【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

市民生活に根ざしたリサイクル事業のあり方
~理想のリサイクルを目指して~

島根県本部/松江市職員ユニオン 山本 洋二・吉岡 歳彦・引野 浩靖・近藤 浩幸

1. はじめに

 松江市では現在、「世界に誇る環境主都まつえ」~リサイクル都市日本一~を環境施策のスローガンに掲げ、様々な環境施策に関して取り組みを進めている。その中でも松江市が特徴的なのは、これらの施策を行政単独で行うのではなく、市民・事業者・行政が一体となり「協働」の形で様々な事業を行っていることである。
 これらの事業のきっかけは2001年に松江市として「リサイクル都市推進計画」構想を発表し、「リサイクル教育のまち」「情報を共有するまち」 「環境にやさしいまち」 「市民参加のまち」 「自然にやさしいまち」 「人にやさしいまち」の6本柱を基本として、住民全体を巻き込んだ循環型社会づくりを目指したことによる。
 リサイクル都市構想発表から7年が経過した現在ではそれぞれの構想が形となり、「リサイクル教育のまち」については、松江環境市民大学の発足からまつえ市民大学環境カレッジへ引き継ぐという形で続いているし、「情報を共有するまち」については環境情報紙「エコタウンまつえ発行」という形で現在でも継続して取り組みを行っている。さらに、2006年には市民参加により新環境基本計画を策定し、市民・事業者・行政が一体となって環境に関する取り組みを進めるための組織として「まつえ環境市民会議」が発足し、2年目の現在では様々な手作りの環境に関する活動を行っている。
 このように、松江市では近年一貫して住民参加による環境行政を展開してきたが、その中でも「市民参加のまち」を目指して発足した「環境を考える市民の会」では様々な提言がなされ、「廃食油リサイクル事業」と「市民によるリサイクル工房」は実際に市民の提言が形となって施設の整備が行われ、現在までも継続して運営が行われているものである。
 また、両施設の特色として、原則として市が直接施設の運営に関与を行っていることがあげられる。今回、両施設に携わったことのある職員を中心として、市民の提言からはじまった両事業を「市民生活に根ざした理想のリサイクル」を目指していくためのきっかけとして、他自治体の例もふまえながら、若干の考察を行う。

2. 廃食油リサイクル事業について

(1) 松江市の廃食油リサイクル事業の現状について
 本事業は、先の「環境を考える市民の会―第6部会(水質部会)」の提言がきっかけとして生まれた事業である。事業の目的は、家庭や事業所の廃食用油を回収することにより、宍道湖・中海とその流入河川への油流失を防ぐとともに、回収した油は燃料化し、ごみ収集車などに利用することによって、「目に見える循環」として環境に関する啓発を行うことである。
 当事業は立ち上げ当初から住民との協働により進められ、当初モデル地区となった城西住民と一緒になり先進地視察、廃食油回収に向けての仕組みづくりなどを行ってきた。事業の要である精製プラントは2002年の3月より稼動し、当初の運営形態としては市が施設整備・廃食油の回収を行い、設備の運転をNPO法人「斐伊川くらぶ」に委託を行い、精製燃料を市のごみ収集車に利用するという協働体制が取られた。
 2002年12月からは廃食油の回収範囲を全市に拡大し、合併後の現在では、施設稼動7年目にして、年間の廃食油回収量4万リットルを超える事業に成長をしている。事業を進めていく過程においては、機器の故障により設備が停止する等のトラブル等にも見舞われているが、現在では市職員1人を作業員として常時配置を行うことで、細かいトラブルはあるものの、定期的な設備の点検、部品交換等のメンテナンスを継続して行うことで比較的安定して燃料精製を行っている。

