【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅳ-④分科会 自治体から発信する平和・共生・連帯のメッセージ

熊本県芦北町の国際化・国際交流事業の
取り組みについて


熊本県本部/芦北町職員組合 園川 民夫

1. 芦北町の概況

 芦北町は熊本県の南部に位置し、2005年1月、旧田浦町と旧芦北町が合併した、海・山・温泉など豊かな自然環境に恵まれ、多くの観光資源を有する、総面積233.71平方キロメートル、人口約2万1千人の町です。
 特に、西方に開けた県立公園芦北海岸は、美しいリアス式海岸を形成し、西日本最大の白砂の海水浴場として知られています。
 万葉の時代から「葦分(あしきた)の国」として知られ、古くから九州南部への海・陸・両路の重要な拠点であったことがうかがえます。
 さらに、大陸文化との交流形跡を見られるほか、近世には肥薩国境の要衝の地となり、城下町として、あるいは、宿場、商い場、湯治場として栄え、県南の政治・経済・文化の中心として発展しました。
 なお、中世から近世にかけ建設された加藤清正公ゆかりの「佐敷城跡」が15年の調査を基に、本年3月、待望の国指定史跡となり、城郭を核とした地域振興に明るい展望が開けてまいりました。
 全国でも、中・近世の歴史を知るうえで極めて貴重な史跡として認められたものであり、熊本県南の水俣・芦北地域におきましては、初めての国指定史跡となります。
 この、佐敷城跡からは県重要文化財「天下泰平國土安隠」文字入り鬼瓦が1996年に出土したことから、城跡麓には日本一の大瓦モニュメントを設置し、各地に世界平和をアピールしています。
 また、農林水産大臣から「未来に残したい漁業・漁村の歴史文化財産百選」として認定された不知火海のシンボル「うたせ船」や特産の「デコポン・甘夏」は、全国ブランドになっています。
 一方、交通の面では、九州新幹線の開通及び高速道路の一部開通により、九州各県から飛躍的にアクセスしやすくなっており、本年4月には芦北インターチェンジの開通が予定され、一段と利便性が向上するものと期待しております。
 本町では、合併から3年が経過しましたが、2005年度から10ヵ年間を期間とする町づくりの指針となる芦北町総合計画では、「個性の光る活力あるまちづくり」をテーマに町民一人ひとりがふるさとに誇りと豊かさが実感できるまちづくりを推進しています。


不知火海のシンボル「うたせ船」
国指定史跡「佐敷城跡」

2. 芦北町の国際化への取り組み

 自治体が取り組む国際化・国際交流に関する事業は、「国際化・国際交流はどうあるべきか?」、「いかに取り組むべきか?」といった目的を明確にし、住民に対して目に見える事業として実施されたうえで、その効果の検証が必要です。
 このことを踏まえ、芦北町では、急速に進展する国際化の中で、創造力に富んだ国際人を育成すべく、1995年度に「芦北町国際化・国際交流検討委員会」を設置し、町の将来の国際化についての、この答申を踏襲しつつ、以来、積極的な活動が展開されています。

(1) 国際貢献事業
 世界の国々の人に対する貢献活動では、単に物資等の支援のみに留まらず、活動を通した「ひとづくり」に貢献してこそ、その意義が深まります。
 特に途上国における国づくりとして取り組む教育環境の整備は、次代を担う子供たちの「ひとづくり」としてのポテンシャルを有します。
 芦北町の子供たちが世界を知り、"故郷"や"日本"を愛する心を醸成する「ひとづくり」を目的とした「カンボジア学校建設事業」を紹介します。

① カンボジア学校建設募金活動
  本町では、会員約100人から成る「芦北町国際交流協会」が中心となり、内戦で教育環境が荒廃しているカンボジアに学校を建てるための募金活動が取り組まれています。
  当初、町内の小学校において、児童自らの提案で始まった小さな呼び掛けが、「カンボジア学校建設募金活動」としてチャリティーバザーが実施され、その売上金の一部を募金としたのが始まりです。
  その後、協会が主体となり、夏祭り等や町内で実施される各種イベント時に募金箱を設置したりポップコーン、かき氷等を町内の子供達と一緒になり販売する街頭募金活動が始まりました。
  活動は次第に町内各学校へ、そして全町民へと拡がりました。


