【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

山武市バイオマス構想の取り組み


千葉県本部/山武市職員組合

1. はじめに

 山武市は、2006年3月24日3町1村(旧成東町、旧山武町、旧松尾町、旧蓮沼村)の合併により誕生した新市であり、合併に伴い山武市職員組合が設立された。設立後3年の新しい組合であるが、この期間、当組合は、合併後の職員からの様々な課題に取り組みを進め、職場環境の改善を図ってきたところである。今回、山武市にバイオマス資源を活用する「バイオマス推進室」が設置されたことにより、当組合内でも地球温暖化防止の観点から地域環境の課題についても取り組みを進める予定である。では山武市がなぜバイオマス推進するようになったかの過程について説明し、その上で当組合の環境への取り組みを考えてみたい。

2. 山武市の現状と特色

(1) 地域の現状
<社会的・地理的特色>
 山武市は、2006年3月、成東町、山武町、蓮沼村、松尾町の4町村が合併して誕生した新市である。本市は、千葉県東部に位置し、千葉市や成田国際空港からは、10km~30km、東京都心からは50km~70kmである。また九十九里浜では中央約8kmに渡り太平洋に面している。



 地形は、九十九里海岸地帯と、その後背地としての広大な沖積平野及び標高40~50メートルの低位台地からなる丘陵地帯で形成されており、これらは海岸線にほぼ並行に帯状に展開している。人口は、59,258人(2008.1.1国勢調査)であり少子高齢化が進んでいる。土地利用としては、全面積146.38km2のうち、耕作地(田畑面積)が約42.8%(約62.6km2)であり、続いて山林が約19.5%(約28.5km2)となっている。気候は、2005年度で平均気温14.5℃、最高気温が30.8℃、最低気温が0.0℃となっている。年間降水量は、1,387mmと全国平均降水量(約1,718mm)に比べて少ない。
<経済的特色>
 緩やかな丘陵地帯に森林の広がる山武地域は、古くから林業の盛んな地域である。しかし林業を取り巻く環境は、非常に厳しく高齢化や担い手不足、安価な外国材の流入により、山林は荒廃している。市北中部に位置する松尾地域では、西部に森林が広がり、市東部に位置する蓮沼地区とともに畜産の盛んな地域である。発生する家畜ふん尿は、個人堆肥舎乾燥施設で処理されている。また市東部に位置する成東地域では、九十九里海岸に面し、豊かな田園風景が広がり、稲作を中心とした農業が盛んな地域であり、ねぎの生産が盛んであるが、農業残渣が多くを占めており、有効な利活用が期待される。

3. 山武市域の森林・林業の概要

(1) 山武市の森林の現況
  山武市(旧4町村合計)における森林面積は4,220ha、森林面積率にして29%となる。地域的な森林の分布状況を見ると、旧山武地域における森林面積が2,453ha、森林面積率は47%となっている。山武市の大字別の森林面積率からも明らかなように、海岸に面した市東部は比較的森林が少なく、内陸部に森林が集中している。樹種別の傾向をみると、山武市全体ではスギが全品目の61%、雑木が14%、ヒノキが12%の順になっている。


出典「森林簿」H12千葉県

4. サンブスギ溝腐病について

(1) サンブスギとは
 サンブスギは、約250年前に山武地方で生まれた挿し木スギである。良質で安定的な品質の材を生み出すサンブスギは、その挿し木造林技術とともに現代にまで受け継がれ、千葉県のみならず全国においても良質な品種として知られている。
 特徴としては、ふしが無く通直で心材部は美しい淡紅色をしている。挿し木品種であるため、各個体の成長差が少ないのも特徴である。また雄花(花粉)をほとんど付けないため花粉症対策としては優れており、耐久性の強い品種でもある。こうした特徴から、千葉県外、関東一円のほか福島県、愛知県、三重県で植栽されており、苗木は現在でも九州、四国、三重県、和歌山県、静岡県など全国各地に向けて出荷されている。
 優れた特性を持つ一方で、サンブスギは溝腐病(スギ非赤枯性溝腐病)に弱い性質を持っている。

成長の揃ったサンブスギ林
(出典:千葉県森林研究センター)

