【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ統合分科会 地域社会の維持・発展をめざして

阿賀野市の合併後の検証財政分析について


新潟県本部/自治研推進委員会・第1グループ

1. はじめに

 阿賀野市は、新潟平野のほぼ中央に位置し、南側に阿賀野川が流れ、東側の五頭連峰を背にして形成された扇状地に6,500ha余りの水田が広がる穀倉地帯である。
 県都(政令市)新潟市から南東へ約20km、東は新発田市・東蒲原郡阿賀町、西は新潟市南区、南は五泉市、北は新潟市北区にそれぞれ接している。磐越自動車道と国道49号線が南北に、国道460号線と国道290号線・JR羽越本線が東西に走り、大都市に近い自然環境豊かな地域である。
 面積は東西約18.5km、南北約15.3kmで192.9km2を有し、農地が73.2km2、宅地が12.1km2、山林が64.8km2となっている。
 2004(平成16)年4月1日に北蒲原郡安田町(人口約1万人)、水原町(人口約2万人)、京ヶ瀬村(人口約8千人)、笹神村(人口約9千人)の4カ町村が合併して、人口は47,043人(2005年国勢調査)で2000年の国勢調査時の48,456人と比較すると2.9%減っている。一方、世帯数は12,847で2000年の国勢調査時の12,632世帯と比較すると215世帯増えている。また、1世帯当たりの人員は3.66人と2000年の国勢調査時の3.84人と比較すると、『核家族化の進行により増加傾向』にある。なお、65歳以上の老齢人口は11,573人と人口に占める割合は24.6%となっている。

2. 合併後の検証

(1) 合併財政計画について【図表1】
 阿賀野市合併建設計画に登載されている財政計画(普通会計)における2004~2006年度の3カ年の決算について検証を行う。
① 2004年度の計画と決算を比較すると、歳出では、補助費等(△1,191百万円)・普通建設事業費(△482百万円)・公債費(△300百万円)が大幅な減少であったが、人件費(913百万円)・繰出金(853百万円)・積立金(778百万円)・扶助費(634百万円)が大幅に増加したことから、合計で1,516百万円のプラスとなった。補助費等の減については、一部事務組合で行っていたし尿処理、ごみ処理、消防・救急の業務への支出が合併に伴い阿賀野市の職員となったため人件費に移行し、結果として人件費が大幅に増加した。また、繰出金は、下水道特別会計への繰出が当初計画により多くなったためである。
  歳入では、地方交付税が859百万円のマイナスであったが、地方債(1,079百万円)と国庫支出金(986百万円)・県支出金(760百万円)が計画より大幅に増加したことから、合計で2,056百万円のプラスとなった。これは、前年度の打ち切り決算に伴う合併前団体の決算残金や未収分があったためである。
  結果として、合併初年度の単年度収支は、歳入決算21,042百万円、歳出決算20,502百万円と540百万円の黒字決算であった。
② 2005年度の計画と決算を比較すると、歳出では、人件費(935百万円)・繰出金(828百万円)・扶助費(590百万円)が2年連続して計画より多かったが、普通建設事業費(△3,644百万円)・補助費等(△982百万円)が大幅な減少であったことから、合計で2,055百万円のマイナスとなった。
  歳入では、地方交付税が△950百万円と2年連続マイナスであり、地方債も△1,644百万円と大幅な減少から、合計で1,429百万円のマイナスとなった。
  結果として、合併2年次目の単年度収支は、歳入決算19,592百万円、歳出決算18,966百万円と626百万円の黒字決算であった。
③ 2006年度の計画と決算を比較すると、歳出では、繰出金(970百万円)・人件費(787百万円)・扶助費(585百万円)・積立金(520百万円)が3年連続して計画より多かったが、普通建設事業費(△2,680百万円)と補助費等(△1,118百万円)が大幅な減少であったことから、合計で1,709百万円のマイナスとなった。
  普通建設費の2年連続の大幅減については、合併計画における普通建設事業費は初年度と7年目から10年目の5カ年について各年2,762百万円とし、合併2年目から6年目までの5カ年について毎年5,106百万円として、各年次毎の具体的な積み上げが行われなかったためだと考えられる。
  歳入では、地方交付税が△1,347百万円と大幅な減少となり、地方債も△1,432百万円と2年連続の減少により、合計で1,337百万円のマイナスとなった。
  結果として、合併3年次目の単年度収支は、歳入決算19,543百万円、歳出決算19,171百万円と372百万円の黒字決算であった。

