【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

サケ稚魚の放流体験を通じた自治研活動の取り組み
―― 地域とともに自然環境を考える ――

北海道本部/自治労木古内町職員労働組合・書記次長 阿部 亮輔

1. はじめに

 北海道木古内町は北海道南部にある人口6千人の町です。総面積の9割が山林で、三方を山々に囲まれ、南側は総延長15kmの海岸線となっており市街地は津軽海峡に面しています。以前は農業や漁業、また、豊富な森林資源による林業が人々の生活を支えてきました。現在は、第1次産業の従業者数の構成比は1割程度であり、減少傾向にあります。漁業については「ホタテ・コンブ」の養殖を主体に、底建網や定置網により漁業活動が行われております。また、「ウニ・アワビ」の種苗放流と、人工的に魚類の稚魚育成のための大型魚礁の設置が継続的に実施されており、栽培型の育てる漁業を展開しています。
 このような環境のなか、地域に根ざした組合活動を目標に取り組みを進めています。

2. 取り組みの経緯

 以前から、自治研活動は住民を巻き込んだ活動が必要と言われ続けていましたが、当町職労ではこれといって具体的な取り組みはなく、現在までは、住民とともに活動できるイベントを自治研活動の原点ととらえ、町内のイベントである春の「サバイバル2DaysエンデューロIN木古内」(バイクレース)をはじめ、夏の「きこない咸臨丸まつり」や、冬の「寒中みそぎフェスティバル」などに積極的に協力してきたところです。



サバイバル2DaysエンデューロIN木古内


寒中みそぎフェスティバル


きこない咸臨丸まつり


 木古内町職労の定期大会において、自治研活動を推進して自治体改革運動に取り組むことを掲げ、地域活性化運動とともに、町の将来を住民と協働で進めるためには、現状の把握・各種問題(財政・合併問題など)を認識し、住民と関わりのある場所で話し合い、考え、訴えることが必要との方針を打ち出しました。
 2007年の当町職労の方針の中で、現在、地球温暖化が進んでいることから、地域環境への取り組みを進めることになりました。ごみの排出削減やリサイクル等、地域からの取り組みが一層重視され、地球に負荷を与えず、時代へ限りある資源を残しながら、負の遺産を引き継がないためにも環境自治体づくりが必要と確認されているところです。
 具体的には、資源ごみである新聞・雑誌・紙・ダンボール・カンなど、分別回収に組合員それぞれが取り組むことにより、ごみの排出削減が職場内から図られてきています。
 下の写真は、職場からでる紙ごみ(ほとんどが書類)を裏紙としての再利用や、資源ごみ(個人情報等はシュレッダー)にすることでごみ箱に入れる紙ごみをゼロに近づけ、燃えるごみの減量化を図っています。なお、回収BOXはコピー用紙の箱を使っています。
 また、組合員の発案で、公共施設のごみ箱にペットボトルのふた(キャップ)入れ容器を用意し、ごみ箱に見えるようにかけることで、何も言わなくても見ただけでキャップをはずして入れたくなるように工夫がされています。以前は、下の写真のように表示があるにもかかわらず、キャップをつけた状態でペットボトルをごみ箱に捨てていた方が多く、キャップはずしの作業を行っていました。キャップ入れ容器の設置は掃除のおねーさんに好評です。掃除のおねーさんは「最近はマナーが良くなった」といっています。
 普段のちょっとしたことに気づくことが、行動の第1歩になるものと思います。

 
資源ごみBOX・再利用裏紙BOX


キャップをはずす表示


ペットボトルのふた(キャップ)入れ容器

3. 「サケの稚魚放流体験」実施までの具体的流れ

 2008年の当町職労の方針では、次代をになう地域の子どもたちと活動できることはないかと協議し、木古内町は農・林・漁業、そして商業のまちということもあり、住民が楽しみながら参加したいと思えるような事業を検討しました。
 第1案は、植樹活動を進める案が浮上しました。植樹することにより、森づくりに役立ち、また、実のなる木であれば収穫時期にイベントを開催し収穫する楽しみ、食べる楽しみがあれば参加も増えるのではと考えました。また、全道各地で漁民による森づくりが行われていますが、漁業の環境に役立つということも意識したうえで、町の担当者と協議しましたが、植樹する場所の選定に苦慮し今回は断念しました。
 第2案として、木古内町の漁業に関係するもので実施できないかを検討しました。春に「サケの稚魚放流」を行い、秋には3~5年かけて母なる川に帰ってくるサケの遡上見学会の実施であれば、関係機関との協力が得られる見込みとなったことから、計画を実行することとなりました。
 子どもが喜びそうな案として、木古内町で獲れる「魚のタッチプール」の案もありましたが、これは次回、漁業協同組合の協力を得て実施できればと考えています。

4. 「サケの稚魚放流体験」の実施

 サケの稚魚放流を体験する取り組みに関しては、自治研運動の一環であるとともに、組合員と地域、家族との交流を深め、そして自然について学ぶ体験活動としての効果が期待されます。
 稚魚の放流や観察をとおして、川を大切にする気持ちを身近に感じながら、自然環境の保全など、環境の視点から運動を推進することとしました。
 実施にあたっては、さけ・マス増殖事業協会職員の協力を得ながら、木古内地区連合会と連携して取り組みを開始したところです。
 町職労の組合員と木古内地区連合会に周知し、さらには小学校2年生の保護者へサケ稚魚の観察・放流についてのチラシを、小学校の協力を得て配付をしてもらい、参加者を募りました。
 結果、4月26日(土)に実施したサケ稚魚見学会及び稚魚の放流体験には予想以上の参加者があり、幼児から小学生までの44人とその保護者等37人のあわせて81人の参加がありました。
 当日は、さけ・マス増殖事業協会職員よりサケの産卵の様子などをパネル写真で説明をうけ、ふ化場の稚魚40万匹を見学しました。事業協会職員の配慮により稚魚を見やすいように水槽を用意していただきました。放流河川の亀川に放流する稚魚は全体で300万匹いると説明を受け、参加者は「さけふ化場」で元気に泳いでいる稚魚や、水槽の中の稚魚を興味深げに観察していました。



パネル写真による説明


水槽に入ったサケ稚魚

 その後、事業協会の職員が下流付近に稚魚を運び、亀川河口付近で体長10センチほどのサケの稚魚を水槽からバケツに移した後に、子どもたちが手にした透明なコップに移し、それぞれが回帰を楽しみに稚魚の放流を始めました。
 事業協会の職員より「水面に近づいてそ~っと優しく流して」言われながら、600匹を親子が一緒に放流しました。


 
河口付近での稚魚放流の様子

 秋にはサケ遡上の見学会を予定していることを参加者に伝え事業は無事終了しました。
 自然豊かな木古内町での体験活動をとおして、北海道民にとって最もなじみ深い魚「サケ」ではありますが、地元で捕れる魚を知る機会となれば、食卓で食材の話題も増え、楽しみも増えることでしょう。

5. まとめ

 ようやく、住民を巻き込んだ活動への一歩を踏み出すことができました。
 関係機関の方々や、町職労の組合員並びに木古内地区連合会の協力で、今回の事業は参加者に喜ばれるものとなりました。ご協力いただいた方々に感謝を申し上げます。
 今後も地域に根ざした自治研運動を目指して、住民・地域と一体となった活動を検討し、継続した活動をしていきたいものです。


「平成20年5月3日(土)函館新聞」記事に掲載