小学校児童会が開催するチャリティーバザー
夏まつりでのポップコーン販売

 その結果、2001年3月末には現地カンボジアにおいて念願の第1校目となる鉄筋コンクリート平屋建て1棟5教室に、トイレ・井戸が併設された、約330人の児童が学べる「芦北ひまわり学校」が完成しました。
 現地で開催された学校贈呈式には、本町の児童・生徒を含む30人の派遣団とカンボジアスポーツ教育省・日本大使館からの出席を賜り、小さな町の大きな国際貢献として国内外より高い評価を得ているところです。
 現在までに、すでに3校が現地カンボジアに建設され、募金開始から約10年経過した今、来年度予定される4校目となる学校建設へ向けた具体的検討が始まったところです。
 町民あげてのカンボジア学校建設募金活動は、「身近に出来る国際支援」、「誰でも参加出来る国際協力」として、現在でも、継続的に続けられています。
 学校建設等の状況は以下のとおりです。
 ア 「芦北ひまわり学校」贈呈式:2001年3月27日
   (シアヌークビル市バオットセイモン村)
   遊具づくり、現地の子供たちとの交流会を目的に児童・生徒18人を含む30人を派遣。


完成した「芦北ひまわり学校」全景
贈呈式でメッセージを述べる竹﨑町長

 イ 「芦北ひまわり第2学校」贈呈式:2002年8月23日
   (首都プノンペン市センソック村)
   市長・日本大使館表敬・現地の子供たちとの交流会を目的に児童・生徒18人を含む30人を派遣。
 ウ 「芦北ひまわり今村学校」竣工:2003年9月1日
   (コンポンチャム県チュレイタソー村)


贈呈された2校目「芦北ひまわり第2学校」
個人募金で建設された
3校目「芦北ひまわり今村学校」

 エ 「芦北ひまわり今村学校」交流会:2004年8月26日
   リコーダー演奏・空手演武・文具贈呈等を目的に児童・生徒12人を含む21人を派遣。
 オ 「カンボジアスタディーツアー」:2007年3月24日~29日
   学校訪問・交流会・日本大使館等での学習会を目的に児童・生徒等14人を含む22人を派遣。


カンボジアの子供達との折り紙交流
空手演武の披露

② 「にしぎん国際財団アジア貢献賞」町立佐敷小学校が受賞:2003年3月14日
  アジアの発展及びアジアとの国際交流に貢献している団体として、佐敷小学校が、九州・山口圏域では最高の賞と言われる受賞をいただきました。
③ 関連活動
 ア カンボジア募金米づくり
   町内の小学生が休耕田を利用した田植え・稲刈りを行い、その収穫された米を募金米としてバザーオークションを実施。売上金全額がカンボジア学校建設募金として寄附されます。


全校児童で行った「稲刈り」作業
募金米としてオークション販売しました

 イ カンボジア絵画展
   現在までに建設された現地カンボジア3校と町内の児童・生徒、それぞれが描いた絵画を通した建設後の相互交流を目的としています。

(2) 国際協力事業
 途上国のために汗し、その国の発展に貢献したり、自らの意志で援助の手を差し伸べたりすることは、その人の人生の大切な財産となり、延いては、自治体の総合的な"力"となり得るでしょう。
 国際協力の成果は、国際人、つまり、海外事情を理解できる町民が育つことで、次第に芦北町独自の地域振興の礎となります。
① 青年海外協力隊:派遣条例を制定
  2000年6月には、青年海外協力隊などに町職員が参加しやすくするため、派遣中の身分と帰国後の職場復帰を保障する条例が制定されました。
 派遣実績
 ア 1989年:スリランカ 臨床検査技師
 イ 1999年:エジプト 保育士
 ウ 2000年:パラグアイ 保健士
 エ 2000年:コスタリカ 野菜
 オ 2001年:ニカラグア 村落開発普及員(町職員)
 カ 2003年:ベトナム 村落開発普及員
 キ 2003年:エクアドル 小学校教諭
 ク 2006年:ボリビア 村落開発普及員(町職員)
 ケ 2009年:ガーナ プログラムオフィサー(町職員)


青年海外協力隊員:共に芦北町職員です。(左:ニカラグア共和国。右:ボリビア共和国)
住民の抱える課題を掘り起こし、住民との話し合いを通して必要な生活改善を行いました。

