1. 当時の情勢
(1) 1965年から施行となった市町村合併特例法(旧法)が2005年3月末で失効となり、道内では2006年3月末までに53市町村で合併を迎え、新しく21自治体が誕生しました。全国では、3,232市町村(1999年3月)が1,822市町村(2006年3月)となり、約44%の市町村が減少しました。
(2) 地方主権と自治の確立をめざしたはずの地方分権改革は、当時小泉内閣の下で地方自治の危機・破壊に変質させられました。地方交付税の大幅削減等により、自治体財政が逼迫に追い込まれ、合併気運が急に高まった背景がありました。
2. 新「北見市」誕生
(1) 2003年10月4日、端野町で北見市・端野町・常呂町・津別町による任意合併協議会が設置され、合併議論が本格的にスタートしました。まちづくり構想策定方針や財政シミュレーション、現況調査など市町合併の検討作業が進む中、2004年4月14日に留辺蘂町が加わり、「オホーツク圏北見地域合併協議会」として7月18日調印式が行われました。
(2) 2005年1月末、旧北見市では郵送と電話による住民アンケート調査が実施され、旧4町では住民投票が行われました。その結果、2月3日に津別町が合併協議会から正式に離脱することが議会採択となり、その後は残る1市3町で合併協定項目(312項目)の調整が進められました。
(3) 同年7~8月、道議会採択、道知事の承認、地方自治法7条1項にもとづく総務省告示を経て、翌2006年3月5日に新『北見市』が誕生となりました。
3. 労働組合の取り組み
(1) 1市4町の自治体労組執行部(自治労北見市労連・端野町職労・常呂町職労・津別町職労・留辺蘂町職労)は、市町合併を理由に一方的な職場合理化や労働条件の切り崩し等がないよう、2004年4月21日に「自治労北見地区合併対策協議会」を発足し、対策議論を進めていきました(第5回協議会より津別町職労離脱)。
(2) 前段の取り組みとして、2004年10月28日、1市3町の労組統一要求書を一斉に各首長に提出し、新市の賃金・労働条件は労使合意に基づくものとする約束を取り交わした上で、全体の労使交渉は1市3町組合執行部と旧北見市当局で行うことが確認されました。
(3) 合併対策協議会では2つの専門部会(賃金労働条件部会、組織部会)を設置し、研究協議を重ねました(合併後の賃金・労働条件が労使妥結に至るまでの間12回開催)。
(4) 賃金労働条件部会では、これまで各単組が積み上げてきた賃金・労働条件の検証や研究、単組間調整の具体案などの議論を積み上げ、具体的統一要求を確立しました。各単組で機関承認後、各首長に一斉に要求書を提出(2006年11月10日)、その後は自治労道本部や網走地方本部と連携を図りながら労使協議に向かいました。
(5) 組織部会では、市町合併とともに4単組を組織統合する方針を固め、統合後の規約や組織形態、財政、支部機能等の具体的議論を重ねながら、組織統合大会の開催に向け準備や調整を進めていきました。
4. 労使交渉
(1) 2006年2月20日、当時の北見市助役より、新市の賃金労働条件にかかる考えと職員配置案が組合に提示されました。しかし、合併期日(3月5日)目前にもかかわらず旧北見市制度への一元化を基本とする安易な考えが示されたに留まり、組合交渉団は冒頭、時間切れによる一方的制度改定は行わないことを固く約束させました。
(2) 職員配置交渉でも当局が職員数や欠員数を正確に把握していないことが露呈し、配置案の再提示を求めました。また、十分な議論と合意にもとづく職場形成の保障や、マスコミ等に対する情報管理の徹底等を強く申し入れました。
(3) 時間的猶予がないにもかかわらず、当局は誤った資料の提示や回答の持ち帰りを繰り返しました。基本賃金についても、旧北見市制度に統一すると回答しながらも旧3町職員に対してスライド方法など詳しい説明を行わないまま労使決着を図ろうとしました。そのため、交渉は連日連夜にわたり行われました。
(4) 最終局面の合併前日(3月4日)未明には、特勤手当の一方的全廃案を撤回させるなど前進回答を得たことや時間的要素を考慮し、組合交渉団は大綱妥結の判断をしました。同日、組織統合大会を開催し、妥結承認となりました。
