1. はじめに
別府市では2006年度から指定管理者制度が導入された。対象となった施設は273施設で、その内41施設において制度導入を行い、現在3年目となる。
制度導入までは、大分県及び別府市が大半を出資する(財)別府コンベンションビューロー(以下ビーコンと呼ぶ)と、別府市が100%出資する(財)別府市綜合振興センター(以下振興センターと呼ぶ)によって対象施設の大半が委託管理されていた。指定管理者制度導入によって、ビーコンは解散、振興センターは業務縮小され、これら公的団体の存続と職員の雇用が脅かされる事態となったことは言うまでもない。
今回のレポートは制度3年目を迎え、公募、非公募施設共に最初の指定管理者の切替時期となることから、主に振興センターの管理してきた対象施設について、問題点を整理し、今後の運動としての取り組みと方向性についてまとめてみた。
2. これまでの経過
別府市では前市長と現市長共に市職労、振興センター労組共に推薦して選挙をたたかい勝利した市長であり、ビーコンや振興センターの指定管理者からの排除など強行措置はなかったが、公募による指定管理者制度の導入がビーコンや振興センター内に混乱をもたらし、結果的にビーコンは解散、振興センターは規模縮小や運営方針の転換などを行わざるを得なくなった。
ビーコンプラザは大分県及び別府市からの派遣職員と数名のプロパー職員、嘱託職員で構成されていたが、解散となり、別府市職労の要求によりプロパー職員及び嘱託職員は希望者を共同企業体新法人に雇用する形で決着した。
振興センターは、以前から市の財政状況を理由とした賃金合理化や職員数の削減などが進められて来ていたが、2003年の自治法改正と同時に市議会自民党会派を中心に、縮小や解散などがたびたび議論されてきた。この間、振興センターでは定期昇給ストップや期末勤勉手当の半減などの賃金合理化を受けると共に、職員の退職不補充により職員数は激減している。指定管理者制度の導入によって、スポーツ施設は任意指定となったが、温泉施設の内2/3が民間管理者となり業務縮小され、施設の臨時嘱託職員は新たな民間の指定管理者に引き継がれている。
3. 対象施設の状況
対象施設をその性格によって分類すると、観光文化施設、温泉施設、スポーツ施設、その他施設となる。また、指定の方法では公募、非公募に分けられるが、振興センターは専門性を有する施設としてスポーツ施設、観光施設を中心に任意指定されている。(別紙参照)任意指定の施設は3年を1サイクルとしているため、2009年3月末の二巡目に向けた取り組みが必要となっている。
(1) 文化観光施設(ビーコン、コミュニティーセンター、志高湖野営場)
① ビーコンは西日本最大級、最大8,000人を収容できるコンベンションホールと市民ホールを併せ持つ施設であり、公募により他県でも実績を持つコンベンション運営会社を中心とする共同企業体が指定管理者となった。これまで管理運営を行っていた(財)別府コンベンションビューローも応募したが、企画力の差が大きく、指定からはずれた。この施設は県の所有するコンベンションホールと別府市の所有する市民ホールを同時に指定管理させるものであったが、東京など首都圏での営業活動を行ったり、主催者と一緒に企画にあたるなど観光業のノウハウを生かした運営により、この2年間で利用者が20%の伸びとなっている。すべて利用料金制をとっており、指定管理料でみると委託管理の時より25%減となっており、財政的効果も確認できている。指定は県と別府市の共同指定であり、協定書における事業報告やモニタリングについて指定管理者にはかなり厳しい取り決めとなっているため、今後、設置者が定期的なモニタリング、立ち入り検査などを継続することによって適正な運営が期待できる。
② コミュニティーセンターは、小劇場と温泉及び屋内相撲場を有する施設で、公募により綜合振興センターが指定を受けた。委託管理時より施設利用者数が減ったが、これは制度上、減免の利用者が減ったためで、利用料収入においては委託管理の時よりもわずかに増となっている。また委託管理の時には出来なかった独自事業による利用者増の取り組みが出来ている。
