【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

【放課後子どもプラン】についての検証・研究報告


大分県本部/地方自治研究センター・人権・文化専門部会・教育グループ

1. 研究テーマの設定に関する経過

(1) 「小1の壁」という言葉があります。この言葉は「子どもが幼少期には保育園に通わせることができますが、小学校に入学すると放課後の安全な居場所が無くなり、親が仕事と子育てを両立させにくくなる」ことを表現したものです。一方で少子高齢化による労働力の減少から、女性の労働力を今後どのように活用をはかるかという課題が存在しています。
(2) このような課題の解決にむけては、従来厚生労働省管轄の「放課後児童クラブ」と文部科学省管轄の「放課後子ども教室」が実施されてきましたが、2007年度に制度が改正され2事業を連携させる「放課後子どもプラン」事業が開始されました。
(3) 県内の自治体でも「放課後子どもプラン」事業が開始されました。しかし、県内に限らず全国的にもこれまでの各事業の目的や運営方法の違い等から事業実施に関する様々な課題も報告されています。よって、教育グループでは、子育て支援の主要事業の一つである県内各自治体の「放課後子どもプラン」事業推進に寄与することができるよう、「児童クラブ」または「子ども教室」等の現場から、子育て支援を取り巻く"現状と課題"について検証したいと思います。

2. 放課後子どもプラン事業の概要

(1) 従来実施されていた「放課後児童クラブ」と新たに創設された「放課後子ども教室」の2つの事業を連携させ、子どもが安心して過ごせる「放課後の居場所の確保」にむけて、2007年4月に新たに事業が開始されました。
(2) 放課後児童クラブと放課後子ども教室事業の概要
  ① 放課後児童クラブ
    厚生労働省が管轄し、一般的に「学童保育」と認識されており、事業の目的は、親が働くなどで留守家庭の児童の「生活の場の確保」とされています。対象児童は、主に小学校1年生から3年生。期間は週に5~6日。夏休み等の長期休暇中も対象となっています。保護者の負担費用は、全国的なデータでは月に5,000円から10,000円が主流とされています。
  ② 放課後子ども教室
    文部科学省が管轄し、事業の目的は小学校の教室等を活用し「スポーツ・文化活動等の学びや体験の場の提供」と地域の同世代の子どもや大人たちとの活動を通して「社会性・自主性を育むこと」とされています。対象児童は小学校1年生から6年生。期間は週1日から6日。保護者の負担費用は、全国的なデータでは原則無料(保険料等は除いて)が主流とされています。

3. 県内自治体の事業実施状況について

(1) 2007年度末現在で、県内の自治体で放課後子ども教室事業を実施している市町村は12市町、放課後児童クラブ事業を実施している市町村は17市町となっており、放課後子ども教室は87教室、放課後児童クラブは210クラブが設置されています。放課後子ども教室は約3,500人・放課後児童クラブは約7,700人の児童が利用しています。2007年度の「大分県学校要覧」によれば、2007年5月現在で公立小学校に在籍する児童は、65,000人であることから、放課後子ども教室は約5.4%・放課後児童クラブ約11.8%の児童が利用しています。
(2) 県内小学校333校区の内、子ども教室は87校区で、児童クラブは192校区で設置されています。一方両事業ともに未実施となっている校区が102校区となっており、子ども教室・児童クラブのいずれもが設置されている校区は48校区、放課後子どもプランの趣旨である両事業の連携がはかられている校区は37校区となっています。

4. 県内自治体の事業例紹介

 県内自治体では、様々な形態で当該事業が実施されていますが、その一例を紹介します。

(1) 中津市(2007年度実績、一部は2008年度資料より)
<放課後子どもプラン事業>
① 参加児童数 17,888人(延人数)  ② 参加指導者数 6,320人(延人数)
③ 設置校区数 16校区(21教室)   ④ 負担費用 保険料 500円と若干の教材費
⑤ 年間実施日数 1,385日(延日数) 
⑥ 運営形態 事業主体は中津市。地域毎に協議会を設置し、協議会に事業を委託している。
<放課後児童クラブ事業>
① 利用児童数 642人  ② 設置クラブ数 20
③ 負担費用 1カ月:5,000円から7,000円
④ 運営形態 事業主体は中津市。協議会を設置し事業を委託している。

(2) 由布市(2007年度実績)
<放課後子どもプラン事業>
① 利用児童数 10,911人(延人数)  ② 参加指導者(安全管理者)数 1,367人(延人数)
③ 設置校区数 17校区  ④ 負担費用 教室ごとに異なる
⑤ 年間実施回数 428回数(延人数)
⑥ 運営形態 事業主体は由布市。旧町ごとの委託事業とし、旧由布院町ではNPO法人、旧挾間町ではボランティア団体に事業委託され、旧庄内町は現段階で委託先は未定です。
<放課後児童クラブ事業>
① 利用児童数 311人  ② 設置校区数 10校区  ③ 負担費用 クラブごとに異なる。
④ 運営形態 事業主体は由布市。協議会を設置し事業を委託している。

