【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

教育委員会事務局の事務職域における自治研活動のあり方


大阪府本部/大阪市職員労働組合・教育支部・支部長 宮崎 聡司
副支部長 戸倉 信昭

1. 教育委員会事務局職場の変化~大阪市をめぐる状況

 社会教育・生涯学習施策が、教育委員会から首長部局に移管される動きが全国的に進んでいる。
 大阪市では、2001年と2007年に大きな機構改革が断行された。2001年の改革では、文化・スポーツ・公園・緑化施策を一元的に管理する「ゆとりとみどり振興局」が新設され、2007年には、こども・青少年施策を総合的に推進するとして「こども青少年局」が発足した。これにより、それまで教育委員会の所管だった青少年教育、男女平等教育、スポーツ、博物館などが、市長部局に移管された(1998年当時と現在の教育委員会事務局の機構比較は次頁「図1」を参照)。
 教育委員会制度については、文部科学省を頂点とする教育行政の中央集権的体制の象徴として、廃止あるいは必置規制の見直しを求める声があがっている。この動きの中で、社会教育・生涯学習施策の首長部局移管に関わって、2001年には、全国市長会が「学校教育と地域社会の連携強化に関する意見-分権型教育の推進と教育委員会の役割の見直し-」を発表(注1)し、生涯学習等の事務の所管の変更を明確に提言している。また、地方分権改革推進会議は、2004年の「地方公共団体の行財政改革の推進等行政体制の整備についての意見」において、教育委員会の必置規制の弾力化の中で"生涯学習・社会教育行政の一元化、幼保担当部局の一元化の観点から、地方公共団体がこれらの担当部局を自由に選択・調整できるようにすることが必要"と言及している(注2)。自治労も、地方分権推進の立場から、「教育を地域に取り戻すために~15の提言」(1998)で、教育行政の一般部局化も含めて教育委員会制度は見直すべきという立場をとっている(注3)
 一方、不祥事や厚遇批判に端を発する大阪市の「市政改革」の大きな波や、いわゆる公務員バッシングを背景に、各部局例外なく事業の見直しが求められている。あるいは財政状況がさらに悪化する中で、削減ありきのきびしい行政運営が迫られ、現場職員の悲鳴につながっている。とりわけ、地方自治法の改正による指定管理者制度の導入に伴い、公の施設の管理運営形態に対し見直しが強く迫られた。教育関連施設については、施策の継続性を担保するためなどの理由で、外郭団体や従来の管理運営委託先を非公募により指定する自治体が多く見られた。大阪市もそうであったが、規制緩和や官から民への動きの中で、2巡目以降については公募による指定管理者の選定が行われた。また、団体に派遣されていた職員も一部を除いて引き揚げなければならない状況となった。さらに市当局は、「地対財特法期限後の関連事業等の総点検調査結果に基づく事業等の見直し等について(方針)」(2006)により、旧同和対策の各施策について一斉見直しを断行。市内12ヵ所の青少年会館が、同和対策に起源を持つ施設であることを理由として、利用者の反対する声を押し切って半ば強行的に廃止され、勤務していた社会教育主事が職場を失った。そして2007年から、区における生涯学習推進体制の強化などを名目に、社会教育主事が各区役所に3人ずつ配属されることとなり、72人が教育委員会事務局を去ることとなった(青少年会館をめぐる動きは前回自治研集会でレポートしている)(注4)
 これらの動きにより、1998年に約800人いた支部組合員は、10年を経過した2008年には420人にまで減少するに至った。社会教育施設・施策の現場実行部隊は、図書館や音楽団(直営の交響吹奏楽団)など一部を残すのみとなり、支部組合員の職場の多くは学校や社会教育施設の管理部局という状況になっている。また、図書館も一部窓口業務の民間委託化により司書の約1/3にあたる43人が削減、音楽団についても音楽士(奏者)の欠員3人が埋まっていないという状況が続いている。今後、人事・給与などの共通管理業務の集約化・勤務情報システムの稼動、さらなる経常経費削減に向けての改革により、人員削減が続いていくことが予想される。
 後先になったが、大阪市職員労働組合・教育支部は、大阪市教育委員会事務局に勤務する一般行政事務・技術職員のほか、社会教育主事・図書館司書・音楽士などの社会教育関連の専門職員(専門職採用)などで構成されている。伝統的に「現場に立脚した自治研活動」を重視した取り組みを続けており、支部組合員の多数派を占めていたそれぞれの専門職が、市民の立場に立った活発な政策提言を重ね、実現させてきた。が、振り返ってみると、本庁職場の事務職員にスポットを当てた自治研活動はほとんどできていなかった。いまや、支部組合員のおよそ6割が管理部局的な仕事に従事するという現状となり、支部自治研活動のあり方も再構築すべき時にきている。

