【自主論文】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

小中学校統廃合問題への反撃
―― 教育を受ける権利&地域コミュニティ存続のたたかい ――

宮城県本部/仙台市職員労働組合・特別執行委員・仙台市議会議員 相沢 和紀

1. はじめに

 キーワードとして「少子・高齢化」、「財政赤字」など一般的にはちょっと心配となるイメージの言葉が氾濫しています。こうした中で国民の教育を受ける権利と地域コミュニティを構成する基礎的な地域組織が危うい状態にあります。
 私が住む仙台市若林区の東六郷地域もその一つです。生を受け55年もの永きにわたって生活をし、多くのものを学んできた地域です。その地域の中心である東六郷小学校が廃校の危機に立たされたのです。昨年の児童生徒は58人。今年は53人です。1学年ではなく、1年から6年までの全校生徒数です。
 小規模だから廃校にし、隣接の学校と統合すれば「多様な人間関係がつくれ、競争によって学力が向上する。」との主張する行政(市教委)に対して、しっかりとした組織・運動体であったわけではありませんが、≪東六郷小学校を守ろう≫という一人ひとりが自分の出来ることを精一杯行ってきました。市教委としての正式な結論は未だ出されていませんが、近々発表される実施計画の中には明記されない。との感触を得ており、最悪の結果は避けられる見込みです。
 不十分な取り組みであり、組織的な検証でもありません。しかし、全国の自治体で学校の統廃合問題に直面している方々にとって何らかのお役に立てれば、との思いでまとめたものです。

2. 学校統廃合問題の背景

(1) 日本の現状
 合成特殊出生率が2.0を割って約30年が過ぎようとしており、近年は1.3前後という低い数字で推移しています。その一方で「世界一の長寿国」であることから、当然のこととして"少子・高齢化"が急激に進行するこことなりました。そして近年、総人口が"減少"に転じることとなりました。昨年、25年後の人口推計が出されたが、その数字によると26%も減少する県が出るとされています。また、限界集落と規定される65歳以上の比率が50%超える地区が10年後に全国で7,873箇所(全体の12.7%)となると国土交通省が発表しています。東北地方だけをとって見ても約400箇所が消滅の危機にさらされています。
  "団塊の世代"という社会用語がよく使われていますが、戦後のベビーブーム、70年代には第2次ベビーブームがあったものの、ここ10年、年間出生数は120万人を切り、このまま推移するならば年間出生数は100万人を下回る事態となります。
 このような状況の中で小中学校の統廃合問題が全国的な問題として浮上しています。今回の見直しの動きは自治体財政と表裏一体のものとしてみておく必要があります。その意味からも『平成の大合併』は大きな要因として挙げられます。基礎自治体が"住民サービス"をベースにしてのエリアではなく、"財政"を判断基準にエリアが作られたことで諸々の、そして大きな問題を内包したと言わなければなりません。

(2) 仙台市の特徴および現状
 仙台市は1987年から1988年にかけて周辺の一市二町を合併し、翌1989年に全国11番目の"政令指定都市"に昇格しました。行政エリアは、東は太平洋から西は山形県山形市や東根市などと接しており総面積は788平方キロ、人口は約103万人です。面積がかなり広いことから、都市部とその周辺農村地域、更に山間地域が存在しています。今回の統廃合問題の大きな要素となる児童生徒の減少は仙台市にあっても確実に進行していたのです。なお、現在、市立の小中学校数は、小学校123校(外3分校)、中学校63校(外1分校)です。その他に私立が小学校3校、中学校7校、国立の小中学校が各1校です。年齢構成や標準的な学校規模などから推定すると、小学校は人口1万人に対して1校、中学校は人口2万人に対して1校が大雑把な配置と考えられます。その意味では仙台市の学校数は先の地域事情等を考慮すればさほど多いものではありません。

