【要請論文】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-①分科会 これでいいのか!? 日本の人権

多文化・異文化と共生できる社会をめざして


一般/財団法人京都市国際交流協会・事業課長 井上八三郎

 

 日本を代表する古都京都市では、長い歴史と伝統を誇るだけではなく、新しい時代に対応した新しい文化都市を目指して1978年に「世界文化自由都市宣言」を行いました。これにより京都を広く世界と自由に文化交流を行う文化創造都市として位置付けました。この宣言を具体化したひとつの事例が1989年にオープンした京都市国際交流会館であり、会館を拠点として国際交流事業を行う運営主体として同年1月に(財)京都市国際交流協会(以下、協会)が設立されました。協会の主な事業は、在住外国人が増加する中で彼らが日本人と同様に安心して社会生活を営める社会の構築を目指し、在住外国人の基本的人権の尊重を念頭に実施するものです。同時に協会は指定管理者として京都市国際交流会館の運営を担っています。

1. 在住外国人との共生

 
 
 日本国内の外国人総数は年々増加しています。2007年末の統計では、外国人登録者数は215万となっており、10年前と比べると約40%の伸び率です。人口比でいえば、約1.57%が在日外国人ということになります。また、近年の特徴として出身国の多国籍化が目立っています。
 この影響は日本の各市町村においても見られ、地域においてそれぞれの事情は違うかもしれません。在住外国人の占める割合の大きな町の例として例えば群馬県の大泉町では2008年5月末の時点で人口42,199人に対し在住外国人が6,901人居住しています。この数は大泉町全住民の約16%に当たり、この16%は日本全体での在住外国人人口比を大きく上回り、市町村によっては地域の国際化が急速に進んでいることがわかります。大泉町の場合は、1990年の出入国管理法の改正によってブラジル、ペルーの日系人が日本国内で自由に働けるようになったため、人手不足から町では日系人を積極的に誘致した結果、全人口の16%を占めるようになりました。
 京都市の場合は2007年12月末で総人口1,469,242の内、在住外国人が41,463人で人口比が約2.8%です。特徴としては韓国又は朝鮮の人が27,695人、中国の人が8,353人の双方で全体の85%を占めています。在留資格別で見ると、特別永住者が24,154人で全体の58%、留学および就学が5,949人で全体の14%となっています。
 そのような中で、今後の社会は人口の減少が進み減少を補うために在住外国人が増加するとも考えられています。たとえば人口減少社会への対応のあり方として、理論上は、次のような両極論のシナリオが考えられます。人口の自然減に全面的に従って縮小してゆく「小さな日本」への道と、人口の自然減を外国人で補って現在の経済大国の地位を守る「大きな日本」の道です。「小さな日本」は、人口の自然減をそのままの形で受け入れて、少なくなった人口に合った「ゆとりある日本」を目的とするものです。人口は経済と社会を構成する基本的要素ですので、人口の減少が続けば、経済は低迷し、社会は衰退する可能性が高いです。それを承知の上で、人口の自然減を日本社会が成熟段階に入ったことに伴う必然的な社会現象であると認めて、国民の生き方・生活様式から社会制度、産業構造に至るすべてを、人口増を前提とするものから人口減を前提とするものに改めるものです。
 一方の「大きな日本」は、人口の自然減に見合う人口を外国人の人口で補充し、経済成長の続く「活力ある日本」を目的とするものです。「大きな日本」を指向する場合には、50年間で3,000万人近い数の外国人を移民として受け入れる必要があります。これは日本がかつて経験したことのない規模の他民族の受け入れです。未曾有の数の外国人を迎え入れるためには、世界中の人たちが進んで移住したいと希望する「外国人に夢を与える日本」へ変わらなければならない。すなわち、国籍、民族的出身を問わず、すべての人に機会の均等を保障し、実績をあげた人が評価され、社会的地位を得ることができる開放社会を作る必要があります。それとともに、多様な価値観と文化が尊重される社会、いわゆる多文化共生社会を築かなければならないわけです。あくまで理論上のことですが「大きな日本」を選択したことにより2007年12月末の在住外国人の総人口2,152,973人が50年間で約15倍に増加するとは簡単には考えられないが、約5倍の10,000,000人になる可能性は十二分に考えられます。
 在住外国人が増加することにより言葉の壁(日本語教育)、情報からの隔離(情報の多言語化が未整備)、教育(不就学、進学、外国人学校)、医療、福祉(医療通訳、介護、生活保護、無年金)、住宅(安定供給がはかれない)心の病(文化的差異などから来る不安、日本社会との摩擦)などの課題が生じます。
 そのような社会状況の中で協会は行政サービスの担い手として、在住外国人の生活の上でのサポートを基軸に各種事業を推進しています。