図1)大阪市教育委員会事務局の機構 1998年と2008年の比較 ●課相当の事業所、○係相当の事業所
1998.6「大阪市行政機構」より

この間……
01.4と07.4に全市的な機構改革

2008.6 現在
担当(課相当)

人権教育企画室 →指導部に移管07.4  

総務部 庶務課
施設課
整備課
学務課
  総務部 総務担当
企画担当
施設担当
保全整備担当
学務担当
教務部 教職員課
給与課
学校保健課
学校事務センター(4)
学校事務センターは統合の動きあり 教務部 教職員人事担当
教職員給与担当
学校保健担当
学校事務センター(3)
社会教育部 社会教育課
 ○青少年会館(12)
生涯学習課
文化財保護課
近代美術館建設準備室
 ●こども文化センター
 ●音楽団
 ●婦人会館
 ●中央青年センター
  ○野外活動センター
→青少年教育施策・こども文化センター・中央青年センターは「こども青少年局」に移管。青少年会館は廃止07.4
→近代美術館建設準備室は、文化施設の一元的管理により、博物館施設とともに「ゆとりとみどり振興局」へ移管07.4
→女性教育・男女平等教育は「市民局」に移管・婦人会館は施設廃止01.4
生涯学習部 社会教育担当
市民学習振興担当
文化財保護担当
●音楽団
スポーツ部 スポーツ課
国際競技課
●中央体育館
●修道館
→スポーツ施策は「ゆとりとみどり振興局」の発足と同時に移管01.4  
指導部 初等教育課
中学校教育課
高等学校教育課
養護教育課
  指導部 教育活動支援担当
初等教育担当
中学校教育担当
高等学校教育担当
特別支援教育担当

中央図書館 庶務課
企画情報課
利用サービス課
大阪市史編纂所
 ○地域図書館(23)
  中央図書館 総務担当
企画・情報担当
利用サービス担当
大阪市史編纂所
 ○地域図書館(23)

美術館 庶務課
学芸課
●東洋陶磁美術館
→文化施設の一元的管理により、「ゆとりとみどり振興局」へ移管07.4
博物館 庶務課
学芸課
自然史博物館 庶務課
学芸課
教育センター (略)   教育センター (略)
※(美術館は直営で補助執行のため、組織上は教育委員会事務局の所管)

2. 本庁職場の現状

(1) 機構改革・市政改革が現場に与えた影響
 大阪市の急激な市政改革の方針に対し、組合が当局に指摘し続けていることは、「将来の大阪市に対する明確なビジョンがない」という点である。再建団体陥落が現実の課題となっているとはいえ、削減ありき、縮小ありきという方向性では、希望を持って仕事ができない。世論も、マスコミにより形成されたにせよ、削減・廃止に反する動きに対して敏感である。結果、新たな政策展開につながらず、職場のモチベーションの低下が起こり、ネガティブシンキングに陥る。行政改革の只中にいる全国の多くの仲間も同じ思いではないだろうか。
 人事に関わる具体的な改革方針に言及すると、①新規採用の5年間凍結により職員総数と総人件費の抑制を図る、②所属間人事交流の促進により職場の活性化と職員のキャリアアップを図る、があげられる。これらは、当然プラスの効果を前面に掲げて推し進められているが、逆に考えると、①では新しい人が入ってこないことにより世代交代・後進の育成を妨げているし、②では、若年層が職場に定着しなかったり担当者が流動的になるということで、結果的に職場のノウハウが蓄積されない、職場への帰属意識が希薄になる、という弊害をもたらす。この方針が示されて3年以上経過するが、当初から危惧されていたことが、いま職場の現実となってのしかかっている。
 教育委員会事務局に関わっては、現場を知らない職員が施策を立案できるのか、という問題がある。たとえば社会教育主事は、本庁と、生涯学習センター・青少年会館などの事業所を、係員の間に一定のルールで経験する、ということになっていた。このことで、人権教育・生涯学習のプランナー・コーディネーターとしての研鑽を重ね、社会教育施策全体を見渡す力量をつけていくシステムが確立されていた。事務職員も、事業所の庶務部門に配属されている間は、より市民に近い現場の空気を感じて仕事ができた。そのような現場が少なくなり、本庁が現場を知らない職員ばかりで占められたとき、本当に市民にとっていい施策が推進できるのか、大きな不安が残る。

