【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

猛威をふるい爆発的に感染拡大する「ウィルス」
とのたたかい

東京都本部/武蔵野市職員労働組合 島田 弘志

1. はじめに

 腸管出血性大腸菌O-157は、1996年5月28日に岡山県邑久町で2人の児童の尊い命を奪い、岐阜県、広島県、群馬県、神奈川県でも発生しました。全国の学校給食職場は、緊急的なO-157対策防止に右往左往し、子どもの命が奪われる実態に驚愕し続ける毎日でした。7月13日にO-157が発生した堺市では、患者9,500人、児童3人が亡くなるという爆発的なO-157の猛威にさらされました。亡くなられた児童の一人は、7月11日に下痢が発生し病院で「風邪」と診断され、翌日から真っ赤な血便が15分おき、16日に大量の鼻血や歯茎からの出血が激しく、関西医科大学付属病院に緊急入院し溶血性尿毒症と診断されたものの、脳からの出血が認められないとして「重症だが、命の危険なし」と判断が下されました。が、7月23日に容態が急変し20時24分肺からの出血で呼吸困難となり死亡が確認され短い命が閉ざされました。これまで、死亡事故を含む食中毒の発生が無かったことやアメリカでの発生状況、一部の専門機関は指摘していましたが、情報や対応策が全国的に報告されなかったことなど、当時の危機管理意識が低かったことが残念でなりません。

2. O-157発生までの学校給食における食中毒事例

 1993年から1995年までの食中毒発生事例を点検すると、①冷凍鶏肉の解凍不足、②下処理用の流しが無くトイレの手拭タオルの共用、③卵使用した機械の未清掃、④外注ハンバーグの再加熱不足と喫食時間オーバー、⑤使用した鶏肉使用の器具の洗浄・消毒不足、⑥鶏ガラ処理によるきゅうりの汚染、⑦炒り卵の加熱不足等など多くの不衛生状態が継続する中で、死亡者が出ていないという気の緩み、お互いの不衛生状態を指摘しあえないという職場実態もあり、また、衛生管理を保健所に任せておけばよいとする担当部局の安易な対応が、まねいた結果と判断せざるをえない状況です。世田谷区では、鶏肉のホイル包み焼きが生のものと加熱処理済みのものが区分けされぬまま、児童に提供されました。が、教師不在の中で児童の話し合いから、給食で提供されたものだから食べようということで、カンピロバクターの食中毒を発生させました。一段と、気の緩みとお互いの作業が点検できえないという職場実態が浮き彫りにされた事例です。

3. 地域、家庭で散発的に発生するO-157

 対抗手段として、食品の加熱処理温度や2次汚染防止等が学校給食衛生管理基準によって明記されたことなどから、O-157の発生は減少しましたが、飲食店や家庭での散発的な発生があります。数年前には、居住地が異なる中学生2人がO-157により重篤状態になり、保健所の追跡調査により同一の飲食店で「ユッケ」を食べたことが判明しました。また、大学の食堂では、多くの学生がO-157に感染したものの、業者が廃業したために、原因食品の究明は明かされませんでした。そして、乳幼児や若齢者等に生レバーなどを喫食した可能性によりO-157の感染が微増していることから、厚生労働省は若齢者向けの通達まで出している状況になっています。このように、食中毒防止の情報は公開していますが、国や公的機関、自治体のホームページを検索しない限り具体的な対応は判りません。また、検索したとしても難解なQ&A方式では、具体的な対応に苦慮している実態があります。そのことは、学校給食職場でさえ自治体によって温度差があるわけですから、食中毒防止に向けた多方面にわたる情報収集と、日々変化する対応策に向けた調査・学習が要求され、そこで得たものをどう地域・住民に知らせていくかが急務となっています。

4. だんだん判ってきたノロウィルスの実態

 1993年から1995年までの食中毒発生事例(学校給食)では、7件にも亘る原因菌不明の報告が挙げられています。これまでは、菌を培養して原因菌を究明してきましたが、ノロウィルスについては培養が不可能で、電子顕微鏡を用いてその実態がはじめて究明されてきました。また、このウィルスは極微細で人の手の細胞に食い込む性質があり、日常的な手洗いでは洗浄不可で、手術時手洗いの前の衛生的手洗いが必要とされます。潜伏場所が人の腸管内やカキ等の二枚貝があげられ、人の腸管内のみで増殖し、短時間・短期間での発症率が高いとされています。国産のカキは、検査が半ば義務付けられているのに、輸入品についてはフリーパス状態で、一段と発生要因を生み出している状況にあります。さらに、注目すべきは食品からの感染だけではなく、接触や空気などを介して経口感染するという特徴を持っており、症状は1~3日程度ですが、抗生物質や抗菌剤まみれになって抵抗力がなくなっている人類にとって、驚異的な感染性胃腸炎の原因となるウィルスであります。

