【自主論文】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-②分科会 地域で教育を支える~教育行政・生涯学習・スポーツ・文化~

地域で教育を支える「地域の学校」づくりに向けて


岐阜県本部/瑞浪市職員労働組合連合会 渡辺  裕

 少子化、高度情報化、そしてグローバル化の進展など、学校教育を取り巻く環境は変化の激しい状況にあります。最近では、都市部の学校での凶悪な事件が後を絶たず、また地域に目を向けていけば、思いのほか身近な地域で子どもたちがさまざまな事件に巻き込まれたりしています。
 このような状況の中、社会全体としては、地方分権社会へ向けて、新しい地方教育行政の在り方を考えていかなければならない時期にあるように思われます。

 中央教育審議会の中で「地方分権時代における教育委員会の在り方について」(部会まとめ 2005年1月)にもあるように、新しい地方教育行政の在り方として、今後、次のような考え方の下に改革を行っていくことが必要と考えられています。
 『保護者や地域住民の参加として、子どもの教育は、学校だけで担えるものではなく、地域社会や家庭を含めた三者がそれぞれの役割を果たし、連携・協力しながら行っていくことが必要である。中でも家庭は、大きな役割を担っていると言える。このような連携・協力のためには、学校、保護者、地域住民が、子どもをどのように育てていくかについて考えを共有することが不可欠であり、教育行政も保護者や地域住民の意向を十分に把握し、それを反映して行われる必要がある。また、保護者や地域住民が、教育委員会の支援の下、学校運営も含め一定の権限と責任を持って教育に積極的にかかわっていくことで、学校教育の改善充実や地域全体の教育力の向上を図っていくことが必要である。』とあります。

 また、あるアンケート結果によれば、小中学生が凶悪犯罪を引き起こす要因として学校が考える事柄としては、「家庭の指導力低下に伴う、子どもの規範意識・思考力・判断力の低下」や「テレビ、メディアおよび携帯電話などの有害情報による精神的成長への悪影響」、「社会全体の規範意識の低下」を挙げる回答が上位を占めたとの調査結果もあります。

 このような傾向への歯止めとなるためにも、学校と地域の協働による安全で安心な教育環境を目指していくことが大事ではないかと思われます。また、協働して取り組むことによって、「社会全体の規範意識の低下」を防ぎ、安全で安心な「地域の学校」を自ら作り出しているという自覚が芽生えることが期待されます。

 すでに、地域では青色回転灯防犯パトロールの取り組みが始まっています。
 これは、地域住民や保護者が子どもたちの下校時間に合わせて青色回転灯を取り付けた車に乗り、パトロールを行うもので、地域住民の定年を迎えた人々や、仕事が終わってから夜間パトロールに行く人など、自分の地域は自分で守っていこうという活動です。このように、地域住民や保護者側に、自らが子どもたちの安全確保に積極的に参加することによって、自分たちの力で子どもたちの安全を守っていいこうとする意識を生みだすことにより、「地域の学校」という考え方を広めいけば、地域住民、保護者と学校が力を合わせた「協働」に取り組むことが可能となります。これに伴い、学校の存在意義が向上することは、地域住民や保護者にとっても良い影響があると思われます。

 地方にも都市化の波は押し寄せてきており、都市化の進行等によって、地方ではかつてのような「地域ぐるみ」といった地域社会が減少し、公共性、継続性・安全性を備えた「地域の学校」という存在が次第に失われてきています。このような状況の中、地域住民、保護者の中には「学校に協力するのはいいが、学校からは何もしてもらえない」という考え方があり、このような考え方の中では、協働というのは進められないと思われます。

 したがって公共性、継続性・安全性を維持しながらも、地域住民が一丸となって子どもを育むコミュニティ作りに取り組む必要があると思われます。地域住民が一丸となった結果、さらに良い結果が生まれてくる事案として次のようなことがありました。
 『登下校中の子どもたちが元気な声で挨拶してくれることがとてもうれしく思います。』
 このようなお礼状が届いたので学校長が子どもたちに「とても良いことだね」とねぎらいの声をかけました。すると、それを聞いた子どもたちは嬉しくなって、道ですれ違う人たちに以前よりも一層元気な声で挨拶をするようになりました。そして、挨拶を交わしているうちに、地域住民・保護者の中に、子どもたちの役に立てることをしてあげようと、登下校の時間に合わせて、畑仕事に出かけ登下校中の子どもたちの見守りをしてくれる方が増えてきました。
 このため、子どもたちは地域の人に見守られながら安心して登下校をすることができ、また、地元の人たちも、元気な子どもたちと挨拶を交わしながら子どもたちの安全確保に役立つ良い関係が生まれていくのです。地域住民、学校、子どもたちの間で一体感が感じられるようになれば、そのことが地域全体への良い影響となり、子どもたちへのためにもなります。人と人とのかかわり合いを通じてお互いが心の通い合う人間であることを認識し、地域の子どもたちへの愛情へとつながっていくような関係へと発展していくことが期待されます。