(3) 東六郷地域の現状と仙台市立東六郷小学校の沿革
 仙台市の東南部に位置し、名取川の河口北側に広がる農村地域です。集落が4地区あり、それぞれの世帯数は85~110世帯、合計400世帯で構成されています。地域内には公的施設は小学校と併設されている幼児学園と隣接地に設置されたコミュニティセンターだけです。また、この地域は【市街化調整区域】に指定されていることから、特別な条件を満たさない限り新たな住宅の建設は出来ない状況です。小学校は、1873年に種次小学校として開校されて以来、分教場および分校の時代を経て1957年に「東六郷小学校」として独立しました。それから更に50年以上の歴史を積み重ねてきています。この間、世帯数はほとんど変わっていないものの、児童数は300人程から徐々に減少し、約10年前からは100人を切る状況にあります。
 地域に住む多くの方は東六郷小学校の卒業生であり、まつりや運動会など多くの行事が小学校と共に営まれてきたのです。その意味からも特別な想いで今回の統廃合問題を捉えたことも事実です。

(4) 地方財政の悪化と"聖域なき行政改革"の流れ
 地方自治体の財政は、極一部の大都市を除き共通した大問題となっています。政令都市の仙台市といえども同様です。特に、人口の増加が鈍っていることやバブル経済の崩壊による固定資産税の減少などがあるものの、最大の原因は国による"地方交付税"などの大幅な削減です。国は各自治体に行政改革を競わせ、その上に作り上げた標準財政規模を基に締め付けを行っています。
 歳出削減は至上命題となり、ありとあらゆる分野で削減が強行されつつあります。多くを記すことは要しないと考えます。"人間の命"、そして将来を担う子どもたちの"教育"も例外としない、そんな冷たい社会、言い換えれば「市場最優先」の社会がつくられようとしています。

3. 市教委(検討委員会)の審議経過と検討結果の骨子

 2の項で記したような状況の中で、仙台市教育委員会は検討委員会を設置し、多くの議論を行いました。しかし、これまでの多くの審議会や検討委員会がそうであったように事務方が作成したシナリオに沿った"最終報告書"であったことは事実です。
 以下、検討状況を時系列的に記します。

(1) 2005年2月に「仙台市立小・中学校適正規模等検討委員会」が学識経験者、地域団体代表、保護者代表そして学校関係者、合計13人のメンバーでつくられ、以降2007年5月まで19回の審議を行う。

(2) 議論内容の確認、他都市視察、市域内学校での聞き取り調査などを行う。

(3) 途中、『適正規模』としてきたメインの表現を変えて、『一定規模』という表現での検討と変わった。"適正"の捉えたかに幅があり、おかれている条件により異なる結論が導き出される。との判断からの変更。

(4) 小規模校であっても、山間部の学校については今回の検討から切り離し、その後の課題となる。

(5) 2006年の後半になって、取り纏め段階に入ると各委員からの発言に変化が見られるようになり、絞込みにより学校数・学校名が表現されるが安全性や地域性などの問題指摘がされるようになった。

(6) 最終段階となり新聞報道がなされる。最終報告が出る前から、学校存続の陳情書などが提出される。また、議会でも審議状況などの質疑が行われるようになる。

(7) 2007年5月31日に最終報告者が市教委に提出される。(資料参照)
   大きな基準 ◇小学校―多様な人間関係をつくるため12学級以上が必要
         ◆中学校―専任の教諭確保の観点から9学級以上が必要
   最終報告内容○小学校―住宅団地および東部農村地域の11校が明示
         ●中学校―住宅団地を中心に6校が明示

