【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-③分科会 男女平等:あなたにとってのワーク・ライフ・バランスとは?

男女平等参画WG研究報告書


三重県本部/自治研「男女平等参画」ワーキンググループ

1. 21世紀の理想モデルとなるために

 社会経済情勢の変化や価値観の多様化などから女性の社会進出は進み、今や、女性労働者の全就業者に占める割合は、4割を超えています。
 女性の社会参画の促進や男女平等の雇用環境を整えるため、国では、「男女雇用機会均等法」の制定および改正、「労働基準法」の改正、「育児・介護休業法」や「パートタイム労働法」の制定などの法整備が行われ、また、地方自治体においても、様々な視点から具体的な取り組みが行われてきました。
 仕事と家庭の両立のために必要な社会資本の整備も積極的に進められています。
 そのような中にあって、自治体職場は、最もその実現が求められてきた職場のひとつであるといえます。
 しかし、今回のアンケート結果と、2000年に実施したアンケート結果とを比べると、男女差に対する意識の高まりや男女平等参画の必要性について、職員個々人の意識には変化の兆しがみられるものの、実際の職場環境に大きな変化はなく、自治体における男女平等の職場づくりは、この8年間ほとんど進んでいないと言えます。また、男女平等参画ワーキンググループの話し合いの中でも、各自治体とも似たような状況にあるということが分かりました。
 実際に今、私たちの職場では、雇用機会均等法により男女の雇用に係る差別はなくなったはずであっても、女性管理職の存在はまだ稀です。経験不足や自信のなさ、家庭との両立の不安から管理職になりたがらない女性職員も多くいます。
 女性職員だけでなく、男性職員の育児休業取得が可能となりましたが、その取得例はほぼない状態です。また、忙しい中、子どもの急病や三者面談など、家事や育児を理由に仕事を休むのは、女性職員であれば認められやすいものの男性職員はなかなか周囲の理解が得られないといったこともあります。
 さらに、長い間仕事を続け、経験を積んできた女性職員が家族の介護を理由に仕事を辞めてしまうということもめずらしくありません。
 問題はどこにあるのでしょうか。
 女性の社会参画が進み、働く女性が増えるにつれ、男性、女性双方のために「制度」は整備されてきましたが、実際、男女が平等に制度を利用する環境にはなっていません。
 形ばかりの制度を設けるのではなく、実際に利用することができる環境を整えることが必要です。
 真に男女が平等で働きやすい職場を目指し、そのための環境を整えていくために、自治体職場が取り組むべき課題は、大きく分けて次の3つです。
① 職場の意識を改革すること
② 積極的な女性のエンパワメントと管理職への登用
③ ワーク・ライフ・バランスの実現
 男性がより家庭に参画し,女性がより社会に参画するためには、職員一人ひとりが持つ男女の固定的な役割分担意識を払拭し、「男」・「女」といった性別ではなく、多様な個人が重視される職場に変えていく必要があります。
 男女平等参画の重要性、自治体職場が率先垂範することの意味についてきちんとした理解を促し、「責任のある仕事は男性にしか任せられない」という意識や「女性なのに、こんな大変な仕事はかわいそうである」という誤った保護意識により女性の育成を妨げ、男性に重い負担を強いるといったことや、「家事や育児は女性の仕事である」という考え方で女性を家庭に縛り、男性の家庭参画を妨げるといったことがないようにしていかなくてはいけません。
 なお、職場の意識の改革においては、研修などにより自己啓発を促すだけではなく、必要に応じて、女性の管理職登用や男性の育児休業取得などについてポジティブアクションを活用していくことも有効な手段です。
 また、近年、国の「202030」(注1)といった政策方針決定過程への女性の参画促進の取り組みなどと連動し、自治体職場においても女性職員に対し、積極的なエンパワメントや管理職登用への取り組みが行われてきつつあります。
 しかし、そのような中、「女性自身が責任ある仕事を望まない」といったことをよく耳にします。この傾向は、アンケート結果にも現れており、年配の女性職員だけではなく、若年層の女性職員にも見られます。
 確かに現状では、「経験不足のため自信がない」という女性職員が多いのですが、それについては、研修機会の付与によるエンパワメントや、管理職への女性登用を積極的に行うことが重要になってきます。
 また、女性は、結婚・出産・育児・介護といった人生の様々な局面において、妻・母・嫁・娘として、実に多くの役割を求められ、局面ごとにワーク・ライフ・バランスが大きく変化しがちです。そのため、女性職員にとって、働き続けるか否かを決めること、さらに、キャリアプランを立てることというのは、自分の人生全体を考えるに等しいことと言えます。
 男性職員と同じ働き方しか認められず、「仕事か、家庭か」の選択しか望めない職場では、女性職員は、なかなか自身のキャリアプランを立てることができず、結果として、キャリアがない、または、キャリアに自信がないと感じることになり、「責任ある仕事は望めない」ということになってしまいます。
 女性がキャリアプランを立て、それに向かって進んでいくためには、「仕事も、家庭も」という選択を可能にするワーク・ライフ・バランスの実現が重要になります。
 また、女性自身が「私は女性だから」といった考え方を見直し、求められる役割が変わってきたのだと意識を変えていくこと、また、後輩のロールモデル(注2)となっていく姿勢を持つことも、とても大切です。
 さらに、今まで、「仕事と家庭の両立支援」は、女性職員が働きながら家庭を維持するための施策ととらえられがちで、男性職員は当然のこととして「家庭よりも仕事を優先する」働き方を求められてきました。
 しかし、価値観の多様化が進むとともに、男女とも「仕事か余暇のどちらか一方に力を入れるのではなく、仕事と余暇のバランスを取り、生活を充実させたい」と考える層が主流を占めるようになってきています。
 最近の政府の調査では、働き盛りの男性の約3割が家族と過ごす時間が十分でないと感じており、また、仕事と私生活についてのバランスの理想と現実のギャップも大きくなっています。
 男性も女性も人生の様々な局面ごとに、仕事時間と生活時間のバランスに合わせた多様な働き方が選択できるよう、ワーク・ライフ・バランスを実現していく必要があります。
 ワーク・ライフ・バランスの実現に欠かせないのは、それを支援するための制度、例えば、育児休業・介護休業の制度を始め、フレックスタイム制度、時短勤務制度、在宅勤務制度の導入などによる多様な働き方のメニューの提供や制度利用を可能にする人員配置や組織の整備はもちろんのこと、何よりも、多様な生き方や価値観が認められる職場づくりです。
 ワーク・ライフ・バランスは,本来業務に関係ないという意識を持ちがちです。しかし、その実現は、職員のモチベーションを上げるものであり、また、優秀な人材の確保につながるものであると意識を改め、職場が多様な働き方を望む人を受け入れていく姿勢を持つことが大切です。
 これらの課題を解決することにより,自治体に真に男女が平等で働きやすい職場が実現されていくものと考えます。

