【自主論文】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-①分科会 自然環境保全と循環型社会

「生物の視点」で考えよう


北海道本部/全北海道庁労働組合・後志総支部 柳田 基貴

 「自分の利益の為にやる事を如何にも相手の利益の為であるかのように装う」「過剰に不安を煽って自分の利益を得る」。これは詐欺師の常套手段です。
 「日本は今、巨額の財政赤字で破綻寸前だ。」「ケインズ政策、公共事業は無駄だ。」「日本の財政赤字は1,000兆円『超』と言われている。」「赤字公債の増発で住民一人あたりの借金はxxx,xxx円だ。」「高齢化対策などの社会保障費をカバーするためには消費税を再び増税しないといけない。」というような嘘話を利用して、「赤字だから民営化せよ」「国鉄民営化」「郵政民営化」「道路公団民営化」「自治体財政健全化法」「行政のスリム化、歳出の削減」「賃金削減、福祉切捨て、地方切捨て」「消費税増税」などが正当化されています。
  しかし、高橋是清が殺されて以降、ケインズ政策が日本において本格的に実施されたことはなかった(ケインズの想定した社会とは、供給に比べて経済全体の需要が不足しがちな社会。逆に高度成長期の日本は、供給が需要に追いつかず、慢性的なインフレが存在していたので、積極的な支出ではなく、格差是正措置をとりつつ、需要抑制を行っていた)。
 1988年の消費税法施行後、1990年には、法人税率の40%から30%への引き下げ、所得税の最高税率75%から37%と、「消費税は福祉目的」という宣伝とは別のことが実施された(消費割合の少ない富裕層を減税しても長期的にみた経済への影響は少なく、経済は再建されない。公平な社会の実現は、所得税の累進性なしには不可能です。低所得者は所得のほとんどを消費に充てるが、金持ちであればあるほど消費の割合は累進的に少なくなり、逆に預金が増える。その預金は不労所得を狙って投資に回る。稼いだお金を他人に回したり吸い上げられるのはイヤだと握り締めたままであれば、売上と利益が低迷し、破綻する企業や高額所得者からの脱落者が徐々に発生するのは、自然な成り行き)。
 「財政赤字」とは非常に曖昧な概念であり、経済的に何らかの意味を持つものではない(例えば、国家が永久に存在すると仮定したならば、納税者もまた永久に存在する。将来の支払い義務に関する考え方を押し進めると、財政赤字の概念は消滅する。)。
 公債は、債券を購入している投資家がいるわけであり、その人から見れば借金ではなく、資産である(日本の生保などの機関投資家や少数ながら個人投資家が9割以上買っている。外国人投資家と言ってもそれが法人である場合はその原資は日本人が出資している場合が多い。)。「公債の発行によって住民の借金が増えている」というのであれば、それと同時に住民の資産も増えていると言える。
 だから、単純に総人口で公債発行残高を割って、「住民一人あたりの借金800万円」などというのは意味が無い(しかし、公債が増えてしまうと、住民すべてのために使うべき歳出が、公債を買った一部の人への利払いや元本への返済に使われてしまう。したがって、所得再分配機能の低下、財政硬直化を招いたりする。つまり、公債残高が増えると、将来への負担の先送りという将来の問題よりはむしろ、現時点の財政に影響の出る問題である。「財政破綻」はたいした資産を持っているわけではない庶民の被害はまったく無い。銀行や保険会社といった金融会社に壊滅的な打撃を与えたり、政府自身の倒壊を招くのが政府債務のデフォルトなのである。たいした資産を持っているわけではない庶民は「財政破綻」騒動は笑って見ていればいい出来事であり、「財政危機」を楯に公的負担の増大を求めようとするのなら断固拒否すればいいものである。また、日本は大量に『米国債(アメリカ合衆国財務省証券)』という資産を購入している。ちなみに、中国政府は柔軟な発想で政府が保有している外貨資産で国営銀行の不良債権処理をした)。
 現在の日本の財政が抱える基本的問題は、巨額の赤字や大量の公債発行そのものではなく、その背後にある行財政の施策や制度にある(「格差社会」と呼ばれるような富の分配の問題で、施策や制度が変化に適切に対応していないことが問題なのである)。
 このように、この世界では嘘話を信じさせ、「自分の利益の為にやる事を如何にも相手の利益の為であるかのように装う」「過剰に不安を煽って自分の利益を得る」ということが常に行われています。
 「水道水」の世界も同様です。
 後志は良質な天然水の宝庫であり、管内には観光資源として有効利用している自治体もあります。地方自治体は行財政コスト削減で壊れにくいもの、手間が掛らないものが求められています。
 そこで、自治労全北海道庁労働組合連合会後志総支部では、自治労後志地方本部と共同で、「科学者のための科学でなく、企業のための技術でなく、科学技術は人のため」という信念のもと活動し、世界では一番有名な日本人の水の専門家、元信州大学繊維学部応用生物科学科教授 中本 信忠 様(2008年3月定年退職。特定非営利活動法人 地域水道支援センター理事長。)を2004年から3回招き、おいしい水とはどんな水か、古い水道水浄化法だが日本発の新しい発想の技術「生物浄化法」について講義していただき、今までの発想・常識の転換の場となるよう自治研集会を実施しました。
 「おいしい水と生物浄化法」の詳細な内容については、「おいしい水のつくり方―生物浄化法 飲んでおいしい水道水復活のキリフダ技術 ¥2,100(税込) 出版社:築地書館(2005/08) ISBN-10:4806713155 ISBN-13:978-4806713159 発売日:2005/08」と「生でおいしい水道水―ナチュラルフィルターによる緩速ろ過技術 ¥2,100(税込) 出版社:築地書館(2002/06) ISBN-10:4806712434 ISBN-13:978-4806712435 発売日:2002/06」を読んでいただくとして、講演のポイントのみ列挙します。