4. 地域および議会からの反撃

 色々な立場からの取り組みがあり、時間的に経緯を追うことが難しいことから各部門ごとに、特徴的な取り組みを記すこととしました。

(1) 市議会からの反撃
 議会の場で最初に取り上げられたのは、最終報告書が出される半年ほど前の2006年第4回定例会(12月)からです。地元新聞報道を期に審議過程や問題点の指摘がされています。
 その後統一自治体選挙(2007年4月)がありましたが、立候補者76人の中で「小中学校の統廃合反対」を選挙公約として、文字として掲げた候補者は私一人でした。私は選挙期間中、選車から、個人演説会でも最大の課題として訴えました。(結果は、定数8の中で6位当選 11人立候補)
 改選後、最初の議会となった2007年第2回定例会(6月)において、私と保守系の議員2人が一般質問で「最終報告書」の内容に対して質疑を行いました。私の質問の骨子は次の通りです。①市長発言「財政問題」という物差しでの判断は認められない。小学校の廃止は地域そのものを壊すことになる。市教委の考え方は。②最終報告と市教委の方針とは異なると考えるが、子どもおよび地域住民の声を大切にした対応を求める。③少人数教育の有効性。特に特色ある教育や行事を行っているが、その認識は。④検討委員会の場で「財政問題」関する論議は一切なかったのか、また、市教委して問題意識がなかったのか。
 これに対して、①あくまでも少子化に伴う生徒数の減少の中で教育環境の向上を目的としての対応である。(市長発言については答弁せず) ②市教委として各学校の状況を把握し、秋ごろを目途に方針を決定し、各地域で説明会などを開催する。保護者や地域住民の意見・要望を十分伺って対応する。③検討委のなかでも言及している。現状でも良さを生かした教育が行われている。さらに社会性などを養っていくことなどから今回の報告になったと理解している。④児童生徒の人間関係や教育環境の面等からの議論をスタートした。統合されれば、結果として経費の削減に繋がるとは考えるが、あくまでも少子化が進行する中での教育環境向上の視点に立っている。などと答弁しました。
 引き続き第4回定例議会(11月末開会)においても一般質問に立ち、あらためて統廃合問題を取り上げました。①各地域で開催された説明会や質問状、陳情を受けての、現時点での考えは。②先に「秋ごろ」としてきた実施計画の発表はいつごろに。③子育てを重視する市の立場で併設されている幼児学園の運営と存続問題。④前回の質問で回答のなかった市長発言「財政改革の観点からもそのままにしておけない問題」との発言について、市政そして財政執行責任者である市長の考えは。等を質しました。これに対して①要望や陳情、更には地域説明会などで意見を伺ってきている。学校が地域において担っている役割の大きさや学校への思いの強さを改めて感じている。その一方で小規模化がさまざまな課題が生じている。今後計画をつくる上で地域の皆様の思いを受け止め、慎重に合意形成を図っていく。②年明けて、なおしばらく時間を頂くこととなる。③指摘の幼児学園については十分な話し合いをしていきたい。また、少子化対策等について担当局や関係機関との連携をとり、整合性を図っていく。④(市長)学校は教育の場として役割だけでなく、地域コミュニティや防災、街づくりなどさまざまな役割を担っている。一方で少子化は自らの成長や社会性を育む店で難しい。その点で教育環境を整えていくことは重要である。財政的には、統廃合により経費削減に繋がると考えられるが、将来を担う子どもたちの望ましい環境を整えていくことが必要と考えている。というものでした。また再質問で、「市長は地域コミュニティの重要性をしっかり認識していない、その中心にあるのが各学校である。今一度市長の所見を。」に、「教育の場としての役割だけでなく、様々な機能、拠点機能を持っている。今後も総合的な街づくりにあたり、十分意識しながら取り組んでいく。」と答えがありました。
 年が変わっても市教委の動きがなく、2008年第1回定例会(2月)において改革ネット自民(与党会派)の代表質問に答えて一定の方向性が示されます。教育長が「各学校における状況や課題などが様々であることから、統廃合が妥当とされた全ての学校を、(中略)一斉に対象とすることは困難と判断いたしているところです。実施計画におきましては、特に児童生徒の減少が著しく、緊急度が高い状態にあり、さらに相手校との地理的な状況や、地域事情なども考慮しながら、優先順位を判断しつつ対象校の絞込みを行っているところです。(中略)今回は、特に特に児童生徒の減少が著しく、緊急度が高い、小学校を優先的に実施の対象とすることとし、中学校につきましてはさらに時間をかけて検討して参りたい。」と答弁し、中学校については対象校全てが先送りに、小学校についても児童生徒の減少が著しく、緊急度が高い状態にあり、さらに相手校との地理的な状況や、地域事情など数項目の条件を示して11校の内の数校に絞り込んでいる状況が明らかになりました。
 私はこの議会でも一般質問を行いました。「コミュニティビジョン最終報告(地域活性化のプログラム)に関連して、その中核となる市民センターやコミュニティセンターが中学校および小学校毎の整備となっていることと、先に出されている学校統廃合とは整合性が取れない。」と追求しました。教育長から「学校は教育機関であると同時に、地域コミュニティにおいて大きな役割を担っている。実施計画の策定に当たって市の方針や施策との整合性を図っていく。」と答弁がされています。
 そして今尚実施計画が出されていません。(2008年7月15日現在)