5. 人体内で増殖、「その型は30種以上!?」サイクル化することによって大増殖

 2007年に提出された薬事・食品衛生審議会の食品衛生分科会食中毒部会による「ノロウィルス食中毒対策について(提言)」では、GⅠ・GⅡの遺伝子に分類され、さらにGⅠは15種類GⅡは18種類に分類され、また、それ以上に分類されます。それぞれの種類によって血液型と反応し、ウィルスを保有していても無症状の人が存在することが、調査結果で報告されています。これらに対処すべきワクチンが、ウィルスの培養ができないことから爆発的な感染をまねいています。ウィルスが付着した食品を食べて感染したり、手に付着したウィルスが口から体内に入って感染したりした後、①トイレで下痢によってウィルスを排出、②トイレから下水、③下水から川や海へ、④二枚貝に蓄積するというサイクル方式になっているのが実態で、発生する冬季は下痢症状を訴える人が多いことから、ウィルスによる川や海の汚染度は高くなり、2006年1月に発表された処理下水中のノロウィルスは、夏の60倍という数字をたたき出しており、下水処理で100分1程度減るものの0にはできないというむなしさが先行するばかりです。

6. その爆発的な発生実態

 2006年12月には、豪華客船「クイーン・エリザベス2世」号で、乗客1,652人のうち276人、乗員28人がノロウィルスに感染するという事態が発生し、たった1人のノロウィルス保有者が乗船したことによるなど、乗員・乗客の17%が短期間に発生するという、高確率のウィルスであることが判ります。原因食品を追求していくと、生カキなどの二枚貝やパン、生野菜、水などのほか原因不明の場合も比較的多く、食品以外ではノロウィルスに汚染された糞便・嘔吐物が多く、人が触れるドアノブ、手すり、とっ手、水道カラン、浴場、電車・バスなどの吊り輪、自動販売機のボタン、パソコンのキーボートなどに付着し、人の手を介して口に入り感染するといわれています。また、嘔吐物の処理方法によって嘔吐物が乾燥して室内に舞い上がるなど、目には見えないウィルスが人の口からはいって感染を拡大していきます。事例としては、①小学校の餅つき大会での手返しの手水が汚染を拡大、②ホテルの再発では、嘔吐物を殺菌できずに、ウィルスが施設内に舞い上がって再発、③小学校では、体育館で児童が嘔吐したものを殺菌できずに、床が汚染状態のまま使用し371人の発症者、④スイミングスクールの温水プールで、塩素の消毒力が低下し小学校5校程度に拡大、⑤学校給食に提供するパン製造施設の従業員が、ノロウィルスに感染し、素手でパンを処理していたことから16校の児童・教職員1,438人中661人が集団感染。
 このように、爆発的に発生してきたノロウィルスですが、2006年冬季の発生では、GⅡ4タイプのノロウィルスが検出され、2002年以降世界各国で集団発生を引き起こし、わが国でも2003年以降増加傾向にあることが判ってきました。

7. GⅡ4タイプのノロウィルスの特徴

 GⅡ4タイプのノロウィルスは、少量のウィルスでも感染しますが、GⅠ1タイプはA型O型の血液の方に感染し、GⅠの中にはA型とB型、あるいはA型だけに感染するタイプもあります。しかし、GⅡ4はA・B・Oの血液型に感染するなど、最も感染者が多いタイプと考えられています。そして、もう一つの特徴は感染しても症状が出にくいタイプであることが最近判ってきました。このように、ウィルスを保有していても症状の出ない人が感染拡大していくことなどから事前・事後の対応が複雑化を増してきています。そのため、気づかれないまま高齢者施設や病院へウィルスが持ち込まれたり、食品取扱者による食品汚染が多発した最大の要因であることが考えられます。厚生労働省等の「ノロウィルスに関するQ&A」では、様々な予防策が提示されてはいるもののノロウィルスの種類や特徴、血液型との関係などもっと実態に沿った具体的対応が求められる点が多く、もっと、地域や住民にわかりやすいマニュアル的なものが要求されます。そのような中で、東京都福祉保健局が作成したノロウィルス対応基準マニュアルは、排泄物や嘔吐物の処理の際に装着すべき物品の不備を除いては、大いに活用でき、社団法人日本食品衛生協会の「ノロウィルスの食中毒と感染症」というビデオを並行して活用すれば、尚、一層具体的な対応がはかれるものと考えます。

