【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

町民と協働でレジ袋を大幅削減し地球温暖化防止と
新たな付加価値
 


北海道本部/浜中町役場職員組合・副執行委員長 吉家 裕明

1. はじめに

 浜中町は、北海道の東端の根室市と釧路市の中間にあり、1869年に佐賀藩からの12戸の移住から始まり、今年町政施行45周年を迎えました。
 基幹産業は、一次産業の農業(酪農専業)と漁業で人口は1万人を超えていた時期もありましたが、現在は7,000人2,500世帯と減少しており、他の地域と同様に過疎化の波が押し寄せております。
 その一方では、町の南側に国内で3番目に大きい霧多布湿原の中央部が天然記念物の指定を受けており、ラムサール条約登録湿地としても脚光を浴び湿原保全活動を行っているNPO団体がエコツーリズムなどを積極的に実施し既存の観光地とは違う道を模索しています。
 農村地域では離農跡地への新規就農者を積極的に受け入れることで牛乳生産量は増えていますが、経営体の数は減り廃校も相次いでいる状況のなかで、「美味しい牛乳は、当たり前」を合い言葉に高品質と安全・安心を売りとした独自戦略により販売金額を増大させています。その努力により有名な高級アイスクリームの原料乳は全て町内にある乳業工場で加工されています。そのアイスクリーム会社の本社はアメリカにあるのに、なぜかヨーロッパを思い起こさせる社名は、製品戦略に負けない位に考えられています。アメリカでは乳製品はヨーロッパのイメージが大変強く、そのことからヨーロッパの都市を思い浮かべる「ハーゲン」とドイツ語風の「ダッツ」を付けて会社名にして、イメージアップしアイスクリームを子供から大人の嗜好品とした会社です。また、浜中町の農村部には巨大なルパン3世風の農家看板が182箇所設置されています。モンキーパンチ(加藤氏)が浜中町の出身であることから実現したもので、このことにより農家の匿名性が無くなり誰の牧場か明確になったことで、農家が競い合うように花を植えるなどの環境美化を行い地域の景観整備に役立ちました。


2. 付加価値としての環境政策

 消費者は、価格が安いものを選びますが、価格競争では、人件費の安い中国や韓国など東南アジアの諸国に勝てません。しかし、その競争の前提にはBSEや中国産餃子などでクローズアップされたように食の安全があるのです。食品には、価格以上に厳密な「安全・安心・正直」が求められるのです。食品会社や老舗料亭が産地偽造や残り物の使い回しで、消費者の信用を失い見放され倒産したことでも明確です。
 そのような状況を踏まえ、霧多布湿原で代表される素晴らしい浜中町の「環境と景観」に「環境に優しい町づくり」を加えて、「エコの町・クリーンな町」との付加価値を付けることを考えました。2005年に「浜中町環境基本条例」を策定し、翌年に町民の皆さんと対等の立場で議論し具体的な取り組み内容となる「環境基本計画」を作りました。その中の一つの取り組みが「有料化によるレジ袋の大幅な削減」です。環境についてしっかり考えて実践している町で生産された牛乳、昆布、鮭だから安心とのイメージ定着化です。更にエコツーリズムなどの新たな観光にも有利と考えたのです。

3. レジ袋の原料は石油

 一方、待ったなしの状況になっている地球温暖化や限りある石油資源も考えなければなりません。レジ袋の原料は、ポリエチレンなどの合成樹脂、石油から作られるプラスチック製品なので削減すれば石油が節約できます。統計を見ると、2002年度以降レジ袋用ポリエチレン袋の国内生産量はわずかに減少し続けていますが、逆に輸入量は2006年までの4年間で1.4倍に急増しています。つまり、石油を製造と運搬に二重で使っているのが現状です。経済産業省から出されている数字を人口7,000人の浜中町に当てはめるとレジ袋使用は、年間一人300枚で210万枚、重量21トンとなり、原料となる石油は40トンにもなります。
 それを、「マイバック」、「風呂敷」、「ダンボール」、「レジ袋の再利用」で削減することを考えたのです。レジ袋は生ゴミを出すときにも使いますが、実際にごみ処理場で確認すると、3割から4割程度しかありませんでした。私たちが考えたのは、レジ袋の廃止ではなく、無駄なレジ袋の削減です。

