このような経験者からの感想や意見を基に、『妊娠・出産・子育て』という人間の基本的な営みを安心して行えるようにするため、そして、そのことがより充実した住民の生活環境づくりへの施策につながることをめざし、自分達の職場を基本に、安心して休暇が取得でき、不安なくスムーズに職場復帰ができるための具体的な支援策を次項以降に述べる。
3. 情報提供
産前産後休暇および育児休業は、安心して子どもを産み育てるために必要な制度であるが、休暇を取得することにより、長期間職場から離れることとなる。休暇取得中の職員にとっては、復職後仕事に対する感覚が取り戻せるのか、人事異動により職員体制も変わっていくので上手く馴染めるのか、また休暇取得前とは業務における法律や制度が変わっているのではないかなどと不安なことも多い。
そこで、休暇取得中も、子育ての負担にならない程度に周囲の職員が情報を提供したり、取得中の職員の学べる場を設けたりすることが必要となってくる。以下情報提供の面から復職支援策を考えた。
(1) 職員研修への参加
人事課は各種の研修を企画し、職員に声をかけて参加者を募集しているが、希望に応じて休暇取得中の職員にもメール等で声をかけるとよい。研修に参加することができれば、他の職員と交流し、市役所の状況を知ることができる機会にもなり、新しい知識も身につく。
研修で配付された資料は、職員専用サイト(スターオフィス)で入手できるようになっているが、休暇中の職員も同様に資料が入手できるとよい。職員専用サイトは、現在職場内からのみアクセスできるようになっているが、外部からでも職員アドレスを用いてログインできるようなサイトを開設すれば、さらに気軽に情報が入手できる。サイト内に新着情報があった場合は、携帯に受信できるように設定しておけば、頻繁にサイトを確認する必要もない。
(2) 制度改定や法律改正の情報提供
今年の4月から後期高齢者医療制度が始まったように、法律の改正は頻繁に行われており、休暇に入る前と復帰時とでは、制度概要が大きく異なっていることも決して珍しくない。そもそも制度改正は、担当職員でさえ理解が難しいものもあり、長期間職場から離れている人にとってはなおさらである。めまぐるしく変わっていく制度に、復帰後もとまどうことがないように、休暇取得中でも制度改正についての情報を得たり、勉強をする機会があれば、復帰後慌てること、不安になることなく仕事ができる。少なくとも、職場の人たちの会話に参加することができる。また同僚と同じ情報を共有していることで、休暇取得中でも職場を身近に感じられる。
情報入手の方法として、制度の改定や法律の改正についての情報が各課に届いた際は、必ず休暇取得中の職員へ連絡する。紙ベースやインターネットで情報を提供すれば、休暇取得中の職員にとって負担にならず、自分の好きな時に見ることができる。確実に休暇取得中の職員に情報を連絡するために、連絡係を課内で決めておくというのが望ましい。復職時に、制度改正について研修・概要説明を受ければ、スムーズな職場復帰が可能になる。
(3) 人間関係の構築
復職後にとまどうこととして、仕事以外に人間関係も挙げられる。人数の多い職場ならば、何人かは必ず知った顔ぶれだろうが、人数の少ない職場であれば異動により面識の少ない職員ばかりのこともある。休暇取得した人の中には、代替職員の方が、自分よりも必要とされているように感じ、辛く思う人もいる。課内で特に仲の良い人がいれば、日頃からメールのやり取りができるが、人によっては、休暇中全く課の人との交流がない人もいる。
そこで、所属する課の歓送迎会がある時には休暇取得中の職員にも声をかけるとよい。もし参加できれば、新しい同僚たちと交流がはかれ、課の状況もわかり、安心できる。子連れで参加できるような交流会もあると、さらに良いと思う。
また、機構改革や人事異動の情報も休暇取得中の職員へ知らせるようにするとよい。お世話になった人が他の課へ異動になっていたことを復職後に知るというのは、残念である。休暇取得中でも一職員であるので、人事異動といった重要な情報については、情報を共有するような仕組みになっているとよい。
(4) 育児に関する制度等の開示
日頃から各種の休暇や制度があることは耳にしているが、自分が実際に取得する立場にならなければ、詳しく調べることはなかなかない。休暇や制度が整っていても、知らなければ利用することもできない。仕事と子育てを両立していくためにも、こういった制度を知り、上手く活用できるよう情報を提供することが必要である。
そこで、職員用のホームページに育児に関する諸制度や手続き方法、申請書などをすべてまとめて掲載してあるコーナーがあるとよい。情報はわかりやすい形で提供し、できれば出産・育児経験者の経験談などといったコメントも掲載されていると、一人で悩んでいる人にとって心強い。
(5) 周囲の職員への育児に関する情報提供
休暇取得中の職員へ情報を提供することはもちろん大切だが、周囲の職員へ育児に関する情報を提供することもまた大切である。休暇を取得した職員にとって、妊娠中、休暇取得中、復職後、すべての場面において同僚の支えがなくてはやっていけない。出産・育児経験者ならば、それぞれの場面がどういった状況で、どのような心境なのかということは理解できるが、経験がない職員にとっては、どのように支援し、どのように接していけばよいのか分からないということもある。
