【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅲ統合分科会 地域社会の維持・発展をめざして

「集中改革プラン」における財政収支試算の概要


大分県本部/地方自治研究センター 福田 正直

※ 本稿は、大分県内市町村の「集中改革プラン」がほぼ出揃った2006年11月にまとめたレポートである。以後諸状況の変化もあるが、内容の手直しをしていないことをお含みいただきたい。今、市町村は合併づかれ、行革づかれ、04ショックづかれに呻吟している。「財政健全化法」のもとで第二次「集中改革プラン」の追い打ちが懸念されるところである。

1. はじめに

 総務省は2005年3月、新地方行革指針(地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針)をまとめ、すべての自治体に行革大綱の見直しと「集中改革プラン」の策定及び公表を要請する通知を出した。これは1997年の地方行革指針(地方自治・新時代に対応した地方公共団体の行政改革推進のための指針)につづく行革強化指針であり、これまで自治体を震撼させてきた「三位一体改革」(2004~2006年度)と、新たな射程を示した「歳出・歳人一体改革」(2006~2011年度)とを合わせて、さらに自治体財政を押え込む行政統制といえるものである。
 「歳出・歳人一体改革」では人件費、社会保障関係費の削減がターゲットになっており、地方交付税については地方の不安をおさえるために、地方交付税の現行法定率や現行水準は当面維持するとしているが、地方財政計画の枠組みの中で地方交付税の削減がさらにはかられることを想定しておくべきであろう。
 「集中改革プラン」の目標課題としては
① 事務・事業の再編・整理
② 民間委託等の推進(指定管理者制度の活用をふくむ)
③ 定員の削減(4.6%以上の純減)と管理の適正化
④ 手当の総点検をはじめとする給与の適正化
⑤ 公営企業、公社、三セクの経営健全化と見直し
⑥ 経費節減等の財政効果の明示
が設定されているが、改革の具体化にあたっては目標の数値化を求めている。「集中改革プラン」の計画年次は2005年度から2010年度までの5ヶ年間で、2005年度中に計画を策定し公表することとされた。
 大分県内では、合併作業との兼ね合いもあって遅れている国東市が策定されれば、18市町村の「集中改革プラン」がすべて出揃うことになる。その内容は県がまとめた「大分県内市町村の集中改革プランの取組状況」(概略)を参照(本稿末尾に別掲)されたい。ただし県がまとめた2006年10月時点では、由布市、国東市が未策定で、2市をのぞく16市町村の集約となっている。
 「集中改革プラン」にそって市町村は行革の取り組みを進めていくわけだが、取り組み状況の検証については次の観点が必要であろう。
① 行革が自己目的化し、「住民福祉の増進をはかる」という自治体としての基本的使命が損われていないか
② 行政機能の低下はきたさないか
③ 住民サービスの低下、とりわけ周辺対策の切捨てはないか
④ 人員及び人件費の削減、団塊の世代退職にともなう補充対策、人事管理は適正で無理はないか
⑤ 指定管理者制度、PFIの導入、市場化テストの対応はどうなっているか
⑥ 行革にもとづく財政試算(推計)はどうなっているか、財政の持続可能性は確保されているか
などである。
 なお、本稿では「集中改革プラン」における財政収支試算(推計)に注目し、行革にともなう財政状況の動向を概括してみることとする。
 試算には、おおむね行革前試算と「集中改革プラン」にそった行革後の試算の二つがあるが、行革前試算は行革なかりせば財政は直ちに行話まるという内容がほとんどで、つまり行革は避けられないという理由づけの例証として使われている。しからば行革によって、財政は持続可能性を維持しうるのかどうかということこそが問われるのであるが、行革後試算の殆んどはその期待に応え切れず、基金とりくずしで財政収支をようやくつぐなう綱渡りの状況が続く。一部の市町村は「集中改革プラン」でも年次後半には財政がパンクするという事態は避けられない、としている。

2. 財政収支試算(宇佐市の場合)

 「集中改革プラン」における財政収支の試算として、分り易くまとめられている宇佐市の場合を例示する。〔資料1〕は改革を行わなかった場合、〔資料2〕は改革を行った場合の試算である。


〔資料1〕5ヵ年の財政収支試算(改革を行わなかった場合)

〔資料2〕5カ年の財政収支試算(改革を行った場合)

 改革前試算〔資料1〕では、要調整額(歳人-歳出)の項で示されているように2005年度以降毎年多額のマイナス収支となり、対応すべき基金は2007年度に枯渇、2008年度には早くも財政再建団体に転落するとしている。
 改革後試算〔資料2〕では、行革効果により、要調整額としての収支の差額は少なくなり、基金とりくずしで改革期間中の財政運営はしのげる。しかし基金残高からみてその2~3年先は不透明だ。
 各市町村の財政収支試算は、おおむね宇佐市の場合と大同小異である。

