【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

地産地消で安心の学校給食
~自校直営だからできる取り組み~

広島県本部/自治労はつかいちユニオン・現業評議会・議長 田丸 秀子

1. はじめに

 廿日市市は、広島県の西部に位置し、北はスキー場のある吉和地域から南は海水浴場のある世界遺産の宮島を有しており、四季折々の山海の幸に恵まれています。平成の大合併により2003年3月に佐伯町・吉和村、2005年11月に大野町・宮島町と2度の合併を行い現在の状態となっています。
 市域は旧市町村別に沿岸部の廿日市・大野地域、島しょ部の宮島地域、内陸部の佐伯地域、山間部の吉和地域に大別されます。特産品のカキ・アサリ・アナゴなどは全国的にも有名です。
 組合は、合併に伴い同じ自治労に加盟していた4単組が統合し2005年11月に「自治労はつかいちユニオン」を結成しました。しかし廿日市市には、もう一つ上部組織を持たないものの「自治労連」との繋がりの強い「廿日市市職員労働組合」が競合組合として存在しており、単組の組織拡大が重要な課題となっています。


面積

489.36平方キロメートル

人口

118,568人

世帯数

46,755世帯

職員数

1,100人(消防含む)

組合員数

305人(自治労)372人(市職労)

世界遺産「厳島神社」(廿日市市)

2. 学校給食の概要

学校人

旧市町村

運営形態

食数

調理員
(正職)

臨時職員

備考

廿日市市内
小中18校

廿日市市

給食センター
委託

7,800

 
 

大型センター

大野西小

大野町

自校直営

700

3人

4人

 

大野東小

自校直営

900

3人

5人

 

佐伯中

佐伯町

自校直営

410

2人

3人

 

浅原小

自校直営

40

1人

1人

 

津田小

自校直営

200

2人

1人

 

友和小

自校直営

340

2人

4人

 

玖島小

自校直営

90

1人

1人

 

宮島小中

宮島町

センター直営

100

1人

2人

小規模センター

吉和小中

吉和村

センター直営

80

2人

0人

小規模センター

合計29校

   

10,660

17人

21人

 

3. 地産地消の取り組み

 子どもたちに、より安全で安心できる給食を提供するため、自校直営給食を実施している学校では、地域性を活かした地元の旬の食材を使用した「地産地消」に取り組んでいます。
 地元農家の旬の野菜、地元漁協の旬の魚介類など安価で新鮮な地場産物を食材に使用しています。また、子ども達が自ら学校菜園で収穫した野菜も利用しています。


廿日市市でのカキの水揚げ風景

廿日市市吉和特産のまいたけ

(1) 学校給食に使用する地元食材
① 地元農家より
 ・吉和地域【夏場はほとんどの野菜を地元の農家で調達、地元の無添加味噌、まいたけ】
 ・佐伯地域【古川りんご園のりんご、長なす】
 ・大野地域【たまねぎ、さつまいも、さといも、じゃがいも、白菜、ねぎ、大根、朝掘りたけのこ、柿、いちご、よもぎ、ふきのとう、キャベツ】



地元の山で取れた朝掘りたけのこ


地元のたまねぎ

② 地元漁協より
 ・吉和地域【ヤマメ】
 ・佐伯地域【ニジマス、アマゴ】
 ・大野地域【カキ、アサリ】



吉和のアマゴ

廿日市市大野の手掘りアサリ

廿日市市特産の生カキ

廿日市市大野でのカキ打ち風景

秋:栗ご飯、鶏と栗の煮物、芋ご飯、大学芋、スィートポテト、大豆と芋のかりんとう、レーズンと芋のかさね煮、さつま芋のクリームシチュー、さつま芋ピラフ、さんまの塩焼き、かば焼、きのこのサラダなど
冬:ゆり根飛龍頭・かき揚げ、カキフライ、カキ雑炊、カキ雑煮、カキチャウダー、カキ飯、干し柿の酢の物、せり餅の雑煮、ふきのとうの佃煮、金時人参の汁物・酢の物・すし、くわいのから揚げ・チップス、ぶりの照り焼き、冬野菜カレー(れんこん、ごぼう、さといも)

4. 自校直営だからできる取り組み


子どもたちのために心を込めて

(1) 作って終わりでない給食(心の通う給食)
 1日3食の内の1回の学校給食ですが、6年間を通じて約1,100回の食事となります。6年間の子どもたちの食生活のひとつを担っているという自覚をもちながら、毎日の調理作業に取り組んでいます。

