【自主論文】 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅲ-②分科会 地方再生とまちづくり |
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1. はじめに 私の住む北海道のニセコ町及び隣町の倶知安町ではここ数年、外国人スキー客が急増すると供に、外国資本などによる土地取引や投資・開発が相次いでいる。ここは昭和50年代に脱サラ組みの移住と合わせたペンション経営などが相次いだ地域である。しかし、この度の開発ブームは、世界有数と称されるパウダースノーを求め、世界の大企業等が大規模な観光開発を構想しており、土地取引などの規模からも、これまでにない過熱ぶりを示している。 2. ニセコエリアの定義 「はじめに」で申し上げた外国資本などによる投資は、6つのスキー場を有する秀峰ニセコアンヌプリ(標高1,308m)のすそ野が主な舞台となっている。 3. ニセコ町と倶知安町の概要 ニセコ町は、道央の西部、後志支庁管内のほぼ中央に位置し、東に支笏洞爺国立公園の秀峰羊蹄山、北にニセコ積丹小樽海岸国定公園のニセコアンヌプリ等の山岳に囲まれ、波状傾斜の多い丘陵盆地を形成している。内陸的気候のため、平均気温は6.3℃。冬季の最深雪は2mに達する豪雪地である。
4. ニセコエリアの観光客動向 |
2001年のアメリカ同時多発テロ以降、オーストラリア人を中心に、ニセコエリアに外国人観光客が増加し始めた。 グラフ1は、2002年度と2006年度の外国人観光客の延べ宿泊人数を表したものである。 ニセコエリア全体だと2002年度に12,113人泊だった外国人観光客が、2006年度には115,783人泊と、宿泊数が約10倍に跳ね上がるという驚異的な数字を示している。グラフ1を見ると倶知安町(ヒラフ地区)の伸びが特に顕著である。 因みに、ニセコエリアの2006年度の国内客を含めた宿泊者全体は122万人となっている。 また、表1~表3は、北海道内の外国人観光客の動向である。特筆すべきは、表1で示している、北海道に宿泊しているオーストラリア人の実に75%が表3で示すようにニセコエリアに宿泊していることである。 |
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表1
宿泊延べ数の多い上位5カ国
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表2
外国人宿泊数の多い市町村
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表3
豪州人宿泊数の多い市町村
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出典:「北海道観光入込客数調査報告書(2006年度)」北海道経済部観光のくにづくり推進局 |
5. オーストラリア人観光客増加のきっかけ |
一つには、2001年に起きた米国同時多発テロの影響で、それまでスキーでは欧州やカナダなどへ出向いていたオーストラリア人の目が、ニセコエリアに向き始めたこと。また、何より、パウダースノーと称される雪質の良さが、彼らを多いに引き付けたこと。 更に、ヒラフ地区在住のオーストラリア人で、地域にさきがけラフティング事業を立ち上げたロスフィンドレー氏(国土交通省選定観光カリスマ)の功績も大きいと言われている。ニセコエリアに日本人が成し得なかった「新たな川遊び」の概念を持ち込み定着させた功績は大きい。また、氏のビジネスモデルを踏襲し、地域に様々なアウトドア事業者の流入が促された。 この他、オーストラリアと日本との時差が1時間であるとか、欧米、カナダに比して距離が近く、物価も安い。優れた景観を有していることなどが、ニセコエリアの魅力として捉えられているようだ。 |
6. 土地取引など投資の過熱 現在、ニセコエリアは、観光客の増加のみならず、土地売買や観光開発に向けた投資が盛んに行われている。 〔ヒラフ地区の公示価格〕 オーストラリア人をはじめとする外国人観光客は長期滞在が主流で、スキーを中心とした1週間以上の滞在が通常であり、このことが既存のホテルやペンションではなく、生活様式にあったコンドミニアムへの需要を高め、ヒラフエリアでのコンドミニアム新築など各種の開発につながっている。特にコンドミニアムの建設は、ヒラフ地区において2006年3月で50棟300戸となっている。 |
(単位:ha) |
一方、ニセコエリアに住む外国人も急増している。ニセコエリアの人口は下記(表5)の通りである。 |
(単位:人) |
冬のスキー場を訪れると、多くの外国人スキーヤーが風景に溶け込み、国内観光客から冗談を交え「外国に来たのかと錯覚する」といわれるほどである。 7. 変化への準備 現在、ニセコエリアに押し寄せている開発の波に対し、現地住人などは期待と不安の入り混じった感情を持っている。 8. 土地利用のルールをつくる 観光開発が積極的に進み始めたニセコエリアでは、開発に対するルールづくりが急がれている。 9. 地域のビジョンづくりを担うNPB 「土地利用のルールを導入する前に、そもそも地域のビジョンが必要だ。ルール導入はビジョンづくりの後、時間をかけるべきで、急ぐ必要は無い」。これは、ニセコ町内で行ったある会合で出た意見だ。確かにその通りだが、ニセコ町では、ルールづくりを急いでいる。なぜならば、無秩序な開発が進められ、地域の財産(景観など)が失われてしまったら、取り返しがつかない場合があるからだ。 10. おわりに 小規模町村では、将来にわたって住民が地域に住み続けられるよう、様々な政策を講じる。例えば企業誘致もその一つだ。全国には、多くの時間と費用と労力を費やしても企業誘致が厳しい小規模町村が多数ある。そのような中で、地域の資源に恵まれたこのニセコエリアにおいて、現在進行しつつある観光開発は大いなるチャンスであり、同時に岐路でもある。 |