【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-③分科会 男女平等:あなたにとってのワーク・ライフ・バランスとは?

ワーク・ライフ・バランスの必要性


三重県本部/名張市職員労働組合

 高度成長期、日本が右肩上がりに成長し続けた時代日本では「モーレツ社員」という言葉が流行した。会社に忠誠を誓い、休日や余暇を犠牲にして、会社を発展させるために献身的になることが美徳とされていた。家庭のことは顧みずとも、給料袋を持って帰れば父親の役目を果たしたと言える時代だった。
 時は平成に移り、20年が経った。かつてのような右肩上がりの時代は終わった。それどころか、人口が減少し、右肩へ下がっていく時代だろう。さらに団塊の世代が退職世代に達しており、今後労働力人口の減少は目に見えている。そんな中、これまでと同じような働き方をしていては、うまくいかないのではないだろうか。
 私のレポートでは、近年よく聞かれるようになってきた「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)についてその必要性を検証し、今後の課題を探っていきたい。

1. ワーク・ライフ・バランスとは?

 はじめに、ワーク・ライフ・バランスとは、何かというところから考えていきたい。内閣府男女共同参画会議・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会資料によると、
「ワーク・ライフ・バランスとは、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自らが希望するバランスで展開できる状態」
と説明している。人にはさまざまな生活の場面がある、働く人にとっては、仕事が大きなウェイトを占めているだろう。家に帰れば家族の一員であり、地域のひとりであったりする。これら仕事以外の生活(家庭、地域生活、趣味・学習、休養など)に、力点を起きたい人もいれば、「自分は仕事が人生だ」という人もいるだろう。これら様々な活動について、自らが希望するバランスで展開できる状態のことを「ワーク・ライフ・バランス」という。

2. なぜ、今ワーク・ライフ・バランスが注目されるのか?

 ひとつには、少子化・高齢化と、それにともなう人口減少社会の到来への対応である。図1を見ていくと人口減少の実際がよくわかる。世間では少子化、少子化と言われているが、実は、ここ数年子どもの数そのものはほぼ横ばいとなっている。政府の少子化対策が効を奏し始めたこともあるかもしれないが、それよりも親の数そのものが、今多いから、かろうじて横ばいとなっている。むしろ、親世代の数からすると子どもの数が増えてもいいぐらいなのに、横ばいにしかなっていない。この先、親世代の数そのものが、減っていくのは確実で、15年先には4割も減る。単純にいくと、生まれてくる子どもの数も15年後に4割減っていくことが予想される。今の少子化対策は、人口減少のカーブを少しでも緩やかにするための施策であって、もはや増加する見込みはないといえるだろう。

図1 出生率低下よりも「親の数」減少の方が重要変数
少子化が本格的に進むのはこれから
(厚生労働省の人口動態統計を藻谷氏が作成)

 少子化と同時に、今後労働力人口が急速に減少していく。団塊の世代の退職を皮切りに、20歳から60歳までの労働力人口は、2005年~2015年の10年間で、約600万人減少すると推計されている。2007年問題は、はじまりに過ぎず、むしろこれから先、減り続ける就業者不足を補う施策が必要である。そのひとつが男女共同参画であると考える。日本の女性の労働力率はM字カーブを描いており、第1子出産を機に退職する人が7割にのぼる。


図2 女性の年齢階級別労働力率の推移
(内閣府男女共同参画白書より作成)

 これは日本特有であり、諸外国では、結婚・出産後も働き続けるため、労働力率は台形となる。このM字カーブの底をあげるためには、結婚・出産を終えても働き続けられる環境の整備が必要である。男女雇用機会均等法や育児休業法が整備され、働く女性の環境は整備されつつあるが、結婚や出産を機に仕事を辞める人がまだまだ多い。2005年の15歳以上の労働力状態を見ると、約1,600万人が家事専業となっており、このうち3分の1が就労すれば500万人もの就業者が補える。また、年齢別労働力状態(2005年)を見ても、25歳~49歳までの家事専業が500万人以上いており、このほか「家事のほか仕事」(パートタイマーなど、仕事よりも家事をメインとしている層)をしている女性のうち一部でも、仕事に占める割合を増やすことで、就業者不足は補えると考えられる。