各教室へ給食室からのお便り
 旬を追って安全な食材を使い、手作りで衛生面に気をつけて作っても残菜となれば、子どもたちにとって必要な栄養が満たされていないことになります。そして、給食室へ返ってくる残菜を見ると残念な気持ちになります。特に残菜の多い学級には栄養士、担任に学級の様子を聞きます。配膳ワゴンを手渡す際には、「今日は……だよ たくさん食べてね」「食缶は熱いから気をつけて運んでね」「残さず、しっかり食べてね」など必ず声かけをしています。
 給食の時間に悲しい顔をしている子どもは見かけたことがありません。みんな楽しそうに当番をしています。時には、服装チェックもします。給食着のボタンをとめていなかったり、帽子・マスクを着用していないと注意します。もちろん「手洗いをしてきましたか?」と確認もします。誰が給食を作っているのか知ってもらい、安心で心が通い合う給食を食べてもらいたいからです。
 私たち給食調理員は、ただ作るのでなく、作った給食が教室でどんな風に食べられているのか?など、栄養士・担任と連携して給食時間の様子を見たり聞いたりして、積極的に声をかけていくことを続けています。
 その他、ランチルームで食事中に子どもと対話をしたり、生徒との交換日誌でつながりを持っているところもあります。
 同じ自校方式の給食施設でも、食数や職員数により施設によって取り組みは様々ですが、心のこもった安全でおいしい給食作りを続けていきたいと思う気持ちは同じです。子どもたちからの「おいしかったよ」という声や、いろんな反応は、私たちが給食を作る励みであり、元気の元になっています。

無添加の調味料

(2) 手作りへのこだわり
 これまでの活性化、民間委託阻止のたたかいの中で、自校方式ならではの特質を持たせるために合成洗剤から廃油石鹸への移行、食材は国産にこだわり、調味料も化学調味料や防腐剤が含まれたものは使用せず子どもたちに「安全で安心して食べることのできる給食」を作るために自然食、手作りへのこだわりをもって給食を提供しています。

(3) 地域との交流(市民へのアピール)
 当現業評議会では、地域との交流と食育としての給食をアピールするため、毎年「給食フェアー」と題し、地域のイベントに参加しています。広くアピールすることで、保護者や市民の学校給食への理解が深まると確信しています。
 実際に子どもたちが食している給食メニューは、いつも大人気で地元では既に定着した感があります。
 写真は、今年6月に開催された「給食フェアー」の様子です。これは、市教育委員会の協力を得て、小学校の調理室で調理しイベント会場で販売しています。あわせて給食のレシピを紹介しているところです。もちろん食材は、地元米を使用するなどできる限り地元産にこだわっています。
 また、各学校の調理員が一緒に作業することで、各校の情報交換や技術の伝承に役立っています。



給食室で他校の調理員も共同作業

イベント会場で販売とレシピの紹介

(4) 自校直営で現在行っている取り組み一覧表

佐伯中

・生徒との交換日誌(クラス毎に1冊)
・卒業記念献立として「鍋給食」

浅原小

・夏休み体験学習でメニュー作りへの参加
・浅原小ふる里祭りでのおむすび・豚汁・芋ようかん作り
・奉仕作業・運動会での麦茶作り
・お花見給食
・参観日に保護者を対象に食育について学習を行い、その際、学校が農園を借りて子どもたちが作ったサツマイモを使ってのおやつ作り(さつまチップ)
・給食試食会

津田小

・津田っ子まつりに参加
・教室訪問
・給食試食会

友和小

・友和っ子まつりに参加(豚汁作り)
・教室訪問(新メニューのときなど)
・給食試食会

大野西小

・西小まつりにお手伝いとして参加(子どもたちが大野あさりの貝汁を作る。5年生が作った手作り味噌を使用する。)
・運動会に手伝いとして参加
・2年生を対象にした栄養士による食育の授業で給食室からお知らせを出す
・給食室からのお便り発行
・適温給食の提供を心がける
 クラスへの配缶直前まで
 冷蔵庫へ:サラダ、和え物、ゼリー、寒天、そうめん、果物など
 熱風庫へ:お好み焼き、グラタン など

大野東小

・地元の農家の方が提供する朝掘りタケノコやイチゴジャムを使っての給食

玖島小

・ランチルームでの食事中に少し時間をもらい、行事食・給食に使われている材料についてお話をする(2ヶ月に1度程度)
・ふれあい会、運動会に参加して子どもたちと一緒に食事をする
・学期の最後の給食時に子どもたちにお話をする