(2) 羽田空港廃食油リサイクル事業について
 2008年1月、NHKのニュースにおいて「羽田空港で空港内の店舗から出る廃食油をリサイクルし、車両の燃料として活用をはじめた」との報道がなされた。これを見たメンバーは、本プロジェクトが羽田空港という非常に大規模な施設の中での事業であり、かつプロジェクト開始時期が最近であることから、最新鋭の理論と設備に基づいた事業が行われていることを期待して当施設の視察を行った。
 本事業は、地球温暖化対策の取り組みの一環として、国土交通省が全国の空港で取り組みを進めている「エコ・エアポート事業」の一環として企画・運営が行われたものである。エコ・エアポート事業においては、例えば、雨水をトイレの排水に再使用、古くなったアスファルト路面を新しく敷き詰めるアスファルトに再利用等を実施している。
 今回の廃食油事業では、空港内での食堂(協力店100店舗:1,200リットル/日)等で使用した天ぷら油をポリタンクで集め、新設の廃食油精製プラントで燃料に精製し、軽油と半々に混合し、荷物搬出入用の牽引車や敷地内で使用する発電機の燃料としている。



 これまで空港内から出る廃食油は、産業廃棄物として焼却、固化処理・埋め立て等の処分をしていたので、これを燃料として利用できれば①廃棄物の減量化、②事業所内でのリサイクルシステムの構築、③COの削減等大きなメリットがある。
 国土交通省では当初、松江市も採用している全国的に実績のある薬品使用によるBDF(バイオディーゼル燃料化)を検討したが、技術面では、①生成に当たっての薬品代、生成後の残渣物処理、②生成する燃料の性状、品質、③使用する機械への対応等が課題としてあり、事業面での課題としても、①廃食油の回収、改質にかかるコスト、改質後の燃料を給油所へ運搬するコスト、②廃食油の発生量、BDFの需要、③法的規制(廃棄物処理法、下水道法、揮発油品格法、消防法、地方税法等)への対応があった。
 そこで、様々な検討の結果、本設備においては薬品の添加(メタノール、苛性カリ)を行わず、廃食油を遠心分離機、加圧、ろ過機等を使用し水分や不純物を取り、そのまま利用する方式(リサイクルオイル)を採用したことが特徴である。
 具体的な事業の推進体制としては、参加事業者(廃食油排出会社、回収業者、BDF生成業者、BDF受け入れ業者)を募り、トライアル事業として実施を行っており、精製されたBDF燃料は空港内で自家消費を行い、他事業者への販売は行わないというものであった。
 これまで2007年12月から約1年をかけて技術面での評価を行うとともに、事業化へ向けた課題等を整理し、評価結果によっては、廃食油の回収範囲の拡大、リサイクルオイル生成量・使用量の拡大といった本格化も進める考えということである。以下、実際の設備の紹介を行う。
 プラント設備は、コンテナに入っておりコンパクトに収まっている。この設備では1工程が終了する毎に継続して処理を行い、日量800リットルまでの処理を可能としている。


【空港内プラント800リットル/日(平行連続処理による)】
【松江市プラント200リットル/1回・4h】
【空港内プラント内】

 生成された燃料は、松江市で精製した燃料と比較した場合、色は茶褐色であり比較的粘性が高かった。

【空港内生成後BDF(右)】 【松江市プラント生成後BDF(左)】

【リサイクル燃料100%使用の作業車】
 視察メンバーの間では当初、薬品を使用しないで燃料として使用する羽田空港の設備に対して半信半疑であった。というのも、全国にある実用化されたバイオディーゼル燃料精製設備は、ほとんど全て廃食油と薬品等を反応させるメチルエステル化によるものである。また、BDF燃料については軽油代替燃料として普及はしているものの、精製が不十分な燃料ではトラブルが発生したり、最新式のディーゼルエンジンではメーカーが全く動作を保障しないなど、多くの課題があったからである。
【リサイクル燃料50%使用の車両】
 しかしながら、羽田空港で本燃料を使用している作業車両は最新式のディーゼルエンジンを搭載しているが、精製燃料100%でこの5ヶ月間特に大きなトラブルは起きていないとのことであり、メンバーは驚きであった。また、通常の乗用車についても軽油との50%混合で利用を行って、こちらも問題がないとのことである。
 羽田空港の設備概要は以上であるが、松江市との違いを簡単にまとめると以下のとおりである。


