【自主レポート】 |
第32回北海道自治研集会 第Ⅳ-③分科会 男女平等:あなたにとってのワーク・ライフ・バランスとは? |
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高度成長期、日本が右肩上がりに成長し続けた時代日本では「モーレツ社員」という言葉が流行した。会社に忠誠を誓い、休日や余暇を犠牲にして、会社を発展させるために献身的になることが美徳とされていた。家庭のことは顧みずとも、給料袋を持って帰れば父親の役目を果たしたと言える時代だった。 1. ワーク・ライフ・バランスとは? はじめに、ワーク・ライフ・バランスとは、何かというところから考えていきたい。内閣府男女共同参画会議・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会資料によると、 2. なぜ、今ワーク・ライフ・バランスが注目されるのか? ひとつには、少子化・高齢化と、それにともなう人口減少社会の到来への対応である。図1を見ていくと人口減少の実際がよくわかる。世間では少子化、少子化と言われているが、実は、ここ数年子どもの数そのものはほぼ横ばいとなっている。政府の少子化対策が効を奏し始めたこともあるかもしれないが、それよりも親の数そのものが、今多いから、かろうじて横ばいとなっている。むしろ、親世代の数からすると子どもの数が増えてもいいぐらいなのに、横ばいにしかなっていない。この先、親世代の数そのものが、減っていくのは確実で、15年先には4割も減る。単純にいくと、生まれてくる子どもの数も15年後に4割減っていくことが予想される。今の少子化対策は、人口減少のカーブを少しでも緩やかにするための施策であって、もはや増加する見込みはないといえるだろう。 |
少子化が本格的に進むのはこれから |
少子化と同時に、今後労働力人口が急速に減少していく。団塊の世代の退職を皮切りに、20歳から60歳までの労働力人口は、2005年~2015年の10年間で、約600万人減少すると推計されている。2007年問題は、はじまりに過ぎず、むしろこれから先、減り続ける就業者不足を補う施策が必要である。そのひとつが男女共同参画であると考える。日本の女性の労働力率はM字カーブを描いており、第1子出産を機に退職する人が7割にのぼる。 |
これは日本特有であり、諸外国では、結婚・出産後も働き続けるため、労働力率は台形となる。このM字カーブの底をあげるためには、結婚・出産を終えても働き続けられる環境の整備が必要である。男女雇用機会均等法や育児休業法が整備され、働く女性の環境は整備されつつあるが、結婚や出産を機に仕事を辞める人がまだまだ多い。2005年の15歳以上の労働力状態を見ると、約1,600万人が家事専業となっており、このうち3分の1が就労すれば500万人もの就業者が補える。また、年齢別労働力状態(2005年)を見ても、25歳~49歳までの家事専業が500万人以上いており、このほか「家事のほか仕事」(パートタイマーなど、仕事よりも家事をメインとしている層)をしている女性のうち一部でも、仕事に占める割合を増やすことで、就業者不足は補えると考えられる。 |
1997年以降、共働き世帯のほうが、専業主婦世帯よりも上回っているが、夫の家事育児にしめる時間は、共働きであるか否かを問わず約30分と短いというのが、図3である。女性の社会参画は大いに必要であるが、子育てや家事を母親ひとりに任せきりにしたままではなく、夫もさらに家事・育児にもかかわれるように変わっていく必要がある。そのためには、男性を含めた働き方そのものを変えていかなければならない。 |
図4は女性の就業率と出生率の相関関係をみたものである。左側は、横軸に20歳から39歳までの女性に占める「主に仕事」の割合、縦軸に合計特殊出生率をとったものである。これを見ると、「主に仕事」の割合と出生率に正の相関関係が見られ、子育て世代で働く女性の割合が高いほど出生率が高くなる傾向が見られる。右の図は、逆に子育て世代の女性に占める、家事専業の割合と出生率の相関関係をみたものである。これを見ると、家事専業の割合が高いほど出生率が下がる傾向を示している。つまり、女性が働きに出るから子どもが生まれにくいのではなく、現実には女性も働いているほうが出生率は高くなる傾向がある。原因は定かではないが、子育てにかかる経済的ゆとりができることや、共働きのほうが、子育てを夫婦で担うことができるという見方もある。 典型例は、福井県。福井は、共働き世帯割合、女性労働力率・就労女性の常勤雇用率いずれも全国1位(2005年国勢調査)で、合計特殊出生率1.5は沖縄についで2位となっている。 同じことが世界各国比較のデータでも同じ傾向が見られる。 |
