1. はじめに
本レポートは、新潟県本部自治研推進委員会の第1グループ委員会で取り組んできた『市町村合併に伴う財政分析及び住民サービスと負担の検証』のテーマの1つである「合併後の住民サービスがどうなったか、住民は合併して本当に良かったと思っているのか」について、阿賀野市の住民を対象にアンケートを社団法人新潟県自治研究センターに委託して実施した調査結果をまとめたものである。
阿賀野市は、2004(平成16)年4月1日に、北蒲原郡安田町、水原町、京ヶ瀬村、笹神村の4か町村が合併して、人口約47,000人の合併特例法により市に昇格した合併(極小都市形成型)で、調査時点では3年が経過しようとしている。
2. 調査結果等について
(1) 調査の方法
① 調査対象 選挙人名簿から無作為に選んだ2,000人
② 実施期間 2007(平成19)年3月13日~3月25日
③ 調査方法 郵送による調査
④ 回収数 583人(回収率29.2%)
(2) 実施結果
○問1. 福祉サービスについて
① 『保育所や子育て支援について良くなったと感じますか。』
「変わらない」が29.0%と1番多いが、「低下した」「やや低下した」の合計が33.1%と、「良くなった」「やや良くなった」の合計の8.6%を大きく上回る。
② 『高齢者福祉サービスについて良くなったと感じますか。』
「低下した」が28.5%と1番多く、「やや低下した」を含めた割合が43.4%と、「良くなった」「やや良くなった」の合計の11.1%を大きく上回る。
また、「低下した」の町村別では、旧水原町で36.7%と1番高く、旧安田町で17.2%と1番低い。
○問2. 地域活動について
① 『地元の祭りなど諸行事について良くなったと感じますか。』
「変わらない」が44.9%と1番多いが、「低下した」「やや低下した」の合計が40.3%と、「良くなった」「やや良くなった」の合計の6.2%を大きく上回る。
② 『集会所や公民館、あるいは自治会への支援などについて良くなったと感じますか。』
「低下した」が34.5%と1番多く、「やや低下した」を含めた割合が5割を超える。
また、「低下した」の町村別では、旧水原町で40.9%と1番高く、次に旧安田町の35.2%で、旧京ヶ瀬村が21.6%と1番低い。
○問3. 教育について
① 『小中学校の通学手段については変化がありましたか。』
「変わらない」が49.6%と1番多い。
○問4. 行政サービス全般について
① 『広報誌や情報公開制度などについて良くなったと感じますか。』
「変わらない」が48.5%と1番多い。
② 『各種公共施設の利用について良くなったと感じますか。』
「変わらない」が39.6%と1番多いが、「低下した」「やや低下した」の合計が36.7%と、「良くなった」「やや良くなった」の合計の10.5%を大きく上回る。
③ 『道路や下水道・農業集落排水など生活基盤の整備について良くなったと感じますか。』
「変わらない」が41.9%と1番多い。
④ 『除雪の対応について良くなったと感じますか。』
「変わらない」が52.8%と1番多い。
○問5. 公共料金について
① 『国保(料)税について良くなりましたか。』
「低下した」が29.7%と1番多く、「やや低下した」を含めた割合が47.5%と、「良くなった」「やや良くなった」の合計の4.3%を大きく上回る。
また、「低下した」の町村別では、旧水原町で37.1%と1番高く、旧安田町で18.0%と1番低い。
② 『公共施設の利用料について良くなりましたか。』
「変わらない」が31.4%と1番多いが、「低下した」「やや低下した」の合計が43.6%と、「良くなった」「やや良くなった」の合計の5.0%を大きく上回る。
③ 『保育所、幼稚園の保育料について良くなりましたか。』
「わからない」が44.9%と1番多いが、「低下した」「やや低下した」の合計が20.1%と、「良くなった」「やや良くなった」の合計の4.1%を大きく上回る。
④ 『学校給食費について良くなりましたか。』
「わからない」が45.1%と1番多い。
⑤ 『各種健康診査負担金について良くなりましたか。』
「低下した」が46.8%と1番多く、「やや低下した」を含めた割合が6割を超える。
また、「低下した」の町村別では、旧水原町で54.0%と1番高く、旧安田町で36.7%と1番低い。
○問6. その他 市町村合併後、特にお感じになったことがあれば、ご記入ください。
自由記載欄については、288人(49.4%)の方から貴重な意見を寄せていただいた。そのほとんどは、合併に対して『不満』の内容である。ただ、「市営バス」については、「評価する」意見がある一方、「ムダ」とする意見がある。
また、町村別では、旧安田町の住民は、「良くなっていない」「サービスの低下」などの『不満』の声が一番多いものの、「市営バス」に対する評価が高かった。
旧水原町の住民からは、237人中133人(56.1%と4か町村中1番多い)から様々な意見があった。その内容は、「良くなっていない」「サービスの低下」「地域格差」などの『不満』の大合唱であり、地元の「水原郷病院」に対する『不満』や『不安』の声も多かった。
(3) 総括
問1から問5までの各項目のすべてについて、「低下した」「やや低下した」の合計が「良くなった」「やや良くなった」の合計を上回っていること、自由記載欄において、ほとんどの意見が『不満』であることから、住民は、合併に対して『評価していない』と考えられる。
その原因は、「低下した」と回答した住民が1番多かった項目である問1の②『高齢者福祉サービス』、問2の②『自治会への支援など』、問5の①『国保(料)税』と⑤『各種健康診査負担金』にあるのではないのか。
① 『高齢者福祉サービス』の検証
高齢者福祉サービスの中で、1番不満が多かった「紙おむつ助成事業」について、合併後の経過を検証した。
紙おむつ助成事業(月額) |
04(H16) |