 羽田空港での方式を松江市の方式と比べると、
・薬品処理をせず、グリセリンも生成しないため、コスト面に優れる
 反面、
・粘性が高いため、冬季の使用に課題がある
・排気ガスの匂いが非常にある。(油を焦がした臭い)
といった欠点もある。
 コスト面でいえば、施設整備には3,000万円程度要しているということであり、現在はまだ自動化はされておらず、オペレーターの作業が不可欠ということであることから、減価償却費、人件費を含めれば現在のコストは1リットルあたり数十円程度と思われる。
 現在、全国的には様々なメーカーが様々な装置を開発し、廃食油の精製を行っているが、実際には様々な問題を抱えている事例も多い。技術的な面は割愛するが、松江市の事業もかなり初期の段階で設備を導入したため、これまでの間に多くのトラブルもあった。しかしながら現在では設備稼働後7年を経過し、現在でも年間4万リットルを超える精製を続けており、廃食油の回収も徐々にではあるが、増加している。松江市においては、羽田のような最新施設と比較してみても、これまで比較的順調に事業が行われているといえるだろう。

3. リサイクル工房の運営について

(1) 川向リサイクルプラザ「くりんぴーす」
   天神町「エコショップまつえ」について

 本事業も、先の「環境を考える市民の会」の部会において、市民参加型のリサイクル工房の設置を目指して活動を行ったことで実現した施設である。2001年の初回ワークショップから議論を重ね、2002年に、当時の広域行政組合で運営を行う容器包装の資源化施設「川向リサイクルプラザ」に併設する形でリサイクル工房の「くりんぴーす」が誕生した。
 くりんぴーすでは現在、
・リサイクル材料を利用した布織り・木工・ガラス細工等の体験教室の開催
・不要となった家具の引き取り
・年数回の「護美の市」の開催と修理再生家具の提供
・家具の修理の場の提供
といった事業を行っている。
 一方、天神町の「エコショップまつえ」は、同じく環境を考える市民の会の中で、市民に気軽に環境情報を提供する場が必要であるとの意見により、2002年に「環境情報の発信基地として」天神町にいち早く開設された。当時は環境新聞「エコタウンまつえ」の編集局としての役割に加え、環境に関する情報を展示するほか、市民の方々から不用品を提供してもらい、月1回の天神市で抽選により無料提供するという事業を行っていた。
 2005年の合併を契機として、当時広域行政組合の施設であったくりんぴーすと連携して運営を行うこととなり、現在では「くりんぴーす」のアンテナショップとしての役割、また、まつえ環境市民会議の事務局としての役割も併せ持っている。

(2) 東京都中央区リサイクルハウス「かざぐるま」の事例について
 現在、松江市と同様に自治体が市民向けにリサイクル工房を運営している事例は全国各地にあり、その施設運営形態は様々である。松江市の近隣でも鳥取市の「リファーレンいなば」、福山市の「福山市リサイクルプラザ」岩国市の「エコフレンズいわくに」などの事例があるが、全国的に見ると、特に東京都内では多くの自治体がリサイクル啓発施設・工房を運営しており、今回は区内に2つのリサイクル啓発施設を有し、積極的な活動を行っている「中央区リサイクルハウスかざぐるま」の視察を行った。
 東京都中央区は東京特別区の中でも中央に位置し、人口は約10万人であるが、昼間人口は60万人となり、商業地区の側面が強いが、一方で佃島のリバーシティ21等に代表されるような、再開発のマンション群も有し、居住地区としての側面も併せ持つ地区である。「リサイクルハウスかざぐるま」は中央区に在住、もしくは勤務先を有する住民を対象とする施設であり、「不用品販売」「粗大品展示」「リサイクル教室開催」「フリーマーケット開催」などの事業を行っている。
 視察に訪れた際にはちょうど1Fでミニフリーマーケットが開催されているところであった。
 また、2Fにはリサイクルハウスがあり、ここは多くの人の買い物客で賑わっていた。ここは一見、民間に良くあるリサイクルショップのような形態に思えるが、ここでは売り物は出品者が直接値段を付け、行政は一定期間の間「売り場を提供」するという仕組みで運営を行っていた。
 仕組みを紹介すると、不用品の販売希望者はまず身分証明書を添えて登録を行う。(18歳以上の区内在住・在勤・在学者)そして、出品希望の商品を持ち込み、自分で値段を付ける。そして、施設では4週間の間展示を行い、展示期間が終了すると清算を行うという方式となっている。
 当施設は大変な人気があり、商品の回転も速いという。実際に陳列されている商品を見ると、非常に安価で実用的な商品が並んでおり、筆者も思わず1品購入をしてしまった。
 施設の運営については中央区が直営で行っており、職員は再任用およびシルバー人材センターからの雇用ということである。この他にも不用品の情報交換掲示板コーナーなどもあった。
 3Fは不要家具の提供品の展示であったが、写真のようにほとんど新品に遜色ないような家具が数多く展示されていた。これらの商品は月1回抽選を行い、希望者に無償で提供を行うが、聞くところによれば、これらはもともとすべて「ごみ」として出されたものであり、必要に応じて修理再生を行い展示しているということを聞き、驚きであった。
 このほか、当施設では松江市のくりんぴーす同様、リサイクルの体験教室、定期的なフリーマーケット、祭りの実施なども行っている。
 全体的な感想としては、当施設を拠点として、うまくリサイクルの環が回っているなという感想を受けた。また、松江市のくりんぴーす・エコショップにおいても同様の事業を行っており、当施設の良い部分を松江市でも採用すれば、より現在の施設を活かせるのではないかと感じた。