2. 多文化共生社会の構築に向けて

 現代社会の国際化が進む中、近年は国も各種方針や提言の中で多文化共生社会の構築をうたっていますが、一番中心になる場所は多文化化とグローバル化が進行している「地域」であるのではないでしょうか。地域によりそれぞれの事情が違い、それぞれの地域に則した国際化を推し進めることが多文化共生社会の構築につながります。
 協会では以上のようなことからも、「地域の特性を生かした国際化の有用性」「地域の特性を生かした国際化と方法」を考えながら京都地域における国際化を進め多文化共生社会を構築するがために各種事業の運営に取り組んでいます。
 協会の実施する事業は、それぞれに地域の特性を考察しながら運営している事業です。これらの事業の特徴は私どもだけで実施するのではなく、多様な団体や機関との協働により成り立っているということです。地域の国際化一団体だけで出来るものではなく、多くの協働により広がりを得ることが重要と考えています。

(1) 医療通訳システム事業
 共生社会を推進する中、医療機関での適切なサービスを目指すため、日本語を理解しない方々が受診する際の「ことば」の障壁を出来る限り取り除いていくことを目指しています。
・事業を立ち上げたきっかけ
 京都には中国からの残留帰国者が多い地域があり、それらの地域では高齢者の帰国者が医療機関で受診をする際の言葉の壁が非常に大きな課題となっていたこと。事業実施は当協会、多文化共生センター、京都市との三者。
① 事業の実施(2008年度)
 「固定型」「派遣型」による通訳派遣を実施。経費面においてシステムの継続的な展開のため、「受益者負担」の考え方を導入しつつ、中国語・英語・韓国朝鮮語による通訳を実施。派遣先は醍醐の医仁会武田総合病院、京都駅前の康生会武田病院、京都市立病院、桂病院の4病院。

(2) コリアンサロン「めあり」
 日本と深い関係を持つ朝鮮半島の歴史や文化の紹介、在日韓国・朝鮮人に対する理解を目指す催し。韓国民団京都府本部、朝鮮総聯京都府本部、当協会の3団体が協働で継続的に実施。
・事業を立ち上げたきっかけ
 京都には特別永住者が多く、そのような関係から在日コリアンを含む京都市民が互いに尊重し、市民的権利、人権問題に対する相互理解を深め、協調し暮らす、 世界に開かれた国際化社会の実現に寄与する必要性があり、韓国民団京都府本部と朝鮮総聯京都府本部の連携なくしてその実現は難しく三者による協働が必要だったため。両団体が“共同で継続的に文化の紹介と交流事業”を展開することは、画期的なことで日本でも初めてのことです。
① ハングル塾(入門・初級・中級/有料)
② 朝鮮半島とゆかりのある史跡等の見学講座
③ 朝鮮半島文化(料理等)紹介の講座

