【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

学校給食調理における住民PRの考察


三重県本部/明和町職員労働組合

1. はじめに

 小泉政権よりの「官から民へ」というキャンペーンのもと、郵政民営化をはじめとして「市場化テスト法」「指定管理者制度」など民間委託や民営化への流れが作られ、その後の安倍そして福田政権へと変わってもその流れは鈍化したもののなくなったわけではない。
 その影響を今最も受けているのが、現業職場である。賃金センサスとの比較の公開もそのひとつである。雇用形態や勤続年数などを全く無視し、同一業種というだけで比較するなどコストのみをクローズアップして比較しようとする政府の意図がはっきりとみてとれる。
 明和町においては、学校給食の見直しが市町村合併の破綻以降、再び検討課題としてあがってきた。そこで明和町職員労働組合では、現業評議会を中心として町民文化祭等の場で住民に対して直営学校給食の良さを知ってもらうため「お試し給食」などの取り組みを2005年より進めている。現在のところ、直営が続いているものの、一部民間委託が検討される中、今後の取り組みを考える上で必要であるとして、検証を行った。

2. 学校給食について

 日本の学校給食は、1889年に山形県鶴岡町(現鶴岡市)の私立忠愛小学校において、おにぎり・焼き魚・漬物といった昼食を貧困児童に与えたのが最初の給食とされている。その後、戦時中の中断を経て、1954年に学校給食法が施行され、学校給食は教育の一環として位置づけられた。この学校給食法第2条には下記の4つの目標が掲げられている。

一 日常生活における食事について、正しい理解と望ましい習慣を養うこと。
二 学校生活を豊かにし、明るい社交性を養うこと。
三 食生活の合理化、栄養の改善及び健康の増進を図ること。
四 食糧の生産、配分及び消費について、正しい理解に導くこと。

 これの条文からも、学校給食の目的がただ児童・生徒の「昼食」ではないことは明らかである。
 また最近給食費の滞納が問題となっているが、この給食の経費について同法第6条で下記のように記されている。

第6条 学校給食に必要な施設及び設備に要する経費並びに学校給食の運営に要する経費のうち政令で定めるものは、義務教育諸学校の設置者の負担とする。
2 前項に規定する経費以外の学校給食に要する経費(以下「学校給食費」という。)学校給食を受ける児童又は生徒の学校教育法第22条第1項に規定する保護者の負担とする。

 これは人件費・調理費など食材以外は学校の設置者、公立学校においては自治体の負担であるということを示している。
 さて日本以外では、アメリカ・イギリス・フランスなどの諸外国においても学校給食を実施している。そのうち学校給食を官から民へと民営化させたのはイギリスである。イギリスの学校給食は20世紀初頭より始まったが、1980年代「小さな政府」を目指し公営企業の大規模な民営化を実施したサッチャー政権が行財政改革により無償の学校給食を原則的に廃止し、そして1992年に学校給食を完全民営化した。その後イギリスの学校給食は合理化のため伝統的な料理が姿を消し、ファーストフード型のメニューが主流となっていった。しかしこれに対し国民の間から批判の声が高まったことから給食改善の取り組みが広がり、2005年秋に学校給食の栄養基準を設け、また2006~2009年までの4年間で約600億円の予算をかけて学校給食を改善していく新たな基準を設けるなど、学校給食を教育の一環として再び見直し政府としての責任を強化する方向で方針転換をしている。
 もう一度日本の学校給食調理の現状をみると、次のような調査結果を文部科学省が発表している。


①学校給食調理員数
 

常勤職員

非常勤職員

職員数

比率(%)

職員数

比率(%)

2006年

44,414

65.0

23,867

35.0

68,281

2005年

46,102

66.3

23,476

33.7

69,578


②学校給食における外部委託状況
 

調理(%)

運搬(%)

2006年

21.3

39.2

2005年

19.8

37.2

(スポーツ・青少年局学校健康教育課)


 ①の学校給食調理員数については、少子化に伴う児童・生徒数の減少により職員数の減少も原因としてあるだろうが、常勤職員の減少分を非常勤職員で対応していることが構成比率から見て取れる。当町もそうであるが、退職者の補充を完全には行わず新規採用を抑制し、非常勤職員で補充していることが推測できる。
 また②の学校給食における外部委託状況は年々増加してきている。調理業務では2005年の19.8%から2006年は21.3%と1.5%増加している。また運搬業務については、2005年の37.2%から2006年は39.2%と2.0%増加してきている。調理業務は5校に1校が、運搬業務は5校に2校が外部委託されている状況にある。
 これら2つのデータからも全国の自治体で学校給食に対する経費削減策が正規職員の削減という方法で進められていることは明らかである。
 しかしこれらのことについて住民はどのように考えているのであろうか。郵政民営化の時のように、きちんとした議論も行われないまま一方的に進められているのではなかろうか。また実際に調理業務を民間委託したが、委託料が直営を上回ったという事例が発生していることなど、きちんとした情報が伝わっているのかと疑問に思い、町民文化祭及び6月の斎王まつりでのおためし給食の取り組みを通じ来訪者にアンケートを実施した。