05(H17) |
06(H18) |
差(06-04) |
住民税非課税世帯 |
10,000円 |
7,000円 |
5,000円 |
△5,000円 |
住民税均等割課税世帯 |
5,000 |
3,500 |
⇒ |
△1,500 |
住民税所得割課税世帯 |
5,000 |
3,500 |
2,000 |
△3,000 |
『集中改革プラン』の実施により、住民税非課税世帯については、月額5,000円、年額で6万円も減額となった。一方、均等割課税世帯や所得割課税世帯では、年額で18,000円や36,000円の減額となった。
② 『自治会への支援など』の検証
旧安田町の例により、04(平成16)年度は、集会施設維持管理交付金、行政運営交付金ともに交付されたが、合併協定書に基づき、制度の見直しが行われ、05(平成17)年度から廃止となった。
③ 『国保(料)税』の検証
税率、均等割や平等割の変更はなかったが、65歳以上の公的年金等の控除額の見直し(140万円⇒120万円)により、モデルケース(年金収入200万円、65歳以上の夫婦(妻は収入なし)の場合)で、国民健康保険税が年額5,180円増えた。
区 分 |
04(H16) |
05(H17) |
06(H18) |
差(06-04) |
所得割(7.4%) |
19,980円 |
⇒ |
25,160円 |
5,180円 |
均等割(22,100円×2人) |
44,200 |
⇒ |
⇒ |
0 |
平等割 |
29,000 |
⇒ |
⇒ |
0 |
軽減額 |
△25,550 |
⇒ |
⇒ |
0 |
合 計 |
67,630 |
⇒ |
72,810 |
5,180 |
④ 『各種健康診査負担金』の検証
『集中改革プラン』の実施により、「人間(脳)ドック助成事業」については、疾病を予防する「一次予防」に重点を置いた対策に予算をシフトするため、助成額が2,000~27,000円の減額となった。
また、各種検診の個人負担も、『集中改革プラン』の実施により、06(平成18)年度から①基本健康診査が1,000円、②胃がん検診と乳がん検診が1,500~2,000円、③子宮がん検診が600~2,000円の値上げとなった。その他の検診も、肝炎ウィルス検診(40歳以上69歳以下)を除いて、300~1,000円個人負担が増えた。
助成額の減額や個人負担金の値上げにより、受診率が下がり、早期発見が遅れ、医療費の増大に繋がりはしないか、その後の検証が必要である。
区 分 |
04(H16) |
05(H17) |
06(H18) |
差(06-04) |
人間ドック助成事業(国保) |
25,500円 |
21,500円 |
16,500円 |
△ 9,000円 |
脳ドック助成事業(国保) |
27,000 |
⇒ |
25,000 |
△ 2,000 |
人間ドック助成事業(社保) |
9,000 |
5,000 |
0 |
△ 9,000 |
脳ドック助成事業(社保) |
27,000 |
0 |
0 |
△27,000 |
基本健康診査(個人負担) |
04(H16) |
05(H17) |
06(H18) |
差(06-04) |
19歳以上69歳以下 |
1,000円 |
⇒ |
2,000円 |
1,000円 |
70歳以上 |
0 |
⇒ |
1,000 |
1,000 |
胃がん検診・乳がん検診 |
04(H16) |
05(H17) |
06(H18) |
差(06-04) |
35歳以上69歳以下 |
500円 |
⇒ |
2,000円
(40歳以上に)
|
1,500円 |
70歳以上 |
0 |
⇒ |
2,000 |
2,000 |
子宮がん検診(車両検診) |
04(H16) |
05(H17) |
06(H18) |
差(06-04) |
20歳以上69歳以下 |
400円 |
⇒ |
1,000円 |
600円 |
70歳以上 |
0 |
⇒ |
1,000 |
1,000 |
子宮がん検診(施設検診) |
04(H16) |
05(H17) |
06(H18) |
差(06-04) |
20歳以上69歳以下 |
800円 |
1,600円 |
2,000円 |
1,200円 |
70歳以上 |
0 |
⇒ |
2,000 |
2,000 |
3. おわりに
本来は、合併して数年で結果を求めることは早すぎるのかもしれないが、現時点の住民の生の声を知りたかったので、敢えて住民アンケートを実施した。
このアンケートで顕著に結果が表れた原因は、「三位一体の改革」に伴う地方交付税の削減による行政サービスの低下、増税(各種控除の廃止、定率減税の半減)や市長選のシコリなどによるものではないのかと、考えられる。
今回は、14項目について住民アンケートを実施し、そのうち、4項目について合併後の検証を行った。
今後は、「合併して、どの分野で住民に苦労をかけたのか」について、より具体的な検証が必要である。
なお、このアンケート調査を実施した6ヵ月後に阿賀野市が行った『市民意識調査』(20歳以上の市民3,000人を無作為に選び、アンケート用紙を郵送した。うち、1,147人が回答し、回収率は38.2%だった。)においても、「合併して良くなったことはない」と55.7%が回答している。
また、合併して悪くなったことについて(複数回答)は、「サービスが低下した」が23.5%と1番多く、次に「市役所や支所が以前より遠い存在に感じる」が18.2%、「地域の連帯感が薄れてきた」が13.4%、「支所の窓口で用事の足りないことが多くなった」が12.9%、「旧町村間の住民感情にわだかまりが生じた」が7.6%と続いている。
阿賀野市・合併に関するアンケート集計結果 Ⅰ 基礎データ
阿賀野市・合併に関するアンケート集計結果 Ⅱ 質問内容毎の単独集計
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