【自主論文】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-④分科会 自治体から発信する平和・共生・連帯のメッセージ

自治体の「平和力」を実現するために


兵庫県本部/執行委員 森  哲二

1. 「戦争に協力しない」自治体づくりが必要

 戦後の地方自治が確立されていったのは、戦前の戦争動員体制を敷くための中央集権国家体制に対して、二度と戦争動員体制を確立させないために地方自治体への権限委譲が行われてきたからです。地方自治体住民の安全と平和の基礎は、地方自治の活性化であり、そのことこそが問われているといえます。
 私たちはかつての戦争の反省から、「二度と戦争はしない」ことを誓い、その決意を憲法に表してきました。しかし今日の日本の状況は、有事を想定した法律を次々に成立させ、戦地であるイラクに自衛隊を派兵するなど平和と逆行した方向に向かっています。また戦争放棄をうたった憲法を巡っては、改憲手続きを定める国民投票法を成立させ、憲法の基本理念である人権や平和、民主主義を脅かすおそれのある議論が展開されています。
 地方自治体の職員には、日常的に危機管理という形で自らの権利や自主性が奪われてきました。
 例えば、広域的に行われる防災訓練などでは、各自治体から職員が集められ、国の機関の責任者の指示のもと、その命令を聞くということが当たり前のように強制をされます。国と地方自治体の連携を確かなものにするための訓練ではなく、国の指揮・命令体制を確立するためのものとして利用がされてきています。
 また、災害などが起こった場合においても近隣自治体では応援体制が強制的に組まれ、全くルール化がなされないまま、そのほとんどがボランティアという形を利用して業務が進められてきました。
 このように、平時の時にも、国の強権的なやり方を許してしまう状態の中で、有事ということが前提になれば、ますます国の権力が強められていくことは明らかです。特に有事関連法では、地方公共団体や公共サービス機関に対して戦争協力の「責務がある」と定義づけているところに大きな危険性があります。このことは、「公共=国家」という意図的なすり替えによって、本来「一人ひとりの人間」の側にあるべき公共性や私たちが歴史的に獲得してきた労働の社会的意味を根底からくつがえすものです。このままでは、自治体職員のみならず、あらゆる人たちが、労働の現場において業務命令という形で日々の労働を通じて戦争協力の「責務」を課せられることになります。
 私たちは、地方自治体の職員として、地域住民の生活と安全を守る責務を持っています。このことは、命令と服従、国からの指導でできることではなく、そこで働く職員と地域住民の信頼関係のもと培われていき、実践されるものといえます。
 私たちは、一人ひとりの組合員が自治体及び関連で働く労働者として、住民の生活と安全を守るとともに、一人の労働者として戦争に協力することはできないということを大切にしていかなければなりません。

2. すべての自治体で「非核自治体宣言」を

(1) 青年運動を中心に「非核自治体宣言」実施にむけ取り組んできた
 兵庫県反核平和の火リレーは、1985年、「青年しかできない反核運動を」ということで第1回リレーが始まりました。第1回リレーは、64市町・682キロメートルを1,405人のランナーで走りつながれ、それ以降、多くの仲間の努力によって、県内全市町を走りつないでいます。
 リレー運動では、取り組み前段に全自治体首長と議会議長に対して要請行動を行い、自治体庁舎前集会の開催と出席要請を行うとともに、非核自治体宣言の実施を求めてきました。(非核自治体宣言実施団体にあっては平和予算の確保と事業実施を要請)
 反核平和の火リレーは、県内では最大の平和運動となり、各自治体にも認知をされるとともに多くの自治体が私たちの呼びかけに応えて「非核自治体宣言」を実施し、現在では22市(29市)7町(12町)の29自治体(県を含め42自治体)となっています。

