【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-①分科会 これでいいのか!? 日本の人権

平成の合併と豊岡市の人権政策の現状について


兵庫県本部/豊岡市職員労働組合 水嶋 弘三

1. 旧出石町の人権課題に対する取り組みについて

 出石町では、1965年に国の「同和対策審議会答申」が出され、1969年に「同和対策事業特別措置法」が施行されて以来、同和問題の早期解決を行政の最重要課題と位置付けて、同和対策事業並びに同和教育・啓発事業に取り組んできました。
 差別のない、共に生きる社会の創造を目指し、1987年に制定した町民憲章において「私たちは、命を尊び人の和を大切にする豊かな町をつくります」と掲げ、町民自らが取り組む姿勢を示すとともに、1993年には「人権尊重の町宣言」を行い、あらゆる差別の解消と人権の確立を誓い、その姿勢と決意を明らかにしました。

(1) 「人権尊重の町宣言」ができるまで
 1993年制定の人権尊重の町宣言は、自然発生的にできたものではない。部落解放同盟出石支部長名で出石町議会に出された請願がそもそものきっかけである。
 1993年といえば、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(地対財特法)が1987年に施行されて6年ほど経過した頃だが、最後の同和対策法として制定された同法は、2002年3月末で失効する時限立法であった。
 この法律がある間に、出石町に同和対策の礎としての「条例」を制定するための布石として、人権尊重の町宣言制定の請願が必然的に部落解放同盟出石支部から起案されたのである。
 この請願は、議会教育福祉常任委員会に審査付託となり、紆余曲折を経て成立したが、原案にあった「部落差別をはじめとするあらゆる差別」という表現が修正され「部落差別をはじめとする」が削除されて、骨抜き状態と化した別物が制定されたのである。何はともあれ、こうして「人権尊重の町宣言」は成立した。
 1994年、出石町地域改善対策協議会は、過去の取り組みに対して一定の評価を与えつつ、今後の教育・啓発活動の推進について提言し、同和問題の速やかな解決を打ち出しました。1997年には、教育・啓発活動に資するための全世帯調査(同和問題アンケート調査)を実施し、町民意識把握に努めながら新たな方向を模索してきました。
 出石町の取り組みの中で特筆すべきは、1989年度から実施している「心ふれあう区民のつどい」が挙げられる。係長級以上の職員全員が町内学識経験者とチームを組み、毎年度町内51区すべてを巡回して、住民との直接対話により部落差別をはじめ障害者・高齢者・女性・子ども・外国人・薬害等々、幅は広いが「人権」をキーワードに研修の場として運営してきた。
 この取り組みは2004年度までの16年間継続され、その結果、住民の意識改革はもとより町職員の資質向上に大いに効果があった。いわゆる知識としての「人権感覚」からより皮膚感覚の「人権感覚」へと磨きが掛けられたといえる。

(2) 人権尊重のまちづくり条例ができるまで
 1999年3月、町内の人権関係11団体の連署による「出石町人権啓発推進条例」の制定を求める請願が町議会に出された。この請願は、教育福祉常任委員会に審査付託された後、同年6月の定例会で採択された。勿論、請願の代表者は部落解放同盟出石支部(長)であるが、大きな後ろ盾として、組合員の多くが前述の「心ふれあう区民のつどい」で人権感覚を鍛えられている「旧出石町職員組合」との共闘関係があったと考えている。
 当時、対象地区出身の議員が発起人となり、部落解放同盟出石支部長・書記長との3者で協議して「機は熟した」として「条例制定」の請願について決断した。しかし、議会の構図は厳しいものがあった。
 審査を付託された委員会の審査意見には、「請願者の願意を尊重し、本条例は、同和・障害者・女性・子ども・高齢者等の差別をなくするとともに、弱者の人権を擁護するため、意識の啓発と行政の支援を積極的に展開すること。」とあるように、様々な社会的課題を、人権の視点から光を当てて見直してみることが求められている。
 2002年6月から2004年3月まで、この条例に基づく人権尊重のまちづくり審議会の審議が重ねられ、途中、2003年8月には、出石町人権尊重のまちづくりフォーラムを開催するなど、全町を巻き込んで議論が交わされ、2004年3月、「出石町人権尊重のまちづくり基本計画のあり方について」と題した答申が出石町長宛に出された。
 これを受けて出石町は、約1年かけて答申に沿った内容の基本計画を作成し、2005年3月に公示し、基本計画が策定された。

