【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

職員ボランティアによる野鳥保護活動と
その行政補完機能の研究

群馬県本部/群馬県職員労働組合・野鳥保護ボランティア研究会 
岸  秀樹・坂庭 浩之・石井 智子・横田 陽子

1. はじめに

 自然豊かな群馬県でも、人間の経済活動によって、怪我をし野生に戻れない野鳥がたくさんいる。傷害鳥救護施設(以下「野鳥病院」という)という県有施設では傷病鳥の救護・保護をしているが、経済的理由から十分な管理運営が困難な状態である。野鳥病院では、野鳥や野生動物とのかかわり方、自然環境保護などの普及・啓発活動も重要な仕事の一つである。すでに様々な分野において、NPO等の民間団体の参入が実施されている。そこで、当研究会では野鳥保護に関するボランティア活動を行い、行政との協働のための基礎資料にすることを目的とした。

2. 活動内容

(1) 2006年度の活動内容
① 猛禽類(フクロウ、ノスリ)の保定法、放鳥トレーニング、健康チェック〔野鳥病院〕
② 油汚染鳥(オオミズナギドリ)の洗浄、趾瘤症の治療、放鳥(コサギ、ノスリ)〔野鳥病院〕
③ 解剖実習(オオタカ、アオバズク)〔食肉検査所〕
④ 動物愛護フェスティバルにおける「人形劇」〔県庁〕

 <人形劇> 「ハリーとラルクと森のなかまたち」
 人形劇は、昭和庁舎1Fホールにて3回(11時、13時、14時)公演した。交通事故にあい飛べなくなったシロフクロウ、人間にペットとして日本に連れてこられその後捨てられたアライグマ、森に住んでいるキツネの3者の会話と仕草で、ペットと野生動物の問題、人間による自然開発が野鳥たちにもたらす問題、森の大切さなどをなるべくわかりやすく表現した。
<アンケート調査>
 今回の人形劇を見てどう感じたか、保護者へのアンケート調査を実施した。環境教育は98%が必要性を感じ、88%が学校で行うことを希望した。野鳥病院のことを知らない人は90%であり、行政機関であるのに認知度が低いことがわかった。

⑤ 自然史博物館のこどもミュージアムスクールの援助(解剖実習:ハクビシン、アナグマ、タヌキ、キツネ、イノシシ)〔自然史博物館〕
⑥ 福島県鳥獣保護センター施設見学〔福島県安達郡大玉村〕

 <施設の概要>
 福島県鳥獣保護センターは福島県保有の施設であり、「フォレストパークあだたらふくしま県民の森」の敷地内にある。フォレストパークあだたらは、福島県から委託を受けた「財団法人ふくしまフォレスト・エコ・ライフ財団」が運営し、各種環境教育プログラム・企業研修プログラムも行っている。一方、福島県鳥獣保護センターの活動を支援、拡充する法人として、2004年に「特定非営利活動法人(NPO法人)ふくしまワイルドライフ市民&科学者フォーラム」が設立された。センター長である溝口先生は、これからはNPOではなくLLP(Limited Liability Partnership「有限責任事業組合」)やLLC(Limited Liability Company)という新しい考え方でベンチャー的に動ける、法人ではない組合が注目されるだろう、また、専門家と人材育成をすることが重要になってくる、と話していた。「基軸はしっかりぶれないように保ち、常に組織は進化していかなくてはならない。」という考え方で自然環境への深い思いと傷病鳥獣に対する真摯な態度が印象的だった。

(2) 2007年度の活動内容
① 動物愛護フェスティバルにおける人形劇「 私たちの生きる道」〔県庁〕
② 「出前なんでも講座」に登録
   テーマ:人形劇で学ぶ「野生動物と人間と自然の関わり方」(小学生対象)
       2007.10.27(土) 高崎市 菅谷児童館    約60人
       2007.11.18(日) 高崎市 西部小学校PTA 約50人
       2007.11.19(月) 藤岡市 藤岡第一小学校   230人
  他に下仁田町馬山小PTA、富岡市黒岩小、前橋市大利根小PTAから依頼があった。

