【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

バイオマスエネルギー地域システム化実験事業
「高知県仁淀川流域エネルギー自給システムの構築」

高知県本部/仁淀川町職員労働組合 片岡  博

1. はじめに

 現在、バイオマスエネルギーの利用は、潜在的に多大な賦存量が存在していることが確認され、またエネルギー転換技術は実用化されていても、導入・普及が十分に進んでいない状況にある。これは、バイオマスエネルギー変換の上流(収集・運搬技術)から下流(変換エネルギー利用技術)までを通したトータルシステムの確立がなされていないことが原因の大きな1つに挙げられる。

※バイオマスとは「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」で、家畜排せつ物・食品廃棄物・建設発生木材・製材工場残材・稲わら・もみ殻・林地残材(間伐材、被害木等)等がある。バイオマスエネルギーは「カーボンニュートラル」という特性を持ち、化石資源由来のエネルギーを代替することにより、地球温暖化を引きおこす温室効果ガスの一つであるCO排出削減に大きく貢献することが可能である。

 本事業は、現在山林に放置されている林地残材等を林業の規模と形態に応じた方法で効率的に収集運搬し(上流部分)チップ化した後、ガス化ガスタービンコージェネレーション設備とペレット製造設備とを組み合わせてエネルギーをカスケード利用しバイオマスの持つエネルギーを最大限利用する(中流部分)とともに、変換されたエネルギーを地域内で利用する(下流部分)ことにより、小規模で成り立つ一貫したシステムを構築し、バイオマスエネルギーの地産地消を目指すものである。

2. 背景と経緯

 仁淀川町は、四国地方、高知県の北西部に位置し、北には四国山地の山々が連なり、東西には仁淀川が流れている。地形は非常に急峻で、人口は7,400人弱の中山間地域である。町の総面積は333平方キロで、そのうち耕地面積は全体の1.1%ほどしかなく、一方森林面積は298平方キロで、総面積の約9割を占めている。人工林率は75%であり、大半が戦後植栽された31~45年生の杉や桧である。林業は町の主要な産業であるが、近年の木材価格の下落や新築住宅建築数減より低迷しており、住宅建築用材以外のもう一つの柱がほしいと考えていた。
 そこで、町の持つ森林資源を最大限有効活用し、林業振興などの地域活性化とCO削減等の環境貢献を図るため、本事業を「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」として、NEDOの委託を受け2005年度より5年間の計画にて実施している。2006年度に設備の導入を行い、2007年12月の中間評価を経て、2010年4月からの自立をめざし、下記に示す体制で、現在多くの課題の解決に努めている。

※NEDOとは独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の略で、日本の産業技術とエネルギー・環境技術の研究開発及びその普及を推進する我が国最大規模の中核的な研究開発実施機関であり、非常に重要なミッションを担っている。




3. 事業エリア

 本事業のエリア図を下記に示す。本事業の特徴として、事業エリアが小規模なことがある。バイオマスのエネルギー転換・利用設備を中心とし、バイオマスの収集場所へは、道のりは30kmから40km(時間して1時間半弱)であり、エネルギーの最終利用設備にも、最大25キロ程度(1時間弱)なっている。このような比較的小規模なエリアで事業を行うことにより、地域規模に見合ったシステムとして、エネルギーの地産地消を目指している。




4. 事業概要

 本事業は木質バイオマスの内、林業に伴って発生する林地残材を対象として、林業の規模と形態に応じて、大規模、中規模、小規模の3つに分け、それぞれ最適な方法で収集運搬を行う。
 チップ化はエネルギー転換・利用設備と同じ敷地で、まとめて行う。
 エネルギー転換・利用設備の特徴は、発電とペレット製造を組み合わせた複合施設で、バイオマスチップを一旦ガス化して、ガスタービンを用いて発電し、ペレット製造設備と製材工場で自家消費する。次に、ガスタービンの排熱から蒸気を作り、木材乾燥機に供給、さらに余熱をペレット原料の乾燥に使うことで、バイオマスエネルギーを余すことなくカスケード利用する点にある。また、製造したペレットは、プールや温泉施設など、地元の施設で利用する。これらにより、全体として、年間342キロリットルの原油削減効果がある。




◇利用する未利用バイオマス量

:1,900t/年(バイオマス水分45%ベース)
◇バイオマスによる年間エネルギー生産量
 電力
 蒸気
 ペレット
:150kW
:400kg/h
:600t/年
◇ペレットボイラ :1,450MJ/h 1台
:2,000MJ/h 3台
◇原油換算量 :342kL/年(電力、蒸気、ペレットの合計)