(2) 合併により宣言失効は地方自治否定
 自治体合併により、1999年3月末には3,232あった自治体は、2008年4月1日で1,858になっています。
 自治体合併の際には、対等合併では合併前の宣言が失効することになり、改めて合併時に宣言を行う必要があります。このため、たとえば兵庫県内で言えば、平成の合併第1号の篠山市は、合併前の旧4町ではすべての自治体が「非核自治体宣言」を実施していたにもかかわらず、合併と同時に失効し、新たに宣言を実施していないため未宣言となっています。
 全国においてもピーク時の2003年には非核宣言をした自治体は81%(2,645)に達していたのが、2008年77.8%(1,446)になっています。(日本非核宣言自治体協議会の調べ)
 私たちも含め多くの市民の運動で実現された「非核自治体宣言」が合併協議会等での議論がほとんどなされないまま失効していることは地方自治のあり方そのものを問う事態といえます。

(3) 改めて「非核自治体宣言」実施を要請
 兵庫県本部では、平和・人権・環境実行委員会を設置し、毎年集会を開催するとともに沖縄視察団の派遣などを取り組んでいます。平和・人権・環境の3課題の一つをメインテーマとし取り組みを進めていますが、本年は「平和」をテーマにして取り組むこととなり、その一環として「非核自治体宣言」未実施自治体への要請行動を行い、県内全自治体の宣言実施を求めて取り組みを進めることとしました。(例年要請行動を行っている反核平和の火リレーを取り組む平和友好祭兵庫県実行委員会とともに実施)
 現在のところ宣言実施には至っていませんが、いくつかの自治体で宣言実施にむけた前向きな回答を得ることができました。引き続き、県も含む全自治体の宣言にむけ取り組みを進めていくこととしています。

3. 兵庫県職労「戦争非協力宣言」採択の取り組み

(1) 有事体制づくりと相次ぐ姫路港への米艦船入港
 1999年に周辺事態法が策定されて以降、矢継ぎ早に「戦争する国づくり」にむけた法律が成立しました。
 そして、それに呼応するかのようにアメリカ艦船の全国の民間港への入港が行われてきました。兵庫県姫路港にも2001年、2003年と「友好と親善」を目的として入港する事態が発生しました。(2006年にも入港)
 特に姫路市は「非核平和都市」宣言を行っており、姫路港は商業港として整備されたものです。にもかかわらず、この姫路港に米海軍の艦船が入港してくるということは、商港機能の強化という本来の目的に反するものであり、地域住民にとっても、イラクへの自衛隊派遣とも重なり、身近な港湾の軍事利用が日常化してくるのではないかとの不安を抱かせるものです。
 また、同じ県内にある神戸港が採用している「非核神戸方式」への悪影響も懸念されるところであり、住民の自己決定権という地方自治の観点からも疑問を禁じ得ませんでした。

(2) 戦争協力しないための運動づくり
 米艦船の姫路港入港にあたっては、実務として港湾を管理する兵庫県職員が、ことの善し悪しに関係なく携わります。特に本庁港湾課の職員と地元姫路港管理事務所の職員は、自分の思いと全く関係なく微妙な立場に追い込まれます。このことは何も港湾課の職員だけではありません。実際に有事となれば、行政職員や現業職員は合法的に後方支援のような形で戦争遂行のための業務遂行を余儀なくされます。また、病院職員は従軍医師、従軍看護師として職務命令が出るかも知れません。
 しかし、自治体職員といえども、何人も一人の人間として、個人の尊厳と平和的生存権を普遍的な権利として保持しています。また憲法は奴隷的拘束を禁止し、苦役からの自由をうたっており、一人ひとりの人間が良心的立場からする戦争協力拒否も、雇用関係や公務員の職務専念義務というものを超えた当然の権利としてあります。
 港湾建設にたずさわる労働者の抱く使命と誇り、その対極にあるのが破壊の象徴である戦争であり許すことはできません。港湾職場に働く組合員についても同様で、気持ちはあくまで港湾の平和利用を願ってやまない想いです。
 自治労特定重要港湾等連絡協議会(略称:自治労特港協)は、「港湾における軍事施設の存在は、地域経済が自律的に発展していくことの阻害要因ともなっており、早急に住民の手に返還をされなければならない。また「有事法制」は憲法違反であり、全ての市民、なかでも海員、港運、航空をはじめとした物資輸送に関わる労働者や自治体労働者に対して戦争協力を強いるものであり断じて許すことはできない。自治労に結集して、今後ともあらゆる場面で反対するとともに戦争協力拒否の運動に取り組んでいかねばならない。」という決議が行われています。
 これを受け県土木職場に働く仲間で組織する兵庫県職労土木協議会は自治労特港協と連帯し「港を軍港にするな」というたたかいを作っていくことを方針としています。(もちろん兵庫県職労も同様の方針)