 <人形劇>「私たちの生きる道」
 2007年度は合計4回の人形劇を行った。生きる希望がなくなった飛べないフクロウ、フクロウを励ます放浪の旅をしているアライグマ、そしてアライグマが動物園で出会ったオウムの地球温暖化の話を回想する場面を盛り込んだ。怪我した鳥の運命や地球温暖化の影響などをわかりやすく映像を入れて公演した。出前なんでも講座では、注文が秋に集中し、十分に県民の要望に応えられなかったことが残念だった。人形劇の後に本物のフクロウを見せながらフクロウの生態、自然環境の大切さを話すと、子ども達からの質問も出て私たちも勉強になった。アンケート調査、藤岡第一小学校では子ども達の感想文も得られ次のステップの参考になった。
<人形劇および環境教育に関するアンケート調査、藤岡第一小の生徒からの感想文>
 3回の人形劇(県庁アニマルフェスティバル・西部小・菅谷児童館)終了後、アンケート調査を行った。その結果は別紙資料のとおり。環境教育は必要と思う人は95%、その実施主体の希望は学校44%、家庭24%、行政17%となっている。内容では 自然環境26%、身近な野生動植物24%となっている。藤岡第一小では3・4年生を対象に人形劇と環境教育を授業の一環として行ったため、生徒から感想文を書いてもらった。挿絵を入れたり率直な感想文に、子ども達なりに自然に対する考えが現れていた。

③ 自然保護団体関係の調査

 <自然保護関係のNPO団体の調査>
 群馬県には約90くらいの自然保護関係の団体がある。その中でも情報開示し活動している団体は73ある。趣味の延長、仲間同士の集まりといった小さな団体から日本野鳥の会のような大きな規模の団体もありそれぞれ特徴をもっている。自然環境全般を対象とした学習プログラムを実施している団体は12ほどある。

④ 行徳野鳥観察舎友の会の施設見学(野鳥病院、NPO活動等)〔千葉県市川市〕

 <野鳥病院>
 年間500羽前後の受け入れがある。そのうち3~4割が放鳥、3割が死亡、残りが長期飼育になる。病院には13室あり、治療室・中部屋・大部屋・個別室(8部屋)仮設猛禽室・仮設小鳥室がある。野鳥病院は散策路に面して一般の人も自由に外から見学できる。小鳥は足にビニールカラーテープを巻き、大型鳥はプラスチック製の結束バンドをして個体管理している。保護鳥の原因は人工物に衝突するものが多い。獣医師の常勤はないので外部固定や多少の縫合程度の処置のみ。水鳥用大部屋にはコブハクチョウ、カモ類、コサギ、ゴイザギ、シギ、カモメが過密状態に飼われ、部屋の隅に囲ってさらに飛べないハトまで収容。友の会の運営会員は常勤4人、パート、アルバイト含めて15人。パートやアルバイトは月1回または週1回などの勤務で普通は3~4人/日がいる。仕事は入院中の鳥の世話、餌やり(2~3人必要)、観察舎の管理、保護区の管理である。
<質問事項>
 ・ボランティア活動(1979年=S54設立)から約30年経過しているが、もし友の会が保護区を管理しなかったらどうなっていたか?
 →この法人は、水鳥をはじめとする多くの野生生物が生息できる湿地環境の保全と復元を理念とし、会員のほか千葉県行徳野鳥観察舎の利用者など不特定多数の人々に対して、自然とふれあう機会を提供し、自然保護の意義と知識の普及啓蒙をはかり野生生物の生息環境の保全と復元のための事業を実施するなど、自然環境の保全をはかる活動をおこない、もって公益の増進に寄与することを目的とする。友の会は保護区の設定後なので我々が管理しなかったとしても何らかの形で管理されていたであろう。現在「都市公園としてもっと人の利用を」という声が根強いし保護区が出来る前の地元の住民意識や現在の周辺状況(都市化)を考えると今の湿地環境という形はまず残らなかったと思う。
・活動資金は何か?(会費、寄付、受託収入、補助や助成、事業収入はあるか?)
 →物品販売の事業収入は以前あったが、在庫を抱えてかえって赤字になったので今はない。主な収入は千葉県、市川市の受託収入、会費、寄付。
・企業との協働はあるか?
 →以前ロータリークラブにトラクターを買ってもらったが、不景気になってからその後の協力はなくなった。企業との協働は経済状況の影響があるから困難な面がある
・子ども達への環境教育は何かやっているか?
 →大人に対して年2回、案内人養成講座を実施している。この先案内人をどのように活用するかが問題。学校見学会というのはある。何か体験ができるようなもの、「三番瀬環境教育」にも係わってくる。