3. 財政収支試算の前提条件~多くの不確定要素

〔資料3〕
 財政収支試算の前提条件で、市町村を悩ませている最大の問題は言うまでもなく地方交付税の動向だ。地方交付税の当面の試算は、内閣府の示した推計値を参考にしているが、「三位一体改革」につづく「歳出・歳人一体改革」(2006~2011年度)の具体化がどうなるのか、税源移譲や税制改正の動向、さしあたりは新型交付税の導入がどうなるのか、不確定要素は多い。
 新型交付税は、複雑にして精緻すぎるとされる現行の地方交付税の算定方式をあらため、面積と人口による算定を一部導入しようというものだが、基本的には地方交付税削減の一環とみていい。国は2007年度から導入する新型交付税は3年間で5兆円規模をめざすとしているが、市町村ごとの配分格差が生じることへの手当てが必要となろう。大分市では、新型交付税の導入を想定した財政収支試算を公表〔資料3〕したが、地方交付税総額は減額となり行革後試算は一層厳しいものとなった。
 大分市に限らず各市町村は、新型交付税をふくめた試算の見直しをせまられることになる。地方税と地方交付税の増減は相関関係にあるが、ゆるやかな景気回復と企業収益の増にともなって、国、地方共に税収増の傾向となっている中で、国の財政制度等審議会では地方交付税の法定配分率に手をつける検討もされている。多くの不確定要素に翻弄される中で、市町村の財政収支試算もしばらくは揺れつづけることになろう。

4. 財政規模は縮小傾向に

 市町村の財政規模は一部の横ばいと増をのぞき、おおむね縮小傾向となっている。増加傾向は大分市のみである(〔資料3〕参照)。これは主として市税の伸びと基金繰入れによる。財政規模縮小の事例として豊後大野市の財政収支試算〔資料4〕を例示する。
 豊後大野市では財政規模が2005年度306億円から2009年度には232億円とかなり縮小する。これは歳人で見ると地方交付税、国、県支出金、市債、その他(繰越金など)の減、歳出でみると人件費、公債費、投資的経費の減による。特に歳入の市債の減に見合うかたちで投資的経費が89億から38億円へと激減しており、投資余力のない財政構造へと進むことがうかがえる。
 旧5町2村の農村都市型合併の豊後大野市としては、今後行政の一層のスリム化をせまられることになろう。「平成の大合併」が究極の行政改革と言われる一端が、この財政規模の縮小に如実にあらわれているとみていい。
 財政規模縮小という中にあって各市町村が試算した各費目の傾向はどうなっているのであろうか。
  税………………おおむね微増(景気回復)、ただし一部は横ばいか減
  地方交付税……いずれも減(総務省・内閣府の推計値、シビアな推計)
  市   債……おおむね減(抑制基調、一部は一定額の枠)
  人 件 費……一部をのぞき減(国の抑制策、団塊の世代退職)
  扶 助 費……おおむね増、一部で減(高齢化、少子化)
  公 債 費……増、減、横ばいと分かれる(政策方針と財政事情)
  投資的経費……おおむね減、一部で激減(財政制約)
 以上の傾向をみると、合併による財政効果(6市町村は非合併)は国からの視点だけにとどまり、行政規模のアップサイジングの中で財政規模のダウンサイジングをせまられる市町村は、行革のけわしい難路に追い込まれてしまった感がある。


〔資料4〕中期的な財政収支の試算

5. 危うい、財政の持続可能性

〔資料5〕財政指数推計(05年度~14年度)