図3 夫婦の生活時間
(内閣府男女共同参画局HPより作成)

 1997年以降、共働き世帯のほうが、専業主婦世帯よりも上回っているが、夫の家事育児にしめる時間は、共働きであるか否かを問わず約30分と短いというのが、図3である。女性の社会参画は大いに必要であるが、子育てや家事を母親ひとりに任せきりにしたままではなく、夫もさらに家事・育児にもかかわれるように変わっていく必要がある。そのためには、男性を含めた働き方そのものを変えていかなければならない。
 さらに、女性の社会進出が進むと出生率があがる傾向が見られる。私は今の仕事を担当した頃は逆だと思っていた。母が家にいて子育てに専念するほうが子どもは生まれると思っていた。しかし、統計的に見るとむしろその逆なのである。


図4 女性が家に入るほど下がる出生率
(藻谷浩介氏講演資料より)

 図4は女性の就業率と出生率の相関関係をみたものである。左側は、横軸に20歳から39歳までの女性に占める「主に仕事」の割合、縦軸に合計特殊出生率をとったものである。これを見ると、「主に仕事」の割合と出生率に正の相関関係が見られ、子育て世代で働く女性の割合が高いほど出生率が高くなる傾向が見られる。右の図は、逆に子育て世代の女性に占める、家事専業の割合と出生率の相関関係をみたものである。これを見ると、家事専業の割合が高いほど出生率が下がる傾向を示している。つまり、女性が働きに出るから子どもが生まれにくいのではなく、現実には女性も働いているほうが出生率は高くなる傾向がある。原因は定かではないが、子育てにかかる経済的ゆとりができることや、共働きのほうが、子育てを夫婦で担うことができるという見方もある。
 典型例は、福井県。福井は、共働き世帯割合、女性労働力率・就労女性の常勤雇用率いずれも全国1位(2005年国勢調査)で、合計特殊出生率1.5は沖縄についで2位となっている。
 同じことが世界各国比較のデータでも同じ傾向が見られる。

図5 OECD加盟24か国における女性労働力率と合計特殊出生率
(内閣府男女共同参画局パンフレットより作成)

 OECD加盟(経済協力開発機構)の24カ国における女性労働力率と合計特殊出生率の1970年、1985年、2000年を比較したものである。1970年時点では女性の労働力率が高い国のほうが出生率が低い負の相関関係であった。ところが、1985年にはそれがなくなり、2000年になると労働力率と出生率に正の相関関係が見られるようになった。このように女性の労働力率と合計特殊出生率との関係は、どちらかがあがれば他方も必然的にあがるというものではなく、仕事と家庭の両立を支える社会環境を整備することで、関係が変化すると考えられる。
 これらからわかることは、都道府県別に見ても、国際比較を見ても、女性が働きに出る率が高いほど出生率があがる傾向がある。しかしそれは、働く女性が増えれば、出生率が上がるという単純なものではなく、その実現のためには仕事と家庭が両立できる環境の整備が必要であるということがいえる。在宅勤務、短時間勤務など柔軟な働き方が可能な職場環境の充実が求められる。ワーク・ライフ・バランスが必要と言われる理由は、ここにあると考える。
 次の章では、具体的に柔軟な働き方を取り入れている先進的な事業所を紹介していきたい。