 「子どもの規範意識の低下」、「社会全体の規範意識の低下」を防ぐためには、地域の人たちが子どもたちの顔を知っておくということがとても大切で、反対に子どもたちが地域の大人たちの顔を知っておくということも大切です。まわりに見られているという自覚を持つことで、自分の行為に気をつけるようになり、悪いことをしなくなる傾向があります。一人ひとりでは微力だが、地域の目に見守られているということを子どもたち一人ひとりが感じてもらえるようになることこそ、「規範意識の低下」を防ぎ、学校と地域との協働の本当の狙いであるように思われます。

 さらに、地域住民の中には、社会人講師の活用やOB教員がいる場合があります。そういった場合は、社会人講師の活用やOB教員の協力を通じて、民間・公共での幅広い経験のある優れた知識や技術を有する人材の参加を求めるなどの工夫を行いながら、「地域の学校」づくりを図る取り組みを進めていければ理想的だと思われます。そして、地域住民、保護者、学校が、それぞれの役割と責任を明確にし、お互いが連携・協働して、学校運営に対して責任のある参加をしていくことで、「地域の学校」づくりが実現されると思われます。ただし、学校での個人情報に対する守秘義務を課すなど、実施において服務上必要な措置を講じることについては検討する必要があるように思われます。

 すでに実施している学校もあるが、地域の子育てを終わったお母さん達のように、子育て経験の豊富な方々に、例えば読書ボランティアとして、子どもたちの活動時間の合間に本の読み聞かせを行ったり、卒業生や地域住民が、自宅でメダカを育て、学校の活動に役立ててもらおうと無料でメダカを寄付してみたり、OB教員による学校校務の手伝いとして、プール清掃の補助として活用しているEM菌を自宅で培養をし、学校へ提供したり、もちろん保護者の人々も、学校施設の清掃、草刈、校舎・遊具のペンキ塗りなどを行ったりと、子どもの視点で考え、子どもの安全を考えながら取り組んでもらえるような人々への、ボランティア協力の呼びかけを続けていくことが大切だと思われます。

 このような取り組みを通じて、公共性、継続性・安全性を維持しながらも、地域住民が一丸となって子どもを育むコミュニティ作りに取り組んでいきながら、地域住民や保護者の協力によって子どもたちが安全で安心な教育環境を作っていくことを目指していく上で大切なのは、お互いの顔を知り、親の顔を知り、子の顔を知ることではないかと思います。自分の子どもだけでなく、地域の子どもの顔を知ることで、子どもたちを地域で育てていくといった意識への改革を進め、このような状況の中で育っていく子どもたちが将来に渡り地域への活性化へと繋がるような関わり方を望みたいと思います。

 民間会社の社会貢献として、工場の付近の清掃、草刈、河原清掃を行っている会社がある。誰に頼まれたわけでもないが、こういった活動を通じて地域住民との一体感が増し、反対に工場の改装工事などの影響で道路が一部規制になったりした際に、非難の声をかける人はいないだろう。
 それと同様に、地域住民との協働により学校の行事を行っていきながら反対に、学校も地域の行事に協力していくこと。「地域の学校」の存在が地域社会に根付き、人々の生活や意識の中に浸透していくこと。そうして、学校教育活動の中に、地域住民の協働を感じてもらい、地域と一体となって子どもの教育に取り組んでいるとの意識が芽生えることがなにより大切だと思われます。さらに、学校においては、地域住民や保護者に対する責任の意識が高まり、学校教育の取り組みについて自分たち一人ひとりも責任を負っているという自覚と意識が高まり、また、地域住民や保護者からの孤立が押さえられるなどの効果も期待されます。そして、相互コミュニケーションの活発化を通じた学校と地域との連携・協力の促進により、学校を核とした新しい「地域の学校」づくりへと広がっていくことが、地域住民が一丸となって子どもを育むコミュニティ作りへと発展していく方法であると思います。