 「集中改革プラン」における財政収支試算は、以上みた通り
① 試算の前提条件に不確定要素が多く、さらに今後も厳しさが予想される
② 財政規模は縮小傾向をたどる
③ 財政収支の補いに基金とりくずしが続き、基金残高が払底、予算が組めない事態になる
という状況が一般的である。ただし一部の市町村では、「集中改革プラン」の財政効果に加え、これまで保持してきた財政の健全性や基金ストックで、しばらくの財政運営に支障は生じない。
 財政の持続可能性を読み取るためには、財政指数の推計値が公表されていればいいのだが僅か数市町村にとどまる。ここでは中津市の場合を例示する。
 〔資料5〕にみる中津市の財政指数推計は2005年11月公表の「中津市の財政推計」及び2006年1月公表の「中津市行財政改革緊急2ヶ年計画」の財政試算にもとづいて割出された推計値である。周知の通り、経常収支比率の適正値は75%以下、公債費負担比率は15%で警戒ライン、20%が危険ラインとされている。〔資料5〕の数値は行革しても尚旦つの数値であり、財政健全化どころか財政破綻に到る厳しい数値である。経常収支比率の100%超が10年も続く(2007年度はのぞいて)ということは、推計としてはあり得ても財政運営の実態としては正常とは言えない。公債費負担比率の20%超も起債不如意をやがて招来することとなる。仮りに各市町村の財政指数推計が同様のものであるとすれば、行革後も財政の持続可能性はかなり危ういものと言わざるを得ない。
 各市町村は「集中改革プラン」における財政収支試算とあわせ、財政指数の推計を行い、行革審議機関や議会の議論に付すべきであろう。
 なお、大分県がまとめた2005年の「市町村普通会計決算の概要」から各市町村の財政指数を〔資料6〕として示す。2005年度は改革プランの初年度であり、これを起点として財政指数がどのように変化していくか注目されるところである。


〔資料6〕財政構造の弾力性

6. いくつかの課題

 「集中改革プラン」における財政収支試算に関連していくつかの課題といえるものを提示しておきたい。

(1) 財政収支試算の各年見直し
 行革の進み具合や手直しと経済や国の財政政策の動向にあわせ、財政収支試算は毎年の見直しが必要である。

(2) 地方交付税一本算定後の見通し─軟着陸できるかどうか
 合併後10年で地方交付税の合併算定替えは終わり、5年の段階的削減を経て一本算定となり、地方交付税は激減する。一本算定後の地方交付税は類団比較である程度把握できる。その見通しを前提とした軟着陸の方途を検討しておくべきである。

(3) 非合併の小規模町村
 合併第二幕において小規模町村への合併圧力はさらに強まる。地方交付税の削減などさらなるムチに対する構えが必要。

(4) 特別会計などの連結で財政全体の状況把握を
〔資料7〕会計別平成17年度末元利金現在高
 財政収支試算は一般会計だけに限られている。しかし夕張市の財政破綻は三セクなどの膨大な一時借入金操作などが原因であった。「集中改革プラン」による行革は、一般行政だけでなく企業会計、特別会計、公社など三セク会計の各分野の行政にも及ぶ筈だ。したがって一般会計以外の関連会計にも目配りし、財政運営の全体像をしっかり把握すべきである。参考までに〔資料7〕として中津市の借金残高を示す。通常、自治体の借金残高は普通会計の元金のみで示されるが、これはあくまで国の財政統計上の数値であって、住民にとっての借金総額ではない。〔資料7〕でみれば財政統計上の借金額は普通会計元金の約437億円であるが、これに特別会計、企業会計を加え、さらに元金+利子の合計でみれば約872億円となる。さらに実質的な借金ともいえる債務負担行為残高、及び公社の一借残高を加えると住民の債金総額はなんと919億円に上っている。
 したがって一般会計の財政収支試算とあわせ、その他会計も念頭に置いた財政運営、つまり連結性に留意すべきだ。

(5) 公債管理の重要性
 合併自治体では、合併前の駆け込み事業による起債をふくめ旧市町村の起債残高の継承や、合併特例債の発行で公債費のふくらむところがあること、起債はこれまでの許可制から協議制となり、原則自由化されたことから自治体の自己責任が問われることになったこと、2006年7月には日銀がゼロ金利を解除し、公債の金利上昇が今後避けられないこと、起債制限比率に替わる実質公債費比率が新たに設定され、財務管理の指標がより厳しくなったことなどから、起債とその償還の公債管理が重要となってきている。

 以上の課題もふくめて、財政収支試算が行革効果の実効性を実証し得るものであると共に、あわせて財政健全化の方向を示す内容となることが今期待されているのだが、「集中改革プラン」における財政収支試算の状況を概括する限りでは、その展望は開けてはいない。

7. おわりに

 国は、「地方財政再建特別措置法」にかわる新破綻法制の検討に入っている。2年以内に制度化する予定だ。財務管理の新指標としてより厳しい実質公債比率も設定した。実質公債費比率では18%以上で起債は許可制、25%以上で起債制限団体となる。総務省がこの指標で全市町村の調査を行ったところ、18%以上の許可制限にかかる市町村数は406、全市区町村の22.2%に上っている(2006.8.29現在)。
 「昭和の大合併」では合併と財政破綻・再建が同時進行している。今日の「平成の大合併」においてもその可能性は大きい。「集中改革プラン」の5ヶ年間で財政危機を脱出できるのか、あるいは財政破綻に陥るのか、自治体は重大な岐路に立たされている。