【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

木材の公園での利用について


群馬県本部/群馬県職員労働組合・木材遊具研究会 町田 初男・伊藤 英敏・小島  正

1. はじめに

 CO削減を図るため再利用可能な木材の利用が進みつつあるが、その管理手法が普及していないことから、木製遊具等の劣化が発見できずに事故が起こっている事例が見受けられる。
 2007年春に岐阜の小学校で起こった事故では、中古の電柱を利用した遊具の支柱が折れて、多数の子供が負傷した(1)。支柱の下部には古タイヤが被せてあり、水分の滞留により腐朽を助長したと共に、点検の妨げとなり腐朽の発見を困難にさせた。遊具を設置したのは当時から18年前で、それ以前にも電柱として使用していた期間を入れると少なくとも30年前後屋外で利用されていたことになる。クレオソート油で処理された木製電柱は20年前後から徐々に耐用年数を迎えるため、取替時期が来ていても不思議でない状況であった。また、ロープの両端を1本ずつの支柱で支えるため、1本が折れてこのような事故に至ってしまったわけだが、これが片側2本ずつの支柱で支える構造であったなら1本が折れても交換すればいいので、木材の劣化が即大事故に結びつかない。このように点検手法や設計段階での配慮で木材遊具等の外構部材の安全性は大きく違ってくる。
 そこで、木材を安全に利用するための方法について検討する。
 本年度は、木製遊具や木製土木用材を安全に使用していくために必要な日常点検マニュアルについて、既存資料の調査と検討を行った。また、実際にマニュアルを運用する土木サイドの木材についての認識について、いくつかのシンポジウムや資料から問題点を抽出していくこととした。

2. 既存資料の検討

(1) 「遊具に関する維持管理システムの構築と点検マニュアル」(2)第29回木材の化学加工研究会および生物劣化研究会合同シンポジウム講演集
 やや古い資料であり、木製遊具でなく公園遊具全般についての事例や点検マニュアルの基本プランが紹介されている。この当時公園のゆりかご型ブランコで幼児の事故が相次ぎ、遊具の撤去といった事態になっていた。こういったことで、公園遊具全般の設置およびメンテナンスマニュアルについて、(社)日本公園施設業協会からの情報提供であった。
 この時点では、木製非木製問わず遊具全体のメンテナンスマニュアルについて検討し、周知するのがまず必要であったため、木製遊具の適切な設計や劣化等については後回しになっている。

(2) 「木製外構材のメンテナンスマニュアル」(3)(社)日本木材保存協会刊
 木製外構材のメンテナンス方法の概要が写真入りで解説されている。章ごとの構成では、最初の「木製外構材のメンテナンスの考え方」で全体の概要と劣化の代表的な事例を示し、「劣化診断法」では日常的な1次診断から測定機器を使った3次診断まで診断方法の説明を行っている。特に、1次診断の項で腐朽しやすい箇所や腐朽、蟻害の写真を多く使用している。「各種木製外構部材の点検方法」では公園遊具、木造建築外構材、木橋などそれぞれの事例での点検のポイントが示されていて、木材の劣化についての知識が乏しくても注意する箇所がわかるようになっている(写真1)。最終章の「補修方法概説」では、補修方法の概要が一覧で示されていて、部材交換時の水仕舞いの改良についても触れられている。
 日常点検のポイントについて数ページ程度写真入りで解説されているが、公園遊具については、1ページが割かれているのみで、もう少し詳しいものが欲しい。

(3) 「蟻害・腐朽検査員のための現場調査補助写真集」(4)(社)日本しろあり対策協会刊
 どうしても経験が必要となる目視での劣化や腐朽の判断について、多くの実例の写真によりわかりやすく解説されたものである。このような意図で刊行されたものは、おそらくは我が国初で、現場での腐朽および蟻害の判定に役立つものと思われる。初期腐朽の様子などの写真は非常にわかりやすい(写真2