4. おわりに(理想の「リサイクル」を目指して)

 現在、全国の自治体では2000年に制定された循環型社会形成推進基本法の趣旨にのっとり、「リデュース」「リユース」「リサイクル」の3R(リフューズを含めた4R)について数々の施策展開を競っている。
 松江市においても、近年になって「生ごみ堆肥化プラントモデル事業」等、新しい施策も展開してきているが、「廃食油リサイクル」、「リサイクル工房の運営」については、<市民からの提案が設置のきっかけであり、リユース、リサイクルの環が松江市内で完結・循環しているうえに、対象者も多い>ことが特徴といえ、数あるリサイクルの中でも比較的「市民生活に根ざしたリサイクル事業」ということができるのではないだろうか?
 そこで、今回のレポートではこの市民との協働から生まれた2つの事業について、他自治体の事例とも比較検討を行いながら、今後の展開についての考察を行った。その結果、以下の点を指摘したい。

(1) 松江市の「リサイクル(循環型社会)」は比較的進んでいる。
 松江市が市民との協働によりリサイクル都市日本一を目指したのは2001年であり、それから7年の期間が経過している。
 最近良く言及される江戸時代のリサイクル社会のように、ほとんどの資源が地域内を循環しているといった社会ではないが、少なくとも今回取り上げた2つの事業については、継続的な循環の輪が成立しており、まだまだ不十分な点はあるかもしれないが「市民生活に根ざしたリサイクル」が一定実現されているといって良いだろう。他にも逐一は掲げないが、松江市では環境基本計画を実践していくために、様々な事業を市民との協働により行ってきている。
 全国的に見れば、廃食油リサイクルにしても、その他の事業についても最新技術を用い、もっと大規模に事業を行っている事例は数多くある。しかしながら、その実態については、行政が補助金を活用して設備を導入し、運営については単純に業者への委託で行っているという事例も多い。
 このほか、市が進めている各種の施策も含めて考えれば、全国的に見ても「松江市の環境に関する活動は盛んであり、市民の環境に関する意識は高く、全国的に見ても比較的進んでいる。」といっても差し支えないだろう。

(2) 現状は「市民」と「職員」との協働による努力の成果である。
 市民参加の活動については、熱心な活動を行うのは特定の市民に限定されているとの意見もあるものの、市全体として見れば、市民大学の環境カレッジでは毎年50人を超える参加者があり、様々な実践活動を行っているし、公民館単位での地域活動においては環境に関する活動も盛んである。
 今回レポートで取り上げた廃食油リサイクル事業については、開始当初より「NPO法人斐伊川くらぶ」と連携を取りながら啓発に取り組んできたほか、廃食油の回収にあたっては各地区の生活環境保全推進員の方々にお世話になりながら、啓発等を積極的に行ってきている。また、もう一方のリサイクル工房「くりんぴーす」についても、多くのボランティアスタッフの協力により各種体験教室や指導を行っている。また、2007年2月には「まつえ環境市民会議」が発足し、市民との協働により環境に関する数多くの手作りの活動を行ってきている。
 ひとくちに「協働」といえば聞こえは良いが、実際に様々な事業を行うにあたって、行政単独ではなく「協働」で行っていくのは困難である。実際に、これまでかなり立場も異なる行政と市民、事業者の間で、時には見解の対立もあり、これまで真剣な議論を重ねながら事業を実施してきた結果、現在の姿があるのが実態である。その意味で現在の松江市の環境施策が動いているのは、これまで事業に携わってきた多くの市民の方々と、歴代の担当職員との努力の賜物である。

