1. はじめに
誰もが「一人の人間として、生き生きと輝きながら、充実した毎日を過ごしたい。」と願っているのではないでしょうか?
私達、地方自治体で働く者は、高まる市民ニーズや公務員バッシングの中、集中改革プランにより削減されている人員で「より良い公共サービスの提供」を目指して精一杯、業務に取り組んでいます。「市民のニーズに応えたい」と懸命になる程、長時間労働となる傾向は強く、心身ともに疲れ、メンタルを起因として休職となってしまう職員も年々増加しています。
私たち、働く者の環境も時代の流れと共に、徐々に変化しています。しかし、毎日の生活は「仕事をする事」だけが目的ではありません。家族との時間、趣味に没頭する時間……多様化する生活様式や価値観の中、充実した毎日を過ごし、満足できる生活を送れる事が「人」として大切な事だと感じるのです。
そこで、私自身の生活はどうなのか? 「ワーク」と「ライフ」のバランスを保てているのか? と、あらためて考えてみたいと思います。
2. 「ワーク・ライフ・バランス」とは
「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を、耳にする機会が増えてきました。日本語に直訳すれば「仕事と私生活の調和」となります。厚生労働省の定義では「働く人が仕事上の責任を果たそうとすると、仕事以外の生活でやりたいことや、やらなければいけないことに取り組めなくなるのではなく、両者を実現できる状態のこと」とされています。
しかし、定義のとおりに「ライフ」を実現するためには、「ワーク」を取り巻く環境の整備が不可欠となります。
3. 関係法・制度の制定
働く女性に関する関係法については、1972年「勤労婦人福祉法」施行、1986年には「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」、1997年には「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律」、そして1999年には「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」が制定され、2007年の改正法の施行を経て現在に至っています。雇用について「女性」が、差別される事のない社会へ一歩ずつ前進してきました。
しかし、女性の社会進出が進む中、出生数が低下し、「少子化」も大きな社会問題となりました。「子どもを産むことができる性」である女性にとっては、仕事を続けながら、妊娠・出産・母としての子育てを担う事は、日常生活に於いて、大きな困難が伴う事となります。この様な状況の中、2003年には「次世代育成支援対策推進法」が制定され、前橋市でも2005年に、「特定事業主行動計画」が定められました。家庭生活での役割も男女がともに担う環境が整備されつつあります。現在まで、前橋市では4人の男性職員が育児休業を取得しています。しかし、女性職員は年間70人程度が育児休業を取得しています。「男女がともに」と言われていますが、まだまだ育児について、女性が担う場面が多い状況です。「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けては、男性も含めた働き方の見直し、意識の改革が必要と思われます。
「少子化」と同様に「高齢社会」も、大きな社会問題となっています。2000年に介護保険制度が施行され、介護は社会全体で支える仕組みができました。しかし、家庭での介護は、制度を利用しても家族の負担は伴います。施設入所介護を利用するためには、申請後数ヶ月から1年以上入所待機をしなければなりません。また、要介護認定の結果によっては、制度利用可能範囲内では、十分なサービスを受けられない場合もあります。
前橋市では、家族の介護について、介護休暇制度が利用できます。しかし、一人の要介護者につき同一疾病で、6ケ月の範囲内となっています。しかし、長期療養となる可能性の高い高齢者介護にとっては、6ケ月の範囲内で、一度きりの利用という制度では、問題あるのが現状です。
また、看護休暇については年間5日以内とされ、子を養育している職員が利用可能です。しかし、対象となる子は小学校就学前と限定されており、この制度についても、対象者について高齢者も含めた同居家族へ拡大する要求が強まっています。
介護の問題も育児と同様に、働く者にとっての大きな課題となっています。
4. 身近な事例より
私は、94歳になる祖母と両親、弟と暮らして来ました。両親が自営業を営んでいる事もあり、私にとっての祖母は、忙しく働く母に代わって食事の準備をしてくれるなど、とても身近な存在として過ごしてきました。寝室も幼い頃から30年以上共にしてきました。
この祖母が、今年は転倒し骨折した事により、入院生活を送る事となりました。整形外科病棟は完全看護でありますが、高齢な上、ベット上で興奮してしまい、点滴を抜いてしまう等の行動がみられたため見守りが必要、また、入院当初は寝たきりの状態であったため、食事の介助が必要となり、家族が付き添う事となりました。
家族で相談の結果、付き添いはローテーションを組んで対応する事としました。私の担当は、出勤前の朝食介助です。入院先の医療機関は、市役所から近距離であり、自宅からも交通の便が良い病院を選択しました。しかし、毎朝6時までに出勤の準備を整えて病院へ行く事は、容易ではありませんでした。休日も、同様に朝6時までには、病院へ向かいました。常に時計を見ながら時間に追われ、気持ちにゆとりなどなく、過ごしていました。また、前橋市の職員である弟は、業務終了後の夕食介助を担当し、病棟の消灯時間に合わせて帰宅していました。業務終了時間直後に職場を退庁するため、朝早くに出勤し、仕事をこなしていた様です。
祖母が入院したからと言って、家族の1日が24時間から増える事はありません。1日24時間の中で、通常の仕事をこなしながら、介助にも対応しました。幸い、入院期間は3週間程度でしたが、もっと長期となっていたら、対応できなかったと思います。祖母への想いと通常の仕事をこなすことの両立は、想像以上に厳しいものでした。
また、私は日頃、趣味として3種類の稽古を受けています。しかし、祖母の入院中は稽古に通う事はできませんでした。精神的にも時間的にも、趣味を楽しむゆとりは、持てませんでした。
「私」という「一人の人間」として考えた時、心身ともにゆとりの持てない生活をしている状況では、「充実した生活」とはいえません。この様な状況では、仕事へも意欲を持ち質の高い仕事をこなす事などできないと感じました。
5. 生活のゆとりと仕事への意欲
家族との時間、趣味に没頭する時間など「ライフ」が充実している職員は、仕事に対しても意欲を持って取り組む事ができます。ワーク・ライフ・バランスと仕事への意欲との関係を調査した結果(表1)、「どの要因が仕事への意欲を高めるか」という質問に対し、働く者の回答のトップは「仕事も家庭も充実」とワーク・ライフ・バランスについてでした。調査の結果から、雇用者が考えている以上に、ワーク・ライフ・バランスは仕事への意欲を高めるには重要な要素である事がわかります。
つまり、ワーク・ライフ・バランスの実現は、職員の生活の質を高めるだけでなく、業務の質も高める事ができるのです。 |