③ 志高湖野営場は振興センターの任意指定となっている。ここは湖を中心としたキャンプ場、レストハウスなどの観光施設であるが、以前は国民宿舎が併設されており、現在は廃止されている。当初から振興センターが管理しており、特殊な複合施設と言うことで任意指定となっている。これも独自事業の展開により利用者増の取り組みが出来ている。
(2) 温泉施設
市営温泉は全部で12施設あり、公募によって大きく3つのグループに分かれ、民間メンテナンス業者、まちづくりNPO法人、綜合振興センターの指定となっている。市直営のまま年度途中で改修を行った鉄輪むし風呂は、地元の自治会を中心としたまちづくりグループへの任意指定となった。施設の特性をうまく利用した独自業の展開により利用の伸びた施設もあるが、地域性の強い施設は使用料制となっており、利用者が増えることで手間が増えたり、また、最近の原油高騰による経費増から赤字状態に陥っている施設も出てきている。
(3) スポーツ施設
陸上グランド、野球場、サッカー場などの野外運動施設であり、利益性が薄いことや芝生管理など特殊性があることなどから、振興センターへの任意指定となっている。当初公募も検討されていたことから、設置場所により2つのグループに分けての指定となった。管理料の削減効果を除けば制度導入の効果は出にくい施設である。屋内施設である市営温水プールはグループには属さず、公募による単独での指定管理となっている。利用料金制であるが、高熱水費(原油価格)の高騰によって運営費がかさみ問題化している。
(4) その他の施設
その他の施設については、制度導入前のデータがなく、比較が出来ない。総て団体育成的な意味合いの施設が多く、今後も任意指定が続くと思われる。指定管理者の報告事項が以前より増えただけで、委託管理の時とほとんど変化はない。
4. 制度導入後の問題点
(1) 全般的には自治体の経費削減効果は明らかである。しかし市民サービスの向上に関しては、個別の事例によって効果の出ている施設とほとんど変化のない施設に大別でき、サービスの低下は今時点では表面化していないが、時間が経つことによって今後起こる可能性を含んでいる。
(2) 指定管理者との協定書や管理要項が担当課で作られており統一性が薄い。特にモニタリングや立ち入り検査に関する規程は統一されておらず、施設の安全管理や労働環境の調査など極めて不十分な点が見られる。民間の指定管理者では、企業の経営状態や経営方針に関与する可能性があることから、担当課がモニタリングや立ち入り検査を遠慮している傾向が見られる。
(3) 指定管理者制度は指定期間の短さと、その都度公募の形態を取ることから正規職員の雇用が出来にくい制度と言われているが、実際の現場はビーコンを除き、時間給のパートや臨時職員が大半で、正規雇用は最初から念頭に置いているとは思えない。各施設共に雇用状況に関するモニタリングや監査の取り決めがなく、経費削減のみを追求することによって市の施設でありながら非正規労働者や低賃金労働者を作ってしまう環境が出来あがっている。清掃作業やや警備などは軽微な業務として再委託しており、雇用条件の悪化は市民サービス低下や事故につながる可能性がある。
(4) 温泉施設では受け持った施設によって利益率に差が出てきている。使用料制とした鉄輪むし湯では当初予測より利用者の増により維持管理費がかさみ、補正予算により指定管理料を増加した(初年度のみ)。利用料金制の温泉施設においても、シャワー用水がボイラー加熱のため、燃料高騰により利用者が増えれば増えるほど赤字が増える施設も出てきている。社会情勢や経済情勢など指定管理者の努力とは別の原因でコストがかさむことにより、管理意欲を削がれたり、市民サービスの低下につながる可能性を含んでいる。
(5) これまで管理委託の時は準公的機関である振興センターを信頼して任せてきた傾向がある。当初制度導入を管轄した政策推進課も指定が終わると、あとは担当課にお任せになっており、各担当課も新しい制度に代わったにもかかわらず委託管理時代の時と同様に指定管理者任せになっている。
5. 振興センターの状況と今後の取り組み
