【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ統合分科会 地域社会の維持・発展をめざして

北海道消防広域化推進計画の問題点について


北海道本部/自治労根室市職員労働組合

1. 消防広域化とは

 消防組織法の一部を改正する法律が、2006年第164回国会で成立(2006年法律第64号)し、これにより「第4章市町村の消防の広域化」として新たな1章を加えられ、市町村の消防の更なる広域推進に関する規定が置かれた。
 自主的な市町村の消防の広域化を推進するため消防庁長官が定める「基本指針」、都道府県が定める「推進計画」及び広域化を行おうとする市町村が作成する「広域消防運営計画」等について規定されている。
 「基本指針」は2006年度中に既に策定済みで、2007年度は各都道府県で「推進計画」策定に向けた取り組みが行われており、この「推進計画」策定の段階で、都道府県内における消防の広域再編の組み合わせが検討されると思われる。その組み合わせによる市町村が、広域化した後の組織運営について「広域消防運営計画」を策定することになる。
 ここでいう市町村の消防の広域化とは、「2以上の市町村が消防事務を共同して処理すること又は市町村が他の市町村に消防事務を委託することをいう」(改正後の消組法第31条関係)と定義づけされている。また、新法に基づいて推進されようとする広域化の対象は、いわゆる常備消防で消防団はその対象ではないとしている。
 「推進計画」策定後5年度以内の2011年度までを目処に広域化実現に努めなければならないこととなっている。
 なお、道では消防を取り巻く社会情勢の変化や各地域における広域化の進歩状況によっては、地域の意向を尊重し、必要に応じてこの計画に検討を加え、変更について柔軟に対応するとしている。

2. 北海道の考え方

 災害や事故等が多様化及び大規模化しており、都市構造も複雑化している中、多様化する住民ニーズに的確に対応する必要がある。
 しかし、小規模消防本部は人員・装備・出動体制などに限界があり、高度な消防サービスに問題を有している。
 これら消防対応力を克服するため広域化に取り組み、少子高齢化及び人口減少に対応した自主的な市町村消防の広域化を検討する。
 国では、地域人口がおおむね30万人規模を目標としているが、道では広大な面積を有していることから、生活圏域など地域のまとまりを考慮する必要があるとしている。

3. 現在の進捗状況

 昨年11月に北海道消防広域化推進計画が道から提示され、2月25日に道民に対して「北海道消防広域化推進構想」が正式に提示された。
 これにより、根室管内においては、1市4町の消防本部(根室市・根室北部消防事務組合の2部)については根室圏として集約される予定となっている。
 また、北海道においては、現在「素案」を作成し11月に各消防本部・市町村を対象に説明会を開催する予定となっている。
 一方では、道として広域化対象市町村の枠組みが決定できないことから、「全国消防長道東地区協議会」では枠組みがどのように決定されても、広域化を図る上で整理しなければならない共通の課題があるとして、「釧根消防広域化検討部会」を設置し、課題の抽出作業を行うなど、本格的な広域化作業移行時にスムーズに推進できるよう整理を行っている。
 道で示している枠組みの案としては、21医療圏域、更には、消防救急無線のデジタル化共同整備割りの7圏域とされているが、旭川・函館・札幌などの地域事情では、特に旭川市が近隣消防との広域化事業経過中でもあり、これらを配慮した中で決めかねているのが現状である。

4. 広域化の必要性

 北海道が訴えている広域化の必要性についてまとめると以下のとおりである。

(1) 小規模消防本部の解消
 出動体制はじめ消防車両・専門要員確保等や、組織管理・財政運営面においても厳しく、住民に高度な消防サービスを提供する体制に問題を有している。
 また、道内の将来人口が2030年には約15%減少すると言われ、人口3万人未満の消防本部が約60%になる恐れがある。

(2) 効果
① 業務運営面の効果(高度な消防サービスの提供が期待できる)
② 人事管理面の効果(高度で専門的な知識技術の習得・職場の活性化)
③ 財政運営面の効果(財政基盤の強化を図り、資機材等整備の重複投資を避ける)
④ 自賄方式の解消(組合消防の課題としては業務運営面・人事管理面・財政運営面など構成団体の意向にされる「自賄方式」は、本部経費以外の消防施設整備等については、財政力の違いにより消防力に大きな格差を生じる結果となっている。)