5. 現状での放課後子どもプラン事業に係る成果と課題について

(1) 各自治体における事業概要の把握に向けて担当者を対象にアンケート調査を実施しました。その結果、事業実施の成果としては、a)地域内の世代を超えたコミュニケーションの円滑化 b)防犯意識の向上 c)部局を超えた連携を強化することができた 等が報告されました。
(2) 一方現時点での課題としては、事業実施から間もないことから、いくつかの自治体からは未実施校区の解消が指摘されています。また多くの自治体における課題として、a)行政内の(教育部局(学校現場)と福祉部局)連携強化 b)各事業間の乗り入れの強化 c)参加児童の保護者の関心が低い d)人材の確保の困難性 e)現在国・県の補助の下に実施されている当事業の補助金が交付されなくなった場合の持続可能な体制・活動方法 f)都市部を中心に放課後児童クラブの待機児童の解消およびその解消にむけた場所の確保 等があげられています。

6. 各自治体での現段階での課題の解消にむけた取り組みについて

(1) 各自治体での課題の解消にむけた取り組みの方向性について
① 各自治体から報告された成果については、事業の進捗に伴って各自治体や校区に同様の事例が今後現れてくることが想定されます。しかし、課題として報告されている事象の解決が事業の進捗や成否に大きな影響を及ぼすと思われることから、各自治体における課題の解消にむけた取り組みの方向性を示すこととします。
② a)の課題解消については、行政内部の連携強化が必要です。成果をあげている自治体からは「運営委員会」の有効な運営を行うことの必要性が報告されています。b)の課題解消については、コーディネーターの役割が重要になりますが、一人で解決できる事象は限定されることから、地域の中で積極的に活動を行っている人や組織にアプローチし、そのような人や組織に協力してもらえるようになると連携が進むと考えられます。より地域に密着した活動を行うためには、コーディネーターの配置=(国の基準では、5校区に1人)を見直す必要があるとともに自治体独自での配置基準の検討・実施も必要ではないかと思われます。また「放課後児童クラブ」と「放課後子どもプラン」事業の連携を進めたことによる「各事業のサービスの質の低下」や「目的の違いから生じるトラブルの発生」等が生じたことが全国的に報告されています。これを受けて国は当初の方針を変更し、「同一校区内で放課後子どもプラン事業と放課後児童クラブを設置すれば連携がはかられたものとする」との判断を示したことから、両事業の特性を行政担当者・コーディネーター・現場指導者が理解した上で、可能な限り連携をはかることが得策と考えられます。
③ c)の課題の解消については、各事業の取り組みを地域の住民に見えるものとする必要があります。その為には、(ア)第一により多くの児童に事業に参加してもらうこと (イ)子どもの参加の次には、事業への保護者の関心を高めること (ウ)児童・保護者・地域の大人たちを対象にした自治体広報・ホームページ、学校通信 等を活用した周知を図る 等を地道に行う必要があります。これらの取り組みによって口コミで周知がはかられることも想定されることから、粘り強い努力が必要です。
④ d)の課題については、b)の課題=相互事業の乗り入れの強化と同様の取り組みを行うことが必要です。また、e)の課題とも関連しますが、ボランティアで人材を確保することは限界があることや参加してもらう回数が増加すれば、若干の謝礼の支払等の必要性が生じることが考えられます。これらの課題を解決するためには、保護者の負担増もしくは行政からの支出の増加を求めることが必要です。しかし、保護者負担の増加は逆効果をもたらすことも考えられるとともに各自治体の財政難を勘案した場合、現在以上の財政負担は望めない状況です。このような課題を解決するためには、自治体担当者やコーディネーターが十分に連携をはかり、保護者・自治体に対して負担増や最低でも現在の支出を継続することへの理解を求めることが必要です。また、財政難による教育関係予算の削減も各自治体から報告されていることから、当局に対して各交渉時に負担増や最低でも現在の支出を継続するよう各単組で要求を行うことが必要です。
⑤ f)の課題については、学校施設を始めとして公民館やその他の施設の活用が進まないことに起因していることが報告されており、各施設の有効活用をはかることを関係機関に理解を求める必要があります。しかし「学校の空き教室の活用」の方針を国は示していますが、学校現場とは認識の相違も大きいことから、各施設関係者の理解が得られるような取り組みを進めることが必要です。

