【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

「沼田市の森林づくりボランティア事業」について


群馬県本部/沼田市役所職員労働組合 牧野 成史

1. 経 緯

 「森林づくりボランティア事業」は、沼田市の事業として、1998年5月10日に沼田市・川場村にある現在の「21世紀の森(当時は迦葉・冨士山森林公園)」にて行われた第49回全国植樹祭を契機に、近年の林業従事者の減少や高年齢化により進む森林の荒廃に対し、市民を中心としたボランティア組織による植樹、下刈り等の森林整備や林内清掃を行うことにより、健全な森林の造成維持を図り、併せて参加者の緑化思想の高揚を持って、市民参加の森づくりへの気運を高め、森林文化都市である沼田をより現実的に実践することを目的として始められたものです。
 ボランティアの募集は1999年度から始め、その後も随時行っています。市民に対しては「広報ぬまた(4月号掲載)」で、市外在住で沼田市出身者を対象とする準市民については「グラフぬまた(例年3月1日発送)」に募集案内を同封してボランティア登録を呼びかけており、2006年度末で86人の方が登録していましたが、その後登録者の参加状況と意思確認による登録の見直しを図り、現在40人の方が登録しています。
 当初は、森林内の活動に興味のある市民・準市民を中心にしたボランティアにより、森林整備を実施していました。現在はボランティア登録の対象を市民・準市民に限らず、各種団体の方等にも参加いただいています。また、その活動内容についても、下草刈りや間伐などの森林内作業にとどまらず、近年は植樹等も行っています。




2. 活動内容

 各年度の主な活動内容は以下のとおりとなります(まとめたものとして「別表」参照)。
(1) 2000年度……1993年4月の戸神山林野火災復旧地における下草刈り作業を実施。
(2) 2001年度……前年度と同様に戸神山林野火災復旧地における下草刈り作業を実施。
(3) 2002年度……前年に行った「21世紀記念事業」による「2001本の桜」植樹事業の桜の保育を目標とした下草刈り作業を実施。
(4) 2003年度……市内山間部の(池田地区)上発知町にある沼田市所有施設の「サラダパークぬまた」と一体化した施設(市有林)である「おとぎの森」において、雑木の刈り払いを中心に作業を実施した後、不要となった雑木を加工する木工細工作成体験を実施。
(5) 2004年度…県立森林公園「21世紀の森」と迦葉山透門入口付近を結ぶ林道迦葉・冨士山線沿線に植樹された「2001本の桜」植樹事業の桜の補植を中心とした下草刈り作業等を実施。
(6) 2005年度……県立森林公園「21世紀の森」周辺の県有地において、ツキノワグマの保護を目的とした山くり苗の植栽を実施。
(7) 2006年度……2003年度と同様に「おとぎの森」での森林内作業を実施。併せて遊歩道の部分補修と倒木処理をした材を用いての路肩補修も実施。
(8) 2007年度……市内山間部の(池田地区)中発知町において、前年度のツキノワグマによる甚大なる獣害を受け、ツキノワグマと人間の棲み分けを明確にすることを目的とした、山林、畑の境、耕作放棄地の灌木伐採作業を実施。


別表

実施年度

実施場所

実施内容

参加者

2000

戸神山

下草刈り

20

2001

戸神山

下草刈り

39

2002

2001本の桜植樹地

桜の手入れ、下草刈り

17

2003

「おとぎの森」

間伐、木工体験等

23

2004

林道富士見線・迦葉冨士山線

2001本の桜補植等

15

2005

「21世紀の森」隣接県有地

山くり苗植栽

28

2006

「おとぎの森」

森林整備、遊歩道整備

11

2007

中発知町慶福寺周辺

森林整備

43


3. ボランティア上の課題

 森林づくりボランティア発足時にボランティア登録され、戸神山林野火災の復旧に尽力いただいた地元団体をはじめ、市職員・群馬県の森林担当職員、連合沼田地協などにも協力をいただき登録者数は8年間をかけて年々増加傾向にありました。しかし、森林ボランティア自体の開催には登録者全ての参加はなく、発足時や登録時にボランティア事業に賛同し、登録いただいた方が必ずしも「森林づくり」という大きな目標に向かってくれているものではありません。このことは、ある程度の計画性をもって事業が実施されていないことや、森林ボランティアの活動内容のマンネリ化等も参加人数を減少させているひとつの要因となっています。今後、いかに実効性のある登録者を増やしていくことができるか、また参加者に興味を持ってもらえる事業内容はどのようなものであるかなど、登録者数に比べ、参加者が少ない現状を踏まえて検討すべき課題は多々あります。また、この森林づくりボランティア以外にも、沼田ロータリークラブが主催者となって、クマ被害防止に向けた「くまどめ林植樹活動」が行われたこともあります。こういったことから、既存の団体やその活動と結びつける、未来を担う「緑の少年団」との連携を図る、また、今後、定年を迎える団塊の世代の方々の協力も大きな力となるものであります。当初、沼田市民、準市民により活動を続けてきたこの森林づくりボランティアも、すでにそういった方以外の登録・参加者も受け入れていますが、更なる参加者、都市部の方も参加できるような仕組みが必要であると考えます。

4. 森林づくり上の課題

 沼田市だけのことではありませんが、近年の林業従事者の減少や高年齢化により進む森林の荒廃は、ツキノワグマを中心とする鳥獣類からの被害を大きくし、沼田市の主要農作物であり、観光農業の主体である「りんご」作りに影響を及ぼすものであります。その被害は農作物だけに留まらず、近年では人間に対する危害なども必ず毎年報告されている状況であります。ツキノワグマの個体数は年々減少しており、以前は捕獲の後に射殺を主としていた鳥獣駆除も、捕獲の後、解放といったその個体数減少に対する配慮をしていますが、こういったことを回避するひとつの手段として、人間と鳥獣との棲み分け方法としての森林整備は有効かつ重要なことであり、そういったところでのボランティアを主とする活用は今後大きく検討されるべきと思います。
 併せて、世界的な規模の話しではありますが、森林の荒廃は山の恵みを失わせるだけでなく、根本的な部分での地球温暖化を含めた環境破壊にもつながるものと考えます。私たちの山は、首都圏の水瓶であり、酸素を供給する貴重な資源でもあります。こういったことは、私たち山々を見慣れた人間には、身近すぎて、気がつきづらいのかも知れません。

5. まとめ

 2010年に、県立森林公園「21世紀の森」に皇太子殿下・雅子妃殿下をお迎えし、開催が予定されている「全国育樹祭」、先日、上毛新聞の一面にも掲載されましたが、沼田市と新宿区とのカーボンオフセット(※)に関する提携検討など、森林環境に関する身近な話題に伴って、1998年の天皇陛下、皇后陛下をお迎えして開催された「全国植樹祭」のように緑化に対する市民意識の高揚を契機に、約10年間続けられてきたこの「森林づくりボランティア」が深く市民に浸透し、一過性のものにならないよう、地球温暖化防止を含めた環境に対する情報発信が群馬県の、沼田市の森林内からできるような活動を目指していきたいと考えています。


※地球温暖化の原因となる二酸化炭素(カーボンダイオキサイド)の削減が困難な場合、排出量と同量の削減量をクリーンエネルギー事業者などから購入するなどして相殺(オフセット)すること。植林や森林保護、水力や風力発電への転換で削減されたエネルギーなどが購入対象。