【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

多々良沼の自然を取りもどすために
クリーンハイク多々良沼

群馬県本部/邑楽町職員労働組合・邑楽町ホタルの会 小倉 章利

1. はじめに

 「ポイ捨て禁止条例」が多くの自治体で制定されています。そこには、ごみの散乱に困った自治体のまちをきれいにしたいという願いが込められています。これまで、ごみのポイ捨てに関する規制は「ごみは捨ててはいけない」というマナーに頼ってきました。しかし、ごみの散乱は増え、まちは汚れるばかりであるため、条例というルールで規制をはじめたのです。ごみのポイ捨て問題の対応がマナーからルールに変わっても、すぐにポイ捨てを全くなくすことができないと思われます。道路等に捨てられてしまったごみは自治体による回収システムはなく、ボランテイアに頼るしかありません。まして、河川や沼に流れ込んだごみはボランティアも手が届かないため放置され、自然景観を著しく損ねてしまいます。
 多々良沼に流れ込む大量のごみは、回収システムがなく増え続けていました。多々良沼をきれいにしたいと、1990年に始まったのが「クリーンハイク多々良沼」です。2008年4月には第18回クリーンハイク多々良沼が行われ500人の参加をみました。この運動の経過と今後の展望について考察します。

2. 多々良沼の紹介

 多々良沼は、邑楽町と館林市の間に位置し、水面は館林市で、面積は83ヘクタール、周囲は7キロメートルの沼です。1940年代までは、北関東随一の水生生物の宝庫として知られ、食虫植物のムジナモは、1920年に国の天然記念物に指定されました。1950年頃から工場排水や生活排水、農薬等の流入により水質が悪化し、多くの種類の植物が次第に姿を消していきました。
 1978年に2羽のコハクチョウが飛来し、はじめて越冬しました。その後、毎年飛来し、群馬県唯一の白鳥の越冬地として知られています。昨今ではコハクチョウとオオハクチョウが100羽以上越冬しています。
 多々良沼に流入する河川は、多々良川と孫兵衛川の2つです。流入2河川及び多々良沼は農業用水として利用されており、渡良瀬川から供給を受けています。農業用水の需要期の5月から9月までは満水状態となり、農閑期の10月から翌年4月までは水位が約1.5メートル下がり、沼底が広範に顔を出すため水面積は半分以下となります。増水期に農業用水とともに流入してきた大量のごみは、減水期に露出した沼底に散乱し、白鳥の越冬地多々良沼の景観を著しく悪くしていました。

3. クリーンハイク多々良沼の活動と成果

(1) 活動の始まり
 1990年に邑楽町職員労働組合の自治研組織として邑楽町ホタルの会と邑楽町平地林研究会が発足しました。これまで、邑楽町内には環境に関する団体はなかったので、環境関係の団体として草分け的な存在でした。また、この年に白鳥の飛来数が100羽をはじめて超え、遠方から白鳥を見にくる人も増えてきました。その頃の多々良沼は、2つの河川が流入している沼の北西部で、ビンや缶やビニール類などのごみが一面に層をなして堆積し、このままでは多々良沼がごみで埋まってしまうことを心配するほどでした。先の2団体はこんな多々良沼の悲惨な状況を憂い、1991年からはじめた沼内のごみ拾が、「クリーンハイク多々良沼」です。クリーンハイクと名付けたのは、普段は入ることのできない沼内のアシ原をハイキング気分で清掃活動をしようという思いからでした。しかし、すさまじいごみの量で一歩も歩かないで袋がいっぱいになってしまう状況が何年も続きました。

(2) クリーンハイク多々良沼実行委員会
 第1回と第2回はホタルの会と平地林研究会の共催で実施しました。第3回からは環境問題に取り組む団体から実行委員2人程度と運営資金のカンパをいただき、クリーンハイク多々良沼実行委員会を組織しました。現在の実行委員会のメンバー団体は邑楽町ホタルの会・邑楽町平地林研究会・環境ボランティア・邑楽町商工会青年部・(社)おうらか青年会議所です。実行委員会では宣伝方法や当日の運営などについて協議し、ポスターやチラシの作製をします。実行委員会がずっとこだわってきたことが1つあります。それは、参加者には終了後に甘酒や麦茶等の飲み物を振舞っていますが、ごみになるペットボトルや缶の飲料は決して出さないことです。

(3) クリーンハイク多々良沼の実施状況と成果
 第1回クリーンハイク多々良沼は1991年3月31日に行われ、雨で延期しての開催だったため参加者は15人でした。その後、回を重ねるごとに参加者は増加し、第10回から500人を超えるようになりました。開催時期は多々良沼の水位が下がって、白鳥が北方へ帰っていなくなってからなので、3月下旬から4月下旬となります。
 2008年4月6日に第18回クリーンハイク多々良沼が盛大に行われました。参加者は510人で天気は晴れ、飲み物は甘酒・麦茶・牛乳を用意しました。参加者全員に軍手とごみ袋を配布し、作業が開始されました。今回は参加者からごみが少なくなったとの感想が多く聞かれました。確かにごみの量は少なく、本来のクリーンハイクの趣旨である、ハイキング気分でごみ拾いが18年目にして初めて経験できた気がしました。

3. 今後の課題

(1) 多々良沼のごみは減っていない
 今年で18回目のクリーンハイク、参加者は510人で3tのごみを回収しましたが、清掃実施区域は広い沼のわずかの区域です。多々良沼を前年よりきれいにするためには、1年間に流入するごみの量を上回る量を回収しなければなりません。まだ、多々良沼はごみによる汚染が進行していると思われます。今後、参加者の増員をはかりながら、清掃実施区域を拡大していかなければなりません。

(2) ポイ捨て禁止
 多々良沼に流入してくるごみは、誰かがどこかで捨てたものです。多々良沼のごみを減らすために「ゴミのポイ捨て禁止条例」の周知徹底等、ごみを捨てさせないことが強く求められます。

(3) 流入河川での回収
 広大な沼の中に流入してしまったごみは回収が困難になります。そこで、流入河川にごみを回収するスクリーン等を設置し、多々良沼へのごみの流入を阻止する方法の検討も必要です。

4. おわりに

 18年間沼の中のごみを拾い続けてきました。回収したごみの量は約70t、参加者の延べ人数7,000人です。ようやく、多々良沼が少しきれいになってきたような手ごたえは感じています。多くの皆さんに協力いただきながら実施してきた「クリーンハイク多々良沼」、今後も、皆で楽しくできるごみ拾いを心がけながら続けていきたいと思います。