(2) 今後の事業実施にあたっての課題について
 放課後子どもプラン事業の今後の理想形は「行政主導から各地域の団体・個人を主体として運営がはかられること」ならびに「老若男女の枠をこえた地域コミュニティーの形成に貢献できる事業となること」が国の計画等で示されています。しかし、このような事業とするためには保護者や地域の人達に事業目的の理解を得ることが必要になってきます。さらに最も大きな課題は、限られた財源と人材(指導にあたる大人の確保や今後のさらなる児童数の減少等)を克服するために、どのような事業展開が必要になるかを検討する必要があると思われます。

7. 今後の各自治体での事業実施にあたっての方向性について

(1) 今後各地域においてどのような事業展開を行えば、地域に根付いた事業となり得るのでしょうか。第一に、国が示している目的や基準を逸脱しない範囲で、各自治体の色を出すことが必要です。具体的には、コーディネーターの配置や放課後子どもプランの活動内容に工夫を凝らすことにより可能になると考えられます。少しでも多くのコーディネーターを配置することにより、各地域で積極的に活動を行っている人や組織との接点を多くすることができます。活動内容も地域に伝わる芸能・遊び・料理などの学習を取り入れることにより、子ども達はより地域のことを知ることができます。
(2) 安全確保のためには、a)指導員等を安全管理マニュアルに基づく研修を行うこと b)ボランティアを含めて可能な限りより多くの安全管理員・指導員の配置を進めていくことが必要です。
(3) 現在「安全管理員・学習アドバイザー」・「児童指導員」のみなさんからは、a)待遇改善 b)子ども達の指導に関するスキルアップ c)職業として社会的に認知度を深めたい 等の要望が示されていることから、指導員の立場に立った安心して働ける職場環境の整備・体制に配慮をする必要があります。このような取り組みにむけては、自治体単組を中心に組織化・組合員化を進めた上で、諸条件の向上に努める必要があります。
(4) しかし、当該事業に指導的な役割で関わる大人の多くは謝金の大半を事業運営に必要なもの(おやつや消耗品等)の購入に充てていることが報告されています。このことから、この事業に参加する多くの大人が求めているのは、金銭ではなく自らの経験で培ってきた技術や知識が活かされ、自分の存在感を確認することができる「充足感」・「やりがい」・「生きがい」ではないかと推測されます。謝金や保険料に充てる予算の確保は必要ではあるものの、究極的には現行予算水準は必要ではなく、指導者側の保険料や最低限の謝金で構わないとも考えられます。また「保護者が指導者に対して感謝の意を示さないことの方が、予算の確保より大きな課題である」との意見を自治体の担当者から伺いました。指導員・安全管理員の皆さんが金銭ではなく充足感を求めているならば、この意見は重く受け止めなければなりません。
(5) 不可解な事件が続発し、家庭や地域の教育力の低下を指摘する声が多いことから、国は「児童クラブは永久的に」・「放課後児童クラブは半永久的に」事業を継続するとの方針が示されており急激な予算の削減・低下は現段階では考えられません。
(6) 現在、地域の繋がりが希薄化しつつあること、また、昔は多人数での外遊びが中心であった子どもの遊びの形態が、核家庭化・共働き家庭の増加により、少人数で家庭内に孤立しつつあることを考慮すると、他学年や大人・高齢者を含めた地域の人達や自然に親しみ、様々な事への興味と意欲を引き出すことが子ども達の人間形成に大きく寄与することは間違いありません。そのためには、再三述べてきましたが、地域が主体となって取り組みが行えるよう行政が人材育成、施設整備、また安全管理などのバックアップ体制整備を行うことが必要です。また、福祉担当課、教育担当課が十分に連携・一体となって事業推進を行うことが不可欠ではないでしょうか。
(7) 事業を実施する側の努力と事業に参加する側の児童・保護者の意識を変えることで、放課後子どもプラン事業を各自治体・地域の実情にあった形で今後発展させることは可能であると考えます。しかし、そのためには自治体担当者には「あと一工夫」、保護者には「各事業や指導者にすべてを任せるのではなく、あくまでも自らの子育ての一環として子どもを参加させている」との認識を持ってもらうことが必要です。特に、この保護者の認識を促すことは、必要や機会に応じた事業への参加がはかられるとともに今後国・県・自治体の財政難により事業継続が危ぶまれた際に、自治体に対して事業継続を訴える大きな原動力となることは間違いありません。よって、自治体担当者や様々な形で事業に携わる人達がどの程度「保護者に対するあらゆる意味での周知・啓発を行えるか」が今後の事業の成否の最も大きな鍵になるとし、結論とします。