(2) 溝腐病とは
 「スギ非赤枯性溝腐病(以下、溝腐病)」は、サンブスギに多大な被害を発生させている木材腐朽菌による病害である。「チャアナタケモドキ」というキノコの一種である病原菌が空気を媒体として枯れ枝から進入して、3~5年の潜伏期間を経た後、上下方向に菌糸を広げて幹部の形成層や辺材部を腐朽させる。形成層の腐朽により患部は肥大成長しなくなるため、時間の経過とともに患部を中心に溝が形成される。進行性のものであり、一度感染すると治癒することのない病害である。
 外観的特徴としては、腐朽部分が大きく溝状に凹んでいる、幹部にねじれが発生するといったことがあげられる。溝は地上1~3m付近に見られることが多く、1mの長さに渡るものもある。腐朽が進んだ木はやがて立ち枯れし、倒木してしまうケースもある。ただし、溝腐病への感染を外観的に判断するまでには長期間かかり、通常は植栽後20年以上経過した林での被害が確認されるようになる。
 溝腐病に感染した被害木から発生した子実体(キノコ)より胞子が発生し、周囲に被害が拡大することもある。特に枝打ち、間伐などの管理が十分でない森林では、菌の侵入源である枯れ枝が多いため被害が広がりやすい。また、感染した被害木が周囲にさらなる被害を拡散させるという悪循環までも発生している。サンブスギは挿し木により繁殖させるため、みな同等の遺伝子性質を持つクローン種である。そのため、こうした溝腐病に対する脆弱性までもが遺伝的に持ち合わされており、サンブスギの多く分布する山武市では多大な被害が発生して問題が深刻化している。

(3) サンブスギの被害状況
① 山武市におけるサンブスギ被害林面積
  山武市におけるサンブスギ林の被害状況を以下に示す。山武市全域でのサンブスギ林の被害率は85%と非常に高い数値を示しており、面積にして1,077haとなっている。地域別の被害率をみても85%であり、市内のサンブスギ林全域的に被害が蔓延している様子が伺える。サンブスギ被害木の賦存量は、山武市全域で26万tとなる。


山武市におけるサンブスギ林被害状況

 
(出典:千葉県実施被害林調査結果 千葉県みどり推進課 平成7年度)

 
ねじれが発生した被害木
 

立ち枯れした被害木


5. 山武市バイオマスタウン構想

 山武市では、旧山武町が2005年度に農林水産省の促進する「バイオマスタウン」として公表しており、2006年度の市町村合併による市域拡大に伴う構想の見直しに取り組んでいるところである。これまでのバイオマスタウンづくりの取り組みの中では、以下に示すとおり、サンブスギ被害対策の端緒となるような新しい試みも生まれ始めている。また、同様に、山武地域の豊かな森林資源の活用については、地域活性化の新しい手法としても着目されている。



 被害材や林地残材を活用した木質バイオマス有効利用事業の促進と関係機関連携
 山武地域では深刻化するサンブスギ溝腐病被害の対策が地域の命題の一つとなっている。「山武町バイオマスタウン構想」においても、被害材の利活用が優先的検討課題と認識され、その有効的利活用、及びそれに伴う森林再生や地域活性化への効果が期待されている。こうした背景を受け、被害材や林地残材等の未利用木質バイオマスの有効利用促進に向けた取り組みが行われている。サンブスギ被害対策の促進による森林再生は、単なる未利用な木質バイオマスの有効利用のみならず、森林ポテンシャルを活用した地域活性化事業の促進へと結びつき、特に、環境教育、里山事業、新たな付加価値を持った観光事業の創出などの分野への展開が期待されている。

(1) 千葉県バイオマスプロジェクトチームとの連携
 これら有効利用事業促進を図るために山武市では「千葉県木質バイオマス新用途開発プロジェクト」に参加し、千葉県、千葉大学、民間企業とともに産官学参画による研究会を組織して、当該事業を推進している。

(2) スギ被害材の炭化事業への取り組み
① 取り組みの概要
  地域においてバイオマスとしての賦存量が見込まれるサンブスギ被害木の有効的な活用を図るべく、木質バイオマス炭化事業の検討が進められている。事業では、豚舎への炭投与を実施し、山武市の基幹産業である農地へ試験的に炭入り堆肥として利用している。なお千葉県の協力により炭に発がん性の「ベンゾピレン」が含有されていないか分析を行った結果、含有していないことが確認されている。
  実験条件1.豚舎へ敷料として炭投入 2.飼料として炭混入 3.無処理

(実験検証中)

炭を投与した豚舎

② 期待される効果
 ・未利用バイオマスの有効活用・地域における新たな産業と雇用の創出
 ・地産地消の農業システムの構築・肉質への効果
 ・有機農業の普及浸透・近隣住宅地等への臭気軽減