2. 市町合併に翻弄される人権条例について

(1) 北但1市5町による合併協議での条例の扱いと人権対策課(仮称)について
 人権条例は、合併協議の部会すら定かでなく、たらいまわしにされながら、合併後はその精神を引き継ぐという「抽象的表現」となった。
(2) 新市組織・機構に人権を所管する課もしくは部設置の動きについて
 合併協議会作成の新市組織機構案には、人権推進課がはっきりと位置付けられていたが、市町長協議の場で市長の反対により「そのような課は不要」となった。隣の養父市に人権推進課が設置されていることを引き合いに出せば……。
(3) 部落解放同盟北但支部連絡協議会(以下「北但支連協」という。)は、連合と連携して新市における人権推進課設置について連合兵庫・但馬地域協議会として合併協議会の会長(中貝豊岡市長)宛てに、新市における人権推進課設置を文書で求めたが……。
① 市当局の言い分
  人権対策は、特定の部・課で所管するのではなく、すべての部署において人権尊重の視点から施策を展開するものだ。というもの。
② 今後の課題について
  市として「人権」をどう柱に据えるかという「理念」が見えない。従って、市の理念として人権を政策の中心に据えるという考えはないようだ。すべての部署を監督指導する人権所管課の必要性を改めて感じている。
  また、新豊岡市職労としても、旧1市5町の中で人権感覚に温度差があることは4年目を迎え強く感じるようになった。人事交流が進む中、一度原点に戻って「人権」を運動方針の中心に据えた取り組みと活動の再点検が必要な時期を迎えている。


同和対策年表(出石町)
 
1965年
(S40年)
同和対策審議会答申(昭和40年8月11日)
 
1969年
(S44年)
同和対策事業特別措置法(昭和44年7月10日~昭和57年3月31日)
 
1982年
(S57年)
地域改善対策特別措置法(昭和57年4月1日~昭和62年3月31日)
 
1987年
(S62年)
地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律
(昭和62年4月1日~平成14年3月31日)
出石町町民憲章(昭和62年7月30日)
 
1989年
「心ふれあう区民のつどい」始まる
 
1993年
(H5年)
出石町人権尊重の町宣言(平成5年12月10日)
 
1995年
(H7年)
「人権教育のための国連10年」(平成7年~平成16年までの10年間)

 

 
2000年
(H12年)
人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年12月~)
 
2002年
(H14年)
出石町人権尊重のまちづくり条例(平成14年3月8日)
 
2005年
(H17年)
出石町人権尊重のまちづくり基本計画策定(3月)
新豊岡市に申し送り(企画・教委)
「心ふれあう区民のつどい」終わる


出石町町民憲章

昭和62年7月3日制定

 わが城下町出石は、古来、但馬の中心として栄え、美しい目然の中で独自の文化を育ててきた町です。
 私たちは、先人のいとなみを受け継ぎ、さらにすばらしい町の創造をめざして、この憲章を定めます。
1 私たちは、「いのち」を尊び人の和を大切にする豊かな町をつくります。
1 私たちは、健康で生きがいのある豊かな町をつくります。
1 私たちは、よき伝統を生かし、文化の香る豊かな町をつくります。
1 私たちは、仕事に励み、活力のある豊かな町をつくります。
1 私たちは、常に未来を見つめ自らが築く豊かな町をつくります。


出石町人権尊重の町宣言

平成5年12月10日制定

 人は、生まれながらにして自由であり、かつ人間の尊厳と権利とについて平等である。
 出石町民は、日本国憲法と町民憲章の理念にのっとり、命を尊び人の和を大切にする心豊かな社会を創造する。
 ここに、すべての町民が愛と幸せに満ちた心ふれあうまちづくりのために、あらゆる差別の解消と人権の確立を誓い、出石町を『人権尊重の町』とすることを宣言する。


出石町人権尊重のまちづくり条例

平成14年3月8日
条例第1号

(目的)
第1条 この条例は、出石町人権尊重の町宣言を基本理念とし、あらゆる差別の解消と真に町民相互の人権が尊重され、すべての町民が愛と幸せに満ちた心ふれあうまちづくりに寄与することを目的とする。

(町の責務)
第2条 町は、前条の目的を達成するため、必要な施策を推進し、町民の人権意識の高揚に努めるものとする。

(町民の役割)
第3条 町民は、人権尊重のまちづくりのため、人権意識の高揚に努めるものとする。

(基本計画の策定)
第4条 町は、すべての町民の人権が尊重される住みよいまちづくりのための基本計画を策定するものとする。

(出石町人権尊重のまちづくり審議会)
第5条 第1条の目的を達成するため、出石町人権尊重のまちづくり審議会 (以下 「審議会」という。)を設置する。
2 審議会は、町長の諮間に応じ、人権尊重のまちづくりのための施策の策定及び推進に関する事項を審議する。
3 審議会は、人権尊重のまちづくりに関する事項について調査、研究又は審議し、町長に意見を述べることができる。

(補則)
第6条 この条例の施行に関して必要な事項は、町長が別に定める。

附 則
(施行期日)
1 この条例は、公布の日から施行する。(出石町地域改善対策協議会設置条例の廃止)
2 出石町地域改善対策協議会設置条例(昭和51午出石町条例第26号)は、廃止する。