5. 広域化の問題点

(1) 先の釧根広域化検討部会(各本部総務課長職)の中では、特に根室圏の場合、道の案で21圏域とした場合、根室市と根室北部であり人口的にも8万4千人、職員数も200人強であることに加え、根室北部消防事務組合に根室市をプラスしただけであり、国や道で示している課題解決に繋がらないとしている。

(2) 自賄方式を解消することが広域化のメリットの1つであるが、一方で自賄方式は地域の消防力の維持経費を当該住民が負担することから、消防サービスと負担がより明確になっている。
   自賄いを解消した場合、地域の消防力実態と負担のバランスが崩れる恐れがあり、地域住民の理解が得られない恐れがある。

(3) 北海道の消防本部の規模は単独26、組合42の計68本部であるが、うち10万人未満が86.8%、3万人未満が42.6%、職員が100人未満の小規模消防が54.4%更に小規模な50人未満のところも14.7%を占めている。
 小規模消防の課題としては高度な消防サービス提供が困難なこと、職員の充足率が低いこと、職員の兼務割合が高く専門体制が困難であること、財政規模が小さく高価な資機材導入が困難なことが挙げられる。

(4) 現在の消防組織が地方自治法上の一部組合や広域連合といった特別地方公共団体である場合には、広域再編がその組織編成を変える際には、既存組織を解散し、新たな枠組みでの特別地方公共団体が設けられることになる。つまり、現にある組織(一部事務組合等)の解散はあっても、統合再編の仕組みは現行の地方自治法上はないということになり、そこに働く職員は何もしなければ失職するということになる。
   地方公務員法では、「職員はこの法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職されず、又、条例で定める事由でなければ、その意に反して降給されることはない(第27条第2項)」とその身分を保障している。しかし、同法第28条第1項第4号では「職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」により、職員の意に反し免職することができるとなっている。
   組合消防の組織再編は、既存組織を解散することであり、新たな特別地方公共団体を設定する段階での規約に、一人の職員を欠くことなく「雇用を継続する」旨の文言が盛り込まれない限り、職員の身分の継続はない。

(5) 市町村の消防の広域化への取り組みを支援するために、総務省消防庁は2007年度から「消防広域化支援対策」として、消防の広域化に伴って必要となる経費に対して、ソフト・ハードの両面からの総合的な支援措置を講じることとしている。
   広域再編の財政措置は①消防防災施設等整備補助金の優先選択、②防災対策事業債(防災基盤整備事業)の交付税措置などです。再編時における臨時的・一時的な経費増への財源措置や借金返済の一部に関して国が面倒をみるとしているが、5年以内に再編しなければ、再編に伴う財源支援措置は打ち切りになるというものである。また、近年の国家財政の状況をみる限り、地方交付税の総枠が抑制され、地方交付税額を決定する元になる基準財政需要額の算定に用いられる補正係数の見直しにより、今以上に減額になる可能性もある。
   将来にわたっての財源の保障がなく、再編後の消防行政に係る費用は構成する市町村がそれぞれ負担しあうこととなり、今の一部事務組合方式の運営とあまり変わらず、再編による財政的なメリットは薄いといえるのではないか。

6. 対象市町村の取り組み

・釧根地方本部においては、この計画に対して意見書提出(パブリックコメント)の取り組みを行っており、根室市職労は以下のコメントを行った。


 広域再編を進めるにあたっては管轄地区の面積、交通事情等の地理的条件を充分に考慮し不必要な広域化を進めることのないようにするべきである。
 さらに、根室支庁管内の消防本部が根室圏の1箇所になることに伴い、職員の管内での異動が発生した場合には、職員の人生設計を根底から狂わせる恐れがあることから、持ち家のある職員等が対象となる場合には慎重に対応するべきである。
 なお、本計画についての道民への周知が不十分であり、意見等の募集期間についても短期間であることから、3月25日以降についても、道民へ本制度の周知及び広く意見を募集し、住民サービスを現状より低下させない取り組みを求める。
 制度導入後も、何らかの問題が生じた場合には直ちに地域住民と協議の場を設ける等の配慮が必要である。