団体の場合、首長は地域住民の直接選挙により選出されるため、議会に対してではなく、住民に対して直接責任を負うという側面がある。しかし、4年の任期中に住民意見に反する政策執行がなされたとしても、法律上住民はリコール請求など極端な手段でしか首長の責任を問うことができなかった。それゆえ、首長の任期途中でも住民意見を反映できるシステムづくりの必要性が認識されるようになり、住民自治確立への取り組みが全国で進められてきた。情報公開、政策評価、自治体や議会の基本条例の制定など、全国にはあらゆる先進事例が存在しており、住民自治システムを電化製品に例えれば、それぞれの家庭(自治体)の事情に合わせて製品を選び、状況に合わせて設定変更するだけで使用できる状況にある。もし使えないとすれば、それは製品のせいではなく、それを使う人間に問題があるのである。多くの商品知識を持って懇切丁寧に説明できる店員(職員)と、質の高い商品を最も安く購入し、フルに使いこなすことができる消費者(住民)がその地域にどれだけ存在しているかがその地域の将来の鍵を握ることになろう。
(2) その地域にしかできないモノの追求 5. 終わりに 最後に、自らが住む小規模自治体の将来について触れたい。 |