【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-①分科会 これでいいのか!? 日本の人権

多重格差社会の誕生と外国人問題
―― 今日の労働組合活動の目指すべきもの ――

岐阜一般労働組合・執行委員長 本間 高道


1. はじめに 岐阜一般の活動の紹介

① 全国一般に所属、組合員は3,070人。パート・臨時・嘱託者・季節労働者・請負労働者・派遣労働者のみの10支部、過半数がパート・嘱託の10支部を含め全体の約半数が非正規不安定雇用労働者。
  正規雇用労働者組織でも平均年収が295万円のハイタク組合員が1,100人、年金需給併用型組合員(約600人)、地域最低賃金適用組合員(約240人、例えばハイタクでは、歩合給が占める割合が高く、売上が上がらないために人件費率が65%に達していても賃金体系上は地域最低賃金を下回る月度があり、自動的に最低賃金に引上げて支給される。地域最賃額は所定内労働時間のみで計算するなら年収で135万円である)。
② 組織構成としては、競輪・競馬本場や場外売場、競馬厩務員の労組、長良川の鵜飼船員組合や埋蔵文化財の発掘等の文化財保護センター、し尿処理、学校給食関連、行政関連の福祉施設、介護職場等の公共サービス関係、精神科医療、トラック輸送、生コン輸送、警備保障、ゴルフ場、商社、縫製業、製紙業、機械金属、瓦製造等。
③ 個人相談者を受け入れる合同支部では解雇や不当配転、賃下げや残業未払い、退職金未払い、労災隠し等の交渉の他、いじめ、パワハラ、セクハラ等のたたかい、内部告発者に対する保護、パワハラによる鬱病等の発症に追い込まれた組合員数人の支援、交渉等。
  外国人支部では、中国人研修生、実習生を中心にベトナム人実習生、日系ブラジル人、日系ペルー人の相談、加入、交渉。研修生・実習生では帰国組の未払い賃金の支払い等の解決型の交渉、現役組での労組の組織化、現在200人を超える支部。
④ 最大の問題点
  これらの活動を展開するための最大の障害、問題点は体制の脆弱性。この交渉やたたかいは常に困難で成果を挙げ辛く低賃金であることから組合費をあまりもらえない上に、組織としては極めて不安定。資金がなければ当然専従配置は限られてしまい、専従役員は2人、専従書記は1人である。非専従役員の助力を得るが、圧倒的に体制は不足であり、その結果専従役員に超過重な負担。専従役員は普段の活動にこの活動を加えるため残業時間が月190時間を超えているにもかかわらず、年収は全産業労働者の平均年収を下回る。資金を投入し専従を増員する等の対策を取らなければ、活動を発展させることはもとより、継続していくこと自体が難しい。組織率がわずか1.4%にしかならない中小企業労組運動や不安定雇用労組運動は全国何処をとってみても基本的に不採算部門であり、だから取り組む組織や人材が少数となり、その結果運動が拡がらず、格差社会の到来をむざむざと許し、労組の組織率の低下に歯止めをかけることができないのである。この現状を続けているならば、日本の労働組合運動の未来はないとしか言いようがない。


2. 研修生・実習生問題の実相

(1) 本制度の概要と背景
① 1976年9月26日、日中国交正常化協定調印。技術移転協力要請。日本人20人に対して1人の枠で研修生(1年限度、労基法非適用)制度スタート(岐阜では1982年)。
  1990年法務大臣告知、日本人労働者50人以下の企業は3人まで、同200人までは10人、同300人までは15人までに拡大。これ以降、研修生は労基法適用除外のため、今日の違法状態まん延の土台が形成。
② 1993年法務大臣告示(つまり法律ではない)。研修生制度1年限りを事実上2年間延長する技能実習生制度が認可。実習生は労基法適用であるにもかかわらず、基本給5万円、残業手当1時間300円に切り替わる。一定の時間が経過した後4年前に岐阜縫製事件が発生。
③ 労働力の不足。縫製、農業は研修生しか来ない。95%は赤字。支払能力はなく違反発覚=倒産の図式となるため、実習生の外部との接触禁止、反乱を起こしそうな実習生の強制帰国の強行、中国送り出し機関(以下中国公司という)との結託による圧力の強化、労組との交渉力強化のためのブローカーの登場、そして暴力団への依頼、人権無視。末期的な状況である。
  一方で労組側にとってもこの不採算問題は、片っ端から企業を倒産、自己破産に追い込むのか? という厄介な問題を抱える。

