【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

学童保育の現状と課題


京都府本部/宇治市学童保育指導員労働組合・副委員長 香川 千絵

 宇治市学童保育指導員労働組合では宇治市の学童保育についての現状、課題などを冊子にまとめ4月に発行しました。今回はその冊子内容を中心に報告します。皆さんに学童保育についての理解を深めて頂き、また同時に私たちの学童保育に対する熱い思いを伝えられたらと思います。
 まず「学童保育とは何か」という原点に触れたいと思います。働く女性や核家族が増える中で、共働き家庭や一人親家庭の子ども達は、放課後や夏休みなどの長期学校休業日には親が仕事をしているために、子どもだけで過ごすことになります。このような家庭の子ども達の、毎日の放課後や長い一日の生活を、安全で充実したものとして保障して欲しいという親の願いから生まれました。働く親は、遊びに行きたいときだけ行けるという、子ども達が自主的に選択する「遊び場のひとつ」である児童館よりも、親が働いている時間、責任を持って「保育」するという役割を担う学童保育を求めました。毎日安心して「家庭に代わって帰れるところ」それが学童保育です。子ども達が安心して生活を送ることが出来てこそ親も安心して働き続けることができます。それ故、学童保育には親の働く権利と家庭の生活を守る役割があると言えます。
 学童保育に通う子ども達はそこを生活を営む場所として、学校から「ただいま」と帰って来ます。そして家で過ごすのと同じように、休息したり、宿題をしたり、おやつを食べたり、友達と遊んだりします。学童保育は子ども達にとって「放課後の生活の場」そのものなのです。
 学童保育は近年の少子化進行、共働き家庭の一般化、家庭や地域の子育て機能の低下など、子ども達を取り巻く環境が大きく変化し、児童をめぐる問題の複雑化、多様化に適切に対応するため1998年に児童福祉法の見直しにより『「放課後児童健全育成事業」として法制化されました。
 そのような子ども達の放課後の生活を安全で充実させていく役割をしているのが指導員です。その仕事としては、子ども一人ひとりの健康管理、安全管理、異年齢の中で集団生活をつくる、遊びや行事等を通して成長への働きかけ、学校との緊密な連携、家庭との連携(帰宅方法の把握を含む)、保護者対応、苦情の対応、ケガや病気の対応、障害児童の対応、子どもの心のケア、諸費の徴収、おやつ・備品等の購入と管理、施設の管理など保育の専門性が関わってくることから事務的なもの、雑用まで多種多様です。
 私たち指導員は行政発行の「宇治市育成学級 学級運営の手引き」に基づいた指導目標、方針、年間計画等に沿って学級運営を行っています。学童保育へ高まるニーズへの対応、サービスの多様化が求められ年々内容も複雑になってきています。中でも近年、子ども達を標的にした事件などが多発し、安全管理、危機管理に関しては指導員研修としても時間をとり、子ども達の命を守る場として重責を担っています。記憶に新しいところでは5月21日南区で主婦が刺され現金を奪われた事件で、宇治市の木幡小学校付近に犯人が居たことが確認され、当日においては宇治市の全育成学級が5時の集団下校の引率を行いました。それ以降は各学校の措置に従い、ある学童保育では7日間、事件解決まで引率が続きました。その間の指導員の緊張、疲労はいうまでもありません。その際も各学級とも緊急事態における下校時に対応しての地図、名簿などのファイルを作成していたことで、落ち着いて対処出来ました。そのような事件だけでなく、児童虐待や不登校児童の増加、いじめ、引きこもり等の社会状況がいっそう深刻化していることが、サービスのニーズの複雑かつ多様化に拍車をかけているのが実態です。
 次に宇治市の学童保育の現状に触れます。宇治市の学童保育の取り組みは女性進出が拡大していく1967年から始まり40年という長い歴史があります。現在、公設公営で市内の22の小学校中20校の校内に、空き教室や専用施設で育成学級として開設されています。対象児童は1年生から4年生まで(5、6年生の特別措置あり)1,400人を越える児童が在籍しています。2007年度からは保護者の保育サービスに対する高いニーズに応え18時30分まで開設時間が延長されました。
 近年の少子化の進行にも拘わらず、学童保育を利用する児童は全国的に増加し続け宇治市においても、この10年間で300人以上増加しているのが現状です。2008年度は4学級が定員を超えてスタートしました。中には定員を30人以上上まわった学級もあります。大規模化の中で指導員の数を増やしても一人ひとりの指導員が全員を見なければならないので人員配置では解決しないのが現状です。