5. バイオマス収集運搬

(1) 対象バイオマス
 現在の林業では、枝葉の付いたままの状態で一旦土場や作業道に集められた木が、プロセッサという林業機械で枝葉を払われ、玉切りされて、建築用材にならない不要な部分が林地に放置される。これら林地残材のうち、本事業では、伐採材の根元の部分を中心に収集している。その理由として、根元部分は、放置されているバイオマスの中でかさ比が最も大きいためであり、このままの状態で山林より搬出し、エネルギー転換設備の近傍で集中的にチップ化することで、効率的にバイオマスを収集している。


(2) 大規模林産
 「大規模林産」とは地形の急峻な高知県で発達した架線を利用し皆伐を行ってバイオマスが一ヶ所に大規模に集まってくるイメージからこの事業のために我々が名づけた名前である。伐倒された木は枝葉や根元が付いたままの状態で一ヶ所の土場に集められ、造材された後にタンコロが残されるため、あとはダンプに乗せて運ぶだけでよいことから、バイオマスの収集運搬にとっては最も効率がよい方法である。
 大規模林産での作業内容としては主に積込・運搬・荷降しの3つである。必要な作業人員は1名で、全ての作業を行うことができる。必要な機材は、12トン~15トンクラスのグラップルと運搬用のダンプで、グラップルは用材用と共用が可能であるが、ダンプはタンコロという不定型な転がりやすいものを乗せるため専用のダンプが必要となってくる。ダンプ1杯約4トンで1日2回往復することにより、1日8トンのバイオマスを搬出することが可能である。
 収集運搬の実績は概ね順調で、2007年4月から12月末までに397トンの実績がある。特に8月は全供給量159トン中123トンと77%を供給し、供給能力があることが示されている。
 しかし、10月に現場移転に伴い架線張り替え等の手間から供給がストップした時期が2週間程度ある、あるいは台風で道が崩れて不通になるなどのトラブルも予想され、一ヶ所の供給元に頼りすぎることは危険であり、分散させた方がよいことも確認された。
 現在、トラック積載量を上げることにより、一度に搬出可能な量を増加させ、搬出コストのさらなる低減を図っている。

(3) 中規模林産
 中規模林産とは、現在の日本の主流である「車両系林業」と呼ばれるもので、間伐に伴い作業道沿いに中規模にバイオマスが集積されることからこの事業のために我々が名づけた名前である。森林内に作業道を整備し、車両系林業機械を用いて作業道沿いに移動しながら集材を行う仕組みであり、よってバイオマスも作業道沿いに分散して発生することになり、拾い集めて土場まで持ってくる作業が大規模林産に比べてひと手間余計にかかることとなる。
 中規模における収集運搬は森林組合が行った分とシルバー人材センターにより行った分があり、年間418トンの収集実績がある。森林組合においては272トン、月の最大値は3月に月59トン、シルバー人材は1月末までに146トンの実績で12月に83トンといづれも1,900トンの1カ月分の20%を大幅にクリアしており、供給能力はあることが証明された。
 収集はグラップル付フォワーダを使用し、1名での作業によって、1日あたり平均7.5トンのバイオマス搬出が可能である。搬出されたバイオマスは、トラックの積み込みを効率的に行うことにより、1日1回約3トンずつ破砕場まで運搬している。
 中規模林産においては、伐採造材業者との連携を強化し、バイオマス収集を前提とした造材作業を行うことにより、作業効率の向上を図り、搬出コストの低減を図ることとしている。

(4) 小規模林産
 小規模林産は、地域の個人林家やNPOの方々を対象としているものである。個人林家の所有林は、個々の森林が散在しており、大規模な施業ができないため、現状森林整備が十分に行われていない。彼らがこの実験事業に参加することで、特定の企業や団体だけのものでなく、広く地域に開かれた事業となり、仁淀川町モデルの特徴の一つになっている。
 現在、バイオマス収集者に、持ち込むバイオマス生木1トン当たり3,000円を支払う形で、どれだけ収集可能かを検証中である。高知県では、林業ボランティア等が盛んなこともあり、実験事業開始初年度においては、9ヶ月間にて、1年間の収集目標を達成している。
 更なる収集力の向上、安定化を図るため、小規模林産での担い手の増加策として、下記の方法を検討中である。
① バイオマスを搬出せず、切り捨てているのみの森林ボランティアへの、搬出技術の伝承
② バイオマスを搬出しない林業会社の現場にて、森林ボランティアがバイオマスの搬出だけを行うこととし、林業会社の作業の妨げにならない搬出方法の検討
③ 農家所有山林の多くは、自身の田畑・農道に隣接していて、搬出条件が良いため、農家にバイオマスの搬出技術を伝授する。
④ 地域通貨券を活用し、担い手を拡大する。これは森林環境整備と石油代替燃料供給に対する環境支払制度として運用する。