(2) 直近の公表データ2006(H18)年度における各種財政状況等について【図表2
① 財政力指数(3カ年平均)は0.471であり、類似団体(類団)87団体中34位で、中位より少し高い順位である。
  また、合併2年前の2002(H14)年度(0.374)と比較すると、0.097ポイント上回る。
② 経常収支比率は89.9%(類団中32位)と、類団の中位より少し高い順位にある。
  また、2002年度(84.0%)と比較すると、5.9ポイント上回り、財政の弾力性が失われつつある。
③ 人口1人当たり人件費・物件費等決算額は127,825円(類団中35位)と、類団の中位より少し高い順位にある。
④ 1人当たり地方債現在高は549,997円(類団中45位)と、類団の中位にある。
  また、2002年度(417,735円)と比較すると、4年間で132,262円も上がっている。
⑤ 実質公債費比率は19.6%(類団中64位)と、類団の下位にある。
⑥ 人口1,000人当たり職員数10.77人(類団中54位)と類団の中位より少し悪い順位にある。
  また、2002年度(9.77人)と比較すると、1.00人多い。これは、合併前の一部事務組合で行っていたし尿・ごみ処理、消防・救急の業務の職員が合併に伴い阿賀野市の職員となったためである。
⑦ ラスパイレス指数は91.7(類団中11位)と、類団の上位にあり、賃金が低い水準になっている。

(3) 住民意識(アンケート結果)について【図表4】
 2007(平成19)年9月に阿賀野市が行った『市民意識調査』(20歳以上の市民3,000人を無作為に選び、アンケート用紙を郵送した。うち、1,147人が回答し、回収率は38.2%だった。)においては、「合併して良くなったことはない」と55.7%が回答している。
 また、合併して悪くなったことについて(複数回答)は、「サービスが低下した」が23.5%と1番多く、次に「市役所や支所が以前より遠い存在に感じる」が18.2%、「地域の連帯感が薄れてきた」が13.4%、「支所の窓口で用事の足りないことが多くなった」が12.9%、「旧町村間の住民感情にわだかまりが生じた」が7.6%と続いている。
 2007年3月に新潟県本部自治研推進委員会で行った「市町村合併に関する住民アンケート」(20歳以上の市民2,000人を無作為に選び、アンケート用紙を郵送した。うち、583人が回答し、回収率は29.2%だった。)においても、同様に、合併に対して「住民は評価していない」結果となった。
 旧町村別に特記すべき結果について、報告する。
① 高齢者福祉サービスについて、全体として「良くなった」「やや良くなった」の合計が11.1%であるのに対して、「低下した」(28.5%)と「やや低下した」(14.9%)の合計が43.4%と、「低下」回答が多い。その中で「低下した」と回答した町村順位は、旧水原町で36.7%、旧笹神村32.2%、旧京ヶ瀬村22.7%、旧安田町17.2%と、旧水原町がやや突出した結果となっている。
② 集会所や公民館あるいは自治会への支援について、全体として「良くなった」「やや良くなった」の合計が4.9%であるのに対して、「低下した」(34.5%)と「やや低下した」(16.3%)の合計が50.8%と、「低下」回答が多い。その中で「低下した」と回答した町村順位は、旧水原町で40.9%、旧安田町35.2%、旧笹神村31.3%、旧京ヶ瀬村21.6%と旧水原町が突出し、旧京ヶ瀬村が一番低い結果となっている。
③ 国保料金について、全体として「良くなった」「やや良くなった」の合計が4.3%であるのに対して、「低下した」(29.7%)と「やや低下した」(17.8%)の合計が47.5%と、「低下」回答が多い。その中で「低下した」と回答した町村順位は、旧水原町で37.1%、旧笹神村29.6%、旧京ヶ瀬村28.4%、旧安田町18.0%と旧水原町が突出し、旧安田町が一番低い結果となっている。
④ 各種健康診査負担金について、全体として「良くなった」「やや良くなった」の合計が4.5%であるのに対して、「低下した」(46.8%)と「やや低下した」(14.4%)の合計が61.2%と、「低下」回答が多い。その中で「低下した」と感じた町村順位は旧水原町で54.0%、旧笹神村46.1%、旧京ヶ瀬村45.5%、旧安田町36.7%と旧水原町が一番突出し、旧安田町が一番低い。
⑤ これらの特徴ある調査結果から、旧水原町においては、合併によりいくつかの点において旧4町村の中で相対的に一番「不満」が多くあると感じており、反対に、旧安田町においては相対的に一番「不満」が少ないと感じていると考えられる。
 なお、このアンケートで顕著に結果が表れた原因は、「三位一体の改革」に伴う地方交付税の削減による行政サービスの低下、増税(各種控除の廃止、定率減税の半減)や市長選のシコリなどによるものではないのか。

(4) 住民サービスの検証について
① 『高齢者福祉サービス』の検証
  高齢者福祉サービスの中で、1番不満が多かった「紙おむつ助成事業」について、合併後の経過を検証した。



  『集中改革プラン』の実施により、住民税非課税世帯については、月額5,000円、年額で6万円も減額となった。一方、均等割課税世帯や所得割課税世帯では、年額で18,000円や36,000円の減額となった。
② 『自治会への支援など』の検証
  旧安田町の例により、2004(平成16)年度は、集会施設維持管理交付金、行政運営交付金ともに交付されたが、合併協定書に基づき、制度の見直しが行われ、2005(平成17)年度から廃止となった。
③ 『国保(料)税』の検証
  税率、均等割や平等割の変更はなかったが、65歳以上の公的年金等の控除額の見直し(140万円⇒120万円)により、モデルケース(年金収入200万円、65歳以上の夫婦(妻は収入なし)の場合)で、国民健康保険税が年額5,180円増えた。