OECD加盟(経済協力開発機構)の24カ国における女性労働力率と合計特殊出生率の1970年、1985年、2000年を比較したものである。1970年時点では女性の労働力率が高い国のほうが出生率が低い負の相関関係であった。ところが、1985年にはそれがなくなり、2000年になると労働力率と出生率に正の相関関係が見られるようになった。このように女性の労働力率と合計特殊出生率との関係は、どちらかがあがれば他方も必然的にあがるというものではなく、仕事と家庭の両立を支える社会環境を整備することで、関係が変化すると考えられる。 これらからわかることは、都道府県別に見ても、国際比較を見ても、女性が働きに出る率が高いほど出生率があがる傾向がある。しかしそれは、働く女性が増えれば、出生率が上がるという単純なものではなく、その実現のためには仕事と家庭が両立できる環境の整備が必要であるということがいえる。在宅勤務、短時間勤務など柔軟な働き方が可能な職場環境の充実が求められる。ワーク・ライフ・バランスが必要と言われる理由は、ここにあると考える。 次の章では、具体的に柔軟な働き方を取り入れている先進的な事業所を紹介していきたい。 |
3. 取り組み事業所の実例
(1) 松下電器産業株式会社の取り組み (2) 未来工業の場合 (3) 伊藤印刷株式会社の取り組み 伊藤印刷株式会社は、「男女がいきいきと働いている企業三重県知事表彰」で2004年度に、ベストプラクティス賞に輝いている。県内の企業ということもあり、企業に直接お話しを伺いに行った。正規従業員の約7割が女性という、伊藤印刷。1970年代半ばから、積極的に女性を登用してきた。1992年には、女性管理職2人をアメリカ業界への視察に派遣するなど、どんどん視野を広げて欲しいという、経営者の姿勢の表れを感じる。 また、役員の5人のうち3人が女性であり、営業職にも女性を積極的に登用するなど、職域の拡大に取り組んでいる。従業員には、あらゆる印刷工程を体験させており、誰かが急に休みを取ることになったときもフォローができる。 驚いたことは、在宅勤務を取り入れていることだ。在宅勤務は、最近になって言われるようになってきた制度かと私は思っていたが、この伊藤印刷は、実に30年以上前からこの制度を活用しているという。仕事内容は、主にテープ起こしなどで、タイピングの機器は貸与しているという。勤務時間は職員の自己申告によるということだった。 取締役社長である伊藤孝行氏は、2005年のスペシャルオリンピックスの運営に携わったほか、地元の自治会の会長を務めるなど、様々な顔をもっている。また、代表取締役専務であり奥様でいらっしゃる伊藤惠子さんは、津商工会議所女性会の会長であり、2006年の全国大会では大会長を務められ、その当時の奮闘ぶりを熱く語られていた。仕事以外の社会活動へも余念がない社長の姿勢がこの会社を引っ張っていると感じた。 4. まとめ ワーク・ライフ・バランスの実現は、大手企業でなければできないことかと言えばそうでもなく、中小企業でもすでに実践している会社もあるし、はっきりと成果を挙げている会社もあるということを、このレポートを作成しながら感じた。未来工業では、年間休日が多く、短い労働時間でも確実に業績を挙げているし、伊藤印刷ではずっと以前から在宅勤務を取り入れ、働きやすい職場環境を作ってきている。それぞれ形は違うけれども、自分たちの会社にあった働き方を見つけ取り入れてきている。それぞれの取り組みを見て感じたことは、会社として、職員をいかに生かしていくかという経営者の姿勢があること。結果的にそれが両立支援の制度であったり、短時間勤務であったり、在宅勤務であったりする。それは会社の発展のための投資であり、従業員の生活の充実はどちらかを犠牲によってではなく、ともに達成されなければならない。それが組織の活力となり、ひいては社会の活力へとなっていくということを、ワーク・ライフ・バランスを進めなければならない理由として提言したい。 |