写真1 公園遊具の点検について
写真2  初期腐朽の様子

3. シンポジウムや聴き取りによる問題点の抽出

(1) 「エクステリア、構造物等への木材の間違った使い方事例報告」セミナー

主催 日本木材加工技術協会九州支部、日本木材学会九州支部

 木材の屋外利用が増えてきているが、好ましくない使い方も多く見られる。それらを、「木質構造」「木材保存」「地域産材普及開発」それぞれの専門家の立場から、問題と見られる事例紹介を行いながら、木材の性質を理解して外構部材の利用法を考えていく。という目的のセミナーに参加した。
① 「構造学の立場から見た木材の間違った使い方事例報告」  福岡大学 渡辺 浩氏
  よりよい木橋・外構木質構造物にするために留意すべき点をまとめると、
 ア 木材は優れた建設材料であるが、天然材料であることからクセもある。それらを理解し、活かしていくことが必要である。
 イ 構造物は力学性能に支配される。力学的な無理をすると、当初はよくても長期の供用下では必ず不具合が生じてくる
 ウ 外構木質構造物は木造建築物とは異なる物である。建築物では常識であっても、外構木質構造物ではタブーとなることが多々あることを知っておく必要がある。
 エ 外構木質構造物の耐久性向上策は水対策である。雨晒しであることは仕方ないが、水をためないような工夫が必要である。
 オ 劣化しやすい部材は交換することを想定しておく必要がある。
② 「木材保存業界の立場から見た木材の間違った使い方事例報告」  (株)ザイエンス 谷川 充氏
  高耐久樹種についての過信が目立つ。耐朽性・耐蟻性が高いとはいえ、水分に対する配慮不足は劣化の原因となる。
  保存処理について、公的な評価を受けていない処理を行い、早期腐朽した例が多々ある。日本と欧州では気候がまるで違うことを念頭に置くべき。また、薬剤塗布の効果は2、3年程度。
  耐久設計について、水分の滞留を防ぐ設計や処理薬剤が浸透しやすい樹種選定、処理後の加工をなるべく避ける施工工程が必要。また、発注段階での極端に短い納期は厳禁。
③ 「地域産材普及の立場から見た木材の間違った使い方事例」  熊本県林業研究指導所 池田 元吉氏
  木材の屋外利用の増加に伴い、関連した相談や依頼試験が増加している。大きく分けて強度関係と耐久性関係に分かれるが、どちらにおいても基礎的な情報不足がみられ、試験を行う必要性がないものも多い。
  木材の強度性能を知りたい場合、ヤング係数を測定すれば強度値は推定できる。また、スギ柱材の場合、無等級材の基準強度以下の材はほとんど無かった。
  木材の耐久性を向上するためには、材面割れを抑えた適切な乾燥が必要とされる。材面割れからの水分の滞留が防げれば、耐久性は向上する。また、水分の滞留や風通しを考えた設計が必要である。

(2) 「土木事業への間伐材利活用シンポジウム~日本森林学会、日本木材学会と共に森林保全と地球温暖化を考える~」

主催 土木学会 共催 日本森林学会、日本木材学会

 近年、地球温暖化対策や、国産材の積極的な利用を目的として、公共土木事業においても木材利用の機会が増えている。しかし、工事を担当する国や地方自治体の現場担当者、また工事を請け負う施工業者にとって、木材の耐久性や適切な維持管理の方法、それらにかかる費用等について、データや指針などが十分に示されていないことも指摘されている。
 そこで、土木学会の主催により、これらの問題を踏まえた上での土木事業における木材利用の増大を図るためのシンポジウムが土木学会講堂において開催された。
 またこのシンポジウムは、土木学会、日本森林学会、並びに日本木材学会の共催による初めての試みである。
 基調講演として、3学会からそれぞれの学会の説明とそれぞれの立場から講演があった。
 日本木材学会今村先生からは、炭素固定源としての木材について、材料としての木材の性質、木材の土木利用の事例紹介などがあった。
 日本森林学会白石先生からは、国内の森林の構成、各地域における特徴的な森林構成、戦後の森林面積の変化と木材需要の推移、森林の公益的機能などの紹介があった。
 土木学会濱田先生からは、戦前の土木分野での木材利用や、戦後の木材を使えなくなっていく規格等の変遷、近年の土木分野における木材利用の事例紹介、地震に対する木材基礎杭の優位性などについて紹介があった。
 間伐材の利活用技術小委員会では、土木分野での木材利用が依然と少ないことから、土木学会としての間伐材利用についての立場を明確化し、土木産業界が間伐材の利用を高めるための方策を検討することを目的に、様々な活動を行っている。
 パネルディスカッションでは様々な立場の人たちが、それぞれの立場で木材の土木利用について、話された。それぞれのパネラーの分野としては、「林野庁」「国土交通省」「森林総研」「林業経営」「一般市民」「木橋専門家」と非常に多岐にわたる人選であった。

(3) 聴き取り等による情報
 現在、国土交通省で「遊具の安全に関する指針」を検討中である。これは大きな方向性を決めるもので、これを受けて(社)公園施設業協会が実務者向けのマニュアル「遊具の安全に関する基準」を2008年度公表予定である。現時点でわかっている内容とすると、
・遊具の耐用年数を設定した。鉄製15年、木製10年。
・メーカーには耐用年数に応じた材料、保存処理が求められる。
・発注者側の点検・修繕の予算を確保するためにも耐用年数の明記が必要。
マニュアル公表後、委員の1人である(株)ザイエンス谷川氏が「木材保存」誌に解説を掲載予定である。

4. まとめ

 木製遊具のメンテナンス手法について、現状の手法の調査を行った上で、実際に検討しようと思って立ち上げた研究会ではあるが、思った以上に資料が無く、加えてメンテナンス以前の設計に関することや設計者の木材に対する認識等で問題点が多く出てきたため、当年度はそのあたりを中心に調査を行った。
 2008年度には、先に挙げた以外でも、現場で使えるようなメンテナンスマニュアルが発表される予定ではあるため、それらの検討を中心に進めていきたい。




引用文献
(1) 桃原郁夫:木製遊具の事故に思うこと、ウッディエンス・メールマガジンNo.4,2007
(2) 永島勝治:遊具に関する維持管理システムの構築と点検マニュアル、第29回木材の化学加工研究会および生物劣化研究会合同シンポジウム講演集、1-6、1999
(3) 桃原郁夫ほか:木製外構材のメンテナンスマニュアル、(社)日本木材保存協会、2004
(4) 森本桂ほか:蟻害・腐朽検査員のための現場調査補助写真集、(社)日本しろあり対策協会、2007