(5) 市町合併後、組合員間の公平性を重視する議論経過を踏まえ、市職労は定期昇給期に段階をおって調整措置を施し、2006年度中に賃金一元化とする方針を確立しました。定期昇給期の調整は、特に減額影響となる職員数が多い2号俸間差の部分について、労使協議で毎期でなく1昇給期ずらした措置(4月期→7月期)としました。また、常呂自治区の医療職給料表適用者は給料表体系が全く異なることから、現行支給額を基準に調整スライドさせ、現給保障の上で行政職給料表への統合としました。
5. 組合組織統合大会(2006年3月4日)での妥結承認<一部抜粋>
(1) 基本賃金
現行北見市の給料制度に一元化する。北見市職員の学歴、経験年数等の算定基礎に基づき、3町職員の賃金を採用時から再計算して給料表に位置付ける。(ただし、給料表の具体的移行方法は3月中に労使協議で見出し、4月の給料より段階的一元化を図っていく。その間は現行受けている給与額を支給する暫定措置とする。)
(2) 通勤手当(自家用車等を利用する者)
・使用距離が片道2km以上5km未満 ………… 2,000円
・使用距離が片道5km以上10km未満 ………… 4,100円
・使用距離が片道10km以上15km未満 ………… 6,500円
・使用距離が片道15km以上20km未満 ………… 8,900円
・使用距離が片道20km以上25km未満 ………… 11,300円
・使用距離が片道25km以上30km未満 ………… 13,700円
・使用距離が片道30km以上35km未満 ………… 16,100円
・使用距離が片道35km以上40km未満 ………… 18,500円
・使用距離が片道40km以上45km未満 ………… 20,900円
・使用距離が片道45km以上50km未満 ………… 21,800円
・使用距離が片道50km以上55km未満 ………… 22,700円
・使用距離が片道55km以上60km未満 ………… 23,600円
・使用距離が片道60km以上 ………… 24,500円
・通勤のための自動車等の保管場所加算額 …… 4,200円以内
(3) 住宅手当
現行北見市の制度に統一。
(4) 管理職手当
部長職15%、次長職10%、課長職3%、課長補佐職3%削減。
(5) 特殊勤務手当
現行北見市の制度とする(見直しについて継続協議)。
(6) 宿日直手当
現行北見市の制度とする(常呂病院勤務の医師は別に定める)。
(7) その他の手当
現行北見市の制度とする。
(8) 労働時間・休日・休暇等について(当時)
職員の勤務時間、現在の勤務時間どおり週38時間45分とし、執務時間は午前8時45分から午後5時15分までとする。休日・休暇制度は現行北見市の制度を基本とするが、年次特別休暇制度は廃止とする。一方、社会情勢に見合った休暇制度の創設については研究を進める。
(9) 自治体関係労働者の労働条件について
関係する法令等の定めを順守した対応を図ることとし、臨時・嘱託職員の諸制度は現行北見市の制度を基本とする。なお、3町で任用されている臨時・嘱託・準職員等については、当分の間経過を踏まえた対応を行う。
(10) 女性労働者が働き続けるための条件確保について
地方公務員法が定める平等取扱の原則を基本とし、男女共同参画社会実現を推進するための職場環境整備に努める。
(11) セクシャル・ハラスメントの防止について
セクシャル・ハラスメントの防止を推進し、市民に身近な職場として、働く男女がそれぞれ尊重し合い、対等なパートナーとして働ける職場環境の整備に努める。
(12) 労働基本権の確立について
地方公務員法の定めるところにより対応する。
(13) 自治体業務のあり方について
自治体業務は当然に行政責任を負うものであるが、行政と民間との役割分担を踏まえた対応を行う。
(14) すべての賃金・労働条件の事前協議制確立と協約締結について
地方公務員法に基づく協議事項については、十分な話し合いを行う。
(15) 労働安全衛生の確立について