4. 手軽にできる温暖化防止策

 環境対策には多くの取り組みがありますが、「アイドリングストップ」では、車を運転する人しか実践できませんがレジ袋は違います。なぜなら一昔前なら買い物かごが当たり前だったはずです。白色トレーやラップを減らしましょうでは、食品の運搬や販売方法を考えると非常に難しい課題があります。レジ袋なら代替え品としてのマイバック、風呂敷はもとより、ダンボール箱で持ち帰る、更にはレジ袋を2回、3回使う事で使用量は減らすことが可能です。
 「地球温暖化防止」と聞くとその名称のためか特定の人が高度な技術力で実施するイメージがあります。実際に、町民に地球温暖化防止対策をしていますかと訊くと、「やりたいけれどどうやったらよいか解らない」、「効果が見えないのでやっていない」などの答えが返ってきました。そこでより身近なものとすべく「理想は高く:地球温暖化対策」、「敷居は低く:たった一枚のレジ袋から」、「裾野は広く:小さな子供からお年寄りまで」を合い言葉に取り組みを始めました。
 加えて、レジ袋の削減は温暖化防止に役立つだけでなく、「町民みんなが得しますよ、商店は経費の削減、消費者は温暖化防止に貢献、役場はそれで住民の環境意識の向上と産業振興を図る」と繰り返し説明しました。

5. レジ袋削減検討(推進)委員会の役割

 浜中町では、ごみの有料化は35年前の1973年から実施しています。分別は5分類15種類で町民にご協力をお願いしています。その結果、ごみに対しての意識は他市町村より高く、また天然記念物に指定されている霧多布湿原と生活が隣接していることで環境保全の心が育っていると思います。だからと言って「レジ袋有料化」は、一方的な押しつけでは実施できません。商店の協力が絶対条件で、更に町民の理解が無ければ「無料店」に流れてしまうという最悪の結果になりかねません。
 そのためより多くの町民の声を反映するようレジ袋削減推進委員会の構成と検討方法に工夫を凝らしました。委員会は消費者側委員と商店側委員からなり、それぞれの団体のトップに委嘱し、会議は新聞社などに積極的に取材していただきました。その結果、会議の翌日には検討内容が記事やニュースになり、それを読んだ町民が「委員」や「役場」(ほとんどが委員)に対して意見や質問を寄せます。それを次回検討する方法で2007年6月末から3月末まで6回の推進委員会で議論を重ね、4月1日からの「レジ袋の全町有料化」には一切のトラブルもクレームもない結果を生みだすことができました。

6. 商店及び町民への周知作業

 商店の理解が得られなければ、「有料化」は実施得ず、「辞退率」を上げることはできないことから、2007年12月から3月末まで最低4回、延べ300回ほど店舗に説明に伺いました。最初は訝しげな対応だったのが、新聞やテレビで取り組みが紹介されることで積極的に「問題点」「疑問点」を出すようになりました。
 商店の声を直接に聞くことで、レジ袋有料化は賛成だが、誰もしていないので不安を持っているに過ぎず、しかもその不安は少しの工夫で解消可能だと確信を持つことができました。
 町民には、12月以降15日間隔で広報やチラシを利用し、「地球温暖化問題」「地域環境」「レジ袋の現状」「なぜ有料化」などの情報を流し続けました。更に全戸に設置し津波情報の伝達に活用する防災無線で、「明日から有料」「今日から有料」の周知を行いました。その結果、町民からは「もうわかったよ」との声も出るほどでした。町内外の消費者に対して有料化と判るように、店頭に「レジ袋削減宣言」のぼり、入口に「有料化」ポスター、そしてレジカウンターには、「レジ袋は有料です」ボードと代金箱が置いてあります。合わせて多くのマスメディアに、積極的に情報を流すことで、広範囲への周知を期待しました。

7. 代金はあなたの環境意識(任意)

 レジ袋の代金は、当初は先進事例の5円で検討しましたが、インターネットでの意識調査では、代金の妥当性は5円が27.9%、1円が22.5%、有料化になればマイバックを持参するが28.5%であり、1円と5円では5.4%しか差がありません。(出所:マイボイスコム(株))
 実例でも、山梨県のスーパーでは1枚1円で3ヶ月実施したところ5店舗平均で68.4%(最大73.4%,最低63.4%)のレジ袋辞退率にもなっている。(出所:山梨日日新聞)
 金額ではなく有料化自体がレジ袋削減を押し進めているのです。それを踏まえ「代金はあなたの環境意識」としました。環境への意識の高い人はマイバックを持参し、低い人は持参せず、お金も入れないことも想定しました。その行為は、単に店員や後ろに並んだ人からの「この人はバックも持ってこないし、代金も入れない。環境意識が低いな」の冷たい視線にさらされるだけなのです。