 1クラス75人以上での保育は、学級が落ち着かず些細なことでの子ども同士のケンカやトラブルも増え、遊びや活動も制限され、宿題をするスペースもなかなか確保出来ず、子ども達がのびのびと過ごせる環境ではありません。物理的な対応も追いつかず、トイレ、手洗い場はいつも列をなして順番を待っている状況です。子ども達の安全、使いやすさを考えて要求する施設改善、修理もなかなか進みません。そんな中、指導員の工夫や知恵により悪条件をもまた子ども達にいろいろなことを教えるチャンスとしてとらえ日々運営しています。
 しかし市はそんな努力を尻目に待機児童を出さないための策として定員以外に新たに施設定員(施設面積÷1.5m2)、運用定員(施設定員×1.1)というものを打ち出してきました。施設面積に関しては、子どもの居場所としての面積に、トイレや指導員室も含んでの計算となっており、児童1人あたりの床面積は畳半分もないのが実態です。定員以内の数であれば、起こりえない問題まで抱え、時間延長された中で集中力が途切れないよう、緊張感を持ち続けて行くことは、指導員にとって本当に過重になっています。
 このような現状の中、私たち指導員は、管理職の居ない現場で、公的なサービスを提供し、恒常的な業務に従事しています。経験が必要で専門性の高い職務を担っているにも拘わらず、基本賃金において経験年数は加算されず、定期昇給なしの1年雇用の非常勤嘱託職員の身分です。長きに渡っての貢献に対する退職金さえもが10年頭打ちの現況です。この事は現実の職務内容にそぐわない不十分な雇用体制です。市の業務からすれば非常勤ですが、この事業からすると常勤の職員なのです。
 2007年度からの保育時間延長に伴い、17時から18時30分までの勤務時間になり、個人の生活スタイルが大きく変わりました。家事や食事にあてていた時間が大幅に変わり、子どもを保育園に預けている指導員は、ファミリーサポートや延長保育を利用するなどの現況になりました。それでも私たちは市役所職員が17時15分までの勤務のなか、指導員全員で責任を持って18時30分まで子どもを保育しています。それなのに1時間30分延長された勤務は、通常の業務時間内とされ、時間単価は変わらないのです。夕方の1時間30分の重み、かけがえの無い時間帯の労働が評価されていません。
 長期学校休業日には、1日の勤務時間が長くなり、休憩要員を配置することになっているのに、実際は徹底されず、指導員が工夫しながら取り合っているのが現状です。時間外勤務ばかりが年々増え、市が運営上必要だと認めている時間でさえも、基本賃金には組み込まれません。
 その中で大きな業務を担う大変さとそれに見合わない賃金、将来先が見えない不安もあり辞めていく指導員が多いことが現実です。指導員の入れ変わりがあると子どもも落ち着かず、残る指導員の負担も大きく、保育サービスの低下につながります。事業を円滑にやっていくためには雇用が一番大切です。良い人材無くしては、成り立たない事業であるということを基本に、勤続年数に応じて段階的に上がっていく働きがいのある賃金体系を目指し、また短時間公務員制度を視野に入れて抜本的な身分、労働条件の改善をこれかも求めていきます。
 このような現状のなかでもたくさんの指導員が毎日頑張っています。それはこの仕事に誇りや、やり甲斐を感じているからです。けん玉が苦手だった子が励ましの言葉で少しずつやる気を出し、上手になったこと、ドッジボールで上級生の強いボール受け満面の笑みを見せてくれたこと、1年生の頃はやんちゃで甘えん坊だった子が4年生になったらリーダーとしてみんなを引っ張って行くようになったこと……。そんな子ども達がキラっと光ったり何かをきっかけに自信を持ち変わって行く姿を目の当たりにできる仕事です。子ども達の未来への無限の可能性を感じられる現場です。中にはきれい事で語れないことも多々あります。しかし愛、想いが子どもや保護者に通じた……と感じられる瞬間があります。愛があれば何時かは伝わると信じています。You all are the one and only treasure's―「君はかけがえのない宝物」。そんな子ども達にエールを送れる仕事であると共に自分も子ども達からたくさんのパワーがもらえる現場です。
 今後も学童保育の利用者数はますます増え続けると予想されます。その中で「放課後子どもプラン」が導入され、学童保育も大きな変動の中で整備が進み節目を迎えることになると思われます。子ども達が安全で生き生きとした放課後の生活が送れるよう一層の拡充が求められます。そして未来を担う子ども達を育てる指導員の仕事に、今まで以上の誇りと意欲が持て安心して働き続けられる労働条件を確立していくことが必要です。経験と継続が私たちの財産です。私たちが胸を張って働いてきた証が評価されるよう、組合活動をこれからも頑張っていきたいと思っています。