(3) 留学生就職支援事業
 留学生は日本での滞在を通じ、わが国の社会・経済に対して幅広い認識を持っており、語学力を含め、優秀な国際的人材として大きな力を有しています。また、留学後は、本国に戻り各分野の中心的人材として活躍し、あるいは新たな発展を求めて、世界各国で飛翔する可能性を秘めた人材です。そこで、卒業後の就職支援を実施することが各留学生にとって留学というものの価値・意義を高めることにつながり、また、各企業にとっても企業の活性化、事業活動の国際化につながるなど有意義であると考え実施しています。
 京都地域留学生交流推進協議会や大学コンソーシアム京都との協働事業の形態をとっています。
・事業を立ち上げたきっかけ
 京都は全国的にも留学生が多い地域であるが、京都の大学で学んだものが京都地域内に還元されていないことから、京都の各種企業者団体と今後の京都地域の活性化のためにも留学生の活用は必要であるという観点から立ち上げました。
① 「留学生のための就職ガイダンス&ジョブフェア」を5月12月に実施

(4) 子どものための国際理解教育促進事業 国際理解プログラム「PICNIK」
 京都大学国際交流センター、京都市立小学校国際理解教育研究会および龍谷大学、京都教育大学からの研究者らによるワーキンググループを中心に留学生講師派遣システムを運営しています。派遣先は京都市内の小中学校です。
・事業を立ち上げたきっかけ
 留学生にとっては留学生活が大学だけでの生活ではなく地域との交わりを求めている者も多いのですが、交流のきっかけなどが無い留学生が多い状況があり、そのニーズを満たすことに加え、他方、教育委員会にとっても総合学習の時間などの導入により国際理解教育への関心が高まっていたことも要因となっています。


3. 京都地域の今後

 在住外国人と共につくりだす共生社会に向けて協会は各種事業を推進していますが、京都地域における在住外国人の人口動態の予測は他の集住地区とは異なるものと考えられます。在住外国人の集住地域の特徴は企業が工場の労働者として南米の日系二世三世を多く受け入れているのが特徴です。特に東海地方および北関東地域にそのような特徴が見られます。
 京都の場合は南米系の住民が増える要素は少なく、増える要素としては2020年の達成を目標に「留学生30万人計画」が国の施策の中で進められていることから留学生数の増加が上げられます。留学生の受け入れ増加計画は以前にも中曽根首相時代に10万人計画がございましたが、この時は無造作に増加が図られたために不法滞在等の多くの課題が生じました。今回は国が「教育研究の国際競争力を高め、優れた留学生を戦略的に獲得し、入国前から卒業後まで体系的に方策を実施する」とあるように、日本の将来の根幹にもつながる施策だと考えられます。京都の地域特性の一つは「大学のまち京都」であり、留学生と共にまちづくりに取り組むための地盤があるといえるでしょう。優秀な人材が卒業後も京都で暮らすことにより京都の国際競争力を高めると考えられるため国が提唱する「留学生30万人計画」を京都の活性化につなげる必要性があると考えられます。そのために留学生を京都での一時滞在者として捉えるのではなく、彼らは地域の住民であり卒業後も京都に居住し続け共に多文化共生社会の構築を担う人材であると認識し、彼らと共に京都ならではの特色のある地域づくりを目指すことが必要だと考えております。

 最後に各地域の特徴により、在住外国人が増える要素には違いがありますが、その地域のありように即した共生社会の構築こそが必然であると考えます。その過程で各種の課題が生じたとしてその課題解決の方策をそれぞれの地域が自ら獲得していく必要性があると考えています。たとえば労働者が増えることによる労働者の各種の権利の問題や、生活の基礎基盤の整備など行政、地域、各関係団体が取り組むべき事項は多種にわたります。その中で一番重要なことは、先にも述べましたが、日本が「外国人に夢を与える日本」へ変わらなければならないということです。すなわち、国籍、民族的出身を問わず、すべての人に機会の均等を保障し、実績をあげた人が評価され、社会的地位を得ることができる開放社会を作る必要があり、日本人が外国人に対する寛容の精神を高めることが必然と考えます。


(参考文献)
人口減少社会の日本の外国人受け入れ政策 坂中英徳氏 元東京入国管理局長