② 日系社会シニアボランティア
  2005年南米パラグアイ 社会福祉レクリエーションとして活動(女性)
  中南米地域の日系社会で、移住者・日系人の人々と共に、生活・協働しながら、中南米の地域社会の発展に寄与するJICA主催の事業です。
③ JICA草の根技術協力事業
  2004年度中米ニカラグア共和国:ラ・コンセプシオン市役所職員
  発展途上国の自治体職員が、公務員制度・地方行政制度等の地方自治制度を理解すると共に、まちづくり事業などの施策について習得する事業です。


役場職員に対しての研修報告会
農家へ出向いて日本文化の体験も経験しました

④ 熊本県海外技術研修員受入事業(カンボジア学校教諭受入)
  開発途上国から国づくりの中核となる技術習得と交友関係の増進を目的にカンボジアの音楽教師を研修生として受け入れる事業です。
  毎年、町内の小学校にて教育行政、教育プログラムについて実務研修が行われ、併せて児童たちの国際感覚の醸成にも貢献しています。
 ア 1998年度:プノンペン市地域教員養成所
 イ 1999年度:プノンペン市師範学校
 ウ 2000年度:シアヌークビル市教育局
 エ 2001年度:シアヌークビル市師範学校副校長
 オ 2003年度:タケオ県教育養成学校附属小学校
 カ 2004年度:シアヌークビル市小学校教員養成学校
 キ 2005年度:プノンペン市サクラクバルチュロイ小学校
 ク 2006年度:コンポンチャム県トロピアンアンピル小学校
 ケ 2007年度:シアヌークビル市チアシム小学校
 コ 2008年度:コンポンスプー県アンロントン小学校


小学校でのピアノ演奏
音楽発表会にも参加しました

⑤ フィリピン森づくりボランティア体験学習(熊本県立芦北高等学校)
  町内の県立高校が毎年開催するもので、熱帯林再生に向けた取り組みに参加するだけでなく、フィリピンの子供たちとの交流を通した国際交流とボランティアの必要性を考える体験事業です。
 ア 環境大臣賞受賞「地域環境保全功労者」熊本県立芦北高等学校受賞:2007年6月11日
   地域の環境保全に努め、多年にわたる自主的な活動が顕著な功績として受賞されました。
⑥ 自治体職員協力交流員受入事業
  日本の自治体が持つノウハウ、技術を研修員に取得させると共に、地域の国際化を推進する目的の事業です。
  本町では、2001年度から継続して事業を実施し、本年度までに大韓民国の自治体職員8人を研修員として受け入れています。
 ア 2001年度:忠清南道舒川郡庁
 イ 2002年度:ソウル市ノウォン区役所
 ウ 2003年度:光州広域市北区役所
 エ 2004年度:慶尚南道安義面事務所
 オ 2005年度:テグ市役所
 カ 2006年度:ソウル市瑞草区役所
 キ 2007年度:光州広域市東区役所
 ク 2008年度:釜山広域市金井区役所


様々な分野について研修が行われています

(3) 国際交流事業
 人と人との交流、国と国との交流は、世界を知るきっかけづくりになると共に、常に新しい発見やそれに基づく感動に出会うことができます。
 したがって、新たな感動を求め、他国との交流を促進し、新しい価値を見い出すことが重要となって来ます。
 交流による成果は、人・物・情報の行き来の中で新たな刺激と活力を生み出します。