それぞれの場面において、本人が大丈夫だと言えば、実際は無理をしていたとしても、大丈夫だと思ってしまうこともある。妊娠・出産した職員が無理せず、安心して子育てをするためにも、育児に関する情報を研修したり、インターネット上でサイトを設けて掲載するといった形で全職員に知らせるようにすると少しは理解できるようになる。
育児の体験談、妊娠障害の恐さを学習する機会を設けたり、育児に関しての休暇や制度を知らせれば、復職直後の職員の状況がより良く分かり、より子育てを支援する職場づくりができる。周囲の職員の理解が得られれば、復職後の職員にとって、子どものための休暇を取得したり、定時に帰宅できるなど働きやすい環境になる。
復職支援のためには、今まで挙げてきたようにあらゆる形で「情報」を有効に提供していくことが重要になってくる。まずは、その情報を提供していくための流れ、制度をつくり、浸透させていくことから始まるのではないだろうか。
4. 交 流
休業中は、わが子をゆっくりと育てることができる、育児に専念できる大切な時期である。しかし、子どもの成長を日々見ながら、子育ての喜びを感じて暮らすことができる一方、子育てに対してとまどいや不安・悩みが出る時期でもある。
アンケート調査では半数以上の母親が子育てに不安や負担感を感じている。(図1)
「子どもを叱りすぎている様な気がする」「食事や栄養に関すること」「病気や発育・発達に関すること」「自分の自由な時間が持てない」「子育ての費用」などである。(図2)
また、仕事を持つ母親にとっては、休業も後半に差し掛かると、仕事の事がちらつき、あせりや焦燥感が出てくる。休業が長ければ長くなるほど、職場からは取り残された様な孤独な気持ちになり、復帰後うまくやっていけるだろうか、ついていけるだろうか、子育てと仕事を両立できるだろうかと心配になってくる。休業があと残り何ヶ月、あと何ヶ月……。仕事と子育て両面から不安が募ってくる休業中に対する支援は、今のところほとんどない。
今年4月から支払いを兼ねて、休業中の母親に対して交流の通知がされるようになったものの、育児支援の内容には程遠い。来るべき、職場復帰の時期に備え、仕事と子育て両面からの支援も復帰後の支援と同様に必要である。
そこで、職場とのつながりが希薄になりがちな休暇取得中の支援として、職員同士が子育てについて気軽に体験を話し合い、相談や交流できる場が必要である。初めての子育てや気軽に相談できる者がいないことが育児不安の要因となっていることから、「不安は特別なものでなく、誰もが不安を抱きながら子育てをしていること」や「いろいろあるけれどやっぱり子育ては楽しい」と交流の中で実感できるような交流の場と同時に内容の工夫も必要である。
育児不安やストレスの軽減により、子育てに喜びを感じことができ、さらに育児力の向上(親育ち)により親が自信を持って子育てができる支援を望む。また、父親の育児への協力が母親の精神状態を安定させることから、父親の参加も勧めたい。
定期的な開催とするが、具体的には次のような内容を提案する。
(1) 子どもの栄養や食事について
離乳食の月齢にあわせた作り方、量、献立や幼児食の基本、手軽に作ることが出来る食事やおやつ等について学んだり、親同士子育てについて情報交換する中で大方の悩みや不安感は解消されるはずである。
そして、食の安全や食品の選び方などの情報交換や他の親子と一緒になって簡単クッキングなどをすることでふれあいを深めたり、友達づくりができる。このような機会を通して、職員と親しくなることは、復帰した後、人脈として仕事にもプラスになる。
(2) 子どもの病気の予防・対処方法について
発熱、下痢、湿疹など子どもの病気については、特に初めての場合、どう対処してよいかとまどってしまう。受診の判断や手当て、そんな時の食事や入浴などたくさんの不安が襲ってくる。ひきつけでも起こしたらもうパニックになる。身近に頼る親や知人がいない場合はなおさらだ。病気の予防やいざという時の対処方法など情報交換、交流する機会があるとよい。
(3) 親子のふれあいについて
① おひな祭りや七夕会、クリスマス会等の季節の行事を通して、親子のふれあいや子どもたち同士・親同士の交流やふれあう機会があるとよい。一緒に料理を作ったり、飾ったり、おやつを食べたり楽しい交流をしたい。
② 絵本の読み聞かせは子どもの好奇心と想像力を膨らませ、豊かな感性を育てる。親子の絆を深めるためのコミュニケーションの場として大切であるが、読み聞かせのコツを知っておくことでさらに楽しく読み聞かせができる。
③ 親子で一緒に遊ぼう。子どもとどう遊んでいいかわからない親が増えている。体操、ベビーマッサージなど親子のふれあいを通して、他の親子とも交流できたらよい。
このような交流によって、育児に対する自信が生まれ、より充実した生活が送れる。このことは、復帰した後の仕事への意欲にも大きく影響する。休暇取得中における交流はとても重要なポイントである。 |