3. 取り組み事業所の実例

(1) 松下電器産業株式会社の取り組み
 所在地:大阪府門真市 業種:電気機械器具製造販売 従業員数:約76,000人
 松下電器は、2005年にファミリー・フレンドリー企業に受賞している。ファミリー・フレンドリー企業とは、仕事と育児・介護とが両立できるような様々な制度を持ち、多様でかつ柔軟な働き方を労働者が選択できるような取り組みを行う企業を厚生労働大臣が表彰している。具体的な取り組みとしては、ワーク・ライフ・サポートプログラムとして、仕事と家庭の両立のための充実した制度がある。
(ワーク&ライフサポートプログラム)
① 休業・勤務制度
 ア 育児休業……育児のために子どもが小学校就学直後の4月末までに通算2年間休業できる制度。
 イ チャイルドプラン休業……不妊治療のために通算365日休業できる制度。
 ウ ファミリーサポート休暇……家族看護、配偶者出産、子どもの学校行事への参加、不妊治療等で年5日休暇を取得できる制度。
 エ 介護休暇……介護のために、要介護状態家族一人につき、通算365日休業できる制度。
 オ ワーク・ライフ・サポート勤務……育児・介護のために週2~3日勤務、コアタイム勤務、半日勤務等の短縮勤務ができる制度。
 カ e-work@Home(在宅勤務)……情報通信機器を活用し、労働時間の全部または一部について、自宅で業務に従事できる制度。
② 情報・コミュニケーション支援
 ア ホームページによる情報提供……行政や会社の両立支援情報、女性部下を持つ管理職向け情報。
 イ ホームページチャットコーナー開設……仕事や育児の悩みをみんなで語り合えるコーナー
 ウ 上司とのコミュニケーションツール……休業前後の面談票、休業中の情報交換レポート。
③ 育児・介護支援
 ア ベビーシッター会社との法人契約……ベビーシッター派遣と一時預かり施設の利用。
 イ 育児施設(保育所)の利用補助
 ウ 介護クーポン事務局との契約……ホームヘルパー、ケアワーカーの派遣。
 日本的経営のお手本と言われた松下電器。制度の充実ぶりはさすがと言わざるを得ない。制度の充実もさることながら、取得事例の紹介や管理職用ガイドブックで教育・啓発に努めるなど、制度を利用しやすい職場環境づくりにも努めている。ファミリー・フレンドリー企業受賞に関するHPによると男性の育児休業取得者がいて、女性出産者の9割以上が育児休業制度を利用し、ほぼ全員が復職している。女性が出産後も働き続けられる環境が存分にあることが感じられる。
 近年推進しているのが、e-workと呼ばれる在宅勤務制度。自宅や出張先(国内の主要拠点)でも社内と同様に作業ができることを可能にする仕組みが作られている。通勤や移動の時間を削減して生まれる時間を家庭や地域での生活時間に使ったり、自分のスキルを磨いたり、リフレッシュの時間にできる。
 仕事と生活の調和に関する専門調査会の資料の中で、これらの取り組みの効果として、以下を挙げている。
① 子どもを持つ女性社員の定着率の向上
② 女性からなる商品開発チームによる、生活者としての視点をいかしたヒット商品の開発
③ 短時間で効率よく働くよう心がけるため時間管理能力が向上
④ 人事異動時に男性社員をとこだわる声も聞かれなくなった
⑤ 通勤・移動時間の削減による時間創出と疲労軽減
⑥ 業務の見直しや効率化の促進効果
⑦ 社員のモチベーション向上

(2) 未来工業の場合
 所在地:岐阜県輪之内町 業種:電気設備資材メーカー 従業員:780人
 未来工業は、ひとことで言えば「やる気主義」の会社ではないだろうか。年間休日140日、定年は70歳、勤務時間は8時半から午後4時45分で休憩時間を除くと一日の勤務時間は7時間15分と短い。残業は禁止。正月休みは20日間、盆休みは10日間。5年に一度、職員旅行で海外へ行く。もちろん旅費は会社持ち。従業員800人のうち、300人が女性であるという同社では、出産後最大で3年間の育児休業が取れる。賃金体系は年功序列。ノルマもない。今日はやりの成果主義の正反対をいく未来工業。それでも、業績は確実に伸ばしているという。年商は300億円。毎年15%近い経常利益率を誇る。社員の給与は、地元の平均より高く設定されている。驚きの会社である。
ア 創業者 山田昭男氏
  若かりし頃演劇をしていた山田氏は、芝居を続けるために、演劇仲間と会社を設立した。氏の言葉に「演劇は、演じる側が感動できなければお客も喜ばない。企業も同じ。社員が喜んで働くよう、中小企業の社長は仕事をしやすい仕組みを整え、幕が開けば社員という役者に任せる。任せなければ社員は育たない。」この創業者のポリシーが、未来工業に脈々と流れている。
イ 現場を信じる
  ホウレンソウ(報告・連絡・相談)が禁止されている。一般的には、組織としての判断が求められるため、こまめにホウレンソウすることが重要だとされる。しかし、この会社は逆で、現場のことは現場の者が一番よくわかっているという考えのもと、担当者に判断を任せるというのだ。このことが、責任感、判断力といった実力を養い、社員のモチベーションを向上させているという。ひとつの決定にかかるコストが低いことから、生産性の向上、業務の効率化にもつながっている。
ウ 労働時間の短縮
  未来工業では、残業が原則的に禁止されている。一日の業務時間は7時間15分と短い。創業者の山田さん著書のなかで、「普通の会社の場合、朝7時に出て、夜7時にはうちに帰る。つまり、通勤時間を含めて12時間を会社のために使っている。残りは12時間のうち8時間を睡眠時間としたら、自分の時間は4時間。せめて4時間の自分の時間ぐらい大事にして自分の好きなように使え。それを、残業で全部潰して何がおまえの人生の価値があるのだ。」と言ったという。
  また、「経営論の中で一番の根幹は、"人"、"もの"、"金"と言われてきた。それは、足腰のしっかりした会社の話で、一からはじめた会社にあるのは、人しかない」といい、社員のやる気を起こさせることは、給料を上げることが一番であるが、それ以外にできることと言えば労働時間の短縮だと考えているという。
エ 常に考える
  年間休日が140日という非常に休日の多い未来工業。社員旅行などで、取引先が困る時は、その顧客に合鍵を渡し、必要になったら勝手に持っていけばいいといったという。作った合鍵は3,000個。
 年間休日が非常に多く、残業を禁止して労働時間が非常に短い未来工業。それでも、業績を伸ばしているという会社があるのだという例といえるだろう。