(1) 振興センター労組は自治労に加盟しており、指定管理者制度においては別府市職労と連携した取り組みを進めてきた。これまで市議会内においても指定管理者制度導入による不必要論が出されるなど、守りの姿勢に終始している。振興センターは現在、スポーツ施設と市営温水プールを任意指定で管理しており、今年度末で2巡目の切替の時期を迎え、来年度以降は公募か任意指定かの選択となる。公募の場合、振興センターとしても当然、応募していくが、スポーツ施設管理は振興センター収入の大半を占めているため、もし指定からはずれた場合、存続の危機を迎えることとなる。逆に指定を得た場合はその後の継続した指定を受ける可能性も大きくなる。再度の任意指定の場合、さらに3年後の公募を控えることとなり、いずれにせよ経営体力を高めると共に、市職労と連携して交渉力を強化する必要がある。
(2) 指定管理者制度が導入された2006年度より、振興センターは労使協議の下に、公募に耐えられる経営体力を付けるために3カ年の経営改善計画を策定し、指定管理者制度二巡目に向けた体力づくりを行っている。その結果、徹底的な支出削減により2006・2007年度の2年続けて黒字を計上し、目標を達成することとなったが、勤務時間の増大や賃金の据え置きなど厳しい労働環境も受け入れているのも事実である。
(3) 指定管理者制度は、失敗すれば新たな指定管理者を指定するまで自治体直営で運営するか、又は一定期間施設を休止せざるを得なくなる。指定管理者制度がまだ発展途上の制度とするならば、事あらば、即座に管理を引き継ぐことのできる振興センターの様な公的団体の必要性はまだまだ残っている。今後2巡目の切替に向けて警備やメンテナンスなどの民間企業との共同企業体による公募への取り組みや、新たに指定管理者制度を導入する施設などの公募に対しては積極的に参加していくことが組織防衛であり、職場を守るたたかいとなる。
6. 当該市職労の役割
埼玉県ふじみ野市におけるプール死亡事故に見られるように、指定管理者制度になっても設置者の安全管理責任は逃れられるものではなく、これまでの委託管理から指定管理者に代わったとしても、その責任においては同じである。さらに、指定管理者制度により自治体側の仕事は決して少なくなることはなく、委託管理時代よりは、日常的なモニタリングや立ち入り検査、指示命令など担当課の業務はむしろ多くなることを認識しなければならない。
また、振興センターに管理委託していた時は予算的にもある程度確保出来ており、相手が公的団体ということから、日常的な協議や指示が可能であり、役割を分担する垣根に幅があったため、担当各課は振興センターと一緒になって問題解決に取り組むことが出来た。しかし、指定管理者制度においては設置者と管理者の役割分担が明確に分けられており、特に民間指定の場合、企業の利益に関わるなどの理由で、設置者が指定管理者に指示命令が行いづらくなっているのが実態である。
したがって、切替時期にあたっては協定書や管理要項にいおいて、安全管理に関しての設置者の定期的、臨時的なモニタリングや立ち入り検査が出来るよう整備すると共に、日常的な協議や指示指導が出来るような関係を求めていかなければならない。
また、労働者福祉政策の上からも雇用状況を確認する労働モニタリングについても整備していく必要がある。実際に3年又は5年の期間では、民間事業者が元を取ろうとすれば、臨時やパートなどの非正規雇用に頼る事が多く、雇用環境は決して良いとは言えない。さらにまた再委託による清掃や警備業務は最低賃金すれすれの雇用が実際である。雇用環境は施設の安全管理や市民サービスの質の低下に大きく影響する可能性があり、雇用状況の把握は早い段階でルール化する必要がある。さらに、一度制度が定着すると、設置者側の担当課も指定管理者側もマンネリ化し、可能な限り手間を省こうとし、任せきりになる。そのことによって指定管理者の経営や運営が見えなくなり、事故の原因になりかねない。
これらの問題を解決するためには、切替時期を控えた中で、当該市職労が問題点を指摘すると共に振興センターの必要性を明らかにし、交渉による解決を求めることが不可欠となってきている。
(別紙)指定管理者一覧表 |