1. 金沢市の紹介
金沢市は石川県のほぼ中央に位置しており、前田家加賀百万石の城下町として繁栄し、加賀友禅や金沢箔、九谷焼などの伝統工芸や、能楽、加賀万歳などの伝統芸能が受け継がれてきました。五代藩主前田綱紀の時代には、日本中から有名な学者や貴重な書物を集め、学問を奨励したことにより、「加賀は天下の書府」であると称えられました。
また、戦災や大きな災害を免れたため、藩政時代からの美しいまちなみが現在でも多く残っており、金沢市の貴重な財産となっています。
市制施行後は、県庁所在地として行政・文化・経済の中心として発展を続け、現在は人口約46万人の中核市となっており、2006年3月には、「金沢世界都市構想第2次基本計画」を策定し、「元気なまち・美しいまち・安心して暮らせるまち」の3つの目標を掲げ、活力ある世界都市金沢を目指しています。
2. 金沢市における校務職場の状況
金沢市には、小学校59校(ほか分校1校)、中学校24校(うち小中併設3校)があり、約3万6千人の児童・生徒が通っています。また、小中学校の他にも工業高校と美術工芸大学を金沢市で設置しており、工芸やものづくりに対する教育に力を注いでいます。
一方、私たち校務士は、小中学校93人、市立工業高校2人、教育総務課6人、生涯学習施設のキゴ山に設置されているふれあいの里5人、少年自然の家2人の合計108人体制で業務を担っています。
以前は、ほとんどの学校で校務士2人体制による業務を行っていましたが、地方自治体の現業職員退職者不補充といった全国的な流れのなかで、1997年度には、金沢市の学校校務士職場においても、2011年度末までに段階的に全ての学校において校務士1人配置とし、職員数の減少による労働過重となる作業を一部業務委託するという方針が打ち出されました。
また、1人校に対するフォロー体制を確立するため、教育委員会内(教育総務課)に作業班を設置するといった業務体制の見直しが行われました。
3. 能力向上研修の実施
業務体制の見直しによって、これまで分担していた業務を1人で行わなければならず、校務士一人ひとりのスキルアップが不可欠になりました。そこで、学校現場と教育委員会が連携しながら、試行錯誤を繰り返し、様々な研修を行ってきました。
まず、最初に行ったのは技術向上選択制研修で、日常的な業務のなかで無意識に行っている生垣剪定、刈り払い機のメンテナンス、花・土づくり、除雪機の操作・メンテナンス、ワックス清掃床塩化ビニールシートの補修、トイレ設備、電動工具の取り扱い、消防設備、電気設備、雪吊り、ボイラーメンテナンス等について、より専門的な知識や技術を身に付けるために希望者が受講しました。
次に行ったのがブロック研修で、市内の学校を4地区に分け、そのブロック単位(約20人から25人)で夏季休業中に研修を企画しました。
研修内容はタイル張りや竹垣補修・設置、パンク修理(一輪車、作業用一輪車)等で、前述の技術向上選択制研修の復習を兼ねた研修も数多く行ってきました。
今年度は、受講者を女性に絞り、さらに小人数グループ(3人から6人の希望制)の受講体制で、これまで数年行ってきた研修を復習する場としました。
2008年度のグループ研修詳細
・給排水・電気設備の基本(給排水設備・電気設備図面の見方)
・ドリル全般(振動ドリル、インパクトドライバー、ハンマードリルの取り扱い)
・消防設備(消火栓ポンプ、防火水槽等の点検、消火栓作動時の状況把握と復旧)
・エンジン機器全般(草刈機、エンジンバリカン等の取り扱いとメンテナンス)
・木工作業の基本(木工電動工具の取り扱い)
・トイレ補修(パーテーション補修、鍵の補修・取り替え、脚部の調整)
・トイレ大便器部品交換(フラッシュバルブ、ハンドル部など)
・床塩ビシート補修(小規模な塩ビシートの張り替え作業)
・外灯の点検(タイマー、センサーのしくみ)、蛍光灯の交換
・戸車交換(戸車の交換と部品の発注方法、部品廃盤時の対応)
・ボイラ自主点検方法(ボイラー自主点検の点検項目の解説)
また、平行して行った全体研修では、2000年~2001年に、夏季休業中1校(大規模校)に全校務士を1週間ブロック別に集め、廊下の腰板の張替えと廊下・教室の壁のペンキ塗りを行いましたが、結果としては、準備段階の労力の割に効果が曖昧であり、「研修なのか共同作業なのかわからない」という意見も多く、取り止めになったということもありました。
その後、2002年~2003年には、学校側から「図書室の充実を図りたい」という要望を受け、集成材による本棚の製作研修を行いました。この研修は校務士の能力によっても差はありますが、多くの職員が技能を習得し、木工作業に対する意識が向上した結果、「子ども達や学校職員に喜んでもらえる作業ができるようになった」という声も多く聞かれました。
4. 共同作業の実施
共同作業については、1人校のフォローと若手の育成を目的とし、前述の市内の学校を4地区に分けたブロック制の枠で実施しています。
実際の作業は、三期休業中に行うことが多く、平常時は校務長(主査)が中心となって生垣の剪定、竹垣の設置、物置の建設、ペンキ塗り、ワックス清掃、蒸気トラップ交換等を行っており、これらの共同作業は、職人文化である先輩方からの技術の伝承といえば大げさかもしれませんが、複数の職員が作業を行う上でのチームワークの確立や現在の学校職場における人間関係の形成にも大きな効果をもたらしているといっても過言ではないと思っています。