(3) さらなる施策の発展をさせていくために必要なこと
 (1)、(2)で述べたように、現在、松江市は他と比較しても、多くの市民生活に根ざしたリサイクルに関わる事業を行っているといえるだろう。しかしながら、これらの事業をさらに発展させ、さらに一歩先の循環型社会へと近づいていくためには以下の点が必要ではないだろうか。
① 先進自治体との積極的な情報交換の必要性
  環境・リサイクルの分野は、自治体の仕事の他の分野と比べ、法律の規定に細かく縛られない部分も多く、自治体独自の創意工夫が発揮しやすい分野といえる。よって、全国各地の自治体で競い合って独自の環境・リサイクルに関連する施策が実施されている状況である。ある施策を単独で他の自治体に先んじて実施をした場合でも、数年もすれば他自治体も研究を行いさらに進んだ施策を展開していくのが通例である。
  現在行っている事業をベースにしながらも、他自治体のちょっとした知恵を導入することで、より有意義な事業実施ができることは多いと考えられる。しかしながら、「実際にどのような運営を行っているのか?」といった各自治体独自の創意工夫については、実際に現場に行って見なくてはわからないことが多くある。よって、環境、リサイクルの分野において事業を発展させていき、「理想のリサイクル」を目指すためには、先進自治体を視察し、調査研究を行うことは必要不可欠である。また、先進自治体への視察、他自治体と情報交換を行うためのシンポジウムへの参加等も積極的に行っていくべきである。さらに、可能であれば、これまでの松江市の施策の成果を発信していく場として、シンポジウムの主催といった施策も考えられるのではないだろうか。例えば、廃食油リサイクルの分野では、既に「菜の花学会」「菜の花サミット」といったイベントが全国各地で情報交換を目的として開催されており、主催元の自治体には全国各地から担当者による様々な「ナマの情報」が集まる。こういった情報網を活かしていくことが必要であろう。
② 職員による現場の知恵を活かせる仕組みづくり
  今回レポートで取り上げた松江市の2つの事業については、事業開始からこれまでの間、基本的には「直営(一部運営委託)」という形で事業を実施してきている。
  廃食油リサイクル施設についても、松江市の場合は完全な運営委託は行わず、これまである程度の変化はあるものの、施設の管理・運転にはこれまでずっと職員が直接携わり、点検等については専門の業者に依頼をして運営を行ってきた。
  ここで考えてみると、基本的に「管理・運営委託」という形態で事業を行う場合、「管理運営費の低減」「委託先のノウハウ活用」といったメリットはあるものの、逆にいったん完全な委託をしてしまえば、営利事業ではないリサイクルの分野については、最初に仕様に定めた責任範囲以上の創意工夫は生まれにくいのではないだろうか? これに対し、事業に職員の関与がある場合では、運営の行い方にもよるだろうが、職員の創意工夫を活かし、事業を「カイゼン」していけば、年数が経過するにつれ、事業が良いものになっていくと考えられる。今回、技術的な側面については詳しく述べないが、前述したように、廃食油リサイクル事業については歴代の担当者が、年々小さな改善を積み重ねていった結果、現在では比較的安定した燃料精製が行えている。

【精製時バルブ操作を行う職員】
(例:給油ポンプの設置、一部工程の自動化、反応工程改善、等々)
 また、精製作業担当職員についても、長年精製業務を経験する中で、精製に関する微妙な機器操作を習得し、安定して精製度の高い燃料を作り続けている。やはり何事もそうであるが、様々な事業を問題なく長く継続していくためには、「現場の力」を活かしていくことが必要不可欠といえるのではないだろうか。
 おわりに、今後とも、今回提案した内容等をふくめて、改善すべき点は改善を行いながら市民・事業者との協働のもと活動をしていけば、より「市民生活に根ざしたリサイクル」の形が整い、ゆくゆくは「理想のリサイクル~循環型社会~」を実現できるきっかけとなるのではないだろうか。