6. 前処理(チップ化)

 収集運搬されたバイオマスは、後段のエネルギー転換・利用設備にて利用可能なサイズとなるようチップ化される。本事業の特徴として、エネルギー転換・利用設備と同じ敷地で、チップ化を行うことがあり、1か所で集中的にチップ化することで、多様な方々からバイオマスを受け入れできるシステムとなっている。チップ化の実績は年間1,238トンで、1日当たりの最大破砕量は38mm-38mmの2回破砕で26トンまで破砕可能であることが実験から分かった。エネルギー転換設備の計画必要量が1日当たり7.6トンなので、供給能力は十分にあると言える。
 この作業に必要な人員は基本的には1人で、必要な機材は計量機と破砕機と投入用グラップル、できたバイオマスを運ぶためのダンプである。また、水分を避けるための屋根も必要である。
 破砕機は、ガラパゴスというハンマー式で投入口が大きい破砕機を使うことにより、さまざまな形状や大きさのバイオマスを処理できるメリットがある半面、破砕機を動かす燃料代がカッター式に比べて余計にかかること、できたチップが繊維状で30mmアンダーといいながらスクリーンを縦方向に抜けてしまい、長いものが混ざってしまうというデメリットがある。
 これまでの春・夏の水分が多い半年間の実験結果から、タンコロは常に計画値である水分45%程度以下で、ほぼ全量の収集バイオマスが使用可能なことを確認した。
 しかし、後段のエネルギー転換・利用設備の効率変動により、破砕チップの水分が下がると、1トン当りのバイオマス購入費が設計よりも若干高くなる反面、水分が上がるとバイオマス購入費が非常に増加する。このため、簡易なテント屋根を設けて貯留・管理すると共に、攪拌することで水分量の平準化を図っている。また、今後は、収集バイオマスの受入に際して、水分量別取引の実験を行う予定である。
 また、燃料コストの削減も課題である。実験開始当初には多大な燃料費がかかっていたがスクリーンの穴径の変更や、回転部の目詰まりチップを取り除くジグの取り付けなどの工夫でコスト削減効果が出ている。今後は穴径30mmスクリーンを特注し、破砕回数を1回にして燃料消費量をさらに低減していく。

7. エネルギー転換・利用設備

 本事業でのエネルギー転換・利用設備は、発電とペレット製造を組み合わせた複合設備である。
 発電設備は、流動層ガス化炉とガスタービンによる低カロリーガス燃焼技術を適用したシステムであり、ガス化炉にて約650℃で木質バイオマスをガス化し、多量のタール分成分を含む生成ガス(COとH)をそのままガスタービン燃焼器に導入して、定格150kWにて発電を行う。従来、処理が困難なことから除去されていたタール成分を高温のままガスタービンに導入し、燃料として有効利用するため、高効率発電が可能であり、小規模なバイオマスが利用可能となる。エネルギー利用先である製材所の電力需要は、ガス化発電設備からの供給を大きく上回っており、ほぼ全量自家消費している。さらに、ガスタービンからの排熱は、排熱ボイラでの熱源として利用し、発生した蒸気は隣接する製材所に供給し、製材乾燥機の熱源として既設の重油ボイラを代替している。
 課題は発電出力の安定化と補助燃料の削減である。また、初号機であることから設備の耐久性の確認・向上試験も必要となる。
 ペレット製造設備は、乾燥機、破砕機、成型機と、それらをつなぐコンベアから構成される。通常、ペレットの原料となるバイオマスは重油等の化石燃料で乾燥させるが、本事業では、この乾燥熱源として、ガス化発電設備からのガスタービン排ガスを利用することにより、バイオマスエネルギーを余すことなくカスケード利用している。
 今後の課題はペレット原価の低減である。ガスタービンの排ガスで、ペレット原料を安定的に乾燥できるようにして、補助燃料費を削減する。