④ 『各種健康診査負担金』の検証
  『集中改革プラン』の実施により、「人間(脳)ドック助成事業」については、疾病を予防する「一次予防」に重点を置いた対策に予算をシフトするため、助成額が2,000~27,000円の減額となった。
  また、各種検診の個人負担も、『集中改革プラン』の実施により、2006(平成18)年度から①基本健康診査が1,000円、②胃がん検診と乳がん検診が1,500~2,000円、③子宮がん検診が600~2,000円の値上げとなった。その他の検診も、肝炎ウィルス検診(40歳以上69歳以下)を除いて、300~1,000円個人負担が増えた。
  助成額の減額や個人負担金の値上げにより、受診率が下がり、早期発見が遅れ、医療費の増大に繋がりはしないか、その後の検証が必要である。







3. まとめ

(1) 市財政について
 「三位一体の改革」は、約4.7兆円の国庫補助負担金の改革と、約3兆円規模の税源移譲、それに臨時財政対策債を含めた地方交付税約5.1兆円の削減という結果に終わった。
 地方単独事業費や給与費などが削減され、地方財政計画の歳出、基準財政需要額の関係経費がカットされたことによって、国庫補助負担金の廃止・削減分だけ地方交付税が増える予定が、結果的に交付税の増額につながらなかった。
 一般財源の推移を見る場合、地方税のほかに、三位一体改革の移行過程における地方税増税の代替措置としての所得譲与税を加算し、それに、普通交付税とその代替財源としての臨時財政対策債を合わせた額で比較する必要がある。
 下表のように、その合計額は、2000(平成12)年度の約113億3,500万円をピークに年々減少を続け、三位一体の移行期である2004~2006年度は2000年度と比較して、約11億3,100万円から9億8,600万円も減っている。


地方税+所得譲与税+普通交付税+臨時財政対策債
単位:千円

(2) 住民サービスについて
 阿賀野市が行った『市民意識調査』で、合併して悪くなったことについて、1番になった「サービスが低下した」(23.5%)に表われているように『集中改革プラン』の実施により、前述の「住民サービスの検証について」以外についても、次のように事業の見直しや廃止となった。
① いとしご誕生祝金支給事業の廃止(2005年度)
② チャイルドシート購入助成事業の廃止(2006年度)
③ 先天性代謝異常検査指導管理料給付事業の廃止(2006年度)
④ 長寿祝金支給事業の廃止(2006年度)
⑤ 高齢者世帯住宅改修助成事業の廃止(2007年度)
⑥ 各種生涯学習・コミュニティ活動補助事業の廃止(2006年度)
⑦ 中学校各種大会参加費助成事業の見直し(2008年度)
⑧ 特定疾患医療費等助成事業の廃止(2006年度)

(3) 人的サービス(職員数)について
 職員数は、合併に伴い一部事務組合の職員が市職員となったため、全体的には大幅に増えたが、2007(平成19)年4月1日現在の職員数は514人で、2年間で34人減っている。その内訳は、本庁が261人(6人増)、支所113人(12人減)、施設140人(28人減)となっている。
 定員適正化計画では、2005(平成17)年4月1日から2010(平成22)4月1日までの5年間で消防職員を5人増やす一方で、職員を53人純減させ、病院職員は78人削減する計画である。
 今後予定されている小学校の統廃合や保育園の民営化によって、ますます職員数は減らされることになる。また、本庁機能が更に充実する一方で、支所が出張所化していく。
 阿賀野市の『市民意識調査』の「合併して悪くなったこと」で、2番目と4番目になった「市役所や支所が以前より遠い存在に感じる」(18.2%)、「支所の窓口で用事の足りないことが多くなった」(12.9%)に表われているように、市職員の大幅減少によって、住民サービスの内容が変質していくのではないのか。

4. おわりに

 阿賀野市の合併した時期が「三位一体の改革」などによる影響と重なって、合併による行政サービスの低下なのか、「三位一体の改革」などによる行政サービスの低下なのか、その原因が渾然一体となって、両住民アンケートの結果に表れたと考えられる。
 三位一体改革により臨時財政対策債を含めた普通交付税は、2000(平成12)年度のピーク時に比べて約1割に当たる7億円も減ってしまった。そのしわ寄せを住民サービスと人件費(職員)の削減で賄ってきた。
 昭和の大合併の時も、1953年の町村合併促進法に地方財政平衡交付金の算定上の特例期間や起債の優遇措置などの財政支援があったが、翌1954年に地方交付税の改革があり、交付金のカットと同時に財政支援も半減された。このため、合併市町村の多くは、財政危機が深刻化して、そのツケが住民に転嫁されたことが、平成の大合併においてもまた、同様の結果になってしまった。
 自治体職員として、合併した市町村の住民に、「合併して、どの分野で苦労をかけたのか」を説明し、「今後、どの分野でお手伝いできるのか」の合意を求めなければならない。

【図表1】 財政計画と決算の比較(普通会計:単位百万円)

【図表2】 市町村財政比較分析表(平成18年度普通会計決算)

【図表3】 安田町+京ヶ瀬村-財政分析表

【図表4】 阿賀野市の合併分析資料