職員の労働安全衛生向上のため、法に基づく労働安全衛生体制を整備し、その機能充実に努めることとする。
(16) 分限条例の制定について
現行北見市の分限条例と同様に制定する。
(17) 高齢者再任用制度について
現行北見市の制度を基本として対応する。
6. 職場実態
(1) 現行職員数のもと、合併調整事務等の業務過重が大きな問題となりました。一方で、職員適正化や財政健全化計画により更なる合理化提案の追随も懸念され、市職労では「事務事業に見合った人員配置」を基本に、時間外労働の把握など職場実態調査や検証作業を行いました。
(2) 人員不足や業務過重・複雑化等に起因する職場ストレスの蔓延化により、メンタルヘルスなど心と体の健康を崩す職員が多発し、休職・病気休暇・通院者が後を絶たたない状況が続きました。現在も未だ深刻な問題です。労働安全衛生委員会の機能充実を図り、その予防策に努めることはもとより、悩み事や健康管理について相談できる体制の強化や、過重労働の軽減、職場環境の改善など早急に対策を講じる必要があります。
7. 地方行革に対する取り組み
(1) 北見市で合併議論が進んでいた時分、総務省は2005年3月29日「新たな地方行革指針」を各都道府県及び政令市に対し通知しました。この指針には、新たな行革大綱の策定又は従来の行革大綱の見直しを行い、①事務事業の再編・整理、廃止・統合、②民間委託等の推進、③定員管理の適正化、④手当の総点検をはじめとする給与の適正化など、5ヶ年(2005年度~2009年度)の「集中改革プラン」策定と2005年度中の公表を求めたものでしたが、当該年度中に合併予定であった北見市については、合併後の行政体制の整備の状況を見極めつつ適切に対応することとされていたことから、対応を先送りとしていました。
(2) 市職労は、地方分権の時代にあって国と地方は対等・協力の関係にあり、地方が自らの責任において取り組むべき課題について、国が何らかの方針を策定し地方に強要することは問題であるとの認識から、市当局に対して、①行革問題は自治体が主体的に検討すべき課題であり、指針は拘束力のないものであることから「集中改革プラン」の策定を行わないこと。②現行の行革大綱に基づく行革計画が進められているため、指針に基づく行革大綱・行革計画等の見直しは行わないこと。③定員管理については、今後の「道から市町村への事務・権限移譲」等により業務量の増大が予想されるため、安易な目標は設定しないこと。④新たな行革計画を策定する場合は、職員定数や賃金・労働条件に関わる課題など労使合意が前提であることから十分な協議時間を設けることを、当局に要求しました。
(3) 合併時に引き続き、北見市では現在も財政健全化や定員適正化計画に基づいた合理化が懸念されることから、市職労自治研を中心に住民サービスのあり方を研究しながら慎重に取り組みを進めていく必要があります。
8. 自治体財政の確立
(1) 合併当時、北見市は今日までの実施計画や、2004~2006年度までの「三位一体の改革」(国庫補助負担金改革4.7兆円、国から地方への税源移譲3兆円、地方交付税改革△5.1兆円)等の煽りを受け、2006年6月に試算された「北見市財政収支の見通し」で、2007~2008年度までの2ヶ年度における収支不足額が約50億円にも上ることが明らかとなりました。
(2) その後、2007年6月に成立した「自治体財政健全化法」や、総務省から「地方公共団体における行財政改革の更なる推進のための指針の策定について」(2006年8月31日付)、「公会計の整備推進について」(2007年10月17日付)の通知等により、北見市でも財政健全化や公会計改革に係る対応が進められてきました。
(3) この間、北見市では2007年2月に「中期財政計画」が策定され、2007~2008年度の収支計画が示されました。「平成20年度(2008年度)予算編成方針について」により示された2007~2008年度の2ヶ年度の試算値は、前述の収支不足を大きく上回る、およそ65億円の不足額が浮き彫りとなりました。