(2) PTAおよび町内会など地元からの反撃
 正式に報告書が出される以前、2006年11月中旬に≪小規模校の廃止統合≫の新聞記事が出されると、地元の4町内会が反応しました。検討内容などを聞き、すぐさま存続を求める署名活動を展開します。4地区400世帯が中心となって1ヶ月足らずで3,458人の反対署名を集め、どの地区よりも早く12月14日に要望書を提出しました。
 その後、節目と思われる時期に要望書提出を企画しました。そのうち2007年10月の提出は私も深く関わりましたが、市全体の大きな問題となっていた≪家庭ごみの有料化問題≫と重なったことから、副市長以下の説得工作が町内会長らに対して行われ、"提出見送り"ということも経験しました。その後もタイミングを計り、2007年12月12日に再度の要望書を提出しました。1地区で2回の要望書提出は東六郷小学校地区だけです。
 また、2007年6月議会で地域説明会の開催を約束しましたが、すぐに開催を求め6月28日地域説明会を開催しています。会場となった東六郷コミュニティセンターには110人を越える住民が集まり、口々に学校の必要性や生徒減少は市の政策の結果であることなどが語られました。説明員として出席した適正化推進室長は「秋口に市教委としての方針を纏め上げる予定でいるが、そのもの自体はコンクリートではなく、さらに地域住民の意見を受けて変更などもありうる柔軟なものになると考えている。」と答えています。
 その他、議会傍聴や地域の会合では情報の共有化が行われてきました。


 今回の最終報告に明記された中学校6校、小学校11校、計17校の当該地域で署名および要望書提出は8地区、地域説明会の開催も8地区でした。


(3) その他の取り組み
 今回の統廃合問題は教職員にとっても大きな問題です。宮城県教職員組合の仙台地区が中心となって「仙台の子どもと教育をともに考える市民の会」をつくって情報の交換と共同行動を呼びかけました。共産党の指導が色濃く見える組織であったことから大きな運動体とはなりませんでしたが、情報の共有という点で意義がありました。

5. 今後の課題および問題点

 先にも記しましたが、実施計画が正式に出されていません。その意味では100%不安が解消されたわけではありません。そして最大の問題は少子化に歯止めがかからない。地域活性化が全国的に取り組まれていますが、残念ながら思うように進んでいないのも事実です。
 日本の現状を考えた場合、地方が元気になるにはその地方での生産を増やすことであり、多くの地方は第一次産業が中心となっています。その産業で、その地域で、生産資材で個々の生活が成り立つような所得が得られるかが重要です。この条件が満たされない限り、人口減少は避けられないと断定できます。
 翻って、私たちの住む地域、東六郷に先の条件が有るのか? いかにしてその条件を満たす取り組みを行うのか? 全国全ての地域に求められる課題でもあります。
 東六郷小学校の今後の推定児童数は50人を切り、更には"複式学級"という事態も発生しかねない状況です。≪単に学校を残せばよい≫という問題ではなく、地域全体の将来をどうして行くのか、まさに街づくり、地域づくりをどのように考え、どのように全体で取り組むのか、大命題といえます。
 議員となって1年3ヶ月ですが、今以上に地域の中に入り、世代を超えて話し合い、自分たちが出来ること、やらなければならないことを見出さなければならないと考えます。また、地域だけでは達成できない部分を行政がしっかりとサポートするようなシステムにしなければなりません。
 今日、企業誘致すれば事足りる。との風潮がありますが、地域全体、個々の生活者一人ひとりの生活・生きがいを追求することがより大切であると考えます。その意味でも"市街化調整区域"や大企業の管理下にある"価格、物流"等など、あらゆる部門、分野において"生活者優先"の政策となるよう頑張りたいと考えます。

【更に詳しく知りたい方は、私のHP(http://www.k5.dion.ne.jp/~a_kazu/)および仙台市議会HPをご覧下さい。


(資料)