(2) 学校の管理部局としての業務
 ところで、教育委員会事務局(以下、単に「本庁」という)職場の事務職員が携わっている、学校の管理部局としての業務内容を具体的に列挙すると、教職員も含めた人事管理(処分を含む)・給与・福利、予算決算、学校指導(事務的な面)、市民や保護者からの苦情対応、給食費や授業料の未納問題などに関わる法的措置、そして12団体にものぼる学校関係の労働組合対応(労務)などが挙げられる。どの業務をとっても、生産性に乏しく、達成感や充実感を感じられる業務とはいいがたい。前述したように、直接市民を意識する機会がない。
 学校の主役は、そこに通う児童生徒である。しかし、学校教育に関わる本庁事務職員が、子どもたちにとってよりよい教育とは、などと直接考える場面はほとんどない。教育内容に関わっては、主に教員籍である指導主事の業務であり、それ以外の、学校の管理にかかわる部分、教職員のためという部分についての業務では、児童生徒のために、という思いがあったとしても、「金がない、ない袖は振れない」あるいは「法令遵守」ということばが楯になりがちである。

(3) 相互理解を阻む"イメージ"
 現行の人事ルールでは、本庁の事務職員が学校現場に配属される可能性はほとんどなく、学校現場の空気を直接感じる機会はない。したがって、学校現場での日々の状況を理解しにくく、本庁の考え方に当てはまらない部分は、単に「現場のわがまま」に感じてしまうことも多い。本庁側からすれば、理想的な学校現場とは、本庁が発信することを忠実に実行遵守し、本庁と同じ感覚を持って仕事をする、ということになる。
 反対に、学校現場の教員や、学校事務職員にとっては、本庁における予算確保の苦労やジレンマなど知る由も無いし、わかる仕組みにもなっていない。日々児童生徒と直接かかわりを持つ中で「委員会は本当にこの子達のことを分かって仕事をしているのか」と感じているだろう。学校側からすれば、あくまでも主役は児童生徒であり、教育活動である。したがって、学校現場が望む本庁のあり方とは、学校が純粋に教育活動に専念できるよう条件整備につとめる、十分な予算や人員の確保はもとより、面倒な事務処理やコンプライアンスへの対応はすべて本庁が処理すべき、というものであろう(ひょっとすると、教員と学校事務職員との間にも同様の構図があるのかもしれない)。
 結果、本庁は学校に対して"上から目線"でものを言う、学校は人事給与予算を握っている本庁にわざわざはむかおうとはしない、という、ぎくしゃくした関係が生み出されてしまう。
 もちろん、担当者レベルや職場環境によっては、従来から教員と行政職員が密接に連携して仕事を進めてきた部署もなくはない。教職員人事・給与担当や指導部の管理担当(教育活動支援担当)などは、日常から指導主事や現場の教職員とともに仕事をしている。2008年4月からは、指導主事の管理職のもと、学校教育を直接支援する「学力向上ライン」に、社会教育の専門職である図書館司書の組合員が4人配置され、学校図書館の活性化支援などの業務を担当している。同じ職場で仕事をしていく中で相互の意思疎通や信頼関係が培われるという例だが、そのような職場は教育関連の職場ではむしろ例外的であり、先に言及した行き違いは、教育委員会に連なる職場全体の構造的な問題としてはあながち間違った指摘ではないと思う。

3. 課題解決に向けた視点

(1) 相互理解の出発点~地道な「意思疎通」の重要性
 本庁側の職員は、学校の管理や教職員のための業務が、結果的に「児童生徒のため」「子どもたちの教育のため」につながるということを実感できるよう、工夫して取り組まなければならない。現場の要望は理解できるが、しかたがない、というところで止まっていてはいけないのである。そのためには、お互いに同じ現状認識のステージに立つほかはない。話し合う中で、知恵を出していくほかない。
 ただ、自治労の組合と教職員の組合、というように、単組を超えた連携には、相当な工夫がいる。労働組合同士の連携や共同作業は、それぞれのやり方や文化が背景にあるので、お互い何を切り口に切り出せばいいのかわからないし、慣れていない。また、結論を導くときの落としどころは、それぞれの組合の利害が関わってくることから、特に組合員に対しての映りも含め、連携そのものの見せ方・伝え方を相当程度詰めておく必要があろう。次項でも述べるが、教育委員会事務局を核とした部局横断的な教育行政の推進を、組合として先取りする動きを作らなければならない。
 人事交流をするのもひとつの方策である。本庁の事務職員が学校現場あるいは学校に近い職場(学校事務センターなど)など、これまで学校事務職員の職域とされていた職場への配置、逆に、学校事務職員の本庁職場への配置を活発にするのである。組合員各自の仕事や職場への思いや、職制の事情を考えると必ずしもいいことばかりではなく、ハードルは高いが、実現すれば、相互理解のための即効性ある方策としては有意義である。組合の組織レベルでも、お互いの勤務労働条件、という点を切り口に話を進めることができる。