県職労の具体的なたたかいの進め方(抜粋)
① 周辺事態法や「有事法制」に基づく、自治体や民間の戦争協力に反対すると共に、非核神戸方式を守り発展させる取り組みを進める。併せて、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに反対して取り組む。
② 反安保、防衛費削減、憲法違反の自衛隊の海外派兵に反対して取り組むと共に、在沖縄米軍基地撤去をはじめとする反基地闘争に取り組む。
③ 有事体制(戦時動員体制)の確立につながるあらゆる法案に反対して取り組む。

(3) 戦争非協力宣言を採択
 以上のような経過を踏まえ、県職労は2005年2月24日の第330回中央委員会において「護憲・平和・民主主義を守り、憲法違反の『有事法』に反対し、戦争非協力を宣言する」決議を採択しました。
 決議をしたからといってこの宣言が何か力を持っているかといえば、全く力はありません。しかし、兵庫県職労が対県当局だけではなく内外に宣言をアピールした事は確かです。現在は兵庫県職労組合員手帳に掲載し、兵庫県職労ホームページにもアップしています。また、採択と同時に宣言文(抜粋)ポスターを作成し県内全支部、分会にも掲示をしています。
 なお、宣言文案の作成にあたっては1999年の自治労川崎市職労港湾支部での「戦争協力に反対し、組合員に対する業務命令を拒否する」たたかいを参考にさせて頂きました。また自治労特港協には丁寧なご指導を頂きました。

(4) 米海軍イージス艦ジョン.S.マッケイン入港反対行動
 2006年8月24日から4日間、米海軍第7艦隊所属の最新鋭イージス艦ジョン.S.マッケインの米軍艦として3度目の寄港が明らかとなりました。
 この事態を受け、兵庫県職労は8月18日自治労兵庫県本部と連名で知事に対して反対の申し入れを行いました。組合としては、「住民に身近な商業港が、常態的に軍事利用されることに反対である」また「神戸港の非核神戸方式に対して悪影響を及ぼすのではと危惧を抱いている。」ことを伝え、米領事館に対し寄港を取りやめるよう申し入れるよう要請しました。
 知事あて要請を提出するのと同時に、県民の安全安心を司る防災監に対し「核搭載有無の確認及び周辺住民及び港湾利用者の安全確保ができないなら寄港を取りやめるよう米領事館に申し入れるように」申し入れました。
 2003年1月に、「ヴァンデグリフト」が入港した際には、知事あて申し入れは県土整備部長が受けました。その際の該当分会での総対話集会で出された、「『県民の生命と財産を守る知事』と『港湾管理者としての知事』は別人格ではないか」との意見を踏まえ、今回は、それを明確に区別する意味で防災監対応を求めました。
 港湾管理者の立場としての県土整備部長には「過剰警備や銃器による威嚇などやり過ぎの見られる場合は、港湾管理者権限の範囲で、厳しく対応するよう」求め、併せて「姫路港管理事務所職員に対して、港湾管理業務以外の業務命令を行わないように」申し入れました。
 入港に先立ち、該当西播支部では、姫路港管理事務所分会での職場オルグと意見聴取を行い、県民局長あてに、許可しないよう申し入れました。県庁支部では期間中の組合旗掲揚と港湾課組合員による昼休み集会を実施しました。
 また自治労特定重要港湾等連絡協議会を通じて、事態を知った全国の港で働く自治労加盟組合9港湾11単組から激励メッセージが寄せられました。
 しかし、兵庫県知事は入港に際して「総領事館に問い合わせたが米国の一般方針として核は搭載しないという回答を得た、また、外務省には核搭載の際に必要となる日米安全保障条約上の事前協議はないと確認している、従って核搭載は無いであろうと判断した。」と実に曖昧な基準でもって係留を許可しました。また、記者会見では「自己証明であれば千枚とっても証明になるのかどうか疑問」など非核証明書の発行は意味が無いという不当かつ不見識な発言をしました。
 入港当日は市民団体、労働組合、市民も含めて約200人が抗議行動に参加し、入港から接岸までの1時間にわたってシュプレヒコールで反対を訴えました。