(3) 伊藤印刷株式会社の取り組み
 所在地:三重県津市 業種:総合印刷 従業員数:32人
 伊藤印刷株式会社は、「男女がいきいきと働いている企業三重県知事表彰」で2004年度に、ベストプラクティス賞に輝いている。県内の企業ということもあり、企業に直接お話しを伺いに行った。正規従業員の約7割が女性という、伊藤印刷。1970年代半ばから、積極的に女性を登用してきた。1992年には、女性管理職2人をアメリカ業界への視察に派遣するなど、どんどん視野を広げて欲しいという、経営者の姿勢の表れを感じる。
 また、役員の5人のうち3人が女性であり、営業職にも女性を積極的に登用するなど、職域の拡大に取り組んでいる。従業員には、あらゆる印刷工程を体験させており、誰かが急に休みを取ることになったときもフォローができる。
 驚いたことは、在宅勤務を取り入れていることだ。在宅勤務は、最近になって言われるようになってきた制度かと私は思っていたが、この伊藤印刷は、実に30年以上前からこの制度を活用しているという。仕事内容は、主にテープ起こしなどで、タイピングの機器は貸与しているという。勤務時間は職員の自己申告によるということだった。
 取締役社長である伊藤孝行氏は、2005年のスペシャルオリンピックスの運営に携わったほか、地元の自治会の会長を務めるなど、様々な顔をもっている。また、代表取締役専務であり奥様でいらっしゃる伊藤惠子さんは、津商工会議所女性会の会長であり、2006年の全国大会では大会長を務められ、その当時の奮闘ぶりを熱く語られていた。仕事以外の社会活動へも余念がない社長の姿勢がこの会社を引っ張っていると感じた。

4. まとめ

 ワーク・ライフ・バランスの実現は、大手企業でなければできないことかと言えばそうでもなく、中小企業でもすでに実践している会社もあるし、はっきりと成果を挙げている会社もあるということを、このレポートを作成しながら感じた。未来工業では、年間休日が多く、短い労働時間でも確実に業績を挙げているし、伊藤印刷ではずっと以前から在宅勤務を取り入れ、働きやすい職場環境を作ってきている。それぞれ形は違うけれども、自分たちの会社にあった働き方を見つけ取り入れてきている。それぞれの取り組みを見て感じたことは、会社として、職員をいかに生かしていくかという経営者の姿勢があること。結果的にそれが両立支援の制度であったり、短時間勤務であったり、在宅勤務であったりする。それは会社の発展のための投資であり、従業員の生活の充実はどちらかを犠牲によってではなく、ともに達成されなければならない。それが組織の活力となり、ひいては社会の活力へとなっていくということを、ワーク・ライフ・バランスを進めなければならない理由として提言したい。