(2) 学校を特別視しない~行政の一機関としての位置づけ
 学校側には、教育活動は学校や教員の専売特許である、行政機関としては特別なのだという考え方も定着しているのではないか。純粋に教育活動だけ行っていればいい、予算や苦情処理など面倒なことは委員会つまり本庁へ任せればいい(「そんな面倒なことは学校側はわからない」といったほうが正確か)という体質はないだろうか。そうではなく、学校も地域の一行政機関なのだというところから出発し、教育施策であれば教育委員会一丸となって、あるいは地域とともに、さらには、区役所をはじめとする学校以外の役所組織とともに、子どもや地域の教育がどうあるべきか、というような広い視点をもてるように、取り組みを構築すべきであろう。
 つまり、都市部における地域コミュニティの単位として「学校区」が存在する、その核として「学校」を再定義する必要がある。自治労でも、「自治研地域教育政策作業委員会」でそのあたりの議論が進んでいるが、学校で働く教職員の意識改革も含めて、地域における学校のあり方を確立すべきである。
 教育施策の充実に向けては、まちづくり、福祉、区役所など、部局を横断した横の連携が不可欠であり、今後、社会教育的リソースの全市的な活用も含めて、教育委員会事務局が主導して「教育施策の元締め」としてダイナミックに取り組むことが重要である。

(3) 一般行政事務職員の政策提言のあり方
 図書館司書には図書館、学芸員には博物館というように、専門職には、自治研活動を通じて考えたこと、職制に提言したことを、実践者たる職員として現場の業務に直接反映しやすい職場環境がある。が、これまで述べてきたように、事務職員はそのあたりが難しい状況を抱えている。事務職員が抱える職場課題、政策課題をどう反映し、日々の業務に結び付けていくか、ということである。
 これについては明確なイメージを持ちえているわけではない。もちろんこれまでも、職場課題の洗い出しと職制に対する意見反映は行ってきたが、市政改革という途方もなく大きな命題と不可分である日常業務と、組合員個々人の問題意識とはなかなかつながりにくい。「本当はこんなふうに考えているのに」という公務労働者としての良心を、職場懇談会の開催など地道な活動により吸い上げ、それを顕在化させることが重要であろう。それが、市民と直接接することの少ない管理部局の組合員が、市民を意識した公務労働にジレンマなく従事できる環境づくりにつながると考える。ただ、その前提として、教育現場の課題やあるべき方向性について正確に認識・把握・共有することが必要であり、そのためにも、まずは職域を超えてお互いを理解することがやはり重要である。

4. おわりに

 教育課題が山積する中、教育委員会事務局に勤務する事務系の職員、特に学校との関係において、現状を正しく認識し、自治研活動に結び付けていくことが必要であり、それが本稿のメインテーマである。
 青少年会館の廃止が報じられたとき、長年働いてきた職員としては廃止を許せないという思いを持ちながら、また地域住民として存続運動にかかわりながら、一方では施設職員として、廃止の方針を利用者に粛々と説明し、理解を求めるという側に立たざるを得ない、という、組合員の置かれたきびしい現実があった。現場に最も近いことを旨とする支部の、運動のあり方が問われている。
 ただ、本稿は現状分析と課題認識を羅列したに過ぎない。特に、学校現場に対する言及については、こちらの思いのみで書き綴っているので、現状を正確に表現できているかは自信がない。実際に学校現場で働く仲間のみなさんにとって不快な表現があったとしたら、お詫び申し上げたい。いずれにせよ、今後具体的な運動をどう展開していくかが重要であると考えている。仲間のみなさんの忌憚なきご批判を待つものである。




(注1) http://www.mayors.or.jp/opinion/iken/h130219education/h130219edu.htm
(注2) http://www8.cao.go.jp/bunken/040512iken/040512iken.pdf
(注3) 教育委員会制度そのものの議論については、地方独自の教育活動を妨げる文部科学省の管理体制を打破するという側面からは賛成できるものの、行政委員会の首長からの独立性という点では(現状が十分機能しているかどうかは別として)有意義な面もあり、一義的に廃止とする議論は性急だという声もある。本支部の立場も、本来の教育委員会制度の趣旨を再検討したうえで形骸化した現状を改善すべきであり、また現実の課題として、教育施策の安定的な実施が首長部局への移管を機に後退することのないよう注視すべき、というものである。
(注4) 大阪府本部/大阪市職員労働組合・教育支部 村上哲也『青少年の居場所づくり~大阪市における課題を抱えた青少年のための事業展開から~』(第32回自治研全国集会・第Ⅳ-②分科会要請レポート)2006.10 http://www.jichiro.gr.jp/jichiken/report/rep_okinawa31/jichiken31/4/4_2_y_01/4_2_y_01.htm