(2) 現場で起きている様々な事例
① <例示1>
  縫製業、社長と奥さんとでやっており、日本人従業員はいない。いない人の名前を使って3人の研修生枠を確保している。研修生は研修手当5万円、残業代は1時間300円、実習生は基本給55,000円、残業代350円。毎日朝8時から夜11時まで仕事、土曜日も残業代は5時以降しか払わない。日曜日は夜7時で終了。年休は与えず、年間休日は年末年始を入れて年間8日間。以前はタイムカードがあったが証拠が残るため廃止。毎月2万円を現金で本人に渡し、残額を会社が勝手に銀行で本人名義の通帳を作り、パスポート、通帳、印鑑は会社が保管。帰国時に渡す。給料明細は発行せず。会社名も日時も書いていないメモ用紙で支払額を確認。
  JITCO提出用の偽賃金台帳が作ってあり、監査時に経営者が特定の実習生を指名して「残業は全くやっていない。」と答えさせる。無断外出は禁止、コンビニもスーパーも奥さんの同行なしは禁止。男女交際禁止、携帯電話所持禁止、外部への電話は関係者立会いの下で会社の電話を使って中国の実家にかけることのみOK。友達にも禁止。
  違反したら強制帰国で中国公司に保証金3万元(×15円)保証人2人(家が担保となっている)を取上げられる。
  研修生が粗大ごみ置き場から拾ってきた冷蔵庫、洗濯機、扇風機があるのみ。一人当たり3.3m2程度のスペースで実習生は家賃2万5千円、水道光熱費5千円を引かれる。JITCOは「家賃は高いとはいえない。」と答弁。
② <例示2>
  縫製業、1階が工場、2階が寮。毎日7時まで残業。以後9時まで1階でミシンを使って内職。9時以降は2階で内職。内職は時間換算で300円程度になるように単価が調整されている。ブローカーのような団交請負人が登場し、「監督署の了解は取ってある」と豪語。監督官は「研修生は労働者ではないので賃金は発生しない。また内職も労働時間が適用されないので未払いと確定できない」と答弁。研修生の残業、実習生の内職は入管法で禁止なのでそれを材料に交渉。監督署の対応に問題。
③ <例示3>
  縫製業大手。中国に工場を持ち、自前で送り出し機関を作ってオーナー社長の長男が社長。本人に明細を示さず、手取りを5万円程度にしてある。調査の結果、最賃額プラス適性残業額から税金、社保料を控除、寮費・水道光熱費・生活備品リース料を高めに設定して控除。これとは別に8万円を貯金の名目で控除。手数料(?)を引いて残りを帰国時に本人に渡すと説明してあったが、実際は本人に渡るのは3万5千円程度で、残りを送り出し機関と受入協同組合が管理料として山分けしていた。この本来企業が中国公司に払わなければならない管理料を本人の給与から引くケースが多くある。
④ <例示4>
  突然、電話がなる。「今、力づくで空港に連れてこられ、強制帰国させられる。助けて」トイレに立てこもっての電話。「空港で座り込んで拒否せよ」と指示し、我々も空港へ。空港税関前で座り込む実習生(女性)を屈強な男2人が両側から腕を取り、引きずって税関の中に連れて行く。騒ぎで駆けつけた空港警察、空港の入管職員、そして何と税関担当官さえもこれを黙認(ビザ、パスポートを持たない日本人の男たちが本人を引きずって税関内に入っている)労組役員が到着した時には税関内に入った後なので姿が見えず携帯も繋がらない。結局、税関内で搭乗拒否をする本人たちの様子を聞いた中国人パイロットが「飛行の安全が確保できない」と搭乗拒否(?)した結果、労組が身柄を保全。安い住居を確保しながら交渉を行った。入管への追及に対して担当官は「本人の同意帰国である」と、うそぶく始末。こういう場面ではよく暴力団が噛んでいる。
⑤ <例示5>
  中国では、研修生が日本に来て稼いでもって帰るお金への期待度が高い。農業収入だけでは生活が苦しく、小さな子どもを残して3年間帰国もせずに日本で働くことをいとわない人たちも多い。その意味では深刻であり、真剣である。研修生が来日する場合、田舎から都市部の送り出し機関にたどり着き、一定の研修の後、日本に送り出される。
  ここまでに要する経費は80万円になる場合があり、それを借金して来日する。アバウトには来日して1年目の稼ぎがこの返済に充てられ、2年目、3年目が本当の稼ぎとなる。それは文字通り貴重な金であり、せめて最賃額を貰いたいという気持ちは当然である。
  しかし、中国公司は、この最賃額支払い要求を阻止するために様々な対策を取ってくる。保証金3万元、保証人2人(必ず公務員を入れる)もその一つである。