3. 調査結果

(1) 2006年の町民文化祭でのアンケート結果
  2006年11月に町民文化祭でお試し給食を実施した際に、来訪者にアンケートを実施した。設問数は7問、回答数は92であった。いくつか設問はあるが、特に注目したいのが下記の4問である。これらについて個別に見てみる。


図1
設問3:学校給食に関心がありますか

設問:学校給食に関心がありますか。
 図1のように、学校給食に関心があると答えたのは、全体の90%を占めており学校給食そのものについて関心が高いことがうかがえる。


図2
設問5:現在の学校給食について

設問:現在の給食についてどう思いますか
 現在の給食についてどのように感じているかという問いに対して、右図2のように、「現状のままでよい」という回答が全体の47%とほぼ半数を占めている。一方で「もっと充実させてほしい」という回答に関しては「子どもがどんなものを食べているのか心配」「カロリーの少ないものを取り入れて欲しい」など食品に関する意見が出された。


設問:学校給食についての不安はありますか。
 この問いについては下記の図3のとおり、「ない」が72%占めている。「ある」と回答した中には、「食材にどのようなものが使われているのか不安」「添加物がどうなっているのかがわからない」という『食に対する不安』や、「ずっと続くのか不安」「民間委託されると不安」といった『学校給食』そのものについての不安を感じている意見が見られた。
設問:学校給食が民間委託されることについて
 この問いについては、下図4のように意見が分かれた。これについては、「民間委託が検討されていることを知らなかった」という人も多く、民間委託についての情報が非常に少なく、住民にとっては判断しにくい問題であったことが伺える。


図3
設問6:現在の学校給食に不安はありますか

図4
設問7:学校給食の民間委託についてどう思いますか

 以上の結果から、学校給食について関心は高いものの、「どのように調理されているのか」、「今後学校給食がどうなっていくのか」といったような情報がないため、民間委託について住民が判断することが困難な状況にあることが伺える。


(2) 2008年 斎王まつりでのアンケート結果
 本年6月8日に開催された斎王まつりについて学校給食で人気のある「あげぱん」の販売を行うとともに、同じテント内で給食調理のようす・給食レシピの公開や職労のさまざまな活動のパネル展示を行った。そしてそのテントに訪れた人にアンケートを実施した。設問は全部で9問、回答数は121であった。特に注目したいのが下記の4問である。


図5
設問5:あなたは食品の添加物を気にしますか

設問:食品の添加物を気にしますか。
 この問いについて、①「非常に気にする」および②「ある程度気にする」と回答したのが、右図5のように①35.5%②52.1%と90%近い人が、添加物については何かしら気にしていることがわかる。


図6
設問7:学校給食に関心がありますか

設問:学校給食に関心がありますか。
 この問いの回答は①非常に関心がある②ある程度関心があると回答したのが、全体の88.4%と非常に高い数値であった。ここで、先の設問5で①非常に気にする②ある程度気にすると答えた人が、この「学校給食に関心がありますか」の問いについての回答は、右図6のように①非常に関心がある②ある程度関心があると答えた人は、合計89.7%と大多数の人が関心を示している。


図7
設問8:学校給食が厳しい検査をして調理されていることをご存知ですか

設問:学校給食が厳しい検査をして調理されていることをご存知ですか。
 前の設問で「関心がある」と答えた人は、この問の回答は、右図7のように①「よく知っている」②「ある程度知っている」と「知っている」と答えたのは、68.1%と7割近くにはなったものの、給食に関心があっても、調理の実情については知られていない部分もあり、必ずしも「給食への関心」=「調理への関心」とはなっていない。