しかし、そのような共同作業も校務士の減少で各学校の業務をこなすことが精一杯の状況となった現在では、見直さざるを得ない時期にきているように思います。
5. 予防活動の実施
近年、公共建築物は安易に建て替えるのではなく、既存施設の有効利用と建築物の「機能維持保全」による資産管理が求められています。特に、毎日その学校に勤務し建物を管理する市の職員として、校務士が担う日常業務は重要であり、日頃から施設を適切で良好な状態に維持管理することで、耐久性や安全性を確保することが可能となります。
金沢市においても、施設を予防保全する観点(定期的に点検や修理、部品交換を行い、故障を未然に防止するために行う保全)で管理していくという方針が取られ、営繕課・教育総務課とともに、校務士が主体となって学校施設の維持管理を行う体制づくりを模索しています。
初年度にあたる2006年度は、営繕課の建築、電気、設備の技師を講師に迎え、定期点検の重要性や効果についての説明を受けた後、具体的なチェックリストに基づいた定期点検の仕方を学習しましたが、結果として、「定年まであと少しだから……」、「校務士の業務を超えている」、「定期点検の目的は理解できるが難しすぎる」といった研修内容に対する否定的な意見も多数ありました。
しかし、この取り組みの意義を納得し、少しずつでも学校設備の仕組みを理解して点検方法を身につけ、共通の点検記録データをとり続けることができれば、異動で校務士が入れ替わった場合でも、その学校の継続したメンテナンス体制を確立することができ、さらに、学校、教育委員会、営繕課間の情報の共有化で、設備の延命化に対する解決策を探し出せるのではないかと思っています。
2年目は、営繕課講師による事前研修を受けた校務長が研修のリーダーとなり、全体研修を行いました。指導的立場の校務士が後輩に講習を行うという自ら責任ある立場となることにより、知識の習得方法として効果的だったように思われました。
3年目となる今年度から本格実施期に入り、年2回の点検(5月、10月)の第1回目を行いました。当然ある程度予測はされていましたが、点検を行う上で校務士個々の経験の違いや学校の老朽化度合い、設備の違いなどにより結果に差が出ているようです。今後に向けた校務士の点検力の底上げのためには、点検方法について疑わしいもの、解らないものについて知識を持った職員に遠慮しないで問い合わせることにより、全体で理解していくという取り組みと体制(雰囲気)作りが重要と考えています。
また、点検作業は年2回ではありますが、点検の趣旨を十分理解し、日常の清掃作業や修繕作業において常に定期点検項目を意識することにより、壊れる前の対策を考えることができるのではないでしょうか。
維持管理のポイント
・屋根の伸縮目地やルーフドレンまわりにゴミなどが集積していないか。
・手摺りのぐらつき、滑り止めのはがれ・浮きなどがないか。
・外壁、庇にひび割れ、浮き等の破損がないか。
・鉄部の塗装が劣化していないか。錆が発生していないか。
・排水管、集水枡に泥やゴミ、落ち葉が溜まっていないか。
・樹木が電線等に接触していないか。
・水道、ガス、電気の使用量が異常に増えていないか。
・給水、電気、排水の経路を確認しているか。 など
6. 防災への取り組み
今年も6月14日に岩手・宮城内陸地震という大きな災害が発生しましたが、私たちも、昨年3月24日に能登半島沖地震を体験しています。幸い金沢市では被害はほとんどありませんでしたが、防災に対する対策の重要性を強く感じました。
昨年度の組合の取り組みとしても近隣自治体の仲間の体験談を聞く学習会、防災安全課職員による学習会を開催し、防災に対する意識や備えについて、日頃から災害が起きた場合どのように対処すべきかを考える機会を設定しました。参加者からの意見としても「自分たちができることを前向きに取り組んでいきたい」といった積極的な意見が多く寄せられ、現業統一要求の項目に校務士の防災に対する取り組みの支援(研修制度)を盛り込みました。結果として前向きな回答を得ることができ、今年度の夏期の研修項目に盛り込んでもらうことができました。
被災した場合、まず、自分の身は自分で守ること。次に、地域組織(町会)での防災体制を確立することが重要です。さらに、小中学校は地域住民の避難場所となります。学校により備蓄されている備品の種類や量に違いがありますが、各学校には防災時に使用するための多くの物資が備蓄されており、学校の施設を一番よく知っている校務士が普段から防災に対する意識と知識を持つことで、大変重要な役割を担える存在となります。そのためにも校務士の組織内に防災に対するリーダーを育成(防災士の資格を取得)し、日頃から防災に対する学習会を行い、具体的に災害時に求められる知識を少しずつでも習得することが大切であると、現在取り組みを進めているところです。
7. おわりに
現業に対する退職者不補充、賃金抑制圧力など私たちを取り巻く環境は厳しさを増しています。金沢市の校務士の人数も退職者不補充により減り続け、業務内容についても以前の様にできなくなってきていることも数多くあります。その分私たちは知恵を出し合い、協力し合うことで時代の変化に適応できる組織となり、未来を担う子どもたち、地域住民の役に立てる存在になれるよう努力していきたいと活動を続けていきます。 |