(4) これまでの経過から、財政状況を理由にさらなる賃金合理化等の提案が懸念されます。その合理化に対する組合の姿勢として「将来的な財政状況の推計と合理化案削減額に対する根拠」を明確にさせ、「労使合意が基本である」ことを確認した上で、具体的な議論を行うにあたっては、①財政再建計画の年数を固め、計画終了までに必ず財政再建を図る、②すべての債務を明確にさせ例外は作らない、③交付税・税収・人口など計画の基礎数字は安易な楽観論には陥らない、④市長の任期中や単年度のみの帳尻あわせを許さない、⑤根拠のない財政状況を理由とした便乗的な合理化提案は認めないことを基本に取り組んでいます。
(5) 北見市の財政分析を、単組自治研を中心に市職労一丸となって行い、市財政当局に財政見通しの説明を求めた中で、検証と提言を早急に行っていかなければなりません。
9. 自治区制度のあり方
(1) 市町合併の際、1市3町のこれまでの歴史や風土を尊重し、地域自らの責任と選択に基づく住民参画と協働による住民自治の推進、住民と行政が密接に連携できる体制の構築、および地域の特性を活かした個性豊かな活力あるまちづくりを目指すため、新「北見市」では独自の自治区制度を導入しました。
(2) 自治区制度は、地方自治法第202条の4や合併特例法などで規定されていますが、これら法による自治区は「組織の設置期間を設定しなければならない」「特別職の自治区長は設置できない」など決められたルールの中で設置しなければなりません。しかし、北見地区の合併協議は、これらルールを超えた「自治区の設置期間を限定しない」「総合支所を設置する」「まちづくり協議会を設置する」「特別職の自治区長を設置する」などが前提条件だったため、北見市独自の方式として「北見市自治区設置条例」を制定することになりました。
(3) 地方自治法第155条に規定する支所として「総合支所」を、地方自治法第138条の4に規定する市の附属機関として「まちづくり協議会」を、地方自治法第161条に規定する副市長として「自治区長」を各自治区に設置しました。「総合支所」は住民に身近な行政サービスやまちづくり協議会の事務などを司り、「まちづくり協議会」は市長や市教委等の諮問や自治区の重要事項について地域住民が審議・提言する機関として、「自治区長」は各総合支所の事務所掌や監理監督を行う立場にあります。
(4) 今日までの地域の特性や伝統、文化を大切に継承しながら個性あるまちづくりを発展させることと、新市としての一体性の狭間で、自治区制度論議は幾多も揺らぎました。合併調整方針についても、行政案件によって、すぐに新市一元化を図るもの、当面各自治区異なる対応とするが一元化に向け事務整理を早急に要するもの、今後も協議を継続とするものなど扱いも異なり、一部情報がふくそうしたり混乱を生じたりしました。
(5) 市はこの点について「それぞれの自治区で地域の特性や伝統、文化を大切に継承し、個性あるまちづくりを展開しながら、新市において一体的なまちづくりを進め、住民が連帯感を深めていくものと考えます」と表明していますが、いまだ一元化と自治区独創の明確な境界線はなく、一部不透明な行政計画となっています。居住地域による不均衡の是正も行政使命であり、今後も民意を機軸に十分な協議と検証を進めていくことが重要です。
(6) 予算について、各総合支所は地域状況を踏まえ本庁各部に予算要求し、市全体予算がまとまっていきます。投資的な事業は合併協議で合意された新市まちづくり計画を基に、所管のまちづくり協議会から意見を聴いた上で、具体的な事業実施計画を立て進めていきます。また、合併特例債を財源として積み立てする「地域振興基金」を設置し、自治区ごとに区分管理を行い、その利息は新市の市民の連携強化又は地域振興のための事業などに充てています。
(7) 合併後も財政展望は依然厳しく、市は財政健全化計画を提示しますが好転の兆しは見えません。議会審議を踏まえながら、全市的に施策見直し等に迫られている状況です。組合(自治研)として、住民サービスの拡充を基調に豊かな社会創造に向け、行政が取捨選択を誤らないよう、今後も適正な目で市政運営を注視し関与していくことが重要です。 |