8. 支払いは「レジ代金箱」へ(自発)

 レジスターでレジ袋代金を商品と一緒に処理するためには、袋へのバーコード印刷など新たな手間が必要となることから、商店に負担が発生しないシステムも検討しました。「商品」と「レジ袋」の代金の流れを別にするため、レジカウンターに役場で用意した代金箱を設置する方法です。商品代金の支払いとは別にレジ袋代金を「箱に入れる」行為が、面倒と感じればレジ袋を断る一つのきっかけになるのではないかと考えたのです。

9. レジ袋代金はお店の収入(商品)

 レジ袋は、卸店から仕入れるのですから、本来はミカンやバナナと同様に利益を上乗せして販売することが当然です。なぜか、サービスにしているのです。2007年12月までは、売上代金の町への寄附も検討しましたが、実施段階ではそれに気が付いて、売上代金は商店の収入としました(寄付はありがたくいただきます!)。町は、有料化によりレジ袋が減り、環境問題を考えるきっかけとなれば良いとだけ考え、商店に「有料化で経費を削減しましょう」と呼びかけました。

10. マイバックの共有化(意識)

 有料化に先立ち、無料配布することで削減が円滑に進むとの意見もありました。レジ袋はただでもらうためゴミになりやすいのに、無料で配っては環境意識が芽生えるはずがありません。
 しかし、大量の買い物で持参したマイバックに入らなくなった時、たまたま忘れた時、子供のお使い時のために、不意の雨に傘を差し出すイメージで共有制度を考えました。町で用意して商店に貸し出し、商店では普段マイバックを持ってきている町民に貸し出す。返却は有料化店であれば、どこの商店でも良いとしました。自動車や自転車のシェアー(共有)のマイバック版です。
 ただし、貸し出し簿などへの記帳は店舗の負担となることから行わず、連番タグを付ける一寸した工夫をしました。店舗で貸し出すときに「○○さん、34番のバックをお貸ししますね」この一言で返却率はアップするはずです。必要とした共有バック500個は、町内全店舗有料化の考えに共感した「独立行政法人環境再生保全機構・地球環境基金部(本部神奈川県)」から寄贈をいただきました。

11. なぜ2008年4月1日からの有料化

 2008年7月から北海道で洞爺湖サミットが開催され、メインテーマが地球温暖化防止対策です。米国の元副大統領やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の地球温暖化の啓発行為に対してのノーベル平和賞授与などで明らかなように人類にとって重要な問題です。しかも、温室効果ガスによる気候変動が連日のようにマスメディアで紹介されています。多くの国民、道民、町民がこれほど環境に対して意識が高まっている時期はありません。この時期だからこそ、「有料化によるレジ袋の大幅削減」が可能だし、最初に取り組むことで多くのメディアに紹介され「エコの町浜中」のイメージアップを図ることができるはずです。
 多くの町民が、「雪が少ない」、「流氷が来ない」、「見たことがない魚が捕れた」、「漁の時期がずれた」と地球が何か変わってきたと認識しているのです。酪農と漁業の一次産業と霧多布湿原をメインとする観光の町だからこそ、私たちは環境を考える一歩とイメージアップを考えて「有料化」に踏みだしたのです。

レジ袋削減シンボル「レジポくん」を抱える環境政策担当者

12. 有料化後の反響

 「年商4億円のコープはまなか店では日平均300人の来店者の7割がマイバックを持参しています。「1月までは1割程度だった」と店長も驚きを隠さない。町内10店舗のレジ袋辞退率を尋ねたが、8店舗で5割を超え、うち5店舗から「8割」と聞いて驚いた。支払いは強制でないのに、住民は有料化の意味を良く理解しているのだろう。(出所:北海道新聞2008年5月26日)」
こんな嬉しい新聞記事が載りました。

 この活動が全国に広がり、地球温暖化防止の一助になることを期待しています。


レジ袋有料化の問い合わせ先
浜中町役場町民課環境政策係
0153-62-2194