戦争非協力宣言

 戦争できる国づくりが急ピッチで進んでいる。
 1999年に策定された周辺事態法を皮切りに、2001年テロ対策特措法、2003年有事3法、イラク特措法と続き、2004年は有事関連7法が多くの労働者・市民の反対の声を無視して国会において可決をされた。
 これらの法律は、日本国憲法が禁ずる集団的自衛権の行使に道を開くものであること、東アジアにおける緊張を激化させるものであること、そして何よりもすべての人々に戦争協力を強いるものであることなどから、自治体労働者のみならず、海運、港湾、航空など輸送に携わる労働者をはじめマスコミや医療関連の労働者など多くの国民が今もなお反対の声をあげている。
 さらに、2004年9月17日に施行された「武力攻撃事態における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)」は、有事の際には地方自治体に対して、国の「対処基本方針」に基づき、警報・避難・救援などの措置を行う一方で、平時から様々な機関の設置、訓練や啓発活動を義務づけている。
 その内容は、「国民保護」とは名ばかりで、地方自治体、指定公共機関をあげて、地域社会を丸ごと戦争協力に動員するものである。このような戦争法体制は到底容認できるものではない。
 われわれは、二度の世界大戦を経験し、「われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し(前文)」という、「戦争の放棄」を謳った日本国憲法を持っている。この精神を生かし、平和な国際社会を目指すことがわれわれの第一義的任務である。
 地方自治体は、中央政府の出先機関ではなく、民主主義の実践の場であることはいうまでもない。住民とともに住民の生命と財産を守り、社会福祉、社会保障及び公衆衛生や教育・文化など住民生活の向上及び増進に努めるのが自治体及び自治体労働者の責務である。また全国では国際的な友好関係を築くために「自主外交」を展開する自治体もあり、平和構築のための努力が積み重ねられている。兵庫においても神戸市は1975年に、入港する外国艦船に「非核証明書」の提出を求める、いわゆる「非核神戸方式」を採択しており、県内には「非核自治体宣言」を採択している団体も多い。平和こそ、生活と労働の土台である。
 何人も一人の人間として、個人の尊厳と平和的生存権を普遍的な権利として保持している。また憲法は奴隷的拘束を禁止し、苦役からの自由を謳っており、一人一人の人間が良心的立場からする戦争協力拒否も、雇用関係や公務員の職務専念義務というものを超えた当然の権利としてある。このような立場から、われわれは第1に、労働者の生命と権利を侵害するいかなる「戦争協力」にも応じないこと、第2に、「戦争協力」は絶対に“通常業務”ではないこと、第3に、当局が「戦争協力」を業務として命令するならば、これを断固拒否することを確認する。
 そして、すべての組合員にとどまることなく、多くの労働組合、労働者に広げ、ともに平和のためのたたかいを強化するために全力を尽くすものである。
 以上、決議する。

  2005年2月24日

兵庫県職員労働組合第330回中央委員会