英国派遣事業
町民とのふれあい「国際交流まつり」

① マレーシア研修(中学生12人 引率3人)4泊5日 1995年度より実施
② アメリカ《モンタナ州》研修(佐敷中14人 引率5人)10泊11日 1999.8.2・2000.8.17
③ 英国研修 1996年度より実施 62人派遣
④ 熊本国際青少年音楽フェスティバル(4ヶ国200人) 1999.8.9
⑤ バレンタインコンサート(1999年度 熊本県立劇場 舞台芸術ネットワーク事業)
  ベルギー「オクサリス合奏団&正木裕子」 2000.2.12(S.S.D)
⑥ 外交の窓inあしきた(外務省との共催事業) 1999.9.5(社教センター)
⑦ ホームステイ受け入れ
  1998年度 インドネシア(24人)、ドイツ(12人)
  1999年度 イギリス(27人)、アメリカ《モンタナ州》(20人)
  2008年度 大韓民国 忠清大学(10人)2008.7.24~7.27
  2009年度 イギリス(5人)2009.4.4~4.12
⑧ 英語指導助手(町内小中学校指導、町民講座担当) 1990年度より実施
⑨ 海外研修(議員、職員、国際交流協会、農業後継者、郷土芸能保存会)
⑩ あしきた国際化フォーラム(芦北町、熊本県立芦北高等学校共催)
⑪ 「日英グリーン同盟2002」オーク記念植樹式 2002.9.29
⑫ 日英草の根交流「英国訪問団」受入れ 2002.10.31~11.2
⑬ 芦北町国際交流まつり(町内ALT、海外研修員等の外国人と町民との交流)
  2002~今年で7回目
⑭ JICA主催:「青年海外協力隊3万人突破記念シンポジウム」
  2007.9.24:東京都内にて
  テーマ「国際協力を日本の文化に」、芦北町竹﨑町長がパネリストとして出席
⑮ 「ミャンマー・サイクロン、中国四川・大地震」救援金募金活動
  町内公共施設・コンビニ・物産館等募金箱設置
⑯ 国際協力講演会:2008.7.25
⑰ 外国人とのおしゃべり会:2006年度~
⑱ 「世界に開かれたまち」自治大臣表彰:2000.11.27
  日本の地方自治体における、国際交流・国際協力施策、外国人の暮らしやすいまちづくり等、住民と一体となった地域レベルでの国際化の推進において積極的な取り組みが評価されました。
  東京で開催された表彰式に竹﨑町長が出席し、当時の西田自治大臣から表彰状と楯の授与を受けました。全国で5団体、町では2団体、九州の市町村では初の受賞となり、本町の国際化施策を推進するうえで大きな弾みとなりました。


「世界に開かれたまち」自治大臣表彰受賞
「日英グリーン同盟2002」オーク記念植樹式

(4) おわりに
 近年では、国際化・情報化社会を背景として、経済交流や観光等を目的とした世界各国との距離は随分と近くなりました。
 それに比例するように、日本の各地方公共団体においても海外視察や姉妹都市締結等による国際交流が活発化されました。
 しかし、近年、地方の自治体では少子化による人口減少や高齢化を起因とする社会活動、コミュニティ活動の低下が危惧される現状となっています。
 また、景気低迷による地方経済の疲弊や国の三位一体の改革による交付税の減額等、日本の地方自治体を取り巻く財政状況は大変厳しいものとなっております。
 この様な中で、自治体で取り組む国際化・国際交流事業に関する活動も縮小・廃止等や、活動自体の形骸化が生じているように感じられます。
 今後は、以前にも増して、地方公共団体で取り組む各種の事業においては、その必要性や位置付けが求められると共に、併せて地域社会や町民に対し理念を明確に示す必要性が高まります。
 通常、目に見える効果のみに主眼が置かれる場合が多々ありますが、形としては現れない、例えば「ひとづくり」・「感動」といった価値観を含めた費用対効果として評価されるべきだと思います。
 一方、世界のグローバル化が叫ばれて久しく、地方自治体を構成する地域住民や地域社会も世界の出来事と全く無縁では無い時代です。
 国際交流は、異文化との接触によって、地域内の秘められた良さの再発見とともに、地域内の課題点の発見、さらには外から学び刺激を受け励まされることによって、新たな自信や発想の転換による思わぬ力が生まれてきます。
 大切なことは、町の良い伝統や文化を引き継ぎ、他の国の様々な文化や伝統を学びつつ、それらを理解し、次代をリードする国際人を育てることだと思います。
 今後も、協会や町民と行政とがパートナーシップを持って、地域独自の国際化施策を推進し、21世紀をリードし国際貢献の出来る多くの人材が育ってゆくことを目指し、取り組んで行きます。
 芦北町における国際化・国際交流事業は、「世界の平和、地球上の人類が全て幸せになること」が基本的なコンセプトであり、また、地域振興の一環でもあると考えます。
 今日までに多くの方々に培われてきた町民と一体となった活動、取り組みは、変わること無く今後も取り組まれることとなります。