8. 学校給食職場の学習・研究・情報収集の取り組み強化が実態に即した対策を生み出す

 文部科学省は、(独)日本スポーツ振興センターに、学校給食で食中毒を発生させた施設に対して巡回指導を行わせ、原因究明と提示した施設改善を実施させてきました。その調査報告書では、市区町村教育委員会が学校給食実施者として、①責務を果しておらず、衛生管理体制の整備や具体的な衛生管理指導を行っていなかった、②施設・設備の不備を学校給食従事者の衛生意識で補っていた、③従事者への実践的な衛生管理に関する指導が不十分であった、④委託先に対する基準を遵守した指導や衛生管理に関する指導が不十分であった。ことなどが明記されています。委託された施設において、給食開始前から、ノロウィルス症状を調理員(委託)が訴えていたにもかかわらず、塩素消毒でなくアルコール消毒を継続するなど、その後も感染者が拡大する中での受託先と自治体との連絡不十分から最終的に1,000人以上の感染拡大に発展してしまい、損害賠償含め7,000万円の補正予算を計上する自治体が出始めています。また、この施設は2008年にも給食調理作業中に体調不良の訴えから、当日作業を中止し食材を廃棄したことが報道されました。このような実態からも危険予知に対する無関心さが目立ちますが、同様の食中毒は他県でも発生しており、その事例を学び研究し、さらに国、各省庁、公的機関のホームページの検索、専門機関が発行している情報誌なども含め、衛生管理強化のための多方面にわたった学習や調査・研究を保障させるなどの取り組みが不可欠です。このような取り組みなどから、日々、地域や家庭で発生している食中毒や地域・住民の悩み等に対して、三期期間を利用して、親子料理教室や給食フェアなどを通じて、これら専門的な健康や命に関わる問題を、知らせていくことができます。これが、直営であり正規職員がいる強みではないでしょうか。氷山の一角であり、ある食品会社では腐敗したものの使用を社員が社長に指摘しただけで、社訓に合わないとして、即刻、首になったという事態まで露呈し、いかに食品業界そのものが、営利第一主義であるということが判ってきます。

9. 東京都健康安全研究センター「ノロウィルス対策緊急タスクホース」に期待する

 冒頭、堺市のO-157を取り上げてきましたが、児童3人の尊い命が奪われたのに、堺市では給食再開1カ月後、児童が食べた給食の抜き取り検査を行いO-157が検出されましたが、「危険は無い」とのトップ判断で2006年までの10年間隠し通してきたことに、無念さと失望感をかくしきれません。一歩間違えば、さらに犠牲者を増やすということになり、行政そのものが子どもの命と健康を無視した、もっとも悪質な行為として糾弾されるべきであります。また、遺伝子組み換え菌を殺菌せずに、実験室内の流しに捨てた神戸大大学院医学研究科の行為も、新たな食中毒菌や他のウィルスと結合する恐れがあるなど、カキや二枚貝に関係するノロウィルスのさらなる増殖を進行させるかもしれないなど、絶対に許すことのできない事例です。文部科学省が遺伝子組み換え実験菌の処理についての通達を出しているにもかかわらず、他の実験施設でも同じ行為があるとしたら、大変な食環境が予想され、サポウィルスやロタウィルスなど、解明の進まないウィルスの増大が危惧されます。東京都健康安全研究センターは、ノロウィルスの社会問題化に対して、2007年3月に外部専門家等とノロウィルス対策緊急タスクホースを設置して、ノロウィルスの感染拡大の防止に向けた調査研究を実施し、新たな知見に基づく情報を提供し3年後に最終報告を出していくとなっています。現在、問われている課題は、①塩素の有効性、②ウィルスの飛まつ感染の特徴からドライシステムの有効性、③飛まつ感染防止からトイレを和式から洋式に改善し水流の弱い方法への移行が浮上しつつあります。新たな知見の中で、これまで常識であったノロウィルス対策が、根底から覆させられることも予想され、なるべく早く「ノロウィルス対策緊急タスクホース」最終報告書の作成を待ちたいと思います。