2. まとめ 提言

 日本は、世界に前例のないスピードで少子高齢人口減少社会を迎えます。ピラミッド型の人口増加、成長し続ける経済を前提につくられた社会システムは崩壊します。日本がこのスピードに間に合うよう、新しい社会システムを構築するには、官が主導し、男女平等参画社会の実現を目指していく必要があります。その主導的役割のひとつとして、自治体職場には21世紀型の男女平等参画モデル事業所となることが求められています。
 しかし、高齢化や人口減少、経済の停滞はすでに始まり、自治体職場には財政難や行財政改革の波が押し寄せています。厳しい定数管理や市町村合併等による職員減や市民ニーズの多様化により増え続ける行政業務、メンタル疾患等による長期欠員など、現場の人員不足、負担増は激しいものがあります。職員それぞれは、多様な働き方を認めることの大切さ、女性職員の管理職登用の重要性、男性職員の家事・育児参加の重要性などを認めながらも現実を伴わせる余裕がないという部分も大きいと感じます。
 日々の業務に追われる中、男女平等参画モデル事業所化は、コストや負担の増加を感じさせるかもしれません。しかし、この取り組みは、単に地域社会や住民に男女平等参画意識を普及するためだけのものではありません。自治体職場を1事業所として捉えなおしたとき、事業所が長期に成長し続けるためにとても大切な取り組みでもあるのです。長引く不況で自治体職場に社会の厳しい目が向けられる今、目先の成長志向や日々の業務に履行に止まらず、長期的な視点を持って、男女平等参画事業所の実現を成長戦略とし、将来への投資と位置付け、取り組むことが大切です。
 始めはポジティブアクションとしての女性登用や男性職員の育児休業取得の促進、多様な働き方のメニューなどに、その制度利用を可能にする人員配置や組織整備は追いつかず、矛盾を感じることも多いかもしれません。しかし、縦割りの見直しによる組織や人員配置の柔軟化、チームプレーなどにより互いのフォローをし合える職場づくりなど、職員一人ひとりが意識を変えることで、取り組めることはあるはずです。
 男女平等モデル事業所化が進み、将来への投資として価値が認められることにより、人員配置や組織整備を追いつかせていくという攻めの姿勢が求められます。
 今、未婚者の増加等による深刻な少子化、フリーターや派遣社員といった非正規雇用の増加、ニートの増加、リストラの増加、格差社会の拡がり、DV・児童虐待等の深刻な人権侵害、自殺者やメンタル性疾患を患う人の増加等、社会が抱えるひずみや問題は数えきれません。
 男女平等参画社会を実現するとは、これらの課題を乗り越え、日本が活力を持ち続け、持続可能な社会になるための新しい社会システムを構築するということです。そのためには、教育・労働・福祉などあらゆる分野、そして、家庭・地域・職場・学校などあらゆる場所での男女平等参画の取り組みが必要とされます。
 今回、ワーキンググループで検証し、提言を行った自治体職場は、そのうちのひとつである労働分野のなかで、さらに対象を自治体に限ったものです。
 しかし、生活の基盤である労働分野において働き方を見直していくことは、男女平等参画社会の実現に欠くことができない課題です。自治体職員として、まず、自らの職場における男女平等参画の実現という、足元に抱える課題に取り組み、男女平等参画モデル事業所として在り様を示すことにより、地域社会・住民・事業者などに意識や取り組みを普及していくことが重要です。
 また、男女平等参画モデル事業所化がもたらす効果は、それだけに止まりません。男女平等参画モデル事業所化は、職員自らの意識改革を伴うものです。したがって、男女平等参画モデル事業所化が行われている自治体では、職員の男女平等参画意識が高くなり、自治体が住民に提供するあらゆる分野のサービスにおいて、男女平等参画の視点が取り入れられ、総合的な男女共同参画施策の推進が可能となるからです。
 つまり、自治体職場における男女平等参画モデル事業所化というのは、主導的役割を担うべき自治体の責務として、1事業所にとっての成長戦略として、そして、さらに、あらゆる分野の行政サービスを通じて総合的に男女平等参画施策を行っていくための土壌づくりとして、極めて重要な施策であると言えるのです。
 今回の提言が、自治体職場の男女平等参画モデル事業所化のための一助となり、さらに、自治体職場を出発点とし、男女平等参画社会の実現に向けて取り組みが拡がっていくことを期待したい。





(注1) 202030:国の男女共同参画基本計画(第2次)に定められた目標で、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」というもの
(注2) ロールモデル:行動のお手本・模範(働く女性が「将来、自分もこんな風になりたい」と憧れる女性リーダーをいう。)