設問:調理業務の民間委託についてどう思いますか。
 前の設問で「知っている」と回答した人と、「知らなかった」と回答した人についての回答は、下図8(「知っている」と回答した人)下図9(「知らなかった」と回答した人)のとおり、「知っている」人は①「民間委託に反対」②「どちらかというと反対」が合わせて61.0%となり③「どちらかというと民間委託に賛成」⑤「民間委託に賛成」の合計15.6%を大きく上回った。また⑤わからないと答えの人は6.3%となった。
 一方で、「知らなかった」と答えた人のうち①「民間委託に反対」②「どちらかというと反対」が、55.1%と「知っている」人に比べるとやや低下している。また⑤「わからない」と答えたのは31.0%と「知っている人」の5倍近くになった。


図8
(設問8で「知っている」と回答した人)調理業務の民間委託についてどう思いますか

図9
(設問8で「知らない」と回答した人)調理業務の民間委託についてどう思いますか。

図10
(「給食に関心がない」と回答した人)調理業務の民間委託についてどう思いますか。

 さらに、設問7の「学校給食に関心がありますか」という問いに③「それ程関心がない」④「全く関心がない」と答えた人は設問9の学校給食調理の民間委託について右図10のように反対・賛成・わからないが、それぞれほぼ同数に分かれた。


(3) 傾 向
 上記の検証から、2006年11月のアンケートでは、給食がどのような基準で提供されているのかという情報を示さなかった。その結果、民営化については賛成15%、反対28%と反対が賛成を若干上回ったが、その一方で「どちらでもよい」「わからない」が45%もあった。
 今回のアンケートでは、食品に対する関心が今まで以上に高まっているという背景もあるが、給食調理に厳しい基準があるという情報を示したところ、民営化には反対・どちらかというと反対という意見が半数以上となった。また、給食に関心があっても、調理業務についての関心がそれほど高くないことや、調理業務のようすを知っている人ほど民間委託には反対という意見が高くなる傾向があることもわかった。さらに調理業務を知らない人は民間委託について、「わからない」という意見が知っている人と比べると非常に高い割合を示したことや、さらに「給食に関心がない」と答えた人が民間委託についての意見もほぼ同数ずつに分かれたことから、給食調理業務についての「認知度」が民間委託についての意見を大きく左右させると言える。 

Ⅳ 今後への課題

 政府は「市場万能主義」という聞こえのよい言葉で民営化や民間委託をすすめようとしているが、実際は単なる歳出削減が目的である。先に述べたようにイギリスのサッチャー政権が行った歳出削減のための合理化は、20年近く経過した後に「失敗」とみなされ方針転換されている。「学校給食」が誰のためのものであり、どういう目的で実施されているのかを軽視し、いわば「政府の都合」で民間委託はすすめられてきたと言ってもいいのではないだろうか。現在の日本は20年前のイギリスと同じことを繰り返すことになるのではないか。
 今回の調査で、住民の多くは学校給食そのものへの関心は高いものの、給食調理業務についての関心はまだまだ高くないということがわかった。学校給食への関心をもっと調理業務への関心に繋げていくためには、私たちが地域に出て語りかけることで正しい情報を発信することが重要である。そのことによって住民は、議論や検証のない「政府の都合」による民間委託に反対の声をあげてくれるのではなかろうか。また「知っている」からこそ「工夫がない」という意見が出されたことから、「どのようにしたらよいものができるのか」ということも常に考えていくことが必要である。
 今回の調査は、「食育」という視点からの調査を実施することができなかったが、民間委託されたことによって、栄養士の声が反映されなくなったり、食育の幅が狭くなったという事例もある。今後は「食育」という視点からの調査研究をしていくことも必要であると思われる。
 最後に、「合理化の波」は決して現業職だけの問題ではない。非現業職場においても同じことが言えるのではなかろうか。地域公共サービスがどのようにして行われ、今後どうしていくのかという情報を住民にきちんと正しく提供し、一緒に考えていく必要がある。偏った報道により「無駄が多い」というイメージを植えつけられている現在の「公共サービス」ではあるが、私たち自らが地域に入ってさまざまな活動を行い、「公共サービス」の本来の姿を知ってもらうことが重要である。そのためには私たちも意識を変えていく必要があり、同時に労働組合も変わっていかなくてはならないと考える。公務労働者の労働条件改善のたたかいだけに留まらず住民との協同を進めていくことにより、結果として労働条件の改善へとつながっていくのではないだろうか。学校給食の地域へのPRという一面だけを捉えた今回の調査ではあるが、実際業務に従事している人の声にこそ一番訴える力があり、その声を継続的に聞いてもらう取り組みを進めていくことによって「公共サービス」の必要性を住民に理解してもらえるのではなかろうか。明和町職労は今後もさまざまな取り組みを通して地域へのPRを行っていく。