   「生物浄化法」講演のポイント

① 水道水を飲むのをあきらめ、ペットボトルを容認したら、水道水はおいしくならない。
  水道水は飲み水です。
  水道協会、厚生労働省が勧めるやり方の水道水はビール会社が使ってくれない。(ビール会社の宣伝文句に「天然水仕込み」)
* 水道法
  「第1条 この法律は、水道の布設及び管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道を計画的に整備し、及び水道事業を保護育成することによつて、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする」

② 甘くておいしい湧水は浅い地下水のこと。良い水とは浅い地下水のこと。自然の仕組みでは、浄化が瞬間的に行われる。地下で熟成された水は、鉱物を含むのでおいしい水にはならない。
  湧水の宣伝に、羊蹄山の水もそうですが、「50年とも100年ともいう果てしない時を超えて、水は浄化されミネラルを溶かし込んで、極上に甘く、まろやかな名水になる」という文句がよく使われますが、その宣伝文句はウソ。
  植物が細菌やバクテリア等によって分解された結果生じた褐色のフミン酸、フルボ酸などの腐植質(フミン質)は生物浄化法で取り除ける。
  アイルランドでは緩速ろ過で褐色のまま水道水を140年間供給しているが問題は発生していない。ただし、塩素を入れると問題(化学反応)が出てくる。生物処理でAOCを無くせば、褐色でも問題はない。微生物が利用できない有機物(微生物の体をそのまま通過)は、人間の体も通過するので問題はない。ただ、塩素を入れると問題が出てくる。色は好みの問題。
* AOC
  水中の有機系炭素のうち微生物がその増殖に必要な栄養源として利用できる有機性炭素のこと。微生物増殖の指標として用いられる。
  AOCがゼロなら微生物は生存できないので、塩素消毒も残留塩素も必要ない。長期間冷蔵庫で保管しても水が腐らない。