  既に中国国内法では保証金が禁止されているが、現実には現在、尚横行している事態である。実習生が労組に加入し、交渉に入ったことを理由として、その保証人が役所からの給料の支払いを3ヶ月に渡って停止され、実習生の両親に怒鳴りこんできたという事があったほどである。送り出し機関は、研修生を送り出す前に「日本に行ったら5万円、残業代300円で働きます。」という契約書にサインをさせ、交渉して帰国した実習生に「日本では5万円は違法かもしれないが、中国国内で結んだ契約は中国国内では有効だ。」という理由で、日本で貰ったお金を裁判で取上げようとする事件も発生している。又、交渉に入った実習生の実家に圧力をかけ、酷い例としては「お前の実家にいる2歳の息子を殺す」という不明者からの電話が入ることさえあるのである。
⑥ <例示6>
  逃亡して、オーバーステイで働く実習生からの依頼も多い。逃亡する際に、会社に取上げられている預金通帳を置いたままなので、それを取り戻してほしいとの依頼である。岐阜一般は、逃亡者を幇助することはできないので、入管に自首して帰国するよう説得し、応じた人に限って会社に通帳返還を要求する。ところがほとんどの場合、その預金が何処に行ったか不明である。預金は会社によって解約され(銀行法違反)曰く、中国公司に返したので手元にはないというのである。公司は日本への派遣時に「逃亡した場合は、本人預金を没収する」という契約を結んでいると主張する。誰がこんな事を信用するか? 強制貯金をさせた会社側に支払い義務があるということは明白であるが、「ある程度働いてから逃亡してくれるのが一番儲かる」とうそぶく経営者さえいたのである。
⑦ <例示7>
  明細を発行せず、また預金通帳も作らず、5万円と300円を毎月現金で本人に渡すという手口も現れてきている。JITCO用の台帳は違反のないように作られており、違反で交渉に入ると「最賃できちんと払っている。中国人が嘘をついている。」と主張する。そしてブローカー的な団交請負人が登場し、「証拠はないんだから何処にでも訴えてくれ」と開き直るのである。ここまで来るとやはり争議しか手段はない。
  又、会社側の団交請負人とは別に、得体の知れない中国人が実習生から依頼を受けたといって会社に交渉を申し入れてくる場合も何件かある。あまり成功していないが、この場合実習生一人に付き10万円程の交渉費を交渉前の段階で取られていることが多い。
⑧ <例示8>
  ある日、屈強で短髪、眼光鋭い男どもが10人ほど岐阜一般の事務所に乗り込んできた。大阪心斎橋に事務所を置く暴力団系の連中である。要は団交を申し込んだ某事件から、「手を引け」ということである。事務所で怒鳴りあいとなったわけであるが、その後も山口組系を名乗る男から携帯に電話が入り、断ると「全国の山口組を敵にまわす気か?」とのこと。交渉にならないので即、労基法違反として監督署に申告し、本人の身柄をこちらで確保。ビザ延長を行ったがなぜか監督所の動きは鈍く、再三の申入れにも「やる」との答弁はあるものの2月19日の申告が未だに解決していない。彼らは「監督所も入管も労組も我々の言いなりであり、何の処分もされないから」と言い触らし、『大南友の会』なる会を作って会員募集に活発に動いている。曰く、「入会金一企業300万円、研修生・実習生一人に付き月額2,000円、大阪からの出張一回50万円」とのこと。現在、次の実習生からの訴えがあり、身柄を確保して第2弾の交渉中である。彼らは結局前後4回事務所に押しかけてきたが、暴力団の介入は今回だけではない。「金になる」という臭いを嗅ぎつけるとあらゆる連中が入ってくる。これらは断固阻止されねばならない。
⑨ <例示9>
  この6月21日、某自動車メーカー大手で中国人研修生・実習生100人の労働組合が結成された。数日前から給与明細に不明な点があると会社側に交渉を求め、納得がいかないことから100人が仕事をボイコットしたのである。岐阜一般は、早速、会社側に交渉を申し入れた。会社は、労組の結成を認め、団体交渉に応ずるとの対応であったが、結成以前の行動は違法なサボタージュであり、処分をせざるを得ず、又、損害賠償を求めざるをえないと主張した。明細に関する資料提示を求めたところ、表示の仕方には問題があるものの未払い賃金自体はないと思われるため、労組は賃上げを要求した。再三の交渉の結果、労使の激突を避けることによって会社は現行の研修・実習制度を維持し労組も仕事が順調に行われるよう協力を約し、会社は寮費(25,000円)を下げることによって事実上の賃上げとなるよう検討に入ることとなった。この例は大企業枠であるため日本人社員の5%の上限で研修・実習生をうけいれることができ150人の研修・実習生がいる企業のケースである。3年生がこの8月に帰国するため労組に加入したのは2年生、1年生の100人であるがすぐ新たな1年生が来日をする。こうした大企業枠で100人、150人の規模で受け入れている企業は多く存在し、今後増える傾向にある。又、中国では今年1月から労働契約法が施行され、外資系や国内の民間企業に続々と労組が誕生している。それを知っている研修生が今後は来日してくるのである。そのことも含めてこうした企業で労働組合を結成し「最賃を守れ」ではなく賃上げを要求して交渉に入る例が増えてくると思われる。