3. ボランティア活動と行政との協働

 2年間の研究会の活動を通して、ボランティアでできる活動の一つは、子どもたちや大人たちへ工夫をこらした環境教育であることがわかった。

(1) ボランティア団体が環境教育をするうえでの問題点
① 環境教育は学校教育とは違うが、提供する情報の正確性が求められること。
② 環境教育ができるボランティア団体が少なく、また広く知られていないこと。
③ より多くの子どもたち、大人たちに自然環境や動植物の大切さを広めることを目的とする場合には他の工夫した手法(例えばネット上を利用など)が必要であること。
④ 求められている環境教育が実施されているかどうかの検証を、ボランティア団体自身が行うことは難しいこと。
⑤ アンケートによると環境教育の実施には家庭以外に学校や県が期待されていること。

(2) ボランティア活動の利点
① 人形劇という小さな環境教育活動でも感動を与えられ、草の根運動的に広がる可能性があること。
② 地球規模の大きな問題でなく身近な自然を題材にすれば、問題をより自分のことと捉えてもらえること。
③ 行政が休みの土曜日曜でも身軽に活動ができること。

(3) ボランティア団体と協働する中で行政の役割
① 環境教育の量と質を検討。(環境教育提供者の教育)
② 活動内容の広報、提供する場の調整。
③ 活動する資金面での援助。
④ 環境教育の効果の検討とフィードバック
 環境教育以外に野鳥病院の維持管理、運営そのものを福島県や千葉県のように委託する場合には、さらに団体の組織そのものが自立し成熟していないと成り立たない。群馬県にはそこまで大きな自立した自然保護団体は見あたらない。しかし現在は企業そのものがイメージアップを図るため自然保護活動に積極的に活動、参加している例が多く見られる。NPOでなくてもそのような企業との連携で環境教育やその他の自然保護活動が実行できる可能性があるものと思われる。また、社会的に環境問題がクローズアップされているため、学校教育でも必然的に自然環境保護の考えは取り入れられている。学校、行政、企業、そしてNPO等の民間団体がうまく連携しあえば、環境教育の実施はより充実してくものと考える。

4. 最後に

 私たちの生活は物にあふれ豊かであるが、その反面、大切な自然を急速に失いつつあることを報道等で大人も子どもも痛いほど知らされている。すなわち、あらゆるメディアを通して環境問題にさらされている子どもたちは、大人が思っているほど自然環境に対して鈍感ではない。そして大人も子どもも自分一人だけではどうにもならないという、単に無力感だけを感じてしまっているのではないだろうか。今の環境を作った大人がしっかりと現実を見つめ、環境問題解決のため少しでも実行していかなければならない責任がある。たとえ自分ひとりでも自然に対して思いやりをもち、ごみ一つでも拾って片付けること、マイバックを利用することが、地球にそして未来の子どもたちに豊かな自然を残せることを伝えていける身近な環境教育ができればと思う。そして強制でなくごく自然に自ら思いやりを持って行動できる子どもたちが増えたら理想である。


 
 
2006年度 水鳥の洗浄実習
 
2006年度人形劇
     
 
人形劇で展示したフクロウ
 
2006年度 福島県鳥獣保護センター視察
     
 
入院プレハブ室内
 
ナージングカード
     
 
2007年度 人形劇
  
     
 
2007年度人形劇と環境教育
 
2007年度 行徳野鳥保護観察舎視察
     
 
行徳野鳥保護観察舎の野鳥病院の公開ケージ
  

 
チラシ裏

 

2007年度人形劇アンケート調査結果