③ 皆が、「塩素は毒」と声を出さないと、一度決めたルールは、なかなか直らない。
  今、欧米は塩素添加をしなくなった。(浄化の仕組みがわかったから。生物群集の働きによる浄化=生物浄化法)
④ 生物の視点が重要。生物には悪者がいない。その環境にあった者が繁殖する。生物群集を取り除いてはいけません。
  砂層約1~2cmを通過するだけで、そこにいる生物により浄化される。通過時間は数分。生物による瞬間浄化です。
  生物浄化法の浄水場に汚泥は発生しない。汚泥と思い削るのは間違い。汚泥に見えるようなものが大事。それが浄化の主体。
⑤ 寒い冬でも生物は活躍している。氷の下でも魚を釣ることができる。
  冬寒くても、太陽光が充分当たるなら、光合成をする藻が繁殖する。北海道の自治体職員にろ過池が凍らない方法を教えてもらった。
⑥ ろ過しているのは砂ではない。砂の間の生物です。緩速ろ過(生物浄化法)は砂によるろ過ではありません。
  ろ過速度が速いと、酸素不足にならない。浄化は瞬間的に行われる。急激なろ過速度変化がないなら、砂の間の生物は流されない。それなら細かな砂は必要ない。粗い砂なら、目詰まりしない。生物が活躍して濁りを捕まえる。
⑦ 自然界で藻類や動物は、細菌が分解しやすいように働く。生物の気持ちになって考えるとわかる。
  動物は濁りを集めて、上に持ち上げる性質がある(糞は上に行く)。
  あらゆる(大小)生物群集の活躍で、安全でおいしい飲み水ができる。
  藻は酸素、動物のエサ。動物は濁りを食べる。栄養は汁にして吸収する。粒子の間の低分子を食べている。汁にできない物は糞塊(団粒構造)となり、醗酵し浄化される。
⑧ 現在、「おいしい水のつくり方」はポルトガル語と中国語に翻訳中。
  日本発の新しい発想の技術として世界に広がりだした。生物浄化法を導入すれば、世界中どこでも「おいしい水」を作ることが可能である。
  よみがえる旧式浄水場(長野県須坂市)。
  米国サンフランシスコ市の英断(プラスチックボトル詰め水の購入を禁止。ボトル水のコストは水道水と比べ240倍~10,000倍。市の水道水の方がペットボトル水より水質が良い。)
  ペットボトルを容認していたら、水道水は良くならない。
⑨ ローテク(生物浄化法)は、自然の仕組みの賢い利用で省エネ。
  温暖化対策を主眼にするなら、生物浄化法にすればよい。
⑩ 水道法:清浄にして豊富低廉な水供給、飲用に適する水
  高く飲みたくない水の供給は、水道法違反ではないの
⑪ 水道局がペットボトルを販売:その水には塩素が入っていない。
⑫ 基準や条例は都合で決めた。すべて正しいわけではない。
  基準や条例を守るのではなく。基準や条例を作る精神(前文)を守らないといけない。
  厚生労働省は、生物浄化の仕組みを知らない。
⑬ 科学者のための科学でなく、企業のための技術でなく、科学技術は人のため。


 行政にも「生物の視点(生物には悪者がいない。その環境にあった者が繁殖する)」が必要でしょう。
 あまりにも目先の事ばかりを考えると判断を誤り、変な方向に進んでしまいます。
 「リストラ」は、使い物にならない職員の山を築いてしまいます(役に立つ優秀な職員が辞め、役に立たない職員だけが残るから)。その残った職員が世間に甚大な被害を与えます。今流行の「競争原理」「コスト削減」は、極短期間のある一定のレベルまでは効果がありますが、ある限界を超えると「粗悪品」や「欠陥品」が市場に氾濫します。また非正規雇用・低賃金職員の増加は、徹底的に無責任体質の「手抜き」職員を職場に氾濫させることになります。最終的に損をするのは利用者なのですが、実際にそうなるまで(そうなっても)は気付かないかもしれませんが。
 「無用な競争」をやめない限り、どこまでも無理な事を求めて、結局は使えないものになってしまいます。「無用な競争」は、唱える本人はウソがバレる前に逃げ、飛蝗のように「被害だけを与えて去ってしまう」というものです。
 勤務実績の給与への反映も「生物の視点」に立った運用か再考が必要なのかもしれません。
 日本人は新技術、新知識(可能性に期待、挑戦)が大好きです。でも、新しい最新機器は検証時間が短いため、故障につきまとわれ、必ず壊れます。
 でも、新しい技術の大半は「世の中の役に立たない機能」が変化しているだけです。例えば、新しいパソコン・携帯電話や地上波デジタル放送も、「世の中の役に立たない機能」が変化しているだけです。多くの人々が、世の中の役に立たないものが変化することを「進化」や「進歩」だと誤解しています。役に立たない機能の開発に躍起になっている企業も、それに釣られて新しいものに飛びつく消費者や政治家や政府も、生物種として見れば「退化」しているのかもしれません。
 ハイテクの定義にはいろいろあるかもしれませんが、「他がやろうとしないので技術的にノウハウがないので追いつけない。」という意味では「生物浄化法」は自動車産業よりもずっとハイテクです。
 その「生物浄化法」の技術は、企業は所持していません(利益に結びつかないから)。保持しているのは地方自治体の現場にいる職員です。
 「水道水」に限らず、世界に誇れる日本の技術力を実は地方自治体の現場にいる職員は所持しています。自分たちの能力に気づかないだけなのでしょう。 本当に「国を愛する」「保守主義」を推進する立場であれば、日本で連綿と受け継がれてきた技術を途絶えさせるような主張(地方公務員批判、現業職員批判)はしないはずですが、現実がそうでないなら、それは「自分の利益の為にやる事を如何にも相手の利益の為であるかのように装う」「過剰に不安を煽って自分の利益を得る」ためなのかもしれません。
 今後も、一人でも多くの人々がウソつきや詐欺師にだまされないよう、地道でも少しづつでも自治研を続けていかなければならないのでしょう。