3. 労働組合の目指すべきもの

(1) 外国人労働者をめぐる全体の状況
① 資本主義社会・企業社会・グローバル社会
  収益性という魔力、企業社会、完結型地域経済の崩壊、グローバル社会の最終到達点。
  地球規模の格差社会と自然の壊滅的破壊。
② 格差社会の現況
  国民皆保険制度、この10年間で正社員400万人減、非正規労働者は600万人増で、1,732万人。正社員の平均年収523万円、非正規社員267万円である。非正規社員の12%が国民健康保険加入、国保加入者増加で保険料が上がる。大阪・守口市では年収400万円自営業者保険料が年間50万円超。保険加入率の低下、2年間で保険が無く治療ができず死亡した人は475人。派遣労働者は255万人、フリーターは180万人。成果主義に不満35.6%に達し、仕事にやりがいを感じる人1984年の31%から2005年では16.6%に。日本の社会保障即ちセイフティネットは、健康保険、年金、介護保険、最後に生活保護によって確保されているが、今日ではそのいずれもが壊れている。
③ 破壊的な多重格差社会の誕生
  年収300万円未満労働者1,000万人超、貯金ゼロ世帯が20%超、自殺者は3万人以上で定着。パワハラによる躁うつ病は増加の一途、派遣労働者の悲惨な状態がマスコミに載らない日はない。外国人労働者の位置。所定内労働時間で計算、日系外国人の年収は270万円。実習生は地域最賃、年収135万円程度。研修生は労基法上非適用の事実上の労働者、研修手当は月額5万円であり、年収は60万円。実習生も実態は最賃以下、研修生からの延長、月額5,000円ほどアップし年収は66万円。彼らが目の色を変えて残業を深夜までやりたがるのはこうした事情がある。つまり、今日の格差社会とは、年収300万円以下の層の下に年収150万円以下の層、更に年収100万円以下の層が続く破滅的な多重格差社会。経産省推計で2025年には427万人労働力不足。日系外国人は2006年現在37万人(10年前比14万人増)。研修・実習生は15万人強(10年前比で4倍)。政府は規制緩和を進め外国人労働者もより高い賃金を求めて大量に入ってくる。日系外国人から賃金が半分の研修・実習生へのシフトが進んでいる。
④ 結 論
 ア 滅びの道
   もし、グローバリズムが必然であり格差社会がグローバル経済の必然であるならば経済は必ず崩壊する。そして労働組合がこの格差社会に反対し、その当事者を組織化してたたかうことを避けるならば労働組合も又滅びの道を歩むことになるといわざるを得ない。グローバル経済化は繰り返し国内消費需要の中核勢力である中産階級の解体を進めた。その結果大企業では史上空前の収益が上がっているにもかかわらず、国内消費は停滞し、国民は皆不況が続いているとしか実感できなかったのである。その結果30歳代の未婚率が50%を超え、大企業は忠誠を誓う労働者と、経済を実質的に支えてきた優秀な中小企業を失い、社会基盤たる農林水産業者を解体させている。一方、正社員労働者への賃下げ圧力は増え続けとどまるところを知らない。近年の公務員バッシング等は、その象徴である。そしてこれらの問題は個別性の枠内の交渉ではいずれも解決できない問題である。
 イ 格差最下層を構成する外国人労働者
   低い賃金から高い賃金を求めて流入する外国人労働者は当然、家族を呼び日本に定住することをめざす。もちろん日本人を含めてだが、この最下層の人々の将来はどうなるのか?
   病気になっても医者にかかれない。医療費の不払いが多発する。年金はもらえないか生活できない。介護を受けることができない。生活保護費も受給できない。こういう層が分厚く形成されることを意味している。こうした事態に日本の社会保障制度は機能するのか? 実際は崩壊の危機に立つだろう。そしてこの層の人たちは、スラム化するか? 難民化するか? である。
 ウ 目指すべき到達点
   こうした事態に我々労働組合は、彼らの組織化に動くことはもとよりであるが、どの水準を目指すべきなのか? 現在は最賃違反の摘発、未払い賃金支払い要求が運動の中心となっているが、大事なことは現役組による労働組合の結成と他の労働組合と同様な毎年の賃上げ要求とその実現である。例示9にあるように今後は我々の動き次第でこうした労組結成の動きが拡がると思われる。もちろんそれを成功させ、定着化を実現するためには並みの努力ではできないと思われるが、そこをこの運動の到達点と位置づけながら全面的な活動を繰り広げていくべきと考える。


研修・技能実習の実態

新聞記事(外国人名ばかり研修生)(2008年7月27日・朝日新聞)