8. エネルギー最終利用設備

 ペレット製造設備にて製造されたペレットは、近隣の温泉宿泊施設、福祉施設、温水プール、ビニールハウスに設置されているペレットボイラへ供給され、重油ボイラの代替として、冷暖房・給湯用の熱源として利用されている。4基のペレットボイラにて、年間600トンのペレットを消費する。




9. 波及性について

 波及性に関する将来展望についての1つ目のポイントは、燃料費の価格高騰から、かさ高く付加価値の低いバイオマスを長距離輸送することは、今後ますます経済的に不利になると予想される。そしてバイオマスは地産地消されるようになると考える。
 2つ目に、人口減少による住宅需要の減退と化石燃料の価格高騰から、今後木材のエネルギー利用が高まってくると予想される。その場合、現在の製材所は、製材のみを行うのではなく、製材+電力・熱+ペレット製造のトリジェネ工場化することが成長する一つの方向性を示すものと考える。地域全体から見れば、製材所を核としたエネルギーネットワークが形成されることで、山と地域住民がつながり、さらには地域の活性化へとつなげることができるものである。

10. 将来構想

 本事業の将来構想として、バイオマス収集部門の担い手を増加させ、また、エネルギーの熱需要者についても、病院・農家・福祉施設・家庭のペレットストーブ等へ、現状より増加させていく予定である。但し、その際にも、現状の小規模な事業エリアは維持し、また、エネルギー転換設備も現状の設備の稼働率を上昇させることにより対応することで、エネルギーの地産地消を図る。
 対象エリアの拡大に際しては、同様の小規模なエネルギー地産地消サイクルの数を増加させることにより、地域に根ざしたバイオマスエネルギーシステムとして運営されていくことを目指している。

11. まとめ

 初めにも記したとおり、本町の9割が森林で、その内75%が人工林と地域の資源は森林資源である。逆に言えば森林資源しかないのである。これまでのように「森林資源=住宅建築」の時代は終わりつつある。森林資源を住宅建築のみでなく、様々な用途に活用できるかどうか、が地域の自立を左右する状況となってきている。
 我々は本事業が森林資源を活かしきるビッグチャンスとみている。森林資源を活かせるのみでなく、エネルギーの地産地消が可能となり、環境貢献の面からみれば、森林整備によるCO吸収と原油使用量削減によるCO排出削減のダブル効果が期待できる優れた事業であり、また、地域活性化という面からみても、
① 小規模なNPOや個人が多数参入することにより、材の安定供給が可能となる。
② 小規模林業の下支えの仕組みとなり、拡大させる仕組みとなる。要するに小規模山林所有者へ新たな収入の道を開く、画期的な林業改革システムとなる。
③ 小規模林産が入ることにより、特定の企業・団体だけの仕組みでなく、地域住民やNPOを巻き込み、「エネルギー自給システムを核とした地域づくり・地域内循環システム」として展開できる。
④ 中山間地の農家・林家・住民の副収入先となり、地域の雇用・経済の拡大につながる。
⑤ エリア外都市部の住民や企業も巻き込むことができ、グリーンツーリズム・都市との交流事業として付加価値も生まれる。
と、同時にいくつもの効果が期待できる、山村振興の切り札とも言うべき事業である。
 これらを実現するには、川上の林業会社や川中の製材工場、温泉施設などのエネルギーの最終需要者がバラバラの方向を向いていたのでは、バイオマス事業は成り立たない。役場がそれぞれを結びつけ、皆のベクトルを合わせることでバイオマス事業を成功へと導いていくことが求められている。
 また、自立して安定的に事業を行っていくためには国レベルの支援がまだまだ必要であるので、関係機関に要望していきたい。
 仁淀川町では、地域に開かれた仕組みを活かし、2008年度からバイオマスの出荷者に、1トン当たり3,000円とは別に、森林環境整備に対する報償というかたちで地域通貨券を発行する。担い手を拡大すると共に、地域通貨券が林業者やバイオマスの関係者だけでなく域内でぐるぐる回ることで、商工会を始め町内の商店など地域全体に波及効果が現れ、住民が元気付くよう、本町独自の予算を計上している。こうした仕組みづくりを進めて、バイオマスが「地域づくり」の核となるよう計画を進めると同時に、全国に情報発信することで環境貢献と地域活性化につなげたい。