(3) 木質プラスチック事業との連携
① 取り組みの概要
  山武地域では、既に、千葉県内のプラスチック製造事業者がバイオマスタウン構想を推進する山武市や千葉県との連携を図りながら、コンパウンド化した木質チップを独自の技術で木質プラスチックを製造する工場を整備している。木質プラスチックは、木質バイオマス(サンブスギの樹皮)70%にポリプロピレン30%を原料として製造されている。石油由来のプラスチックとは異なり色味も多種多様で、天然の素材ならではの質感となっていることが特徴である。また、他の方法で開発されている木質プラスチックよりもコスト面で優位性がある。

木質プラスチックの玩具(©BANDAI提供)

② 期待される効果
 ・未利用バイオマスの有効活用・地域における新たな産業と雇用の創出
 ・木質素材製品への需要の転換・環境教育効果

(4) サンブスギ被害材を利用した新しい家具づくりの試み
① 取り組みの概要
  サンブスギの溝腐病被害材は、幹部の腐朽による溝やねじれの発生や、強度の低下により、材としての本来の機能を失ってしまっている。市場価値も低く、製材所に持ち込まれても挽くに値せず、ほとんどがそのまま廃棄処分されているのが現状である。文部科学省のバイオマス静脈物流リーディングプロジェクトでは、そうした被害材の高付加価値化を図るべく、2006年より被害材によるブランド家具製作プロジェクトに取り組んでいる。その独特の形状、色合いを活かし、デザイン性の高い家具を製作することで、付加価値の高い、いわば“山武ブランド”ともいうべき製品の開発を目指している。2006年度は実際に山武地域より発生した被害木を用いて、試作第一号となる家具の作成を行った。

サンブスギ被害材を用いて製作した家具(東京大学生産技術研究所)

② 期待される効果
 ・未利用バイオマスの有効活用・地域における新たな産業と雇用の創出
 ・木質素材製品への価値観の転換

(5) バイオマススクール
① 取り組みの概要
  千葉大学と連携し実施しているバイオマススクール事業は、山武市内の小中学校で行われている。山武市立日向小学校では、総合学習の一環として千葉大学の協力を得てバイオマス学習を実施したり、小学生が自ら伐採したサンブスギをチップ化し、PP(ポリプロピレン)と混ぜてコンパウンドを作り、バイオマス鉢を作製した。これらに花を植えて80歳以上の高齢者に鉢を配布するなどの事業を展開している。また山武市立山武南中学校では、千葉大学の学生が直接中学生にバイオマス授業を実施しており、マテリアル利用からエネルギー利用まで幅広くバイオマスについて学んでいる。成東原横地地区子ども会では、炭の浄化実験を実施しており環境問題に取り組んでいる。


 

千葉大学立本名誉教授による炭授業

 

原横地地区子ども会 炭の浄化実験


② 期待される効果
 ・地域環境や歴史への関心促進・千葉大学との連携

6. 木質バイオマス資源活用の課題

(1) 原料コストの低減化
 木質バイオマスの有効利用に向けては、山(森林)から工場につなげる原材料供給システムの立ち上げが必要。林業就労人口が減少する中で、山を整備し、伐採木・間伐材・林地残材を山から運び出すプロセスや、貯木場・製材所から出る樹皮や端材を収集・運搬するプロセスを整備する必要がある。また、収集された原材料をチップや粉体に加工し、原料として出荷する施設の建設が必要である。

7. おわりに

 地球温暖化対策の高まりを受け、京都議定書の温室効果ガス削減(6%)の約束期間(2008年から2012年)が始まったが、このうち3.9%を森林吸収で賄うことが決定している。この3.9%目標は、適正に管理されている森林の吸収量だけがカウントされることとなっている。木質系バイオマス資源の活用は、間伐材や林地残材等の有効活用を図るだけでなく、伐採された山林に植林を図る事で、成長している樹木が二酸化炭素を吸収し、温室効果ガス削減の対策に大きく貢献することとなる。
 山武市職員組合では、自治体職員としてだけでなく、地域社会の一員として、環境問題への取り組み、地域に貢献していきたいと考えている。そのために「持続可能な循環型社会の構築と環境問題」を当組合のテーマに、講演会や各種セミナー等への積極的に参加し地域住民や企業、関係団体またを千葉県自治労の方々や全国自治労組合員との一層の連携や情報交換を進めていきたい。
 全国の皆様のご指導ご協力よろしくお願いします。