吉和小中

・ありがとう給食会(年度末に子どもたちから給食調理員に対してお礼の会)
・毎学期の最後にはランチルームにて子どもたちと一緒に食べる
・中学校で鍋給食を一緒に食べる

現評全体としての取り組み

・地域のイベント(大野あじさいまつり)へ参加し給食フェアーの実施


(5) 三期休業期間の取り組み
・書類整理
・調理室の洗浄
・機械の洗浄・磨き
・食器・盆磨き
・ランチルーム・配膳室の掃除
・給食室外回りの草取り
・職場内(栄養士、正職)での衛生研修
・その他の研修会

5. 衛生管理の徹底

●食は命

安心して使用できる手袋
 人が健康な生活を送り、また、それぞれの成長期に必要な栄養源となる大切な「食事」の一端を担う給食には、子どもたち本人はもとより保護者からも大きな期待が寄せられています。
 そして、あらゆる面で「安心安全」が求められます。そのためには、調理従事者として、まず衛生面の基本的な知識と実践が必要です。
・年一回の保健所等から講師を招き、正職員、臨時職員共に食中毒予防の方法、細菌などについての学習会を開き全員が同じ意識を持って作業をする
・施設面では、ウェット方式の調理場(ドライ設備でない調理場)でも、床に水を落とさないよう工夫を凝らし、よりドライ方式に近い安全な方法で湿度を下げ細菌の増殖を防いでいる。
・食材は、なるべく地産地消を心がけ、添加物の少ない調味料や加工食材(ハム・ベーコン)を取り入れている。
・年度初めに衛生マニュアルの確認
・異物混入を防止するため青いゴム手袋を使用(白い手袋では、破損して食材の中に入った際、探しにくい)

6. 合併による情勢の変化

 合併により退職補充がされなくなるなど給食現場を取り巻く状況が変化してきた。

学校名

合併により変化があった事項

佐伯中

・職員の負担が多くなった
・合併後、消耗品・備品が減額された

浅原小

・臨時職員の雇用形態が変わった
・給食実施日に年休がとりにくくなった

大野西小

・夏休み春休みには、子どもたちの白衣の点検・補修を行ってきたが合併後、臨時職員の作業日(給食開始前後3日間)のカット、育休代替の勤務カットになり、時間に余裕がなくなりできなくなった。
・大野西小と大野東小の調理施設を毎年交互に使用し、合同調理実習を行い、正職・臨職を含めて新しい献立に挑戦したり、お互いの学校のレシピを紹介したり、作り方、衛生マニュアルについて学ぶことができていたが、合併後できなくなった。

大野東小

・合併後、臨時職員の勤務時間が短くなったので、献立が限られる。
・職員が減ったので、片付けが時間内にできなくなり、教室訪問など子どもたちとの接触が減ってきている。
・自校直営なので、子どもの顔をみることができ給食を作る励みになる。

7. 今後の課題

 私たち給食現場を取り巻く状況は、公務職場の民営化への動き、退職者不補充による臨時職員の増大の問題、国の恣意的な現業職賃金への攻撃などますます厳しくなっており、2・3年先のことでさえ予想が付かない状況です。
 合併前の大野町では、学校給食について『自校直営、退職補充』を労使で合意していました。そして、町としても安心安全な給食を子どもたちに提供するために『自校直営』を方針に掲げ退職者の補充を続けていました。しかし、今回の合併によりそのことはすべて反故となり退職補充はされず、毎年、減員分は臨時職員で対応するというその場しのぎを繰り返しています。
 さらに、廿日市市では以前から自校給食がなく「給食は給食センターから配達されるもの」という考えが定着しており、いずれ全域を給食センターで賄いたいという考えが基本にあるようです。実際、合併直後にそれまで給食のなかった大野地域の中学校でセンター給食が開始されました。小学校はその中学校のすぐ隣に位置し、いつでもセンター給食になり得ます。
 現在の取り組みを継続するためにも、自校直営の良さを市民や地域に広くアピールし、給食が食育につながる、給食が地産地消の一端を担うこと。「給食は、作って終わりでない。」のだという認識を高めていく必要があります。
 また、2008年2月に策定された「廿日市市地域省エネルギービジョン」の中でも、重点プロジェクトとして「地元農産物を食材としたふるさと給食を行う。」とあり、地産地消という点では行政と足並みを合わせて取り組んでいけるものと考えています。
 正規職員が給食を作る意義は、何なのか。『食は命』を基本に、今後も子どもたちの顔を思い浮かべながら、安心安全で食育につながる良い給食を提供し続けることが、自校給食を守り職場を守ることに繋がると考えています。